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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
兄妹愛

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第79話 兄弟愛5

 それは聞き馴染みのある友人の声ではなかった。近年よく見る流暢なボイスロイドみたいに滑らかに話しているが、そこには感情が一切感じ取れない。人間のいくつかの要素だけを拾って作ったロボットの様な()()()()()()()()()()()()()()()()だった。


「なんで声が……お前は一体」


 誰なんだ。その言葉を口に出す前に信世は姿を消していた。

 直後に聞こえたのは彼からの返事ではなく周囲に響き渡る破壊音。音の発生源である獣人の方向を見ると、そこには獣人の代わりに真っ赤な髪を携えた信世が立っていて、本来そこに居たはずの獣人は倒壊した噴水に埋まっていた。


「______。___________」


 噴水の欠片を払い除けて口からノイズを発する獣人。

 落ちて来てからずっと口から鳴らしているこのノイズ。一応口から鳴らしているみたいだから異世界の言語なのだろうと勝手に判断しているけど、シオンさんならこの言語? を理解出来るのだろうか。

 理解出来ていたとして今のシオンさんが教えてくれるかどうかは微妙な所だが……。

 そんなノイズを理解しているかどうか推測すら出来ない信世は、獣人噴水から起き上がるのを確認した瞬間に再び姿を消す。

 次に起こる事は予想出来る。


 噴水の水が衝撃波と共に辺り一面に飛び散る。

 また攻撃しに行ったんだ。


 地面を背にした獣人と取っ組み合う信世。そのまま押し切るかと思いきや獣人が体を捻って外へと力を逃がして拘束から解放し距離を取る。

 逃がすまいと一瞬で距離を縮めて顔面を狙って何度も拳を振るう信世。一撃毎に獣人が避けた先の地面が抉れていく。


「なんだアレ……信世らしくない」


 喧嘩した時はあんな雑なやり方絶対にしない。投擲、搦手、フェイント、先読み、使える物は全て使って確実に安全に勝ちに来るのに、信世ではあり得ない単調過ぎる動き。

 その動きにも慣れて来たのかとうとう獣人が反撃する。

 大振りの攻撃を何度も回避して、ようやく見つけた隙を狙って信世の腹部へと太い拳が突き刺さる。


「ぅあ」


 一瞬宙に浮いて吹き飛ばされる。しかし呻き声を上げた瞬間、不自然に体が獣人の拳を押し返して元の場所に戻る。


「___!?」


 獣人も予想だにしない動きだったのか、不可解な現象に驚いたその一瞬を突かれて信世の大振りな右フックを無防備に喰らう。

 その一撃は外見以上の威力だった。

 あの巨体が地面でバウンドする事なく真っ直ぐに吹き飛んで俺の真横を取り抜けて行く。壁に衝突し地面に落ちた彼の顔は、起き上がるまでもなく血で染め上がっているのが分かる。


「やったか……ッ! あっやべ」


 こう言うと敵が復活しそうなフラグが立ってしまうと思ったが現実はそんな事は無く。いつまで経っても起き上がらない獣人に安堵して信世の方へと視線を向ける。自身の掌を開いたり閉じたりして不思議そうな顔で見詰めている信世。

 一気に変わった髪色や、あんな身体能力をどうやって手に入れたかとか気になる事が多いが、とりあえずは一難去ったので労いの言葉は送っておこう。


「おーい信世~!」


 そうして信世の元に行こうと駆け寄る。

 無機質な表情をした信世が俺を見たその時、信世の体が一瞬だがブレた様な気がした。俺はその小さな違和感に気付きながらも信世だから大丈夫だと、俺の長所たる能天気さでそのまま駆け寄ってしまった。

 数秒だけ残像を残して信世の姿が消える。


『下に避けろっ!!!』


 それと同時に脳内で信世の怒号が聞こえる。言葉の内容を理解する前にこの声には従うべきなのだと脳が勝手に考えてしまう。

 この感覚は紡祇の家で何度も味わった。多分、信世の『奇跡』だ。

 言われるがまま膝を曲げて上から来るであろう何かから避ける動作をする。直後に頭上で何かがとてつもない速度で通り抜ける音がした。


「ヒィッ!?」


 目の前には信世の腹が視界を遮っていた。


(まさかっ!? 俺を狙ったのか!?)


 一度拳を振るって満足したのか、ゆったりとした動きで俺に目線を向ける信世。何を考えているのか、そもそも何か考えているのかすら分からない友人から兎に角距離を取ろうとして、『奇跡』で身体能力を上げて距離を取る。

 何かがおかしい。ずっとおかしいが更におかしくなって来ている。

 おかしくなった友人の目的を考えようと脚を止めた直後に再び『奇跡』の声が聞こえる。


『止まるな! 逃げ続けろ!』


 今度はその言葉の内容を理解して動く。体は自分の意識とは別で勝手に動いてはいるが、目的は同じなのでさっきよりも洗練した動きになっている。

 避けた場所を見てみると、やはりそこには信世の姿があった。表情を見る余裕は無い。ただそこに居るのは、ゆっくりした動きで俺を見付けては瞬間移動して攻撃してくる人間だという事実だけだった。


「どうしちまったんだよ! そんなに俺が嫌いなのか!?」


 執拗に狙って来る信世の隙を見付けては言葉を投げ掛けるが返って来る言葉は一つも無い。

 幸い、瞬間移動して殴って一度止まると言うパターン化された単調な動きだから避けれてはいるもののゆっくり会話出来そうな感じは無い。逃げた時の背中から感じる拳からの風圧で会話以前に攻撃が直撃しないのを第一に動かないと死んでしまうと理解させられてしまっている。

 頼りになるのは脳内で響く信世の声だけ。


『反撃しようと思うな!!』

『『奇跡』を過剰に使い過ぎるな!!』

『俺が止まるまで逃げ続けろ!!』


 何度も信世から『奇跡』を帯びた声で指示される。

 どうして脳内に響くこの声だけがまともなのか理解のしようがないが、信世の言う事ならある程度は大丈夫だと信用して兎に角逃げに徹する。


 流石に『奇跡』の強制力には耐性が付いてきたが、異世界の力を使わなくても俺は信世の言葉は信じている。

 例えその時は裏切られても、それは俺の為を思って、最後には全て良くなる様にする為に言っている事だと分かっているから。

 だから真面目な時の信世の言う事には文句があっても従おう。その意思だけは曲げたくない。信世を信頼している証だから。信世が俺を頼りにしてくれている証でもあるのだから。


 そうして何度か避けた時。

 脳内に響く信世の口調がガラッと変わった。


『『奇跡』の耐性付けたな。作戦会議するぞ』

第71話 閑話 メイド喫茶『とらんす♂』3後書きSS


とある日の紡祇宅(真夜中)二人きりでお泊り会

紡祇「しーんーやっ! 何見てるの?」

信世「最近始まったアニメの録画」

紡祇「へぇ~。バトル? 日常?」

信世「いんや。恋愛」

紡祇「おおっ! 信世にしては珍しいの見てるね。もしかして恋愛のお勉強?」

信世「まぁ、それも無くはないが……」

紡祇「無くはないが?」

信世「あんましこのアニメ現実味ねぇな」

紡祇「アンタが言いますか」

信世「え?」

紡祇「え?」

信世「え?」

紡祇「あー……そっか。あっ! ヒロインちゃん可愛い~信世ってこういう女の子好きなのぉ?」

信世「このキャラ男らしいぞ」

紡祇「なんですと」

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