↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タ・パンタ・レイ ーニキッペと最後の英雄ー  作者: 本間甲斐奈
第三章 不知の自覚に思考は始まる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/93

第79話 出陣

「十八、十九……うん、二十体」

工房前の道を埋め尽くし、朝日を受けて白く輝く冶金兵(アクモニデス)が並んでいた。

「ありがとうございます。予定よりだいぶ早かったですね」

結局、怪鳥群(ステュムパリデス)の青銅は一週間で使い切った。

「お前の人形がやたらと便利だったからな。火に焼かれず、飯も食わず、夜の目も寝ずに働けるなんざ、俺たちにとっちゃ夢みたいな話だ」

アクモーンはかすかなため息をついて、紅い腰布の上から膝をポンポンと叩いた。

「生身だとすぐにこれだ。お前この仕事向いてるぞ」

「いやあ、それはどうかと」

ひたすら人形兵(ペーロプリテス)を働かせるだけの毎日はちょっと。



「冗談だ。王様に呼ばれたんだろ?」

その言葉に頷いた。ダレオース様の出陣は近い、私にもすでに招集がかかっていた。

「行ってきます。『私を持ち上げて……』」

冶金兵の手を借りて、オドゥスに跨がった。

『行進(テイーテ)!』

ザク、ザク。

青銅の兵と、土の兵。全く同じ歩幅で二十八体が歩き出した。

オドゥスも、のそのそと後を付いていく。

「お世話になりました!」

手を振ると、アクモーンは穏やかに微笑んだ。

私にはまだその表情がはっきりと見えるが、彼の目にはもう霞んできたのだろう。

やがて背を向けて大工房(エルガステリオン)に帰っていった。

扉の横には、青銅の鞭を携えた守護神が朝日を見上げていた。



「おう。お別れは済んだかい?」

オイバロス家を離れ、緩やかな丘に沿って歩いていると、ヘーロとテロンが待っていた。

「はい。今から神殿(ナオス)へ行くんです」

「そりゃあいい。アタシも行かにゃ」

ヘーロは、道沿いの崩れた石壁から腰を上げ、パンパンと体の土を払った。

「オイバロスの旦那がどっか行っちまってさ。ドーロンの旦那はあんまり口利きしてくんないし、お前にくっついてくことにしたぞ」

「またあちこちで売り込みしてたんですか?……オイバロス様なら、アルテミシオンに行ったはずですよ」

(私は最初からヘーロに護ってもらうつもりだったけどな)

でも前線に出たいだろうから、私の護衛だと退屈かも。

「それでか。アイソポスのおっちゃんもいないけど、付いてったのかね」

「ニキッペは王子じゃなくて王様に呼ばれるんだからね。保守派(あのひと)が見張る意味もないでしょ」

銀髪をさっとかきあげ、テロンも一緒に歩き出した。

「一緒に来てくれるんですか?」

「そりゃあ、エウフラテスがいるだろうからね。不自由な君達と違っていざとなれば兵にでも化けるから、僕の心配はいらないよ」



「魔術師の人形だ……。増えてないか?」

「新しく作ったという話だ。獲物を生贄に捧げて……」

街道から広場(アゴラ)を歩くうちに、四方から不審げな囁きが聞こえてきた。

(早く離れたい……)

幸い特別急がなくても、疲れを知らない人形の歩みは早い。すぐに丘を登り、神殿へたどり着いた。

『ここで待て』

神殿の手前、乾いた斜面に兵達を整列させた。テロンに抱えてもらってオドゥスから降りる。

「これ、持っててください」

腰の短剣をテロンに預けた。

「ああ。僕たちはここで……ってちょっとヘーロ、大人しくしてて」

「だってこんなとこいたら、こいつらと間違えられるだろ」

「君だけデカいんだから大丈夫だって。黙って待ってなよ」

二人の会話を背中で聞きながら、石段を上る。

立ち並ぶ石柱の脇、大理石の祭壇は赤く染まっていた。



『ヒューちゃあん?ヒドいんだからね、すぐパンドーラをほっぱらかして』

入るなり、柱の陰から純白のドレスが現れた。何で部屋にいないんだ。

『どこ行ってたの。毎日遊ぶ約束だったでしょお』

そんな約束してないぞ。

仮面越しに飛んでくる文句を後ずさりながら受け止める。



「――止めろ」

タジタジになっていると、奥から声が飛んだ。

神像(パラディオン)の足下。並ぶ玉座の一つに、ダレオース様が座っていた。

「すでに供犠は終えただろう。部屋に戻れ」

パンドーラ様の駄々がピタリと止んだ。

『すぐ帰ってきてね。待ってるんだからね』

最後にそう囁いて。

音もなく下がり、まっすぐ神像の奥に消えた。



「……人形兵を増やしたそうだな」

「はい。先日の、怪鳥群を材料に用いました」

「それは良い。実に良い」

ダレオース様は座ったまま、厳かに頷いた。

「青銅の兵を前面に立てよ。蛇口門(オフィオストマ)を破るのだ」

(……確かに、冶金兵には痛みも疲れもない)

城壁から矢を浴びたところでそうそう止められない。

二十体もあれば、あの分厚い門でも壊すなり燃やすなり出来るだろう。

「では、アンテモエッサの峡谷を正面から行かれるのですか」

「そうだ。そなたの魔術が門を破り、我が軍勢が街へ入る。一番槍を務め上げれば最大の栄誉だ」

私に目立つ手柄をくれるらしい。……ヘーロは大喜びだろうな。

まあ、どのみち断れない。

「……身に余る光栄です」

「身に余らないよう軍功を立てるのだ。異邦人(クセノス)を王子の妃を迎ようというのだからな」

(……)

黙って頷くしかなかった。


*     *      *



 しかし、その目論見は完全に外れた。門まで行き着くことはなかったのだ。

軍勢が四山の都(テトルーレア)を出発して三日目。左右には、一面の枯れ草が風にそよいでいた。

峡谷の影もまだ見えないうちに、異変は起こった。

「アルジサマ!」

前方へ飛ばしていたヒーメロペーが、羽ばたきもやかましく戻ってきた。

「このサキに、ヨロイのニンゲンが!コッチより多いです」

大声の報告は周りの味方にも届いた。一糸乱れぬ赤マントの行進が止まる。

「……野戦、だと」

隣を進んでいたダレオース様が低く唸った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。