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第9話 救出


翌日の9時ごろ、馬車が通るであろう街から少し離れた街道。フェイルとアカリは岩の影で待ち伏せをしていた。


「今日は冷えるわね」


「そうか?アカリは冷え性なんだな」


「何その、分かったような顔。辞めてくれる?」


すると、視察に出ていたマカグレンが戻ってきた。


「馬車はすでに宝石店にいる。後は待つだけだね〜。昨日もここを通ってるし、ここ以外に馬車が走れる道はないはず」


待つこと数十分、宝石を積んだ馬車が走ってきた。


「みんな来たよ!作戦通りに!」


フードを被ったアカリが道の真ん中に飛び出し、馬車は急停止した。


「コラ!危ないだろ!避けてなさい」


馬車を引く男が、道を塞ぐ少女に退くように手払いをする。

もちろん、退くわけがない。アカリは煙玉を複数叩きつけた。


「うわっ!なんだ!?」


白く濃い煙は荷馬車全体を覆い尽くし、周辺も見えなくなった。外からも中からも視界はまともに見えないだろう。


馬車に乗っていた兵士たちは戸惑いの声を上げた。


「女王をお守りしろ!」


外に出て警戒しようとする兵士、馬車の中で女王を守ろうとする兵士。それぞれが役割を全うしようと行動した。


しかし、バチッバチッという音と共に1人、また1人と兵士が倒れていった。


フェイルは馬車めがけて走り込んだ。

すると、目の前にカイ・ジエンが現れた。


「おう、来たか。兵士たちはお眠り中だぜ」


宝石をよこせと言わんばかり、右手をワキワキと動かす。その逆の手、つまり左手には目的の赤い宝石が握られていた。


「...同時だ。俺が渡すと同時に、こちらにも渡してもらう」


「あぁ。わかってるよ」


最大限警戒しつつ、お互いの手には宝石が行き渡った。


「しっかし、よく城への侵入だの、宝石の運搬だのお前ら舐められてんじゃねぇのか?」


「ん?どういう意味だ」


「俺ほどじゃねぇが、城にも手練れの兵士が居るはずだ。お前らが宝石の行き先を知ってたって事は、城の中でも何かやってたんだろ?よっぽど警備を解いてる状態じゃねえと簡単にはいかねぇはずだ」


「...」


アカリが規格外の実力者だからと、何でもうまくいっている事に不信感を抱かなかった。だが、カイ・ジエン程の実力者が言うのだ。ここまで事が上手くいっているのは少しおかしいのかもしれない。


「ちょっとぉ!あなた達!?わたくしを守りなさいよぉ!ジエン!ジエンはどこなの!」


女王の耳をつんざくような怒号が馬車の中から聞こえてきた。


「まぁ、いいや。これで目的は達成したんだろ。とっとと帰りやがれ」


フェイルは言われるがまま、その場を離れた。


煙の中では、またバチッバチッと音が聞こえた。そこから兵士たちによる騒ぎの声が大きくなった。恐らく、眠らせた兵士たちを同じ要領で起こしたのだろう。


「よし、ずらかるよ」


フェイルはマカグレンの背に乗せられ、マカグレンの高速移動によって、その場を離れた。

アカリも横を走り、付いて来ている。


「アンタももっと早く走れるようになりなさいよ。いつまでも隊長に頼ってないで」


フェイルも一般人よりはかなり早く走れる。だが、この2人と比べればやはり天地の差があるだろう。


「隊長、さっきカイ・ジエンにこんな事を言われたんですが...」


フェイルはマカグレンに先程の話を伝える。


「うーん、確かに不信感は拭えないね。俺らをどこかで待ち伏せしている可能性も考慮して、最後まで気を引き締めていこうか」


その後は、再び宿屋に行き、持ち物を全て回収して国を離れる準備をした。アカリは先程の襲撃の際、どこからか宝石をいくつか盗み出した様で、目がお金の形になるほど、嬉々としながら宝石を凝視していた。


