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タ・パンタ・レイ ーニキッペと最後の英雄ー  作者: 本間甲斐奈
第三章 不知の自覚に思考は始まる

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第70話 新たな戦

 これだけ目立っていれば当然だが、セイリオスの一行もこちらに気づいた。

しかし特に反応は見せず、その場を動こうとしない。

『誰だったかな~』

パンドーラ様はかすかに呟きながら、後ろで頭をひねっていた。一応あなたの婿候補なんですけど。

「……ペリメドン様ですよ、セイリオス王の。忘れたんですか?」

『ああ、そうそう。紅くて犬みたいなヒト二人もいたんだよねえ。ややこしいねえ』

……兄弟の見分けがつかないってことだろうか。何が犬なのか知らないが。

「でも、なんでこんなところに……」

『さあ?神殿(ナオス)でお話するんじゃないの?ねえ行かないの?』

白い指が肩を揺さぶってくる。

気になったのはリュキオンへ来た理由だったのだが、それはそれとして。

「神殿で、ですか?」

そういえば、五大都市(メガロペンテス)の会議も神殿でやっていた。

『そうかも?ねーえ、もっと遠くへ行きたいよお』

パンドーラ様は興味なさげだが、私には大問題だ。神殿の手前にセイレーン達を置きっぱなしだ。

幸い、ついさっき聖山(アクロポリス)を下りたばっかりだ。今すぐ帰れば問題ない。

「じゃあ、すぐ戻らないと」

『ええ~?』

すごく不満そう。だが、人目があるのであからさまに駄々をこねることはない。



 道のない斜面から登ってもらったが、オノスの脚はむき出しの岩肌を踏んでも全く問題なかった。少しだけ揺れが大きくなってパンドーラ様が喜んでいたくらいだ。

入り口の石段の前で、姉妹は二人ともまだ惚け気味だった。

「オノス。荷車引いて、裏へ回ってください」

「うむ」

四本の腕が同時に引き手を掴んだ。



『あっぷっぷ~』

「……無理ですって、だから」

『わーい、また勝っちゃった』

セイレーン達を避難させ、オノスから降りても、パンドーラ様は部屋に帰ろうとしない。

私はにらめっこ(エンマタゴニア)なる謎の遊びに付き合わされていた。

(強すぎるって)

まともに顔を合わせられないのにどうしろと。オノス達に背を向けて、私にだけ顔を見せているのがせめてもの気遣いか?

(帰りたくないのは分かるけどさ)

あんな窓もない部屋、人の住むところじゃない。ましてお姫様が。

だが、それとこれとは話が違う。牛頭(ブーケファロス)とにらめっこしたほうがマシだ。



 その時、誰かが足早に近づいてきた。

「パンドーラ!なぜ部屋に……」

『あれえ?ムーちゃんだあ。久しぶり~』

「なっ……」

慌てて振り返ると、仔羊(ムー)ちゃんとはエウモルフォス様だった。

(もうパルテナイから帰って……じゃなくて!)

完全に呑(・)ま(・)れ(・)て(・)いた。ヘーロと並ぶ巨大な体躯が凍り付いたように動かない。青い瞳だけがかすかに震える。

「パンドーラ様!早く仮面を!」

『ありゃ~。牛(ボー)ちゃんは大丈夫なのにい』



「申し訳ありませんっ!近くに誰もいないと思って……」

仮面を戻した後は平謝りだ。肩で息をしながら白土の上に膝をつき、エウモルフォス様は二、三度首を振った。

「ああ、いや……いいんだ。パンドーラの頼みは断れないだろうし、貴重な話し相手だしね」

豊かな黒髪が汗でべっとり額に張りついている。

『ごめんね。大丈夫?』

「止めてください。お声も、何というか……」

パンドーラ様に注意していると、自嘲気味な笑いがその場に落ちた。

「そうだ。私は声すらも……。英雄(ヘーロース)の器あらば、顔つき合わせて話しうるというのに……」

そうこぼして顔を伏せる。

だがすぐに立ち上がり、私達を見下ろした。

「それはともかく。君もいたのはちょうど良かった。二人とも来てくれ」



 エウモルフォス様に言われるまま、オノス達を残して神殿に入る。

「……あっ」

反射的に右拳を掲げていた。

いつ来たのか、入ってすぐエウクラトス様に出くわす。牛頭を脱いで、素顔になっていた。

少し奥に、ダレオース様とペリメドンも立っていた。

「それを……外へ。この場に、武器は……許されぬ」

太い指が私の腰を指さす。

(……そうなの?)

確かにどの方も鎧すら着けないで、幅広の外衣一枚の姿。前の会議でもそうだったような気がする。

パンドーラ様が何も言わないだけで、ここはそういう場所なのかも。

(でも私がこれ持つより、絶対素手の皆さんの方が強いと思うけどな)

ヘーロにもらってから、肌身離さず持っていた短剣。

白木の鞘ごと腰帯から外し、外へ戻って石段の脇へそっとおいた。



 やがて、全員が円になって並んだ。

「さて、ペリメドン王。此度の来訪、歓迎いたしますぞ」

全く歓迎してなさそうな調子で、ダレオース様が口火を切った。

奥の神像(パラディオン)の前には二つの玉座があるのに、どちらにも座ろうとしない。私達と同じく立ちっぱなしだ。

「うむ。ありがたい」

ちらりとこちらを見つつ、ペリメドンが進み出た。

エウクラトス様ほどじゃないが、エウモルフォス様とは張る巨体だ。真っ赤な髪髭と赤銅色の肉体は、薄衣一枚の格好でも十分迫力があった。

「では単刀直入にいこう。我がセイリオスは、これよりアンテモエッサを攻める」


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