第78話 誕生・冶金兵
結局、人形兵八体がかりに人力を加えても、怪鳥群の山を処理するのに丸一日かかった。
青銅の部分を取り分けても、残った胴体をただ放り出すわけにはいかない。白い羽毛をポンポンむしっている内に、とっくり日は暮れていた。
「……当分、鳥肉には困らんな」
月明かりの下、奴隷達が樽をごろごろと転がして貯蔵庫へ持っていく。
その様子を眺めながら、オイバロスが呟いた。
家の裏手には、大工房の吐き出す煙が見えていた。
行ってみると、大工房は真昼の明るさだった。
入る前から、肌をなぶるような熱気が全身にまとわりついてきた。
「青銅の取り分け、終わりましたよ」
「そうか、じゃあこっち手伝え。……ちょっと持ってろ」
アクモーンは乾いた土の腕を投げてよこした。ちょうど、肘から先の部分。
「何ですか、これ?」
「人形でとった雌型から作った芯だ。基本的には、そいつに青銅を纏わせて作るわけだな」
言いながら、丸い炉の前に座り込む。
(溶けた青銅ってああなるんだ……)
炎の上には、煌々と紅く輝く液体を湛えた石の器。揺らめく表面を、二人の男が見つめていた。
アクモーンは、手前の台座に置かれた土の塊を眺めた。私の持っている腕よりだいぶ大きい。
「これにも同じ芯が入ってる……そろそろ蝋も溶けたろ」
その言葉で、男達が土の塊の中に青銅を流し込んだ。
シュウウ、と音を立てて、青銅は塊の中に吸い込まれていった。
「よし、次だ次だ」
「あの、休まないんですか?もう夜ですけど」
さっさと立ち上がったアクモーンは、私の問いにひょいと肩をすくめる。
「乾かす時間が必要だからな。次々作ってるし、火をいちいち落とすのも手間だ……お前の人形も働けよ」
「それはもちろん……で、何すれば?」
「まずはふいごだな。代わってやれ」
指さす先では、炉の横で革袋みたいな物を男が踏み続けていた。
(フイゴ……)
「後は炭運びだ。裏にあるから、倉庫番に聞いてどんどん持ってこい」
* * *
「こかー」
「……おい、おいってば」
誰かが肩を揺さぶってくる。
「はにゃ?……あっ、ヘーロ」
照りつける日差しが眩しい。完全に昼を過ぎていた。
「お前ね、こんな玄関先で寝なくても」
「すみません……ちょっと休むだけのつもりで」
オドゥスの毛皮に抱きついていたら、寝てしまったらしい。夜の間も大工房の周辺はほんのり暖かかったのだ。
「人形兵は動くんだし、堂々と寝たらいいだろ。……それはそうと、おっちゃんが呼んでるぞ。第一号が出来たとかで」
工房の入り口から、そのまま柱廊を通り抜け、中庭へ。特に手入れもしてないらしく、雑草が蔓延っていた。
「……来たか。これだ」
くるぶしくらいの緑を踏み分けるように、青銅の兵とアクモーンが待っていた。
人形兵をそのまま青銅にしたような……のは当たり前だが。人形兵ほど滑らかではなく、肘や首にわずかな接ぎ跡が見えた。その体は出来たてほやほやで、黄金と見まごう光を帯びていた。
「またアタシの顔増やしちゃってさ。動くの?これも?」
『……麗しき若光の日輪、暗翳を払うポイボス・アポローン……』
人形兵から写し取ったヘーロの顔が、呪言を受けてゆっくりと微笑んだ。
新しい兵は、問題なく与霊の魔術を受け入れた。そのまま、炭運びに向かわせる。
入り口を出て行く黄金の背中を見送りながら、アクモーンは重々しく呟いた。
「……名前が必要だ。ある意味、俺が作った中でも傑作の武器だからな」
そういうものか。
拘りがあるのかもしれない。この人は斧にも弓にも名前をつけてたし。
「ヘーロプリテスはどうでしょう。ヘーロの顔してるから」
「駄洒落はやめろ。……クリュサオル……アエテリオン……」
逞しい腕をがっちり組んで頭をひねっていたが、はたと手を叩いた。
「そういや、複数形じゃなきゃダメか。アクモニデスだな。俺が作ったんだから」
腫れたまぶたを閉じて、頬の皺をくいっと持ち上げる。ご満悦の表情なんだろうか。
事実アクモーンのおかげだし、何の異存もないけれど。
「じゃあ、冶金兵で……。それで、数はどのくらいになるんですか?」
「そうさな。十日もあれば、今ある青銅は使い切るだろう。……二十体ってところか」
二十体。人形兵より頑丈だし、十分な兵力だ。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「ご主人の命令だからな……俺は仕事しただけだ。……それで、悪いが……」
アクモーンは少しはにかんで、囁くように続けた。
「最初のやつは置いてってくれ。鞭を持った太陽の……」
「はい」
あまり不思議ではなかった。あの神像には見るからに思い入れがあったようだから。
「縛霊の魔術で……あなたと工房を護るようにしておきます」
「そうか……」
新しく増えた労働力をこき使いながら、皆で怪鳥の丸焼きを食べた。
「これまた固い肉だねえ。ここも青銅でできてんじゃないの?」
文句を言いながら、アルキッポスが肉のスジと格闘していた。
本当に固い。私も顎が疲れてきた。
「我々はこのくらい構わんが。なあ?」
「ちょっと。こういう人目のある場で迂闊なこと言わないでもらえる?僕は人間。人間なのっ」
オノスとテロンは特に苦労していない。獣人としての口はどうなってるのか、見たい気もする。
「しかしまあ、ろくでもない鳥だよ。アホみたいな羽攻撃のせいで、あそこらの畑は当分使えないしね」
テロンの言葉に、少し空気が沈んだ。種蒔き前の今使えなければ、向こう一年使えない。
「はい……。何でまたここへ来たんでしょうか」
「何でってそりゃ、セイリオスの連中だろ」
事もなげに、ヘーロが言い切った。
「ステュムパーロスは紅の都のすぐ近くだからな。セイリオスが大軍を動かせば、あそこの生き物を追い立てながら動くことになる。別にここを襲わせようとか言うわけじゃあるまいがね」
怪鳥の肉を易々と食べ進みながら、説明してくれた。
「じゃあ……もうセイリオスの軍は出発したと?」
「そうさ。リュキオンだってすぐだぞ?オイバロスの旦那が言うところじゃ、あと十日もすれば王様の出陣だ。アタシも何とか潜り込むんだ」




