第69話 兄弟愛12
シオンの兄が突然『奇跡』の使用して翔流が逃走した後。俺はどうしようかと街の中心で立ちすくんでいた。
何処かに行こうかとしても体は動かず。敵対している対象を見失ったこの体は電源を落とした機械かの様に立ち止まって一切の行動を止めてしまった。
『しまったな……これじゃあ何も出来ない』
体が行動を止めても俺の体の主導権が戻る事は無く。俺を操っているであろうシオンの兄との対話すら出来ない現状、俺は何か打開策が無いかと思考するしかなかった。
とは言え一切の行動が許されていない今、考えた所で指一つ動かせれない状況じゃあ何も出来ないのは理解している。
どうしようか……体の主導権さえ取り戻せれればどうにか出来るかも知れないが、考えて翔流に『奇跡』を使って指示しか出来ない状態じゃあな……。肝心の翔流も俺の『逃げろっ!』で見事に全力ダッシュで撤退してしまったし。他の人間に何かしてもらおうにも、『奇跡』も持っていない一般人じゃあ『奇跡』で強制的に動かしたとて戦力が圧倒的に足らない。そもそも周囲に人間が居ないから指示すら出来ない。
「困っている様ですね」
視界の外から男の声がする。
一度も聞いた事の無い筈なのに知っている声。声の響きから丁度俺の背後に立っているのだろう。身長差はそれ程無いと思われる。
獣人の時と似た感覚。それはシオンの兄の記憶である事を意味する。
異世界の人間で良い印象は現在一つもない。シオンは裏切り、獣人は殺しに来て、異世界由来の能力は混乱しか招かない。
警戒心を高めて振り返ろう……としても体は一切動かない。
「経過から視認していましたよ。貴方、現世界の人間なのに規格外な魂を所持している様ですね」
『気持ち悪い喋り方だな。異世界人か?』
「…………へぇ。器用な使用方法ですね」
姿は見えないが声が僅かに動揺している風だ。この『奇跡』は命令する能力だが、ああいう反応をしていると言う事は異世界では俺みたいな使い方はしていなかったのだろう。
本来この『奇跡』は使用すれば言った内容をそのまま対象に強制させる能力だが、俺はこの能力に多少の疑問を持っていた。
確かに指示した通りの事を相手に実行させるのは間違いないのだろう。
だが、これは可笑しくないだろうか。
『止まれ』『逃げろ』。今までこんな感じで単語で発動する事が多かった。『止まれ』ならともかく『逃げろ』だけでは何から逃げれば良いか、何処から何処へ逃げれば良いかが一切指示されていないのだ。
的確な指示が無いのにも関わらず、俺の想像した通りに対象が行動した。
つまりこの『奇跡』は、使用者が口に出した内容に応じて能力を発動しているのではなく、使用者が想像した内容に応じて能力を発動しているのではないだろうか。
翔流に試した時はぶっつけ本番でやっていたが、その予想は見事的中した。
話した内容を指示するのではなく話した内容に脳内で意味を持たせて発動する。例えば『話した内容を対象の脳内に浮かび上がらせる』と命令して会話する。これで相手に話した内容を強制させずに『奇跡』を発動出来たのだ。
「失敬。先程の質問ですね。貴方の視点であれば私は異世界人と定義されます」
『…………』
「如何されましたか?」
『……何でもない』
伝えたい事と話している内容の意味は同じなのだろうけれど、外国人が間違った日本語を話しているのとは毛色の違う、不自然な日本語を使っていてムズムズする。
『それはさておきだ。アンタ何者だ?』
「私は以前国王ですよ。現世界の私には一切の関連が無意味な称号です」
熟語は理解出来るのに使い方が普通とは若干ズレていて、一度脳内で噛み砕いてから理解するのに少し時間が掛かってしまう。
以前国王ってのはつまり元国王だよな?
『元国王様がこんな世界に何の用だよ。玉座でふんぞり返ってれば良いだろ』
「そうしたいのも精一杯ですがね……異世界の不具合が現世界に到来し、中途半端な魂で戦をしていてはそうもいかないのですよ」
『…………ちょっと待ってくれ。一旦整理する』
きんっっっっもちっっわるっっ!! 何だこの熟語選びは!! 外国人の拙い日本語の方がまだすんなり理解出来るぞ! 誰だコイツに日本語教えた奴は!!!
内心腹立ちながらも一単語ずつ翻訳し直して文章を直していく。ファーストコンタクトで敵意の無さそうな異世界人は初めてだから大事にしたいからな。
異世界の不具合が到来。異世界の不具合……つまりはコイツらの世界のヤバい奴がこの世界に来て、半端な状態で暴れてるからゆっくり出来ないって事だよな。一つ一つ理解しようとすれば簡単なんだがやっぱり気持ち悪いな。
解読出来なく無いが意思疎通に時間が掛かってしまう。日常会話程度ならしばらく放置しても良いが、緊急時の今ではあまり無視出来ない不便さだ。
それの解決策は……まぁ簡単だろ。
『なぁ、アンタの世界の言葉で話してくれないか?』
「分離に構わないが、聞き回収れるのか?」
『何言ってるかよく分かんねぇけど、その喋り方よりかはアンタの世界の言葉の方が理解出来るな』
「不思議な事象を発言うのだな」
不思議な事言ってんのはアンタだよ。
「まだ容姿も閲覧せていないからな。自我案内も兼ねて、私の世界の言語で語ろう」




