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第8話 宝石のありか


翌日、アカリは再び城に潜り込むこととなった。宝石の場所として1番怪しい、女王の部屋。その近くへと位置付いた。適当に掃除をする振りをしておく。


「た、たいへんです!」


一通の手紙を持った兵士の1人が、慌てた様子で女王の部屋まで走って行った。


「どうした」


部屋を警備する兵士が事情を聞く。


「今から2時間以内に、ほ、宝石を盗むという予告状が...」


「なんだって!?」


手紙には、『今から2時間以内に城内の価値が高い宝石を盗む』と記載があった。


手紙を確認し、少し考えると、兵士は指示を出した。


「お前は金庫周りの警備を強めろと全体に連絡しろ!俺は女王様に話をする」


「は、はい!」


この手紙の差出人は、もちろんフェイル達だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

時は昨晩に遡る。


「ちなみに、城内にアカリの動きを見切れそうな兵士はいた?」


「居ないわね。国王の城にしてはレベルが低いわ」


「この国、基本的には宝石が1番偉くて、2番目に国王って感じだからねぇ。それにしてもレベルが低いってのは変な話だけど〜」


フェイルは頷きながら、作戦を話し出した。


「宝石を盗むという予告状を出しましょう」


「はあ?予告状?大きな騒ぎにしたくないって言ったわよね?」


「大丈夫です。予告状を出すだけなら、城内の警備を強めるだけだと思います。それに城内だけの騒ぎで終わるはずです。セレモニーが近いのに、盗まれるかもしれませんなんて情報が広まれば、台無しになる。そうはさせないはずです。それに、ただのイタズラの可能性も考えるでしょう」


「じゃあ、それで予告状出してどうするのよ?」


「まず、アカリには城に潜入しておいてもらいます。もし女王の部屋に宝石があるなら、騒ぎが起きればより安全な場所へと移すはずです。」


なるほど、とマカグレンがポンと手を叩く。


「場所を移すところさえ見ておけば、まず宝石のありかは明確になるって事だね?」


「はい。恐らく、城中の大事な宝石達は一箇所に集められ強固な警備によって守られるようになるはずです」


「場所が分かっても、そこから盗めなきゃ意味がないじゃない。警備が硬かったら、力技でやろうにも身バレリスクがあがるわよ」


「そこで、2時間以内に盗むというゴールを作ります。警戒はされるでしょうが、時間が過ぎても盗まれる気配が無ければ多少は警備が和らぐはずです。そこに付け入る隙が出来るはず」


「そのまま警備が硬い可能性もあるけど、それは考えたのかしら」


「その時はまた別の作戦があります」


マカグレンは腕を組み、少し考えたあと口を開いた。


「よし、じゃあその作戦やってみようか〜」


「ちょ、ちょっと!こんな推測だらけの作戦やっても失敗する可能性高いですよ!」


アカリは慌ててマカグレンを止める。


「そうだね。けど、セレモニー中に盗むのは現実的じゃないし、宝石のありかも分かってない。可能性が無いまま待つより、何かアクションを起こして少しでも可能性がある方に賭けてみようよ」


「はぁ、もうどうなっても知りませんよ」


こうして、フェイル考案の予告状作戦が幕を開けたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


兵士は女王部屋をノックし中へ入って行った。

数分経つと、兵士が部屋から飛び出し、6人ほどの兵士を連れて戻ってきた。


「...恐らく、宝石を運ぶための人員ね」


そして、1人の兵士を囲むようにして部屋から出てきた。中央にいる1人の兵士の手には、頑丈なケースがあった。うっすら透明で、中には沢山の宝石類が入っているようだった。