「それ、盗んでもいいやつだったのか?」


「専門家まではいかなくても、物の価値は大体分かるわよ。これはまあ、ちょっとした高級品程度ね」


「準備はできたかい?帰るよ〜」


3人は宿屋を出て、念のために中心街を外れながら帰路についた。だが、道中で異変に気がつく。


「ねぇ、あれってカイ・ジエンの店よね?なんか馬車止まってるし、兵士の数も多くない?」


遠目でしか見えないが、確かに馬車が3台ほど止まっていて、兵士も多い。


「ちょっと、見てみようか」


アカリとマカグレンは目に魔力を集中させ、視力を高めた。かなり距離があるため、ぐっと力を入れているようだった。


「あっ!昨日のあの弟子!ミノ?だっけ、兵士に捕まってるわよ。すごい怪我もしてる」


「う〜ん?明らかに様子がおかしいね〜。まあ俺らからすれば、このまま立ち去るのが安全ではあるけど、どうする?フェイル」


マカグレンはフェイルを見つめた。どうする?というのは、彼を助けるのかという事だろう。


「誰が悪いとかは分かりませんが、カイ・ジエンとの交換条件である宝石の持ち主は彼です。彼の身に何かあって、宝石が彼の元に戻らないならそれは交換条件の破綻と言えるでしょう」


