↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タ・パンタ・レイ ーニキッペと最後の英雄ー  作者: 本間甲斐奈
第二章 健全な肉体に健全な魂が宿りますよう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/93

第54話 待ち人来たる

 かつて満開の花(アンテモエッサ)の名で呼ばれた小島。

その沖合でパルテナイの三段櫂船(トリエーレース)が、アルシア艦隊を追い散らしていた。

「ようやく街のほうへ行けそうだな。はー長かった」

船団の後方には、五十人櫂船(ペンテコントロス)の姿もあった。もやい綱を結んで三段櫂船の後についている。

「昨日あたりから敵さん獣人(テリオモルフォス)しか来ないしさ。ピョンピョン跳ねて面倒くさいったら。どうなってんのかねえ」

ヘーロマケーが気怠げに愚痴を垂れた。

しかし誰も反応しないので、傍にいたアイソポスを捕まえる。

「どうなってんのかねえ。おたくも気になるだろ?」

「魔術師殿は街がお気に召したようですからな。もし獣人を操るところを見せたなら、もう向こうには獣人軍(テリオモルフォイ)を回さんでしょう」

手前に巻いた顎髭を揺らしながら、アイソポスは鼻でため息をつく。

「なかなか疲れてるねえ。ニキッペの奴が案の定帰ってこなかったから?」

「そう思うなら一緒に止めていただきたかったですな。あなたも一応オイバロス様の指示で来ているはずでは?」

しかし、ヘーロマケーは喉の奥で笑うばかり。

「クックック、いいじゃないの細かいことは。こうなっちまったらどうせ合流するんだし」



「さあ舞台は整った。敵を追い、街へ入る!ちょうど港で挟み撃ちだ」

陣の中央からイカロスの号令。即座に伝令の信号が各船を走り、七十隻の艦隊は遥かに見える蛇舌岬(オフィオグロッサ)へ舳先を向けた。

ピラエウス港を発って一週間あまり。パルテナイからの援軍は、ようやくアンテモエッサに届こうとしていた。

しかし。



「む?何だあれは」

イカロスの梟眼(グラウコーピス)が、遥か東の水平線を見据える。

朝日を背に受けて、白い帆が続々と顔を出しつつあった。次いで、波を割く有翼の大蛇(ドラコーン)も。



*       *        *



 ヒーメロペーを送り出してから三日。

アルシアの五段櫂船(ペンテーレース)は、毎日港に押し寄せていた。

南の浜、海へせり出した蛇舌岬の根元で、長く伸びた壁の警護にあたる。

壁と言っても、石壁の欠片や雑多な木材を手当たり次第に積んだだけの代物だ。

だが、それでも今日まで何とか敵の侵入を防いできた。

アンテモエッサの男達は懸命に木石を積み上げ、弓を射かける。

「おい、こっちも頼む!」

右手から呼ばれる。楯を構えた一隊が壁に迫っていた。

『行け!前には出なくていい。壁を越えそうな敵を狙え!』

猿の獣人達が、壁にとりつく敵兵へ襲いかかる。霊(こころ)を縛った彼らも、八人まで減っていた。

増えることはない。最初の日以来、獣人軍とは出会っていなかった。私の前に現れるのは人間ばかりだ。



(保たないかも……)

逆光の太陽に目を細めた。

桟橋はとっくに壊されているのに、五段櫂船は乗り上げるように船首を進めてきた。

長い板を渡し、黒マントが続々と浜へ降りる。

確実に、アンテモエッサは押し込まれていた。

少なくとも、獣人達が減るにつれて私は役立たずになる。何かしなければ。

(与霊の魔術(プシュコドシア)で、壁を……?もっと強く、高く……)

しかし、これは本来壁ではない。

ボコッ。

そんな余計な思考に気を取られていたとき、左手の壁が吹き飛んだ。



「まったく、胸クソ悪い術だ」

瓦礫を払いつつ、対応に向かった獣人の頭を握り潰す。白い巨体がそこにあった。

(あの時の……)

緑の瞳が私を捉えた。すでに、大猿の姿になっている。

「下がれ、お嬢ちゃん!」

「壁が崩れたぞ!楯持ってこい!」

異変に気づいた街の男達が駆けつけてくる。

だが、とても無理だ。



「うッ!?」

今にも突進しようとしていた白猿が、いきなり跳び退いた。

地面には、青銅の鏃が突き立っていた。

「どっかで見たようなエテ公だな。図体の割にイイ動きだ」

「ヘーロ!」

弓を背負い直し、ヘーロが浜に飛び降りる。テロンも、デモフォンも。

私達の船が、三段櫂船に曳かれて海岸までたどり着いていた。

「ありゃ味方か?」

「パルテナイだ!救援が来たぞ!」

周囲で歓声が上がる。

衝角(ラム)が木の腹に突き刺さる音が、どこかで聞こえた。



「……シロスの子トリバロス!誉れ高きアルシアの八牙刃(オクタドナス)!」

「ヘーロマケー・オーキュステー!特別にオーキスでいいぞ!」

ヘーロが短剣を抜いた。互いに名乗り合った直後、白と金の暴風が巻き起こる。

(……私も、何かしなきゃ……)

「ニキッペ、何してるんだい!せっかく持ってきたのに!」

壁の向こうから、テロンの叫びが聞こえた。

そうだった。

「ッ……はい!『戦え(マケステー)!壁を守れ!』」

五十人櫂船の船底で、人形兵(ペーロプリテス)が一斉に立ち上がった。次々に海へ飛び込み、ざぶざぶと浜へ上がってくる。

(これで味方が、五十人)

『武器を拾え!』

人形兵達は浜に転がった兵の手から槍を奪い取り、敵兵に襲いかかった。

「何だあの化け物、土か!?」

「私の下僕ですっ!魔術師ですから!」

ざわめく男達をなんとかなだめる。



「あッ、待てこら、逃げるな!」

ヘーロが怒声をあげる。

トリバロスというらしいあの獣人は、早々に一騎打ちを切り上げ、無事な五段櫂船に跳び乗ってしまった。

見れば、港のあちこちでアルシア船が離れていく。付近の敵兵も、人形兵の手を逃れた者は退いていった。

(勝った?……これで終わり?)

放心していると、トリバロスの空けた大穴から、テロン達が足早に向かってきた。

「あの……」

「ピンダロス殿はどこかな?」

開口一番、デモフォンはそう尋ねてきた。息を切らして、焦燥を隠しもしない。

「あの、浜の中央にいらっしゃると……」

右手に見える巨大な桟橋……の残骸の根元を指さす。あの辺りの壁にいるはずだ。

「そうか」

すぐにデモフォンは駆けていった。

胸当ても兜もしたままですごい速さだ。

「あんなに急いで……」

「そりゃあ、一大事だからね」

テロンの声にも余裕がない。

「どうも、向こうもだいぶ増えたみたいだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。