アカリは魔力を目に込めて、中の宝石を確かめる。


「あ!あったわ。やっぱり女王の部屋にあったのね」


「おいそこの使用人!我々が通りすぎるまで手を挙げて後ろを向け!」


兵士に言われるがまま、アカリは壁側を向き手を上げた。


「はあ、顔さえ隠れてたら、今この瞬間に奪えるんだけど」


アカリは城に使用人として侵入するため、顔を隠していない。戦闘になれば、顔を見られ、覚えられ、広められることは必至だ。


兵士たちが通り過ぎた後、アカリは耳に魔力を集中させて聴力を上げた。少し遠くで慌ただしい足音がドタドタと聞こえる。


「よし、あっちね」


アカリは兵士達の後を追った。


だが、その途中、警備の兵士に止められてしまった。


「そこの使用人、ちょっと待て」


「うわ、まずったかしら」


アカリはいたいけな少女のフリをして、兵士に返答する。


「は、はい。何かありましたでしょうか」


「今、城では少し騒ぎが起きている。兵士以外、つまり使用人は下の大広間で待機するようになっている。聞いていなかったのか?」


「そうなんですか!すみません、私は女王の部屋の近くを掃除していたのですが、その場で動くなと言われそのまま放置されまして、どうしたらよいか分からず歩いてきてしまったんです」


「む、そうか。それは酷い。とにかく、大広間に向かいなさい」


「わかりました!」


アカリはすぐ近くにあった階段を使い、下に降りていく。


「あー、まずいわね。足音的にはこのまま2階をまっすぐ進まないといけないのに。仕方ない。精度は落ちるけどプランBね」


階段を降り、兵士の視線も無くなったので、近くの物陰に隠れる。そして、更に耳を集中させる。


「音で大体の場所を把握するしかないわね」


騒がしい足音がそのまま2階を歩き続けていたが、更に他の場所からも足音が集まってきてしまい、目当ての宝石を持った兵士の足音を判別できなくなってしまった。


「うーん、階段は使ってないだろうから、2階ってのは確定ね」


どうやら、足音は一箇所に集まっているようだ。

さらに、ギィィという重厚な扉が開くような音が聞こえた。


「ん、これ、金庫の扉じゃないかしら。場所的にも2階には大掛かりな金庫があったはず。まあそうよね。元々厳重な管理下にある金庫に、他の部屋にある宝石を集める。そしてそこだけを厳重に見張る。これが安全よね」


そして、その場からバタバタと足音が散って行った。


「人が離れて行った...?けど、足数で言えば恐らく半数は残っている。恐らく、50人ほどは居ただろうから、25人か。近くに行くのはリスクがあるわね。さっきの兵士の目もあるし」


アカリは一度魔力の集中を解いた。あまり長時間やると、体の感覚が戻らなくなったり、集中させた部位が壊死する可能性がある。


「ふぅ、やっぱ疲れるわね」


場所はある程度特定できたが、ここからが問題だ。金庫からどう盗み出すか。もちろん、今のままだと警備人数が多過ぎて盗むのは不可能。だから、2時間後まで待ち、どの様な警備体制になるか確認する必要がある。


「やっぱりこうなるじゃない。隊長は何を考えてこの作戦を実行したんだか」


そこから1時間、アカリは一階の衣装部屋に潜伏し続けた。恐らくほとんどの者は大広間に集められているようで、廊下には兵士以外居ない様だった。


およそ10分おきに聴覚による確認をおこなっていたが、特に変わりはなく、20名ほどの警備が居るだけだった。だが、去って行った他の兵士たちがどこに行ったのかが分からない。


「時間が経っても変化なし、か。まあ1時間じゃ変わらないか。もう少し待つか、一度隊長達と合流するか...。けど外の警備もいつもより警戒してるはずよね。一度出てまた戻ってくるのもリスクだわ」