「つまり、なんなのよ?」


「彼を助けましょう」


「うん、そうこなくっちゃ〜」


「先に向かって下さい。俺は足遅いんで」


「カッコつけた割に、救出は他人任せってわけね」


「まあまあ、ほら行くよ〜」


アカリとマカグレンは一瞬でその場から駆けて行った。


「...俺もいこう」


フェイルも自己の出せる最速の速度で、宝石店へと向かった。


アカリとマカグレンが着いた時には、馬車は1台になっており、兵士は宝石店の中にいるようだった。


「ちょっと、話聞いてみようか〜」


店に耳を近づけ、会話を探る。


「はあ、もう一気に詰めていいんじゃないか?」


カチャカチャと、何かを箱に詰める様な音が聞こえる。


「バカ言え、ここにある宝石はどれも数千万は下らないものだぞ。丁重に扱え」


恐らく店の宝石を詰めている。店主が不在の時に。やっている事は強盗にしか見えなかった。


「アンタら何してんの」


兵士が慌てて振り向くと、フードと覆面を被った少女が立っていた。


「だ、誰だ!」


だが、1人が叫んだ時には店の中にいる兵士たちは全て鎮圧されていた。


「あらら、やる事荒いんだから〜」


マカグレンが頭を掻きながら、店内に入った。


「同じ盗賊野郎として負けるわけにはいきませんから」


全ての兵士を縄で縛り、身動きを取れなくした。


10分ほど経つと、フェイルも店内へと入った。


「はぁ、はぁ、はぁ。ど、どんな状況ですか」


フェイルは全身から汗が吹き出していた。全力で走って来た事は誰の目から見ても明らかだった。


「遅いわよフェイル。こいつらは城の兵士で、この店の宝石を盗もうとしてた。あと、ミノ君も誘拐したらしいわ」


アカリの横には、泡を吹いて倒れている縛られた兵士がいた。拷問でもしたのだろうか。だが目立つ外傷は見られない。


「タイミング的にカイ・ジエンが居ない時を狙った、いやこの状況を作り出したって事なのかな〜」


「なるほど、さっきフェイルが言ってた不信感も、これで合点がいったわ。城の主力は全てカイ・ジエンの店を襲撃するために割かれていたってわけね」


「一体何のために...」


「誘拐犯は北の採掘場に向かったみたい。あとはコイツらをどうするかだけど...」


「そうだねぇ。増援が来たら、また宝石を取られる可能性あるし...。よし、ご丁寧に宝石は梱包されてるし、とりあえず俺達が持って行こう。兵士は放置で〜」


「わかりました。後始末はまあカイ・ジエンにまかせましょ」


マカグレンが宝石の入った大袋を抱え、3人は店の外に出た。周囲に増援の気配はなかった。


「さて、洞窟までどうやって行こうかな〜。相手は馬車を使ってるから、俺たちも乗りたいところだね。この子を借りようかな〜」


マカグレンは外に止められていた一頭の馬を撫でた。


「隊長、馬術できるんですか?」


フェイルが聞くと、マカグレンは頷いた。


「うん、人並みにね。さあ乗って乗って!追いつくよ〜」


3人は馬車に乗り、ミノが連れて行かれたという北の採掘場へと向かった。幸い、道はかなり整備されていてスムーズに進むことができた。


「うーん、結構飛ばしてるんだけど姿が見えないね。だいぶ前に着いちゃってるのかなぁ」


「誘拐した以上、すぐに殺したりはしないはずですよね」


殺人が目的ならその場で殺していたはずだ。何か目的があるなら、ミノの命は無事だと考えられる。


「命はあっても、拷問されてる可能性はあるわよ。なるべく早く行ってあげないと」


しばらくして、採掘場付近についた。

採掘場は大きな洞窟になっていて、中には危険な魔物もいるらしい。

先に着いた兵士たちの馬車が2台止まっていて、入り口付近に人だかりがあった。


フェイル達の馬車には気づいていない様子だ。


