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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
兄妹愛

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第80話 兄弟愛6

「何か対抗策とかあるのか!?」

『叫んでないで避けろ!!』


 ようやく聞こえた指示以外の声に一瞬気が逸れて信世の拳が頬を掠める。

 自分がまだ生きている事に安堵して即座に距離を取り、頬に垂れた血を拭って『奇跡』で治った傷跡を触る。

 高熱の金属に包まれても死なない身体だから掠り傷で致命傷にならないのは分かっているけど、いざあの威力を目の当たりにすると一瞬でも掠めた部分が広範囲に抉れていないか心配にはなってしまう。

 大丈夫。間一髪で避けれたからそこまで傷は深くない。大した傷にもなっていないし、すぐに傷も塞がった。

 幸運にも攻撃した後に信世の体が謎に止まっているから立て直す猶予が出来た。


『よし……コイツの体を少しだけ止めておいた。この間に作戦会議するぞ。しっかり聞きな』

「わぁーった。俺はどうすれば良い」


 流石は信世。体の主導権は奪われてもよく分からん天性のセンスで何故か動きを止めさせている。よく創作物に「現実味ねぇな」とか言うけどお前の存在自体がファンタジーだよ。

 動かない信世の体は警戒して見たまま信世の言葉にも意識を集中させる。


『まず勝利条件だけ伝える』

「あいよ」

『お前が『奇跡』を使い過ぎない様に立ち回って、ひたすらここから距離を取って相手のスタミナ切れをさせる。これが今回のお前の勝利条件だ』


 単純な条件の提示。俺が余計な事を考えないで済む様に簡潔に言ってくれるのは大変助かる。

 ただ、スタミナ切れを狙うだけで勝てる物なのだろうか。トンデモな動きとトンデモ攻撃力を振り回しているのに一切疲れを見せない無表情っぷりには、スタミナなんて概念が存在しないんじゃないのかと思わされてしまう。

 さっきからずっと言っている『奇跡』の過剰使用をするなと言うのも何か意図があるのだろうか。例えば、使用回数に条件があるだとか、使い過ぎると信世みたいに倒れるんじゃないかとか。それにここから距離を取るのもよく分からない。こういう異世界の能力は一般人に見せたら騒ぎになりそうな物だろうに。信世にはそういう所にも何か意図があるのだろうか。

 と、いう事で聞いてみようじゃないか。ダメならダメと言うだろう。


「ほう。その心は?」

『それらも簡単に伝える。まず『奇跡』の過剰使用を控えるのは『奇跡』を使い過ぎると俺みたいになるからだ。使用上限の目安は恐らく髪の色の変化。俺みたいに髪色が全部染められると終わりだ』


 身だしなみはあまり気にしないタイプだから一切気に掛けてなかったが、それを自覚してしまうと厨二病みたいな感じがして何とも恥ずかしくなってしまう。

 だなんて今は言ってられない状況か。後で黒染めしとこ。


「おっけ、ここから距離を取る理由は?」

『シオンと紡祇から出来るだけ離れる為だ』


 いつの間にか消えたシオンさんを横目に探しつつ少し考える。

 紡祇とシオンさん。この二人がどういう能力を持っているかは正直あまり分かっていないけど、『奇跡』とかいうチートが俺含めて三つあれば、いくらあの速度と攻撃力があっても人数有利で勝てる筈なのに。

 それをしない理由を信世が考えていない訳がない。


「どうしてよ。人が多い方が有利だろ」

『『奇跡』は殺されると奪われる。あの行動速度から逃げれそうにない紡祇を連れて来ても敵が強くなるだけだ。シオンに至っては俺の体を操っている奴の味方、要は俺達の敵。シオンが紡祇を連れて来る前逃げないともっと最悪な事態になる』

「紡祇を殺されない様に遠くに逃げろって事か」

『そうだ』

「んで、お前の体のスタミナ切れはどの位で終わりそうなんだ?」


 一番重要なのはコレ。消耗戦しろと言われても、相手がどの程度まで動けるか次第で俺のスタミナ管理が変わっていく。相手の動き的には行動開始した時点で『奇跡』を発動して避ければ余裕で間に合うが、それを常に行うと俺の『奇跡』によるスタミナ切れが起こってしまう可能性もある。


『そうだな……さっきの調子でやり合うならザっと10分程度だろうな』

「なるほどねぇ」


 持っていたスマホで自分の髪色を見る。

 今まで『奇跡』を使ったのは信世との交戦時と、スライム娘だったシオンさんに蹴りを喰らわせた時、後は信世からのじゃれ合いで負った怪我の治療くらいか。その調子で使って髪色の変化は三分の一程度と。

 一番『奇跡』を使ったであろう紡祇宅での交戦じゃあ10分以上使っていて、尚且つそれ以外にも度々使ってこの状態だ。

 割と余裕あるな。


『やれそうか?』

「んー俺はそんな計算は出来る方じゃねぇけどよ」


 軽く準備運動をして体の筋肉を解す。

 俺は信世みたいに色々考えてすぐ動くなんて難しくて出来ない。いつも後れを取って、身体能力での単純な力比べ以外に勝てる所は何一つない。

 そんな完璧超人の朴念仁が珍しく困ってるんだ。


「友人の頼みを『やれない』だなんて断る訳ねぇだろ」

『お前のそういう単純な所、嫌いじゃない』

「単純ってなんだよ~。素直って言ってくれよな」

『はいはい。素直だな』

「うわテキトーすぎ」


 さて、体も緊張解れた所で気合入れ直しますか。


 攻撃をちょっとでも掠れば即終了。常に大振りの実質即死技持ち相手に10分位耐久っと。

 信世みたいに先読みしてくる訳でもない単純な相手。そこまで複雑じゃない相手の動きを観察して避けるだけの簡単なお仕事。楽勝だね。

 靴紐を結び直して、操られた信世に背を向けてクラウチングスタートのポーズを決める。


「カウントダウンよろ!!」


 ピストル代わりの3秒カウントを心待ちにして、全身に力と『奇跡』を込める。


『解放三秒前!』


 陸上の大会とは比にならない心臓の鼓動が止まらねぇ。


『3!』


 同世代だけで走る勝ちが見え切ったつまらないレースとは緊迫感が天と地のさがある。命が掛かった逃げ一択のレース。

 ゴールテープも順位も存在しない。だけど報酬は明確にある。


『2!』


 完璧超人の朴念仁から送られる称賛と、稀に見せてくれる信頼して良かったと言いたげなあの表情。

 それが得られるのなら、喜んで翔けようじゃないか。


『1!』


 不安なんて無いさ。頼ってくれた信世の期待を俺が裏切る訳ないだろ。


『0!』


 地面を蹴飛ばし翔ける。

 風さえも置き去りにして。

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