すると、ヒヒィィィンという馬の鳴き声が、耳に響いた。


「うっっ!うるさいわね。馬?なんでこのタイミングで」


どうやら、城外に馬車が数台到着したらしい。城内に人が入ってきて、ドタドタと激しい足音が響き渡る。


「たぶんさっき散って行った兵士たちね。馬車を用意してきたのかしら」


すると、ギィィと重苦しい扉の開く音が聞こえた。


「え、これって金庫の扉?」


明らかに、何かを運び出す音が鳴る。


「別の場所に運び出すつもり?城の外へ?」


アカリは窓から外を見る。馬車は近くにはない。ここは場所的に城の裏側なので、馬車は正門に止まっているはずだ。


「これは馬車を追った方がよさそうね」


周囲に人が居ないことを確認し、窓を開けて外へ飛び出す。幸い、城の外は草木が多く、庭園の様になっているので身を隠す場所には困らない。


木の影に隠れながら、ギリギリ馬車が見える位置まで進んだ。やはり、荷運びの準備をしている。城から出てきた兵士によって、大きな布に包まれた正方形の荷物が馬車へと積まれた。


「うーん、中身は見えないけど、音的に宝石類で間違いないかな。一旦、隊長達と合流ね」


アカリはそのまま裏側の壁をよじ登り、正門近くで待つマカグレン達のもとへ向かった。



「うーん、もう3時間以上は経ってるけど...アカリちゃんは大丈夫かなぁ」


フェイル達は城の正門近くにある、建物の屋上に居た。体は屋根と同色の布で覆い、簡単には見つからない様にしている。


「城の中で、馬車が移動してますね。何か関係あるんでしょうか」


フェイルは望遠鏡を使い、城内外を観察している。もっとも、今いる建物は城全体を見渡せるほどの高所では無いので、正門付近しか観察ができないが。


「んーどうだろう。予告状出してから、城は全部カーテン閉められちゃったからねぇ。中の様子は全く分からないし...。馬車がいること自体は特に怪しいものではないと思うけど」


マカグレンは望遠鏡は使わず、魔力で目を強化して城内を見ていた。


フェイル達が話していると、城の外門を回ってきたアカリがこちらに走ってきた。


「あ!アカリちゃんだ。無事だったんだねぇ」


アカリは建物の前から助走をつけて飛び、屋根へと着地した。


「そういうのは後です!今から宝石が馬車で運び出されます!追いかけましょう!」


「わかったよ〜!とりあえず、ハイ水飲んで一息付いて」


マカグレンがフェイルに目配りする。フェイルはカバンから水筒を取り出す。


「ん、ありがと」


アカリはゴクゴクと勢いよく水を飲む。フェイルはそれをじっと眺めていた。


「なによ!見てんじゃないわよ気持ち悪いわね!」


「大丈夫か?顔色悪いぞ」


「はあ?全然普通ですけど!」


アカリはそっぽ向いてしまった。だが、アカリの顔は明らかに青白かった。


「おっと、正門から馬車が出てくるよ!...俺が跡をつけるから、アカリはちょっと休んでからフェイルと一緒に宿で待機しておいて〜」


「なっ、私も行きます!というか、残るのはフェイルだけでいいでしょ。追跡能力的にも、足の速さ的にも遅れるのはコイツだし」


「アカリ、これは命令だ」


その言葉を放った時のマカグレンは、いつものゆったりした口調ではなく、芯の込められた話し方だった。


「...分かりました。後はお願いします」


マカグレンは地上へと降り、走りながら馬車を追って行った。


「何かあったのか?」


「何もないわよ!ただ、ちょっと身体強化を使い過ぎただけ。アンタはまだ出来ないだろうけど、気をつけなさいよ」


アカリとフェイルは10分ほど休んでから、宿屋へと向かった。


「はあ、私は自室で休んどくわ。隊長戻ってきたら呼んで」


アカリはバタン!と強く扉を閉め自室へと入って行った。


「身体強化か...」


フェイルが小さい頃、座学で教わったことがある。魔力の扱い方を極めると、五感の強化や身体能力の向上ができる場合があると。


そもそも魔力自体、使える人の方が少ない。使えたとしても、大半は五感のうち一つをほんの少し良くしたりする程度だ。マカグレンの様な数十メートルも離れた場所を見ることは、神技と呼べるだろう。


