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異世界転生、ちょっと足りない  作者: 藍澤 建
第三章【鋭き牙を隠し持つ】
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058『騒ぎ』

 アトラス殺し。

 僕と同じ、転生者。

 900年前の英雄が……まだ、どこかで生きている。


 そう言われて――不思議と、あんまり驚きはなかった。


「あれ、驚かないんだね」

「そりゃそうだろ。僕の知り合いなんざそれ以上の老人ばっかだぞ」


 オルドに、アルテナ様。

 あと、ぶっちぎりで年齢不詳の白い魔女。

 ジジイにババァだらけだぞ、こちとら。

 いや、アルテナ様にババァだなんて言えないけどさ。


 今更彼らより若い英雄が生きてたからって不思議なことは無い。

 ……まぁ、900歳とかちょっと想像つかないけれど。


「ようは、いつかアトラス殺しに会う日が来るってことだろ?」

「そういうこと。その時は素直に頼りなさい。っていうか、彼に頼らなかったら君、真面目に死ぬからね。ホントに気を付けなさいよ?」


 そうか、死ぬか。

 未来を語る彼が言うのなら……まぁ、ほんとにヤバい状態なんだろうな、その時は。

 今から少しでも訓練量を増やしておくべきか……。

 そう考えていると、彼はいきなり立ち上がった。


「さーてと! 言いたいことは言ったぞー、悔いはなし!」


 言いたいことだけ言って、テラ・イヴンは帰る気満々だった。

 が、ここで帰らせるわけにもいかない。


「ちょ、ちょっと待て! 半分って言ってなかったか!?」


 一つ目のアドバイス、これで半分。

 そんなことを言ってたはずだ、この男は。

 そう思い出して声を上げると、彼は、はっと目を見開いて口を押えた。


「そうだったそうだった! 次のアドバイスは正直あんまり意味ないし、なんだったらもう手遅れだから、すっかり忘れてたよ。重要度が低いっていうのかな」

「……なんだよそれ。最後なんだろ、一応聞かせてくれよ」


 呆れた目でそういうと、彼は笑って頭をかいた。

 そして言い放ったのは、僕が予想だにしていなかった事実。



「英雄殺しオーディ。君が倒したあの男ね、まだ全然終わってないよ」



「……………………は?」


 思考が、完全に固まった。

 英雄殺し。

 あの厄介な男。

 戦士としての僕よりもずっと強かった、忘却の獣。


 ……終わってない?


 なにが、どうして?

 疑問が浮かぶ。

 それと同時に、彼は言う。


「君も分かってただろう? 彼はこんな序盤で出てきていいような相手じゃない。もっと違う世界線でなら、ちゃっかりとラスボスを務めていたって不思議じゃない。そういう格だし、そういう強さだし、納得できるだけの『賢さ』がある」

「……だけど、あいつは投獄されたんじゃ」

「投獄、ね。あの時はルナ少女に気を使ったのだろうけど、殺さなかったのは君の落ち度だよ」


 声が、少し震えていたと思う。

 それだけ、こいつの言ってることは重大で。

 なんだったら、遥か未来の変な助言よりずっと大切だった。



「あいつ、脱獄したんだよ。昨日の晩にね」



 英雄殺し、オーディ脱獄。

 その知らせは、僕の意図せぬ場所からもたらされた。




 ☆☆☆




「うむ! こちらこそ実に楽しい戦いだった、感謝す――」

「殿下、英雄殺しが脱獄したみたいです。調べられますか?」


 時間が、再び動き出す。

 僕に対して握手に応じたアイサ殿下は、再びぴたりと動きを止めた。


「……情報筋は」

「テラ・イヴンを名乗る変質者です」

「それはまた……事実、なのだろうな。神出鬼没なあやつのことだ」


 はぁ、とため息ひとつ。

 彼女は握手をとき、額に手を当てた。


「うむ。承知した。他に何か言っていたか?」

「……ええ、昨晩脱獄した。もう手遅れと」


 彼の言葉を思い出す。

 時間の停止が解ける間際。

 彼は去り際に、こう言い残した。



『今からが、()()()()()()()()



