第71話 兄弟愛14
『厄災の魔女』の兄、要はシオンの兄の魂を俺が抱えているのは感覚で理解はしていた。しかしその分量がまさかの10%ポッチだとは。魂の分量がどれ程能力に影響するかは分からないが、10%残っているのであれば単純計算で10%分の能力しか引き出せないと言う事になる。
10%なのは能力だけではないだろう。魂が少ない分、意識や記憶も少ない筈だ。
現実的に考えるのであれば人間の記憶は脳みそにあるから魂と記憶は一切関連性の無い物だろうけれど、大前提「魂」の概念自体がファンタジーな世界の産物だから現実味がどうとかは気にしない事にしよう。
その10%の半端な状態で俺に宿っていると言うのであれば不可思議だった幾つかの現象も納得出来るという物だ。
一つ、シオンが「最強」と言う割には紡祇にした様に俺の体を乗っ取ろうとしない事。
二つ、シオンが言っていた『模倣の奇跡』が使えない事。
三つ、『奇跡』の過剰使用で乗っ取ったのにも関わらず俺の意識が半端に残った状態であった事。
四つ、乗っ取った後の一つ一つの行動が大振りで且つ連鎖した動きが少なかった事。
五つ、現在、俺が意識して抵抗している訳でも無いのにレオンが行動しない事。
これら全ての疑問に合点が行く。
考えれば考える程、俺に宿っているレオンの魂が半端な状態である理由や状況証拠が出て来る。
手持ちの情報だけで色々推測出来るけれど俺の中で完結してしまっては聞く意味が減ってしまう。俺は何も知らない体で話して相手に勝手に話して貰おう。
『それがどうだって言うんだよ。アイツの師匠が『厄災の魔女』の兄なのは驚きだが、それの10%を俺が持っていた所で特に何も起こらないだろ。もしかしてアレか? 俺を素材にして『最強の獣人』の師匠を復活させようって魂胆かよ』
「あんな人間兵器を復活させるなんてとんでもない。完全復活させてしまったら私達王都の人間は全員殺されてしまいます」
『それなら無抵抗な今が狙い目だろ。いつレオンが暴走するかも分かんねぇんだぞ』
「だからこそですよ。あの人間兵器を10%も抱えた状態で正気を保っている貴方をどうにかして生き残らせたい」
人間兵器ねぇ……流石は『獣人最強』のお師匠さんだ。噂だけなら本当に最強格と。
んで、昔はどうだったか知らないが現状は「シオン&レオンの兄妹コンビ」と「王都の人間」が対立している状態。一番戦闘力が高いであろうレオンが何故か俺の中に10%の状態で収まっているから、俺がシオンに殺されて『奇跡』ごと魂を吸収されない様に保護したいって訳か。
さて、次はどの情報が欲しいか……どうも『10%』を意識して言っているから、ここ辺りが相手にとって重要そうだな。
『なら遠慮無く生かして貰うが……そのレオンって奴の魂を10%持ってるのは何か特別な意味があるのか? 例えばそうだな。異世界人の魂を持っている割合が多い程この魔法みたいな能力が沢山使えるとか?』
「そうですね……少し複雑な話になってしまいますが、魂について少し教えましょう」
『頼む』
魂の話はシオンから全く聞いていない。
魂関連を教えて俺に宿っている兄の魂や『奇跡』の過剰使用で乗っ取られる事に感付かれたくないから敢えて話して無かったのだろう。気になる所が余りにも多くてそこまで頭が回らなかった俺の落ち度だが見事にしてやられた訳だ。
その肝心な魂についてを今ようやく異世界の王様から聞かされる事になろうとは。
「魂についてはローナーから……聞いてる筈無いですよね。理解しやすい範疇で教えましょう」
俺の返答を受け取る前に、何かを思い浮かべる様な間を置いて少し呆れた顔をした彼は勝手に解釈する。