「そもそも、魔力ってなんなんだよ」


魔力は人間に備わっている力だ、ということは世の通例だ。だが、それを扱う方法については何も確立されていない。


「さっきアカリは『気をつけなさい』って、俺も使う時が来るかのような言い方をしてたけど」


だがフェイル自身も、自分が魔力を扱えるのかどうか、やり方も分からなければ、兆しすら見えていない。恐らく限られた特別な人間にのみ開花する才能なのだろう。


部屋で魔力について考えていると、マカグレンが帰ってきた。


「お、帰ってきてるねぇ。アカリちゃんは?」


「部屋で休んでます」


「そっか。もう少し休ませてあげようか」


「宝石はどうなったんですか?」


「ああ、荷馬車を追って行ったら、ある宝石商人の店に行き着いてね。そこの店の中に運び込まれて行ったよ」


「城から移すくらいなんだから、よほど強固な警備体制がある店なんでしょうか」


「うーん、店自体は小さくて、外観も民家のような感じだったから、そういう風には見えないんだけど...」


マカグレンは一枚の紙を取り出した。


「これは?」


「その宝石店のチラシ」


そのチラシには、『ジエン宝石店 販売のみ 買取不可』と書かれていた。


「どうやら、店主がかなりの腕利きみたいでね。宝石を採取するときって、普通は魔物に襲われる危険もあるから騎士を雇って、採掘チームを組むんだよ。けどこの店主は全部1人でやってるみたい。俺自身、聞いたこともないよ〜そんな人は」


「城の宝石を運ぶくらいだからよっぽど信頼されてるんでしょうね」


「うん。一旦この近くでジエン宝石店について聞き込みしてみようか。終わる頃にはアカリちゃんも起きてるでしょ〜」


宿屋の近辺で、二手に分かれて聞き込みをした。そこで分かったことは

・他人とほとんどコミュニケーションを取らない

・1人で切り盛りしていて、商店街からは外れた平地に一軒だけポツンと建物がある。

・一度も盗難に遭ったことがなく、盗もうとした輩は全員気絶させて兵士に引き渡されている

・ここ数年で出来た店だが、宝石の品質は最高級で国王にも気に入られている

と、めぼしい情報はこの辺りだ。


宿に戻り、アカリも起きてきた所で作戦会議をすることにした。


「じゃあ、その店から盗むだけってことね。城から盗むより簡単じゃない」


「なかなかの腕利きみたいだよ?」


「相手は1人だけですよね?フェイルはともかく、私と隊長さえいれば問題ないはずです」


「まあ、もう時間も無いからねぇ。兵士たちも引き払ってたから援軍の心配も無いだろうし、強硬手段しかないかぁ」


マカグレンは残念そうな顔をした。本当なら力技ではなく、誰も怪我する事の無い様に流れる様に盗み、流れる様に去りたいのだろう。


「じゃあ夜中に決行だね。寝静まった頃にでも行こう」



「...ちなみに、今回の作戦、もし宝石がジエン宝石店に運ばれてなかったら、どうやって盗むつもりだったの?」


アカリはフェイルに疑問をぶつける。


「盗みやすい、盗みにくいパターンはあったと思うけど。今回の1番嫌なパターンなら、警備の多さはどうしようもないから、金庫を開けさせて隙を作って盗む、かな。少し手荒だけど」


「うんうん、具体的には〜?」


マカグレンはまるで生徒の思考力を試す教師かの様にニヤニヤしながら聞いてくる。


「例えば、『宝石は頂いた』って手紙をだせば、実際に盗まれてないか金庫の中を確認せざるを得なくなります。その隙を狙って、煙幕でも炊いて場を混乱させます。その隙に、開いた金庫の中に入って宝石を盗んできてもらうって感じです」


「それ、もしかしてワタシが盗んでくる予定だったの?」


「うん。アカリのスピードなら問題なくいけるはず。仮に盗むのが間に合わずに金庫内に閉じ込められたとしても、中に入ってる事さえバレなければいい。城中の宝石が集められてるなら、半日後にはセレモニーで宝石を使うために金庫を開けるはずです。そこで脱出すればいい」