「あそこにミノ君はいないねぇ。洞窟の中はいっちゃったかな」


「なら、あそこの人たちに話を聞きましょっか!」


アカリは覆面を被ると、飛び出して行ってしまった。


「もう、血の気が多いんだから〜」


マカグレン、フェイルも遅れて飛び出す。


「おい!お前ら止まれ!今ここは通行止め...」


兵士はアカリ達に制止を呼びかけた。だが、止まる気配はない。


「曲者だ!絶対に通すな!生死は問わん!」


洞窟の入り口近くに居た1人の老兵が叫んだ。

7名の兵士たちが、一斉に襲いかかる。


「あら、精鋭でこの程度?」


槍や剣による攻撃をヒラヒラと躱し、1人ずつ丁寧に倒していく。

全員を倒したあと、老兵がようやく動き出した。


「はぁ...。本当に最近の若者は鍛錬がなっとらん」


肩をゴキゴキと回し、大きな片手剣を背中から抜く。間近で見ると、かなりの筋肉量で老兵には思えない肉体だ。


「なかなか強そうじゃない」


アカリは得物を持っていないため、兵士の使っていた剣を手に取った。

アカリが速度を上げて、老兵に近づく。

剣戟をお見舞いしたが、重そうな片手剣を軽々しく使い、全て弾かれた。


「所詮は曲者、いや盗賊か?目的は知らんが、死んでもらおう」


アカリの頭上に剣が降りかかる。


「やばっ」


だが、剣は空を切った。アカリは攻撃の前に後ろに下がった。いや、下げられた。

アカリの腹部には縄が巻かれていた。その縄はマカグレンの手元へとつながっていた。


「ふぅ、間一髪だねぇ」


攻撃される直前に、マカグレンは縄を投げアカリに括り付け、すぐさま引っ張って攻撃を回避させたのだ。

だが、アカリの場所までは2メートルほど離れていた。縄がそんな速度で投げられるものなのだろうか。


「おい、邪魔すんなよ」


老兵がこちらへ向かって来た。

マカグレンは素手で構えた。


「舐められたものよ!」


老兵が剣を振った。だが、マカグレンは右手で刃の横を叩き、剣は粉砕された。


「なっ!」


老兵が後退りした時には、マカグレンの手が老兵の腹部に付けられていた。


ドン!という音と共に、老兵は崩れ落ちた。


「ふう。この国で会った中では強いほうだったね。アカリ、大丈夫かい?休んでいた方がいいんじゃない?」


アカリは首を振った。


「平気です。さっさと中に入りましょう」


スタスタと中に入って行ってしまった。

フェイルとマカグレンも慌てて中へと進む。


「恐らく、さっきのやつよりも手だれの兵士が中に居るはず。もし危険を感じたら、身の安全を第一に逃げるんだよ〜」


「分かりました」


「...」


フェイルは返事をしたが、アカリは黙って歩いている。

マカグレンはこの忠告を1番弱いフェイルではなく、アカリに向けて話したように感じた。


奥に進むと、恐喝のような男の声が聞こえて来た。


「は、や、く、教えろよ!」


その声の後には、何かを殴り倒すような音。


「2人とも、準備はいいかい」


角を曲がれば、声のする場所へ着くだろう。3人は行われている所業を止めるべく、その場へと姿を現した。


「そこまでよ!」


そこは自然にできた洞窟だとは思えないほどの広い空間だった。ドリルやツルハシといった採掘道具が散乱している。

そして壁際に彼らは居た。


2人の兵士がおり、その中の1人が倒れたミノの髪を掴み上げている。


「あぁ、随分遅かったじゃないか...って、あ?カイ・ジエンじゃないのかよ。誰だお前ら」


ミノを放り投げると、こちらを向いた。

銀色の輝かしい鎧を着た、中年の男性だ。見るからに、かなり高位の人物なのだろう。茶色で縮れた髪の毛が特徴的だ。


「事情は知らないけど、その子を渡しなさい」


アカリが近づくと、兵士の1人が立ちはだかった。


「へへ、いい女だなぁ」


