11話 ベルン王国へ
カイとミノと別れ、馬車に乗り込んだ3人。
マカグレンは次の行動について話し始めた。
「次はこの赤い宝石を、持ち主に返しに行くよ〜」
「宝石の持ち主って、結局どこの国の人なんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ〜?」
冷や汗をかきながら、アカリの方を見る。
「...私も何も聞いてないですよ」
「そっか〜。俺、結構説明飛ばす時あるからなぁ〜」
マカグレンが悔しそうな表情で落ち込む。
「私は命令を遂行するだけなので、余計な情報は別にいらないです」
アカリはフォローしようとしたが、マカグレンはあまり納得はしてないらしい。
「コホン。気を取り直して。持ち主はマーナ・ベルンというお嬢さん。ベルン王国のお姫様だよ〜」
「ベルン王国って、ここからだと結構遠くなかったですか?ここから1週間以内に着けるんでしょうか」
フェイルは教養があるためそこそこ土地勘がある。大国の位置程度ならある程度は頭に入っているのだ。
「それは大丈夫。うちの姉御さん、本気出せば馬も早くなるから」
これも魔力を使った力なのだろう。
「この盗賊団には魔力に長けた人物が多すぎて、魔力で○○できますと言われても驚かなくなってきました」
「あはは、けど魔力も万能って訳じゃないからねぇ。俺たちは馬を早くさせることは出来ないよ。これは姉御だけの力だし」
「じゃあ、数日間はずっと馬車生活ですね」
「そうだね〜。俺はともかく、アカリは病人だし、フェイルは怪我も結構ひどいから安静に休んどいてよ」
「そういえば、洞窟ではアカリ高熱出してたけど、よくなってきてるのか?」
「ええ。半日寝たら熱はだいぶ下がったわ。体調は...まだ万全とは言えないわね」
「そうそう!ちゃんと布団もあるから、君たちは横になりなさい〜!」
マカグレンは木箱から二組の布団を取り出して敷いた。
アカリは颯爽と布団に入った。
「では、遠慮なく」
フェイルも続けて布団に入って横になった。
「じゃあ話の続きね。ベルン王国、まあ国ってほど大きくはないんだけど。毎年この時期になると儀式をするらしいんだ。その儀式に必要なのがこの宝石」
「そんな大事なものを盗まれたんですか?大丈夫ですかその国」
国力の無さにアカリは引き気味だ。
「マーナ姫は結構天然というか...だから、しょうがないとは思うよ〜」
マカグレンはマーナを思い浮かべて笑いながら話す。何度か会ったことがありそうだ。
「宝石を返したら、俺たちはアジトに戻って療養する。1ヶ月くらいは休みだと思うよ」
「何しようかしら〜」
アカリは嬉しそうに休み期間の妄想を始めた。カイ・ジエンの宝石を多く手に入れた為、かなり資産が増えたはずだ。贅沢な日々が送れることだろう。
そして数日が経ち、ベルン王国に着いた。
「さあ、ここがベルン王国だよ〜」
マカグレンが先におり、続いてフェイルも荷馬車から降りた。
王国とは名ばかりの、村や集落のような感じだった。建物は原始的で、木や藁で出来ている。そこそこ土地が広く、人口は500人ほどはいるだろう。人々の格好もかなり簡素だった。
アカリも荷馬車を飛び降りた。
「もう、体調は大丈夫なのか?」
「ええ。おかげさまで復活したわ」
「うんうん、じゃあマーナ姫の所へいこう」
ベルン王国では検問は特におこなっておらず、出入りも自由になっていた。
「あ、フェイル。マーナ姫とは面識ないよね?」
「はい。俺の国自体、ベルンとは関わりが無かったですから。フェイルって名前も聞いたことがないレベルだと思います」
「なら、顔隠さなくていいね。偽名も使わなくていいよ。この国はウチの協力者みたいなものだから〜」
マカグレンの疑問も解消したところでマーナ姫の住処へと足を運んだ。
「結構大きいじゃない」
流石に王族ともなると家が大きく、周りも塀で囲まれている。まるで屋敷の様だ。正面の門の前には警備がいるようだった。
「そこの者たち止まれ!」
門番がフェイルたちが入らないように塞ぐ。
「すみません、マーナ姫の依頼を受けた者なんですけど〜」
マカグレンはカバンから赤い宝石を取り出した。
「これは失礼。どうぞ」