「...結構考えてたのね。けどワタシがこき使われてるのが気に食わないわ。長期間閉じ込められるのも嫌なんだけど」


「まあまあ、アカリちゃんを大変信用してるってことだよ!ね、フェイル」


「はい。けど結果的に盗めそうな形で収まって良かったです」


そして3人で雑談をしながら、夜を待った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜中になると3人はジエン宝石店へと向かった。顔をマスク、バンダナで覆っており素顔はほとんど見えない。

繁華街を外れ、徒歩で確実に近づいていく。


「見えてきたねぇ。あそこだよ」


一見すると、築50年は経っていそうな木造のボロ屋だ。大きさは多少あるが、壁などの外装は塗装ハゲが目立つ。


「本当にこんな所に宝石が?」


アカリは宝石店とは思えぬ外観を見て、信じられないようだ。


「俺も最初はびっくりしたよ〜。けど、世間からの評判は本物だよ。見た目で判断しちゃいけないってことだよね〜」


足音を立てずに宝石店に近づき、およそ距離は100メートル程だろうか。宝石店の扉がガラガラ!と勢いよく開いた。


「残念だったなてめぇら。今日はいつもより特別警戒してた日なんだ。不審者が近づいている事なんてすぐ分かったぜ。もっとも、普段だろうが盗めやしないがな」


髪はツンツンととんがっていて、人相の悪い顔をした男が出てきた。とがった八重歯を見せニヤつきながら話している。仁王立ちしていて、武器は持っていなさそうだ。


「あらら、争わずに頂くことはできなさそうね」


「悪いけど、宝石は盗ませてもらうよ〜」


マカグレンとアカリが戦闘体勢に入る。


「はっ!やれるもんならやってみやがれ!」


カイ・ジエンからビリビリと痺れるようなオーラが発せられる。


「手加減はいらなさそうだね〜」


フェイルからすると、アカリ達にカイ・ジエン。3体の恐竜が睨み合い、自分が蟻になったような感覚になる。


まずはアカリが戦いの火蓋をきった。

目にも止まらぬスピードで走り、カイ・ジエンに向けて蹴りを放つ。カイ・ジエンは右腕で蹴りを受け止める。


「ぐっ、なかなかいい蹴りしてやがるぜ!」


同じく、動きの止まったアカリに蹴りを喰らわせた。


「きゃあ!」


アカリは両腕でガードしたが耐えきれず吹き飛んだ。


「これで終わりだね」


「なにっ!」


カイ・ジエンが後ろに振り向くと、真後ろにマカグレンの姿があった。背中に両手を当てられている。


ドン!という衝撃音とともに、マカグレンの両手の平から衝撃波がカイ・ジエンに送られた。

しかし、体勢を崩すことはなく、手応えがほとんど感じられなかった。


「あ、あれ〜?あんまり効いてない?」


カイ・ジエンはニヤつきながら、マカグレンの両腕を掴んだ。


「いい攻撃だったぜぇ!」


カイ・ジエンは力一杯の頭突きを喰らわせた。

マカグレンはたまらず地面に仰向けに倒れる。


「え、マカグレン隊長、アカリ?」


フェイルは目の前の光景を信じることが出来なかった。自身が身をもって知るアカリの強さ。戦闘を見たことはないがアカリより立場が上のマカグレン。2人はフェイルにとって『絶対的な強者』という立ち位置だった。だがその2人が1人の宝石商人の前に蹂躙されている。