なるほど、ローナーのキャラクター性が何となく分かった。あのおっさん多分馬鹿だな。力はあるが何かを教えようとか言う気遣いは無い。云わば脳筋と言う奴だろう。
「まず『魂』についてですが、この世界にある創作物にある様な概念と概ね同様と考えて貰って構いません。全ての生物が持ち、死と同時に消滅する物。私の世界……貴方の目線で言えば異世界ではその法則とは少し違いますが、この世界の『魂』はそういう存在になっています。ここまでは理解出来ますよね?」
『ああ、そういう概念ならアニメとかでよく知っている』
基礎的な話で認識の擦り合わせを終えて早速本題に入る。
「では、異世界の魔法みたいな能力__私達は『奇跡』と呼んでいるソレと『魂』の関係性については、どれくらい把握していますか?」
『全く知らん』
「そうでしょうね」
コホンと一息ついてエスタさんが話を続ける。
「簡単に説明しますと『魂』は『奇跡』の燃料です。『奇跡』を使用するに応じて『魂』はすり減って行き最後には消滅してしまいます。魂が無くなれば体は生きていても死んだ状態になる、云わば『生きた屍』とでも言いましょうか」
ゲームに当て嵌めて言うのであれば、『奇跡』はMPの代わりにHPを消費して強力な技が使えるハイリスクハイリターンの能力か。そして調子に乗って使い過ぎれば見た目では死んでいなくても死んだ状態になる。
それの一歩手前に俺は成った。
「しかしこれは、一度に魂が無くなった場合に限ります。『奇跡』の過剰使用に限らず、魔力の代用に依る『魂』の消費や、一部特殊な魔物の攻撃で『魂』は消費しますが、一度に全て消費し切る事は基本的にはありません。徐々に消耗して行きそれに応じて様々な症状が出てきます」
『例えば、意識が朧げになって同居している別の『魂』に乗っ取られる。とか』
「その通り。貴方は『奇跡』の過剰使用で50%程まで魂を削ってしまった。通常、魂は50%も失ってしまうと身体がいくら健康であっても意識が無くなり魂の回復を待つ状態になります」
『その状態を狙われて俺はレオンに乗っ取られたと』
「理解が早くて助かります」
まんまとシオンに乗せられて『奇跡』の過剰使用をさせられたあの時、俺の魂が50%以下まで消耗してしまったから気絶したのと同時にレオンに体を乗っ取られてしまった。『奇跡』と『魂』の仕組みを知っていれば簡単な話だったな。
その簡単な話も、あくまで普通の人間である俺達に当て嵌めた時に限ればの話だ。
シオンや獣人ローナーやエスタさんは魂の残量が50%を超えているからこうやってしっかりした意識があるのは理解出来る。
『それじゃあ、レオンはどうなんだ』
数分前に聞いた話との矛盾点。
50%以下で意識不明。それよりも低い10%まで削れてしまえばそれ以上の重体は違いない。
人間兵器と呼ばれる奴であろうと『魂』を持つ人間。『魂』の消耗次第で症状が出るのは変わらない筈。
『レオンの魂は10%。意識不明以上の重体ならロクに動く事すら難しいんじゃないのか?』
「通常の生物であればそうでしょうね」
『つまりレオンは通常の生物ではないと』
「そう、理由は分かりませんがあの男の『魂』は尋常じゃない強度を持っている。
『魂』の強度が高ければ『奇跡』の出力も高くなる。
魂を削って超常現象を起こす神の域に近い魔法。この世界では大幅に能力が落ちてしまっていますが、それでも魔法を大きく上回る力を使える。
全てを貫く刃を生み出し、生物の感情を操作し、言葉通りに対象を操り、限界を超えた身体能力を身に付け、偽物の魂を生み出し、未来を視たり、死者を蘇生したり。例を挙げればキリが無い」
「そんな『奇跡』持ちである私達、勇者含めた王都聖騎士団の総勢22名を妹と二人で相手して相打ちに持って行った。正真正銘の人間兵器ですよ」




