第66話 兄弟愛9
不安定な足取りで出て来る血塗れの人。
なんだアレは……。
「厄災__女。世界の為に死_」
不思議な言語で話す獣人さん。所々ノイズで聞き取れないけどその言葉の大半は何故か理解出来てしまう。聞こえないけれど脳内に文字が浮かび上がって理解してしまう。
今言っていた言葉は「厄災の魔女。世界の為に死ね」だった。
厄災の魔女と言えば、シオンちゃんの世界でシオンちゃんが敵から言われていた名称だ。確か、シオンちゃんの世界の御伽噺では『数年に一度世界を更地に還す』、『見目麗しい銀髪の少女を依代にして集落の中心に現れる』とか言われてる怪物だったはず。
見目麗しい銀髪の少女……今のボクの見た目がまんまソレだ。
これは自己肯定感が高いからとかじゃなくて事実を言っているだけである。なにせ、今のボクの見た目は本来の姿じゃなくて、シオンちゃんの姿が反映されているだけらしいからね。
銀髪の低身長で綺麗な肌と髪をした美少女。(ただ、トイレで確認したら男にしかないアレは付いていたので厳密には美少女じゃなくて美少年だけども)見た目だけなら御伽噺で語られている『見目麗しい銀髪の少女』なのは間違いない。
そんな『見目麗しい銀髪の少女』の依代である『厄災の魔女』に死ねと獣人さんは言っている。
今のメンツではそれに該当する見た目をしている人間はボクしか居ない。獣人さんは明確にボクに向けて殺意を露わにしているんだ。
小声でシオンちゃんと一緒に作戦を立てよう。
「シオンちゃん、あの人最強の獣人の人でしょ? 逃げようよ」
「そうだね……それを簡単に許してくれる相手なら既に逃げてるんだけど、そうもいかないんだよ」
「やっぱり凄い強いの?」
「強さ自体はこの世界に来てかなり弱体化してる。それでも、相手は僕達を簡単に殺せる『奇跡』を持っている。持ち前の身体能力に追加で『奇跡』で身体能力の強化を加えた、単純な暴力の化身。あの怪我からして、多分、翔流君と信世君がどうにか頭に致命傷を与えて逃げ帰ってきた所なんだろうけれど、その状態であっても僕達には勝ち目は無いよ」
神妙な面持ちで言う彼女。
やっぱり今のボク達じゃ勝てないものなのだろうか。
あ、いやでもそうか。そういえば。
「でもさでもさ。『奇跡』を持っているのはボク達もでしょ」
ボク達も『奇跡』を持っているんだ。どういう能力か詳しくは知らないけれど、シオンちゃんとボク二人分の『奇跡』と、『奇跡』で作られた『奇物』であるきりるんが居れば、数の差で勝てるんじゃないだろうか。
「それは…………」
「『奇跡』って言うのがどういうのかは知らないけどさ、獣人さんと同じ『奇跡』がこっちには二つもあるんだよ。それにきりるんも居るし、勝てるんじゃないの?」
「出来なくはないけど……………」
「教えてよ。ボク達の『奇跡』の使い方をさ。それでこの状況をどうにかしよ」
「そうだけど……でも……」
「何もしないよりマシでしょ。ここで死んじゃったら終わりなんだから」
言葉を濁して中々頷いてくれない。やはり強力な力には何か代償があるから使えないとかだろうか。でも、今ここで無抵抗で襲われて死んでしまったら力の代償を払う前に優柔不断の代償を命で支払う事になる。それだけは嫌だ。
ここ数年、信世のお陰で楽しくなってきたんだから。ここで死にたくなんてない。
だから、だから、何か不都合があっても、何かを失ってでも生き延びたいんだ。
そうして説得している間に、獣人が動き出してしまう。
未だに頭から滴る血を拭って空手の構えみたいなポーズを取る彼。武道は全く知らないけれど、そのポーズを取ったからには戦う意思を示しているという事で良いんだろうか。
もう時間は無さそうだ。ゆっくり話していられない。
「シオンちゃん考えてばっかじゃなくて教えてよ!! ボク達が勝てるやり方を、ボクの持ってる『奇跡』の使い方をさ!!」
そう叫んだのと同時に、横目に見ていた獣人の姿が消える。
なんだか……危険な感じがする。
逃げようと考えて行動した時にはもう遅く、遠くに居た獣人がボクの目の前に瞬間移動して顔を殴ろうとしていた。
「……えっ」
血で汚れたその拳が迫ろうとしている最中、身動き一つ取れなかった。
このまま死んでしまうのかと覚悟する暇もなく拳が顔に触れようとする直前に体が宙に引っ張られて視界が一気に広がる。
「うぇ!?」
開けた視界でようやく、きりるんの尻尾に掴まれて避けれたのだと理解出来した。と同時にきりるんがその男を顎で吹き飛ばして壁に着弾した彼に向かって蒼い火球を吐く。
唯一の衣類だった腰蓑を燃やして、獣人さんを完全に焼き尽くそうと蒼い炎が激しく燃え上がる。
弾き飛ばしと火球である程度怯んでくれるのかと思いきや行動は一切止まらず、激しい炎に包まれた獣人さんは高速で走ってこちらに向かって来る。
「きりるん抑えて!!」
「バウ!」
シオンちゃんの指示を受けて尻尾の薙ぎ払いで弾き飛ばそうとするも両腕で抑えられてしまい、逆に掴まれて近くの建物へと投げ飛ばされてしまう。
投げ飛ばされて宙に浮いている最中にも、きりるんは攻撃を止めない。ボク達の元へ走って来る獣人さんの進行方向を火球で塞いで、立ち止まった一瞬を見て直接火球を撃ち込む。
直撃した獣人さんが燃えている間に、きりるんは建物を蹴って獣人さんの前へと跳んで戻る。
獣人さんが炎を振り払って消そうとするが一向に消えない。
昨日の朝、きりるんから自信満々に「消えない炎を吐けれる」と教えてもらっていたけれど、本当に消えないとは。
この炎はどうしようも無いと判断したのか、蒼い炎を纏った状態できりるんに襲い掛かる獣人さん。高速で詰めて来る獣人さんを火球で牽制しつつ、懐に潜って来ようものなら尻尾の薙ぎ払いや、顔のみを巨大化させて噛み付きも交えて、着実に獣人さんにダメージを与えていた。
隙を見てボクに直接攻撃しようものなら尻尾を巨大化させて薙ぎ払い押し返す。きりるんが徹底してボク達を守ってくれる。
「紡祇君、今の内に『奇跡』の使い方を教えるよ!」
「う、うん!!!」