門をくぐると庭があり、池や盆栽が造られていた。
「ずいぶんと凝った庭ね」
家は和風の平屋だが、高級感ある造りだ。
一行は玄関にある引き戸の前に立った。
「マーナ姫〜。マカグレンです〜」
マカグレンが声を出すと、ドタドタと家の中で慌てふためく音がした。直後、扉が開いた。
「お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」
スーツを着た短髪の女性が出迎えてくれた。使用人だろうか、身なりがとても整っている。
「あ、リサさん。こんにちは〜。ほら2人とも入るよ」
名前はリサと言うらしく、マカグレンとは認識があるようだった。
中へ入り、マーナ姫が居るという部屋へ案内された。リサが部屋の襖を開ける。
「お嬢様、お連れしました」
「よく来ましたね。さあ入って」
着物を着た、青く長い髪をした女性。彼女がマーナ姫だろう。年齢は18歳くらいだろうか。身長もそこそこ高く、気品が溢れている。
中には座布団が数枚敷かれており、マーナもまた座布団の上で正座している。リサはマーナの後ろの方で座った。
「やあ、マーナ姫」
「ふふ、お久しぶりですね。遠慮なさらず座って下さい」
マーナの前方には3枚の座布団が敷かれていた。マーナに合わせて、フェイルとアカリは正座をしたがマカグレンはあぐらをかいた。
アカリはマカグレンの肩をつついた。
「隊長、正座しないんですか?」
「うん。辛いしねぇ。マーナ姫もいつも通りにしたら〜?」
「い、いつも通りとは何を仰っているのかしら?」
マーナは少し動揺している。よく見ると、綺麗な長髪には跳ねている箇所がいくつもあった。恐らく寝癖を緊急で治したが、治りきらなかったのだろう。また、足も痺れてきているようでプルプルと震えている。
ここでリサがマーナの肩を揉んだ。
「きゃっ!」
「そんな緊張なさらないで下さい。多分マカグレン殿は、いつも通りの姫のほうが話しやすいと言っているんですよ」
「ふぅー」
マーナは深く息を吐くと、足を崩した。
「どうか皆さんも楽な姿勢をして下さい。もう気品溢れる姫を取り繕うのはやめました」
アカリも正座には慣れてないようで、言われて即座に足を崩した。
「どうぞマーナ姫。これが頼まれていた宝石です」
マカグレンは赤く輝く宝石を取り出し、マーナの方に差し出す。
「わぁ!ありがとう。本当に助かったわ!」
マーナは嬉々とした表情で手を合わせ、宝石を受け取ってリサに手渡した。先程までは気品溢れるお姫様の様だったが、今は一般の女性の様な表情や仕草をしている。
「せっかく来たんだもの、何か話したいことはない?」
マーナは興奮した表情で話す。自分のことを聞かれたい、質問されたいと思っている様な顔だ。
「では、そちらの宝石ですが、どの様な経緯で奪われてしまったのですか?」
アカリが質問した。大事な儀式に使う宝石だ。よほどの事があったに違いないとは思うが、荷馬車でのマカグレンの言葉もあり気になっていたのだろう。
「ああ、それはね、私が宝石を持ってお買い物をしていた時のこと」
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その日、マーナとリサはリュガルド王国に居た。たまに両親から貰えるお小遣いを持ち、少し遠出をしてショッピングをする。年に3回ほどの恒例行事だ。
マーナはその宝石を首飾りの様に、首にかけて歩いていた。
「あらお嬢さん。そちらの宝石とても綺麗ね」
マーナが歩いていると、突如として女性に話しかけられた。多くの宝石やアクセサリーを身に纏っている気品ある女性だ。
「ありがとう!触ってみてもいいですよ」
マーナが女性に宝石を見せた。
「...欲しいわねぇ」
「? 何か言いました?」
「いえ、何も」
女性は何かを言ったが、マーナは聞き取れなかった。そのあと女性はすぐに去っていった。
そして、マーナに頼まれて出店でパンを買っていたリサが戻ってきた。
「今の方は?」
「この宝石に見惚れていたわ。いやぁ、分かる人には分かるのよね。これの価値が」
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「それって、もしかしてリュガルドの王女だったのでは?」
