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タ・パンタ・レイ ーニキッペと最後の英雄ー  作者: 本間甲斐奈
第二章 健全な肉体に健全な魂が宿りますよう

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第48話 戦いの後で

 その夜私は久しぶりに、テロンとヘーロと夕食を食べた。

月明かりの下、三人で浜辺に座って海を眺める。どこかへ行っていたテロンに、聞きたいことは色々あった。

「それじゃ、獣人(テリオモルフォス)だって言っちゃったんですか!?能力のことまで……」

「ケファロニアの王サマは、どーしても会談の時の巨像(コロッサス)が気になったみたいでな。しつこい上に鋭いんだ、これが」

ヘーロは肩をすくめてみせるが、納得できない。

「まあ弱点のことは言ってないし、まだ牛王子と同じような段階だ。それに、カウニアス王についてったおかげでエウフラテスを見つけられた。まさかセイリオスの足止めをやってるとは思わなかったけど……」

テロンも仕方がないという雰囲気だ。

「でも獣人なんて知れたら!」

「ああ、困るね。魔術で操られてるってことにしたからさ、ひとつ頼むよ」

銀髪の奥から、黒い瞳が悪戯っぽく笑う。

「なるべく一緒にいないとね?君が僕のご主人様ってわけだ」

「そんな……」

思わず声が細くなった。


 

「しかし、停戦とはつまらんことを。レオニダスの野郎を殺したかったのに。お前らもそうだろ?」

曖昧に肯いた。ティグリスの顔を思うと、今でも胸に炎が蘇る。

だがヘーロが怪我したとき、完全に敵のことを忘れていた。

「僕は……どうかな。アイツを倒せそうって感じじゃなかった。でも、ニキッペがいれば勝てる。そうだろ?」

「はい。今度は一緒に戦いましょうね」

私には化けた姿は見抜けないが、テロンは叔父の正体を知っている。横で教えてくれれば神令(テオロゴス)をかけられるはず。

「ところで、この後ってリュキオンに帰るんですか?」

「アタシは一応あそこの英雄(ヘーロース)だし、そのつもりだけども。……こういう話をしてるとウルサイのが寄ってくるな」 

ヘーロが顎でクイと指した先には、私たちの五十人櫂船(ペンテコントロス)。

船から二人、浜へ降りてきていた。オイトロンと、アイソポス。



「こんばんは、お二人とも。どうしたんですか?」

尋ねると、オイトロンが髭面でニヤニヤ笑う。

「なに、今後の身の振り方を聞いておこうと思ってな。俺は君の護衛を命じられてるから、君についていくわけだ」

「その割には大して活躍しなかったな?向いてないんじゃないの」

「だってお嬢ちゃんはすぐ飛んでどっか行っちまうし。俺のせいじゃないぞ、ハッハッハ!」

ヘーロのイヤミもどこ吹く風だ。

「ま、俺を任務に就けたのはアリキオン様だからな。お払い箱にしたかったらトクソン湾へ戻るこった」

(エウクラトス様のところへ……)

港は形になったのだろうか。

「いや~ははは、困ったな」

と、アイソポスも話に乗ってきた。

「君はエウクラトス様と仲がいいものな。……しかしそちらへ行かれると、私はデニケス殿にどやされてしまうな」

丸い鼻を掻きながら、目線をふらふらさせている。

「オーキュステ―殿は当然四山の都(テトルーレア)へ帰るだろ?闘技(パンクラチオン)の勝者(ニケーテース)はリュキオンを守護せねば」

「王子サマのとこもリュキオンだろ。アタシはニキッペについててやるさ。おたくら当てにならんからな」

(ヘーロ……)

ガシッと太い右腕に抱き寄せられる。

「おうい、猪馴らし(カプロダマスティス)」

そこで新たな声。デモフォンが駆け寄ってきていた。

「イカロス様たちがお呼びだぞ」



 案内されるまま、岩陰の紅い天幕に向かった。デモフォンは同席できないらしく、一人で中に入る。

「やあ、どうもどうも。さあこちらへ」

中には、五大都市(メガロペンテス)のエラい方々が円になって椅子にかけていた。

エウモルフォス様に促されて、円の中央に立つ。

「あの、何で私をお呼びに?」

「ああ。カウニアス殿が君をケファロニアへ招待したいご様子でな。我らリュキオンの客分だと言ったのだが、当人の意思も聞こうということになったのだ」

私がその言葉に応える前に、カウニアスが口を開いた。

「可憐な花は皆で愛でてこそ。リュキオンばかりが花園では勿体ないでしょう?ねえイカロス殿」

「ハハハ、いやいや。リュキオン勢についていくならば、どの道パルテナイには寄りますからな。私はそれで結構」

イカロスと二人、おどけて笑っている。

「リュキオンの姫ならまだしも、客分の立場に縛られる必要もないでしょう。それに、我々には秘密の友人がおりますから」

(それは……)

群青の瞳が目配せしてくる。まさかテロンのことか。

他の面々はピンときていない様子だった。おそらく、カウニアスはヘーロから聞いた事情をまだ誰にも話していない。

(黙っててほしければケファロニアへ、と……)

やることがセコすぎる。

しかしカウニアスは知らないだろうが、エウクラトス様にはもう言ってあるのだ。

楽しげな視線をきっと見つめ返す。

「私はトクソン湾、エウクラトス様の元へ参ろうかと」

カウニアスは目を丸くしたが、すぐに笑みを戻して何事か考え始めた。

「リュキオンの新たな港だね?エウクラトス王子はヒュドラを成敗なされたとか……そうか、彼の元へねえ」

「なんですかな、それは?」

「ああ、そもそもリュキオン最強のエウクラトス殿がここにおられないのは……」

場の話題はそちらへ移っていった。私の行き先は、ひとまず決まったようだった。

「そうか、兄上のところへ……」

しかし、エウモルフォス様は静かに目線を落としていた。


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