【14】妖精王、帰る。〜月影の扉が開く夜〜
ナイトプールのパーティは朝まで続いた。
アンジュ以外は。
アンジュは元々夜更かしは無理なので、
午前0時近く、ウトウトし出したアンジュにいち早く気づいたルシアンは、アンジュを寝室まで送り届けた。
そして、ナイトプールに戻った。
アンジュはいなくても、不思議と、まるでそこにいるようで――
幻想的な一夜の空間に、ルシアンはアンジュの面影を見ていた。
そして、明け方、パーティは終わりを告げた。
ロクシーはドン・ペリニヨンP3のロゼを一人で一本開け、「じゃあ、寝る〜!」とご機嫌で自分の寝室に戻り、ルチアーノはプールサイドの固い床の上で空の赤ワインのボトルを抱いてぐーぐー眠っている。
ルシアンがルチアーノを寝室まで運ぼうとしていると、妖精王がすすっとルシアンに近づいて来た。
即座に大天使の戦士の眼になるルシアン。
妖精王はニパッと笑って言った。
「ルシアン、おつぽよ☆
ちょっと、お話出来るぅ〜?」
そうして、リオとアーチーボルトも揃って、皆でランチを終えると、ルシアンが言った。
「これから、全員のぶんの食後のロイヤルミルクティーを淹れてくるから、リビングで待っててくれ」と。
ルシアンはそれだけ言うと、素早くキッチンに向かった。
アーチーボルトも立ち上がる。
「一人では大変じゃろう。
わしも手伝う!」
そう言って、ルシアンの後を追う。
そして、残された皆でメインリビングへと向かう。
リオはソファに座ると、ぐるりと皆を見渡し、「嬉しいっ!アンジュちゃんの好みのロイヤルミルクティーを飲めるんだ!」と素直に喜んでいる。
アンジュは青い瞳を輝かせ、宣言する。
「ルシアンのロイヤルミルクティーは、地上でいちばん美味しいのだ!」
そんな中、
ルチアーノがそっとロクシーに囁く。
「これは……ロクシー先生の脚本ではないですよね?」
ロクシーが舌打ちして、ルチアーノをジロリと睨む。
「ルシアンのロイヤルミルクティーはアンジュちゃんだけが飲めばいいの!
私がこんな無駄なこと、させると思う?」
絶対零度の視線と声に、ルチアーノがソファからピョンと跳ね上がる。
ロクシーは窓辺に立って、庭を見ている妖精王の光り輝く後ろ姿を見て呟く。
「……あんた、ルシアンに何を吹き込んだの……?」
そうして、ルシアンとアーチーボルトが10分もせずにメインリビングに戻って来た。
まずは、アンジュ。
それから、それぞれの前にロイヤルミルクティーを置く。
妖精王もいつの間にか、ソファに座っていた。
ルシアンとアーチーボルトもソファに座り、皆がロイヤルミルクティーに口を付けると――
アンジュは「甘ーい❤️美味しいー❤️」と満面の笑みだが、妖精王以外は即座にカップをソーサーに戻した。
皆の心の中の叫びは同じだ。
――甘い!!
甘すぎて飲めないッ……!!
妖精王はアンジュに向かってニパッと笑い、
「アンジュちゃんの言う通りだネ☆地上でいちばん美味しいよ❤️」と言って、ロイヤルミルクティーを飲んでいる。
ルシアンはアンジュが満足しているのを見届けると、妖精王に向かう。
「妖精王よ。
お前の“最後の頼み”は果たした。
皆に話があると言っていたな。
さあ、話せ」
ルシアンの淡々とした声に、妖精王が今度はロクシー、ルチアーノ、アーチーボルト、リオに向かって、ニパッニパッと笑うと言った。
「俺さあ〜……今日、帰るネ☆」
静寂。
その静寂を破ったのは――
ルチアーノだった。
立ち上がり、真っ赤になって叫ぶ。
「貴様〜!!
まだ、ルシアンの初恋成就は終わってないだろ!?
勝手に帰るとは何事だッ!」
妖精王がウンウンと頷く。
「それな☆
マジ、心残り☆
でもさあ……昨夜プールに浮かんでたら、見えちゃったの!」
今度はアーチーボルトが叫ぶ。
「UMAか!?UMAがわしの別荘に……!?」
妖精王がパチンとウィンクし、笑う。
「……それ、マジで言ってる?
待って、待って、待って☆
俺が見たのは、お月様〜♪」
「月?」
ロクシーの鋭い問いに、妖精王がウンウンと頷く。
「そうそう!
ナンカねー☆
今日を逃すと妖精の国に帰ったら、ビンタされちゃうからさ☆」
リオが真っ青になる。
「よ、妖精王を……ビンタする存在がいるの……!?」
その時だった。
アンジュの凛とした声がメインリビングに響いた。
「妖精王よ。
そなたは月を見た。
つまり、妖精の国への扉が今夜開くのだな……!」
すると、妖精王がわざとらしくガハッと顔を両手で覆った。
「もう……アンジュちゃん!マジ爆イケ!!
そんなことまで知ってるの!?
マジ天使じゃん☆」
すると、ルシアンがさっとアンジュの前に立った。
「アンジュさまは天使ではない、大天使。
だが、“マジ天使”の言葉は受け取ろう。
そして、妖精王よ。
つまり、今宵月影の扉が開くと?」
妖精王が顔から手を離し、ニパッと笑う。
「流石はルシアン、大天使だネ☆
当ったり〜♪♪♪
そうそうそう☆
俺が地上に来られる方法って一個しかないの!マジ不便!
樹齢千年以上の木が必要でー!
その木の月影が、地上と妖精の国を繋ぐ“妖精王の扉”になるんだ☆
でもさ、月影なら何でも良いわけじゃないの!
月影の扉は、月の“ある方角”でしか現れない。
完璧な方角のネ☆
それが、今夜なんだ♪」
すると、今度はロクシーの血を這うような声がした。
「つ・ま・り!
あんたは……あの大木から月影の扉で、地上にやって来て……。
しかも!華々しく登場したいからってくだらない理由で、自分の血を自分に塗って、エネルギーを使い果たして眠っていた!
それを私が、たまたま轢いた!
私がどんな目に遭ったと思う!?
アンジュちゃんもよ……!」
そしてロクシーは、ルシアンに口を挟む隙を与えず、鋭く続けた。
「妖精王!
帰るなら、帰ればいい!
でも、これだけは聞かせて!
あんた、何で地上に来たの!?」
妖精王はニパッと笑うと――
「うん❤️
その節はメンゴメンゴ☆
ちゃんと話すネ☆」
と言うと、語り始めた。
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