「お前もさっさとかかってこい!」


カイ・ジエンが手を招く。


フェイルは剣を抜き、構えをとった。


「おぉ、良い剣もってんじゃねぇか!」


スピード重視で剣を振るう。しかし、カイ・ジエンはことごとく避ける。


「くそ、当たる気がしない」


「はっはっは!どうしたどうした!」


フェイルは力を込め、全力の一振りを放った。


「バカか?そんな事したら隙だらけだぞ!」


フェイルの振りは空振り、カイ・ジエンの蹴りが浴びせられようとした時だった。

カイ・ジエンの後ろから、縄が回され、体を縛った。


「ナイス陽動だよ」


マカグレンは倒れたフリをし、相手を拘束する機会を伺っていたのだ。

フェイルはそれに気づき、わざと大袈裟に剣を振り回したのだ。


「...」


急にカイ・ジエンは大人しくなった。

すると、バチッ!という音とともに、縄が弾け飛んだ。


「これでハッキリしたね〜。カイ・ジエンは体に電撃を纏っている」


カイ・ジエンが威圧した時、ピリッとしたのはただの感覚ではなく、本当に電気が走っていたのだ。


「あ〜、休戦だ。お前ら結構つええし、このまま戦うのもめんどくせぇ。何者だよ、お前ら」


カイ・ジエンは臨戦体勢を解いたように見える。それを見て、フェイル達も警戒を弱める。

アカリも近くまで歩いてきた。


「私たちはただの盗賊。欲しいのは女王が持っていた「ある赤い宝石」。ここに運ばれたのは分かってる。それだけ貰えたら、ここから身を引くわ。」


「あ?あー、あったな。一際輝いてる赤い宝石が」


「実はあれは元々他の人が持っていた物なんだよ〜。女王にそれを奪われたみたいでさ、取り戻してあげようとしてるの」


「わかった。いいぜ」


「そ、そんなあっさりと」


フェイルは驚いた。いくら事情を話したとはいえ初対面で盗賊の言葉だ。信用するわけがない。ここで承諾することは何かの罠であるとしか思えなかった。


「お前らの事を信用してるわけじゃねぇよ?だが、ここまでの強さを持ってて、欲しいのが赤い宝石だけ。ただの宝石強盗じゃねぇってのは分かった」


「じゃあ、宝石をくれるのか?」


「あぁ。俺は国王やら女王やらが嫌いだからな。商売する上、仕方なく関わってるだけなのさ。アイツらの宝石なんざ触りたくもねぇぐらいだぜ」


「本当かい、助かるよ〜」


「ただし!この場で、とはいかねぇ。俺にもメンツってもんがあるからな。明日の正午前、セレモニー前に宝石を城に移動させる。その時、荷馬車を襲撃しろ」


「なぜ、そのタイミングなの?」


「簡単な話さ。その時は俺だけじゃなく、城の兵士や女王も自ら馬車に乗ってる。俺はそいつらをお守りするので手一杯で、宝石までは守れなくなり、仕方なくお前らに宝石を盗まれるって算段さ。その時なら盗まれても俺だけの責任にはならねぇ」