アカリは潜入した時にみた王女の姿を思い浮かべながら聞いた。
「そうなの。あの悪女ね。親交が全くないから気が付かなかったわ」
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そして、滞在2日目。
宿屋に泊まっていた2人は、再び街に繰り出して辺りを見回っていた。
「あ、あれが食べたいわ!」
「はぁ、食べ過ぎですよ全く。ここで待ってて下さい」
リサが渋々屋台へと足を運ぶ。その時だった。
「お嬢さん」
とても高級そうな鎧を着た兵士がマーナに近づいてきた。
「あら、なにかしら」
「そちらの宝石、かなりの品とお見受けする」
「あなたもこの宝石の価値が分かるのね。やっぱりこの国は素晴らしいわぁ」
「ええ。ですが、この国ではそういった価値の高い宝石を持ち歩いていると、盗難に遭いやすいのです」
「そうなの!?怖いわぁ」
「宜しければ、そちらお預かりしましょうか」
「えぇ!いいのかしら。けどあなたの事も知らないし」
「大丈夫です。私は国直属の兵士。これが名刺です。観光が終わったら、この名刺をあそこの城の門番に見せ、私を呼んでください。すぐにお返ししますので」
「ふーん?なら、お願いしようかしら。くれぐれも落としたりしないでよ!」
「もちろんです」
マーナは宝石を兵士に渡して、兵士は颯爽と居なくなった。
「お嬢様、先ほどの殿方は...って、宝石は?」
「ん?さっきの兵士さんに預けたわ。見てよこの名刺」
「これは...」
「リュガルド王国の刻印。こういう、紋章みたいなやつって、魔力で彫っているから偽物が作れないのよね。つまり、あの兵士は本物ってことでしょ!」
「まあ、それはそうですが」
「だから、安心して預けたの!」
数時間後、日も落ちてきたので宝石を受け取りに城の前まで行った。
「あの、宝石を預けたので取りに来たんですけど」
マーナが門番に名刺を渡す。
「これは?」
「?、これ渡したら返してくれるっていってたわよ」
2人いた門番は顔を互いに見合わせ、マーナに名刺を返す。
「こんな人、この国には居ませんよ。ここまで階級の高い人なら顔と名前は全員覚えていますので」
「え...」
そう、名刺は偽物だった。名前も地位も。ただ、刻印だけは本物だったのだ。
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「なるほど、王女が絡んでるなら納得だ。本物の刻印を使った偽物の名刺。それを作れるのは貴族だけですもんね」
フェイルが頷いていると、リサはマーナの首根っこを掴む。
「そう。嫌な予感はしていたのですが、迂闊でした。まさかこの宝石を簡単に他人に渡してしまうなんて」
「だってー!明らかに本物の兵士だったんだものぉ」
「まあ王女様が宝石を奪ってくるなんて考えられないよねぇ〜。それにしてもマーナ姫は人を信じすぎだけど〜」
「ちょっと、マカグレンまで!」
「我々も手を尽くして、なんとか王女から取り返そうとはしたのですが、何せ奪われたという証拠すら無いですから」
「そこで、私らを頼ったってわけね」
「そうなの!マカグレンとは小さい時から交流があってね。なんか盗賊やってるとは聞いていたから、盗み返してもらおうと思って!」
「隊長って色んな人と接点ありますよね」
フェイルが関心した目でマカグレンを見る
「俺が怪我をしていた時、マーナ姫のお父さんに昔助けられた事があってね〜。そこから繋がりができたんだ〜」
「では、こちらが報酬の金貨3枚です」
リサの手から金貨が1枚ずつ手渡された。
「こんなに...!?」
フェイルは驚いた。金貨1枚はかなり高価だ。金貨1枚で家が建てれるほどの価値がある。
「当然です。この宝石は我々にとっての国宝とも呼べる代物ですから。ねぇ?マーナ姫」
リサは釘を刺す様な目でマーナを見つめた。
「え、えぇそうねぇ」
マーナは苦笑いした。
「それでね、相談なんだけどぉ」
マーナがマカグレンに近づいた。
「な、なんだい?」
「儀式の時の警護をお願いしたいの」
「もしかして、それを踏まえて金貨を渡してきたのかい」
