第三話 入団と修行
レノンに連れられ、洞窟の中を歩いた。
道中、いくつもの部屋の扉があったが、人は誰1人居なかった。
しばらくすると、大きな2枚扉の前で立ち止まった。
「ここだ。この部屋にウチの全団員を集めてある。今から入団式するから。まあ紹介の場だと思ってもらえればいい」
扉を開けると、中は大広間になっており、ざっと100人ほどの団員が集まっていた。軍隊のような整列はしておらず、座っている者、立っている者、本を読んでいる者、トレーニングをしている者。各々が好きな事をして主役の登場を待っていた。
「おーいお前ら、こっち向け」
団員たちがこちらに注目する
「えー、新入りのフェイル君だ。みんなよろしく」
レノンが肩を叩きながら、大声で話す。
すると、全員から拍手が送られる。よろしくな、と声も聞こえてきた。
「こいつは第三部隊に入れる。いいな、マカグレン」
そういうと、団員の中から、無精髭を生やした細身の男が返事をした。
「はいはい〜」
あぐらをかいて座っており、気だるげに返事をした。
「そんじゃ、解散!」
フェイルの入団式は、1分程度で終わった。
解散の言葉を機に、団員たちはゾロゾロと部屋を後にした。部屋に残ったのは数名だった。
「じゃあ俺は用事あるから、後はあいつに教えてもらって。あ、お前の部屋はさっき拘束してた場所ね。基本はあそこで寝泊まりして」
そういうとレノンは扉に向かって歩き、通りすがりにマカグレンの肩を叩いてから部屋を後にした。
「お〜い。突っ立ってないでこっちきて〜」
マカグレンがフェイルを呼ぶ。
そばに行くと、マカグレンはゆっくりと立ち上がる。意外にも長身で、見上げなければ顔が見えない程であった。
「俺はマカグレン。よろしくねぇ〜」
脅されているとはいえど、入団した身であり、この人は上司にあたる人なので敬った言葉遣いの方がいいだろうか。
「...フェイルです。よろしくお願いします」
「そんな畏まらなくていいのに。団長からざっくりと事情は聞いてるけど、質問とかある?」
「結局、俺はどうして誘拐されたんですか?俺を入団させる意味は?」
「王族の身だった人が仲間に居た方が活動が捗るけど、誘拐っていっても簡単じゃないし、味方につけるのも難しい。困っていたその時、引きこもりの王子がいて、王位継承権も放棄したやつがいるって情報を入手して、狙うならこいつしかいない!ってなったらしいね。詳しくは聞いてないけど〜」
「...そんな理由で」
「誘拐されちゃったもんは仕方ないし、ここで生きていくしかないんじゃない。悪いようにはしないから、安心してよ」
「ちょっと、マカグレン隊長。こいつウチの部隊なんですか!?」
少し機嫌の悪い様子で近づいてきたのは、フェイルのことを誘拐した女性、アカリだ。
「うん。歳も同じくらいだし、仲良くやってよ〜。あ、彼女はアカリちゃん。この隊は俺と彼女の2人なんだ〜」
「足手まといになられたら困るんですけど!私コイツと戦いましたけど、ハッキリ言ってレベルが違います!」
アカリは必死の形相で抗議している
「まあまあ、これは団長の決定だから覆ることはないよ」
「はあ。分かりました。ねぇアンタ、本格的に任務始めるまでに、強くなっときなさいよ」
そう言ってカツカツと足音を立てながら、あかりは部屋を出ていった。
「彼女、気は強いけど本当に優しい子なんだよ〜。あまり嫌わないであげてね〜」
「...別になんとも思ってないですよ」
小言程度、過去に何度も言われてきた。それ以上だって。フェイルは本当に何も感じていなかった。
「まあでも、強くなってほしいっていうのは俺も同じかな。流石に彼女は強すぎるから、そのレベルまではいかなくてもいいけど」
確かに、彼女には手も足も出なかった。体を鍛え直して、過去で1番動けていた時の状態に戻しても、彼女のレベルには到底届かないだろう。
「3人で任務をするのは1ヶ月後にするよ。それまでは、少し特訓していて貰おうかな。近くに訓練に最適な村があってね。そこに行ってもらうよ」
「わかりました」
役に立つことが出来ずに見限られれば、城の使用人や執事の身が危ないかもしれない。フェイルは指示に従い、ここで生きていくしかないのだ。
「じゃあ、さっそくだけど行こうか。案内するよ」
フェイルとマカグレンはアジトを出た。
外に出ると、月明かりが出ていて、すっかり夜更けになっていた。
辺りは自然でいっぱいで、森の中の様であった。人間はここまで深い森には入ってこないだろうし、そう簡単にこのアジトは見つからないだろう。
「あちゃ〜だいぶ暗くなっちゃったね。けど、辺りの魔物が寝てる分、危険は少ないかな」