「あまり騒ぎは起こしたくないんだけど、あなたが協力者で居てくれるなら怪我人もほとんど出ず、宝石を頂くことが出来るかもね〜」


「ちょっと待ってろ」


カイ・ジエンは店に戻ると、一つの宝石を持ってきた。


「ほらよ、これを渡しておく。明日、赤い宝石と交換で返してくれや」


宝石が投げ渡され、フェイルがキャッチした。


「これは?」


「ちょ、ちょっと〜!!か、返してくださいよカイさん」


店の中から、15歳くらいだろうか。青少年が出てきた。


アカリが怪訝そうな顔をする


「彼は?」


「あ〜、こいつは俺の弟子のミノさ。その宝石はこいつの大事なモノだ。まあ今回の作戦にあたって、信用の証にしてくれや」


勝手に大切な物を奪われ、見知らぬ盗賊に渡される彼は不憫でならない。


「...分かったわ。フェイル、大事に持っておきなさい」


強い人が持っていた方が良いのでは、と思ったがフェイルは素直に従った。


「城の中まで行くと兵士多くなるから、襲撃するのは道中でいいかな?」


「あぁ。それでいいぜ。やる時は、煙幕でも張ってくれや。そうすれば近くの兵士は俺が寝かしつけといてやるよ」


「了解したよ〜!じゃあ俺たちは明日に向けて帰ろうか」


マカグレンは撤収の指示を出し、フェイルとアカリもその場から立ち去った。その後、宿屋へと戻ってきた。


「ねぇ隊長。本当に信用するんですか?前情報じゃ、あいつ1人で店やってるんですよね?なのに、弟子みたいなやつ居ましたし、なんか怪しいですよ」


アカリは自分のケガの手当てをしながら話している。


「まあね〜。でもあれだけ威勢のいい人だ、街の人は怖がって近寄らないだろうね。そのせいで店の情報が出回らず、噂ばかりがついて回っている可能性はあるかな」


「あの店主が強盗達を撃退しているってのは本当っぽいですね。隊長達でも勝てないなんて、相当強いですよ」


すると、アカリが眉間にシワを寄せ、フェイルに突っかかってきた。


「ちょっと!確かにあいつは強いけど、私が万全なら余裕で勝てるわよ!それに隊長だって、本気じゃなかったでしょ!」


「はは、今回の目的は盗むことであって、戦って勝つ事じゃないからね。まあ、向こうも底は見せてないし一筋縄では行かないだろうけどね〜」


確かに、頭突きを喰らったりしてた隊長にはダメージは見られなかった。それどころか、頭に傷もない。まともに喰らって傷がないことなんてあるのだろうか


「すみません、一つ気になったんですが...」


「ん、何かなフェイル」


「彼、電撃を身に纏ってましたよね?魔力でやっているのは分かりますが、そんなこと可能なんですか?」


以前、アランが覚醒した時は異様な治癒力を見せ、フェイルの体内の毒を除去した。それは、身体強化の延長線上にあるのだろうとまだ理解できた。だが、カイ・ジエンは違う。電撃など、人の力からかけ離れすぎている


「実はね、ごく稀に居るんだよ。そういう特殊能力使いって人。俺も片手で数えるほどしか見たことがない。基本そういう人って、その国で要人警護として雇われてたりとかするんだけど、彼はそういう訳ではないみたいだね」


世界に数えるほどしかいない特別な人間、それと渡り合える彼女らも、また特別な人間なのだろう。


「で、彼を信用するかといえば、完全にはしないかな〜。お互い素性を知らないさ。証として宝石を貰ったにしても、それすら罠って可能性もあるし」


「ん〜、変な感じはしないわね。至って普通の宝石って感じ」


「あとは襲撃についてだけど、馬車を止めた後、煙幕を使って視界を塞ぐ。兵士たちは外へ出てくるだろうから、中にいるであろうカイ・ジエンと宝石を交換し、素早く立ち去る。これが現状の作戦かな」


「彼が裏切った場合は?」


「その場合は少し手荒になっても、その場で宝石を盗む」


「兵士たちと交戦するんですか」


フェイルが聞くと、マカグレンは真剣な表情をして両肩を掴んだ。


「フェイル、俺たちは『なるべく穏便に済ませたい』だけで、不測の事態に陥れば何でもやるよ」


その時のマカグレンの表情は少し怖かった。


「な〜んて!考えすぎさ!実力差があれば、それだけ穏便な手段を取りやすい、そのために俺たちは力をつけてるんだからね〜」


相手との実力差がかけ離れていれば、優位に立ち、選択肢も広がることだろう。


「カイ・ジエンとの宝石交換はフェイルがやりなさいよ。あんたがその宝石受け取ったんだから」


「お、俺?もしカイ・ジエンが裏切ってたら、俺じゃ対処できないぞ」


「そうなった時は、俺たちが代わるよ。1番実力の無いものが交換の場に来ることは、信頼の証にもなるからね。彼もおそらくそれを踏まえてフェイルに宝石を渡したんだと思うよ〜」


「そ、そうですか。わかりました」


作戦会議を終え、3人は就寝し作戦の時を待った。

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