「マカグレン様。そしてみなさま。私からもお願いします」
リサが頭を下げた。
「そんな、やめて下さい。隊長、時間はありますよね?俺たちは別に依頼受けても構わないですよ」
「うーん、本当はフェイルとアカリを休ませたいんだよねぇ〜。怪我もしてるし」
「任せて!ウチは治癒促進の温泉もあるし、何より治療のエキスパートがいるわ!」
「それってお父さんのことかい?」
どうやら、マーナ姫の父は魔力を使った治癒ができる様だった。しかし、今は遠出しているとのことだ。
「儀式は明後日だから、それまでに間に合うかは分からないけれど、もう少しでお父様は帰ってくるはずよ。そうしたらあなた達の治療は約束するわ!」
「でも、なんで俺たちの力が必要なんだい?いつもの護衛さんは?」
「実は、リュガルドとの戦闘で...」
リサが言うには、ベルン国内での精鋭部隊を組み、宝石奪還のためにリュガルドに向かった事があるそうだ。宝石を奪った兵士を王国内で一度発見し、戦闘になったが、どうもコテンパンにやられて、精鋭達の殆どは怪我を負ったらしい。
「万全な状態じゃないから、少しでも力が欲しいってことね。了解。じゃあその依頼受けるよ〜」
「ありがとうー!」
マーナはマカグレンに思い切りハグをする。
「く、くるしいよぉ〜」
その光景を見て、この依頼をやって良かったと少し心が暖かくなったフェイルだった。
皆で雑談して過ごした後、屋敷の一室に案内された。儀式は2日後。それまでは好きに過ごしていて良いという。
「流石に荷馬車で寝てばかりだったし、外を歩きたいわね」
「そうだねぇ。もう体固まってるよねぇ。明日はみんなで国を見て回ろうか〜」
そして翌朝、3人で国の中を歩いた。
国というよりは村という感じで、商店街なども無く、みな穏やかに過ごしている国という印象だった。農作業を営んでいる人が多く、貿易はほぼ行わずに国内で自給自足しているみたいだった。
アカリはベルン王国が気に入っている様で、体を伸ばしながら歩いていた。
「この国は落ち着くわね〜。老後はここに住もうかしら」
「あ、言い忘れてたけど、アカリは今回の警護に参加しなくていいからね〜」
「え?何でですか?」
「前はアカリに結構負担かけちゃったからねぇ。今回は俺とフェイルの2人に任せてよ」
「まあ隊長がそういうなら良いですよ。別に任務でもないし、報酬もないし」
アカリは申し訳なさそうにしながらも、マカグレンの気遣いを受け入れた。
「てことで、フェイル。よろしくね」
そのあと、マカグレンはフェイルに耳打ちした。
「大丈夫。儀式を行う場所には魔物がいるけど、そんな強くないから。俺1人でも十分なくらいだよ」
フェイルは左腕が使えないため、全力で戦うことができないため、今回の警護は不安があったがマカグレンがいうのなら大丈夫だろう。
次の日の朝、フェイル達は部屋で寝ているアカリをよそに屋敷の外へと出た。
「準備はできましたか」
リサは普段と同じ格好で立っていた。
隣にはマーナが居たが、マーナは巫女のような格好をしていた。
「うん、大丈夫〜。今回は俺たちの4人で行くの?」
「はい。彼らはこの家を警護してもらいます」
よく見ると、屋敷の周りには10人ほどの人間が散らばって周囲を警戒していた。格好は簡素だが武器を持っていて、体の所々には包帯や傷跡がある。本来であれば彼らが儀式の警護をするはずだったのだろう。
「マカグレン殿、我らの代わりに姫様を頼みます」
近くにいた男性の兵士が近寄ってきた。
「任されました〜。ウチの仲間のことも頼みます〜」
フェイル達はアカリを預け、彼らは姫様を預ける。互いに大事なものを預けあった。
まあアカリは自分自身で身を守れそうなものだが。
「そろそろ行きましょう。姫様、背中にお乗り下さい」
リサの背中にマーナを背負う。
「馬車は使わないんですか?」
「ええ。いつもは兵士が多いので使ってましたが。馬車で行くと馬も護衛しなきゃいけませんから。今回みたいに少人数なら護衛対象は少ない方がいい」
リサもかなりの実力者ではあるようなので、3人でマーナを守れば間違いは起こらない、ということだろう。
4人は国の近くにある森へと足を運んだ。