人の事を舐めているかのような、薄ら笑いを浮かべた中年の男性だ。格好は村民のような感じだが、それなりの地位にいることは想像できる。


「キモっ。隊長、こいつはアタシが」


「うん、フェイルも手助けしてあげて〜。この人は、俺が相手するから」


マカグレンは銀色の鎧を着た男を相手取った。


「ちっ、めんどくさいな。おいガナー!さっさとやっちまえよ!」


「へへ、おうよデイブ」


2人の応答から、銀色の鎧を着た隊長格のような男はデイブ。もう1人の男がガナーという名前であることが分かった。


倒れたミノは意識がないようで、起き上がる様子は一切なかった。


「心配ね。さっさと終わらせるわよ」


アカリは先程奪ってきた剣を。フェイルも自身の剣を構えてガナーと敵対する。


「ひひっ、そっちの男もいいなぁ」


ガナーは背中に隠されていた、二刀のククリナイフを抜いた。


「いい?容赦するんじゃないわよ。これは殺すか殺されるかの戦いなんだから」


フェイルを諭し、踏み込む。


「いくわよ!」


アカリが先陣を切った。アカリの一撃をガナーは二刀のククリナイフで押さえ込む。


「はあっ!」


フェイルは両手の塞がったガナーを、横から切りつけた。

しかし、ガナーの左手は突如フェイルを向いた。両手で押さえ込んでいるように見せかけ、実は右のククリナイフだけで攻撃を止めていたのだ。

このままではフェイルは切り裂かれてしまう。


「あぶない!」


アカリは咄嗟に自身の体をガナーにぶつけた。ガナーは体勢を崩すが、それはアカリも同じこと。何より、無防備なのはアカリ側だ。

ガナーのナイフがアカリを切り裂いた。


「っ!アカリ!」


アカリを攻撃した瞬間、フェイルは持てる力を出してガナーを蹴り飛ばした。

倒れ込むアカリを抱える。

服の上からでも、血が滲み出ているのがわかる。


「だい...じょうぶよ。致命傷は避けた...から...」


そう言い残すと、体から力がガクッと抜け落ちた。明らかに体が熱い。額に手を当てると、高熱を出していることが分かった。


「お前、こんな状態で...」


確かに、城への侵入から今に至るまで体調は悪そうだったし、まともに休息も取れてなかっただろう。しかし、高熱が出るほど酷い状態で戦い続けていた事には気がつかなった。


「仲睦まじいなぁ、ふふ。だが、それを俺が、切り裂く」


ガナーは立ち上がり、ククリナイフをクルクルと回している。

隊長には身の安全を第一に考えて逃げろと言われた。だが、隊長の方を見る限りあちらも苦戦している様子だ。ここでフェイルが逃げれば隊長の命が危ない。


「もう少し待っててくれ。俺がコイツを倒す」


フェイルは剣を構え、その剣先にガナーを見据えた。


「おぉ、やる気。1番弱いのに、ふふ」


「それでも、お前には勝つ」


フェイルは先に攻撃を仕掛ける。相手が二刀得物を持っている以上、受け身になるのは避けたいからだ。

しかし、高い熱があるとはいえアカリの攻撃を片手で受け止めた男だ。フェイルの攻撃も同様に止められる。


しかし絶え間なく、攻撃を浴びせ続ける。


「同じ攻撃ばかり、もう飽きたよぉ!」


ガナーはフェイルの剣戟を弾き飛ばし、右のククリナイフで斬りかかる。


「ここだ!」


フェイルは左腕で斬撃を受け止めた。


「なにっ、こいつ左腕を犠牲にしやがった」


左手の一の腕が半分ほど切られている。しかし、骨までで攻撃が止まった。

すかさず左足で、ガナーの右腕を蹴り上げる。


「っぐ」


堪らず、持っていたククリナイフを落とす。


「これで、得物一本だ」


フェイルはガナーの2本あるククリナイフを、一本にするため左腕を犠牲にした。痛みも強いし、出血量もバカにならない。だがここまでしなければ数を減らすことは出来ないだろう。