この世界には魔物が多く生息している。人間に害を成すもの、利益をもたらすもの。種類は様々だ。
「この森は危険度4の魔物が住んでてね〜。たまに魔物同士の戦闘に巻き込まれたりするんだよ」
「き、危険度4?」
危険度とは、魔物に対する対応を取り決めたものであり、1〜5段階まである。
危険度4 は大変危険であり、集落や国の近くに現れた場合は駆除しなければならないレベルだ。
危険度2までは一般の大人であれば駆除可能。3以降は兵士など訓練された者でなければ対応不可能というレベルだ。
「普段はこちらが何かしない限り、相手も何もしてこないから過敏になる必要はないんだけどね」
マカグレンはズカズカと歩き、寝ている魔物の横を平気で素通りする。
「結構距離あるから、どんどん進まないと。ほら行くよ〜」
フェイルは慌てて、小走りで進む。
森を抜け、しばらく歩いた。
日が上りはじめたころ、先の方に岩の地帯が見えてきた。
「ここだよ。ここは修行僧の集まる里でね。主に戦闘訓練をしているんだ」
道着を着た修行僧が四方八方に散らばり、皆訓練をしていた。組み手をしていたり、かたや体づくりをしていた。
「じゃあ、里長に会いに行こうか」
連れられて着いたのは、小さなテントのようなものの前だった。テントの幕をあげ、中に入る。
「ごめんくださ〜い。お、居ましたか。トヲルさん」
トヲルと呼ばれたお爺さんは顔にはシミやシワがあり、白い髭と長い白髪を後ろで結んだスタイルが特徴的だ。
「ん?おぉ、マー坊。久しいな。そっちは?」
マカグレンとは古くからの知り合いの様で、あだ名で呼んでいることから、親しい間柄であることが伺えた。
「うちの新入り。フェイルっていうんだ。今日から1ヶ月くらい、ここで修行してもらおうと思って」
「フェイルです。よろしくお願いします」
「また急なもんだな。まあいつもの事かの」
「それじゃ、また迎えに来るから。がんばってねぇ〜」
そういうとマカグレンはそそくさと出ていった。
「こんな賊に入るとはお主も難儀な道を歩んでおるのお。どれ、いまの実力を見てやろう。表に出なさい」
トヲルはおぼつかない足取りで表に出ると、構えをとった。
「とりあえず、素手でワシに一撃入れてみなさい」
先ほどまでの弱々しい印象とは真逆に、熟練の闘士としての気迫が感じられた。スキも見受けられない。
「一撃、なんて難しいこといいますね」
フェイルも攻撃の構えをとる。
「ほう、お主まったくの素人ではないな」
フェイルは王国にいた際、戦闘訓練の一環で近接戦闘の訓練もしていた。だからこそ、相手との格の違いが分かるのだ。
「ほれ、遠慮せずかかってきなさい」
フェイルは足に力を入れ、出せる限りの初速でトヲルに近づいた。
師の教えいわく、格の違う相手に一対一で勝つには一つだけ方法がある。初見の1手で決めることだと。その教えに則り、初手に全てを賭ける。
右の拳をトヲルに向かって繰り出す。だが、拳はいとも簡単にトヲルの手の平で止められ、そのまま足掛けで転ばされた。
「ふむ、初手にて決め切ろうとするのは悪くないの。じゃが、それをやるなら1%でも相手に効く可能性がある技じゃないとダメじゃな」
国で訓練をしていた時は、自分はそれなりの強さを持っていると思っていたし、周りと比べても自分の実力の方が高かった。だが、盗賊団のアカリを始め、こうも格の違う相手ばかりと対面しては、自分がいかに惨めで、狭い世界に閉じこもっていたのかが分かる。
「とりあえず、体づくりからじゃな。筋肉量が少なすぎる。技術はある程度ある様じゃから、後回しにしよう」
それから、他の修行僧と混ざり、修行が始まった。
まずは近くにある池の周りで走り込みをする事になった。池の大きさは1キロほどあるだろうか。3週すると言っていた。
10人ほどの修行僧が隊を作っており、フェイルは後ろに並んだ。
「では、はじめぃ」
トヲルの合図によって、全員が一斉に走り出した。
フェイルも全力で走るが、前との差はどんどんと開いていった。
「ほれほれ、遅れておるぞ」
トヲルは余裕の足取りで、フェイルの横を走る
「はぁ、はぁ、わかってますよ!」
彼らが3週を終える頃、フェイルは1週を終えたところであった。
「今日はここまでじゃな」
トヲルによって、フェイルの走り込みは中断された。体からは滝の様に汗が垂れていた。
「ほっほっ。ずいぶん疲れておるの。じゃあ、次は精神統一じゃ」
寺の様な建物に入り、全員で座禅を組む。
雑念があればトヲルに叩かれるらしい。
「ほほう。一見すると精神は安定しているように見えるが...。お主には欲が少ないから、そのせいかのう」
