第67話 兄弟愛10
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獣同士の防衛戦を傍目にシオンちゃんから『奇跡』のレクチャーを受ける。
「まず『奇跡』の使い方を説明する前に紡祇君の『奇跡』がどういう物かだけ教えるよ。君が持っている『奇跡』は無機物に自分の妄想している概念を押し付けて疑似的な生物として動かす能力。簡単に言うと魂を与える能力だよ。物を使役する魔法って言った方が君にとっては理解しやすいかな」
「物を使役する魔法……」
「今の紡祇君は寝ている時や感情が特に昂った時限定で使えるみたいだから、それを僕が紡祇君の中から直接干渉して『奇跡を使ってる感覚』を理解させる」
「そんな器用な事が出来るの!?」
能力の説明されても正直よく理解出来なかった。信世みたいに未知の特殊能力に一日で適応出来る普通からかけ離れたハイスペックな人間じゃないから、ボクがいざ説明されて習得しようと思ってもやれる自信は無かった。自信は無いけどやるしか無いんだと思っていた。
だけど、感覚的に理解させてくれるのならボクでも出来るかも知れない
必死にきりるんが抑えてくれてはいるけど、どのくらい続いてくれるか分からない。きりるんの体が残っている内にボクが戦える様にする!
「きりるんの限界が来る前に早速やるよ」
「どんと来い!!」
そう言ってシオンちゃんが目を閉じる。
『紡祇君。聞こえてる?』
「おお、テレパシーだ」
間もなくして頭の中からシオンちゃんの声が聞こえる。
『聞こえてるみたいだね。今から『きりるんが吐いた炎』に『奇跡』を使うから、炎に対して凄い強い存在をイメージして重ねてみて』
「かしこまり!」
言われた通りに『きりるんが吐いた炎』に対して強い存在のイメージをする。
と言われましてもパッと思いつかない。強い存在と言われたら凄いおっきい剣持っていたり、凄い魔法を使う印象がある。イメージする対象が生物だったり何らかの明確な形があればイメージしやすいんだけど、形が随時変化してしまう『炎』だとどういうやり方で戦う強い存在なのか想像出来ない。
なにせ『炎』は攻撃する側じゃなくて攻撃する手段そのものだ。炎魔法然り、自然発生している炎然り、何等かの手段を用いて『炎』をそのものを扱う印象だ。
扱う手段が扱う側に回るイメージが湧かない。
『出来そう?』
「ちょっと……分かんない……」
『じゃあ他のやり方を』
「それは嫌だ! みんなが色々してるのにボクだけ甘やかされるのは嫌だ!!!」
朝から今までずっと、ボクの周りでみんなが何かしてて、喧嘩していた筈のシオンちゃんと信世がいつの間にか仲直りして、気付いたら信世と翔流がどっか行って獣人さんと戦っていて、しかもボクが何も知らない間に二人が危険な目に合っている。
ボクだけが蚊帳の外に居て、いざ渦中に混ざっても何もさせられない。みんなが危険な状態なのに何もさせてくれない。
ボクの存在する意味が無い。
だから、今与えられたこの課題は必ず達成させないと。
炎に強い存在をイメージ。RPGをあまりやらないボクには難しいけど、どう考えても分からなくてもやらないと。
…………こういう時、信世なら直ぐに考え方を変えれるんだろうな。
どうして直ぐに考え方を変えれるのか、どういう頭をしてやれているか理解出来ないけど、表面だけならボクにも真似が出来る。
信世みたいに最適解を直ぐには出せないけど、何もしないよりかは絶対に良い事だから。
考え方だけを変えるなら、真逆の考え方をすれば良い。全てを反対にしてしまえば直ぐに違う考え方になる。
「炎以外が扱う側で、炎が手段」が普通なら
「炎が扱う側で、炎以外が手段」にすれば良い
炎以外が炎を扱うなら
炎が炎以外を扱えば良い。
「シオンちゃん! イメージ出来たよ!!」
『おっけぇ! そのままきりるんの炎に向かってイメージをして』
確かな形のあるイメージじゃないけれど、思考停止して何もない状態よりも確かに大まかなイメージは持っている。炎が炎以外の全てを使うイメージはある。
それをきりるんの炎に向かって当て嵌めて、後は『奇跡』の発動を待つ!