「ち、ちぃっ」


ガナーは残る左のククリナイフを構える。


「うおおお」


フェイルは横振りの一閃を放った。

フェイルは気づいていた。この剣が得意な型、これは元の使用者が魔力を注ぎ込み続けた軌跡なのだと。魔力の残滓が、フェイルに力を貸してくれる。


フェイルの攻撃に耐えられず、ガナーの残ったククリナイフも吹き飛んだ。


「け、気圧されたというのか、お、おれが」


武器の無くなったガナーは後退りする。

フェイルは剣を鞘に収め、近づいていく。


「な、何をする気だぁ」


ガナーにはもはや、戦う気力が無いようだ。


「...少し眠ってもらう」


フェイルは右の拳で、ガナーを殴り飛ばした。完全に気を失ったようだった。


「はぁ、はぁ...」


フェイルは出血による貧血で眩暈を起こしながらも、止血しつつマカグレンの方を見た。


「おいおい、なんでこんな強いやつが居るんだよ!」


デイブは片手剣で応戦し、マカグレンは手甲剣を使っている。腕に忍ばせてあったのだろうか。


「それはこっちのセリフだよぉ!」


2人の勝負は互角に見えた。しかし、拮抗が崩れたのは一瞬だった。


デイブは横目でガナーが負けたことを知ると、すかさず背後のミノに剣を向けた。


「卑怯な!」


マカグレンはミノを守るため、手甲剣を投げ、デイブの攻撃とぶつかった。ミノは守られたが、マカグレンは素手になった。


「くくく、あっはははは!バカだなぁ!こんな、守る価値もないやつに、自分の命を賭けるなんて!」


デイブは再びマカグレンに牙を向いた。


マカグレンは手の甲に残った金属の装着物で、なんとか攻撃をしのぐ。だが、それも無限に続けられる訳ではない。

やがて隙が出来始め、剣で隙を作っては殴りや蹴りを入れる。それを何回も何回も繰り返した。


「隊長...」


フェイルは今すぐにでも助けに入りたかった。だが、デイブはガナー以上の実力者だ。万全でないフェイルが行ったところで、足手纏いだろう。この勝負は見守るしかなかった。

そうして、マカグレンの体力が底をつきかけた時だった。


「おい」


この場に居た誰でもない、男の声がした。


「カ、カイ・ジエン...」


フェイルが広間の入り口を見ると、怒りの表情に満ちたカイ・ジエンが立っていた。


「よくもやってくれたなぁ?デイブさんよぉ」


ゴキゴキと指を鳴らしながら、こちらに近づく。


「おう、俺はこの盗賊どもからお前の弟子を守ってるんだ!さっさと手伝え!」


デイブがそう言うと、カイ・ジエンは右足で地面を思い切り踏んだ。その場は割れ、ゴズン!という音が洞窟に響いた。


「何抜かしてんだよ、お前らがやったんだろうが!」


カイ・ジエンが逆上し、デイブに攻撃を加えようとしたところで。


「...あ?」


突如、大雨が降ってきた。洞窟内では起こり得ない事象だ。


「くくく、ほらジエン。お前魔力解かないと、俺らだけじゃなく大事な大事な弟子さんが感電死してしまうぞ?」


デイブはジエンが逆上している隙に、壁に取り付けられたボタンを押したようだった。

そして、天井につけられた装置から水が噴出され続けている。床はすでに水浸しだ。


「てめぇ、鼻からこれが狙いだったのかよ」


「あっはははは!そうだよ!お前の強さはよく知ってる、だがその厄介な魔力が消えればお前はただの人間だあ!」


デイブはその剣でカイ・ジエンを攻撃する。


「ちっ」


カイ・ジエンは後方に下がりつつ、フェイルに目配せする。その視線は、アカリの使っていた剣とフェイルを交互に行き来していた。


フェイルは剣をデイブに向かって力の限り投げ飛ばした。


「喰らえ!」


とデイブに聞こえるほどの声を上げながら。


「邪魔すんなよ!」


その声で迫る剣に気づいたデイブは体を曲げて避けた。そして、その剣はカイ・ジエンの元へと渡った。


「ナイスだ」


防戦一方だったが、これで勝負は分からなくなった。互いに一撃を食らわせて、受けて、反撃して。魔力は関係ない、単純な技量での勝負だ。


その隙にマカグレンはデイブの背後に近づいた。


「ムンっ!」


手のひらを鎧に当てると、パン!という音と共にデイブの鎧が飛び散った。


「恨むんじゃねぇぞ」


カイ・ジエンの斬撃がデイブの頭上から入った。血が噴き上げ、二手に分たれた胴体はパタリと倒れる。


「うへぇ、容赦ないねぇ」


マカグレンはしかめっつらをした。


「あぁ?正当防衛だよ」


強敵を協力して倒し、その場から退散しようとした。しかし、フェイルは気づいた。すぐ後ろで何かが地を這っている。

振り向くと、ガナーがミノの間近に迫っていた。先ほどの水に当たり、意識を取り戻したのだろう。戦闘をする程の余力は無さそうだが、ガナーの両手には大きな岩石があった。


「デイブ殺したんだぁ!ふ、ふふ、お前らも1人失わなきゃ不公平だよなぁ!!」


気を失ったミノの顔面に、あんな大岩をぶつけられれば即死だろう。

迷っている暇はなかった。フェイルは残る力を振り絞り、剣を抜いた。


「あ、、あ、あれ」


ガナーの視界は横にずれていった。いや、胴体ごとずれている。フェイルの一撃によって、腹部を境にガナーは真っ二つにされていた。


「こ、の、人殺しがあ」


持ち上げられた岩はガナーの上半身と共に地面に落ち、下半身も遅れて倒れた。


「...」


フェイルは無言で剣を空振りし、剣に向いた血液を飛ばし、鞘に収めた。


「フェ、フェイル...」


マカグレンは声をかけようとした。


「...いきましょう、みなさん」


返答したフェイルの目と声は一切の感情なく、驚くほど澄み切っていた。

だがその直後、限界を迎えたフェイルは力無くその場に倒れ込んでしまった。


「フェイル!」


この戦いでの傷に出血、そして張り詰めた緊張の中での戦闘。フェイルが倒れるのは必然だった。


「...急ごうか」


マカグレンはフェイルを背中に背負い、アカリを両手でお姫様抱っこした。

そしてカイ・ジエンがミノを背負い、そのまま洞窟を出た。


外に出ると、先ほど倒して拘束した兵士たちがいるだけで、造園が来た様子はなかった。


「俺たちはこのまま近くの村に行って、この子達の治療してから立ち去るけど、あなた達はどうするの〜?」


「国から殺されかけた身だし、王国の兵士様を殺しちまった。立派なお尋ね者だ。もうこの国にはいられねぇよな」


「それなら、途中まで一緒に行こうよ〜。ミノ君も治療してもらわなきゃ、でしょ?」


「...あぁ。じゃあ甘えさせて貰うぜ」


荷馬車に乗り、迎えの御者が待つ村へと急いで向かった。

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