他の僧は叩かれることがあったが、フェイルが叩かれることは一度もなかった。
日も暮れてきた頃、最後に筋力トレーニングを行った。石で出来た重石を使い、各部位を鍛えていく。もちろんフェイルは、1番軽い重石を使った。
修行が終わると、大広間の様な場所に集められ、食事が出てきた。かなりの量があり、吐き気を催しながらも食べすすめた。
「大丈夫ですか?あんまり無理しないで下さいね」
隣の僧が話しかけてきた。彼はアラン。走り込みでも1番早くゴールしていたし、重石も1番重いものでトレーニングしていた。恐らく修行僧の中での1番手といったところだろうか。
「正直吐きそうですけど、トヲルさんに残すなと言われておりますので」
食事の量はすべてトヲルが管理している。
他の僧の食事も量が多く、フェイルは周りと比べれば少ない方だった。
「長も考えてこの量にしているとは思いますが、それでも多いのは変わりないですよね。本当に無理だと思ったら言ってください。残りは私が食べますから」
「ありがとうございます」
食事が終えた後は、床に布団を敷いて全員同じ部屋で雑魚寝をした。
皆が寝静まった頃、フェイルはまだ寝れずにいた。物音を立てないよう、そっと外へ出た。
外のベンチに腰掛け、しばらく月を眺めていた。
「眠れませんか」
アランが、横に座ってきた。
「あぁ、アランさん。起こしてしまいましたか」
「いえ全く。私は夜回りを任されておりまして。夜になるとひっそりと寝室を離れて巡回しているんです」
アランはこの里の中で、トヲルを除けば1番と言ってもいいほどの使いだ。きっと、トヲルからは色々と任されているのだろうと予想できる。
「この里って、なんで盗賊団なんかと関わりがあるんですか?普通、敵対してそうなくらいなのに」
「長、つまりトヲルさんから聞いたんですけど、この里は昔、グリオール盗賊団に助けられたらしいんです。その時から、時々団員の修行をつけているそうですよ」
「へぇ、悪党だらけの、悪事だらけだと思ってましたよ」
「あはは。柄の悪い方が多いのは確かですけどね。けどそんなに悪い方たちじゃないと思いますよ」
アランと少し会話したあと、寝室へと戻った。
それから2週間が経過した。
短期間ではあるが、フェイルの体は確実に仕上がってきており、走り込みにおいては、他の僧と一周差まで追い上げた。それでも最後尾には変わりないのだが。
その日の訓練が終わった頃、トヲルが話しかけてきた。
「かなり良くなってきたのう。実力チェックといくぞい」
外に連れ出され、トヲルは構えをとる。
「ほれほれ、一撃いれるだけでいいんじゃぞ」
フェイルも構えをとる。格の違いは感じるが、前よりも力の差は少なく感じた。
「いきます」
前回と全く同じ形で、トヲルに攻撃を仕掛ける。
「ほっほっ!だいぶスピードが上がったのう」
そのまま右の拳を振り抜く、瞬間に拳を止める
拳を受け止めようとしていたトヲルは虚を突かれ、一瞬動きが止まる
「もらいました」
すかさず、左の拳でトヲルに一撃を入れる。
はずだった。一瞬の隙にかすり傷でも一撃、トヲルに喰らわせるはずだった。しかし、フェイルはまたもや足かけで転ばされ、顔は天を仰いでいた
「なかなか良かったぞ。フェイントはスピードが上がれば上がるほど引っかかりやすいからのう。じゃが、まだまだワシの敵ではないのう」
ニヤニヤとした笑いを浮かべながら、フェイルに近づいてくる。
「はは、まあ手応えは感じましたよ」
2週間前と比べると確実にレベルアップしているという実感が、手の中にあった。
「後少しの間じゃが、そのまま励めよ」
「はい」
軽い返事をしてフェイルは立ち去る。
フェイル姿が見えなくなったころ、木の影からアランが出てきた。
「なかなかいい筋ですね。彼」
「そうだのう。じゃが、問題はここからじゃ。あやつには当初雑念がほとんど無かった。生きる気力が少なかったからのう。だから物覚えが早く、攻撃も透き通っておった」
「今の彼は自分の力を実感している。そのせいで、いやお陰と言うべきか。彼の中の『欲』が姿を現してきている、と。」
「うむ。欲は雑念を生み、成長を阻害する。無さすぎる事も問題じゃが」
「生きる気力が出てきてくれたなら、それは喜ばしい事ですよ。死んだら、修行もクソもないんですから」
「まあのう。というかお主、今日晩ご飯の当番じゃったやろ」
「あ!忘れてました!では長、お先に行ってますね」
アランは駆け足で去っていった。
「ほっほっ。若い世代は確実に育ってきているのう。なぁ、ダイト」
トヲルは落ちる夕日を眺め、昔を思い出しながらその場を後にした。