『『奇跡』を使うよ』
シオンちゃんの合図と共に全身が少し熱くなる。
視界が狭まって、呼吸が浅くなって、全ての感覚が一瞬無くなった気がして、『奇跡』を使用した代償であろう体調不良で倒れてしまいそうになる体を無理やり立たせて炎へのイメージを薄れさせない様にただただ気張るだけ。
この感覚がどれ位続くのか。早く終わって欲しいと願って、何度か襲って来る眠気、頭痛、眩暈、一瞬起こる意識の断裂、どれだけの痛みがあっても気力で耐えて体は倒さない。
それら全ての不安定な感覚は長く続かなかった。
体の奥で形の無い何かが削れた様な、よく分からない感覚がした瞬間に全ての不安定な感覚が綺麗さっぱり消えたのだ。
狭まった視界と浅い呼吸は普段の状態に徐々に戻っていく。
「紡祇君、もう大丈夫だよ」
耳から聞こえるシオンちゃんの声で気が抜けてその場に座りこんでしまう。
あの変な不安定な感覚の名残で未だにふわふわした視界の中、頑張って『奇跡』を使った対象にした蒼い炎に目を向ける。
見た所何も変化は無さそうだけど……。
「ちゃんと成功したのかな……」
「大成功だよ」
やったぁ! なんて喜ぼうにもその気力が残っていない。『奇跡』を使った時の体力の消耗が激しくて頭が上手く動かない。
どうにかシオンちゃんの脚に寄り掛かって彼女の顔を見たけれど……大成功と言った割にはとても険しい表情をしている。視線の先にある蒼い炎は特に変化は無くて、何が不安なのかも分からないまま一緒に蒼い炎を見詰める。
そうしている間にもきりるんと獣人さんの攻防は続く。
獣人さんは直接ボクに攻撃仕掛けるにはきりるんが邪魔と判断したのか、巨大な狼のきりるん相手に拳や蹴りを交えて戦っている。当然きりるんも無抵抗に居る訳が無くて牽制や足止め程度にしか使っていなかった火球は直接狙い撃ちする方針に変えて着実にダメージを与えている。
そろそろ数十分にもなりそうなこの攻防戦。きりるんは上手く立ち回っていてあまりダメージを負っては居なさそうだけれど、長時間「消えない炎」を吐き続ければ地面が炎の海になってしまうのは至極当然で。
いつの間にかボク達の周囲は蒼い炎で一杯になってしまっていた。それも、逃げ場が無くなってしまう位に。
「…………っ!? やばい逃げ場がないよ!!」
「大丈夫」
「何も大丈夫じゃないよ!」
それに気付いてシオンちゃんに相談した時には遅かった。
炎に囲まれて十分に逃げ場が無くなってしまったボク達を見付けた獣人さんが、こちらに真っ直ぐ走って来る。
今更ながら狙いに気付いたきりるんが慌ててボク達の前に立とうとするが、きりるんが立てるスペースがボク達の周囲には残っていない。それでも炎に突っ込んで守ろうと獣人さんの前に立ちはだかろうと走るが既に遅く。
獣人さんの攻撃が、蹴りが、蒼い炎の海を掻き分けて再びボクの顔に届きそうになる。
逃げる体力はもう無い。『奇跡』使用での消耗が酷く、歩いて動くのも不可能。転がって逃げようにも上から降りかかって来る攻撃に反応しきれず、目を閉じて無防備に受けてしまう。
そのはずだった。
痛みが一向にやって来ない。あまりの威力で痛みを感じる前に頭が取れてしまったのか、それとも既にボクは死んでしまったのか。
恐怖で目尻に涙を浮かべて、恐る恐る目を開ける。
目の前には獣人さんの蹴りが届こうとしていた……のではなく真っ青な炎が燃え盛っていた。
その炎は何処か人の顔みたいに思えて。燃え移らない様に少し後退りした時、その炎が人の様に小さく微笑んだ。