 彼は言った。自分は物語を最後まで見届けられないと。

 物語。彼は僕の人生をそう表した。

 つまり、彼は第三者の視点から。

 僕の人生を、山あり谷ありの『英雄譚』だと楽しんでいる。


 ならば、本番とは――。


 そう考えれば、すぐに答えは導き出せた。


「アイサ殿下。恐らくですが……」


 その瞬間、強烈な気配がした。


 序列戦は既に終わり。

 封じられていた【死期察知】は平常運転。

 反射的に意識外の危機へと体を動かす。


 手斧状態の城崩しを、頭上へ一閃。


 それは考えるより先に放った一撃。

 渾身の力を込めた、全力の迎撃。


「重、もッ……!?」


 感じたのは、尋常ではない重さだった。

 視線を上げる。

 僕の目に映ったのは、黒い襤褸に身を包んだフードの人物。その手に握られているのは……反り返った一振の剣。厳密には『刀』と呼べるものだった。



「へぇ? これ、受け止めるかよ!」



 聞こえたのは、女の声だ。

 顔も体格も何も分からないが、おそらく女性。

 そんな人物から不意打ちで放たれた、ただ一刀の振り下ろし。それを真正面から迎撃して……がくりと、膝が落ちる。


「シュメル!」


 アイサ殿下が動き出す。

 ――より早く、見覚えのある剣が煌めいた。


「今、シュメル様を殺そうとしましたか?」


 竜剣レオニス。

 アイサ・クローズの誇る国宝魔導器が、超速にて舞う。

 背が凍るほどの冷たい声と共に、空中の襲撃者を竜剣が襲う。


「……っと!? こりゃ危ねェなぁ!」


 襲撃者は空中で身を捩り、咄嗟に回避する。

 その身のこなしに目を見開くと同時に、アイサ殿下の剣が煌めく。

 最初に見た銀色の剣だ。

 手加減などない、全力の一振り。

 それをまた、襲撃者は風のように回避する。


 危なげなく着地した女は、数歩僕らから距離をとる。


「あ、そっか。忘れてたぜ! お前がシュメル・ハートでいいんだよな! 赤髪、って言われてたから、あの控え室にいる女と迷ったんだけどよ!!」

「……何者だ、お前」


 答える義理はない。

 目の前の女に、ひたすら警戒心を高めていく。

 僕に膝をつかせる膂力。

 クラリス殿下の竜剣を回避し、続くアイサ殿下の攻撃をも回避した身のこなし。いずれも尋常ではない。


 しかも、声を聞く限り大人ではない。

 むしろ、子供だ。僕らと何ら変わらない年齢だろう。


 警戒するな、というほうが難しい話だ。


「シュメル様! お怪我は……」

「ありません。それより殿下、お力添えいただいてもいいですか。()()()()()()()


 駆けつけてくれたクラリス殿下に、素直に助けを乞う。

 あくまで直感。根拠は無い。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな気がしてしまった。


「……っ! お任せを! シュメル様のお願いとあらば全力でお手伝いいたします!」


 だが同時に、二人ならば確実に勝てる相手だ。

 わざわざ危険な賭けに出る必要はない。

 どこの誰だろうと、二人で確実に仕留めるまで。


「おっと、その『殿下』とやらは私も含まれているのかな?」

「すいません、含まれてませんでしたね」

「おや、仲間はずれか。傷ついたので参戦しよう」


 しかも、隣には上機嫌なアイサ殿下も居る。

 加えて、少し離れたところにはグレイス学園長、それに……実力は不明だが、シルバー先生の姿もある。


 周囲を見渡し、僕は再確認した。

 この襲撃者単体でどうこうなるような状況では無――



「……まさか」


「聞いてるぜ? 頭がいいんだってなァ」



 こいつ単体ではこの状況は覆せない。

 どう足掻いても勝ち目は無い。

 そんなの分かりきってることだ。


 なのに、この女は襲撃してきた。


 なら、そこには『勝ち目が隠されてる』ってことになる。


()()()()()()……! 二人とも、警戒を!」


 嫌な予感が背筋を走った。

 襲撃者は、一人じゃない。

 そしてこの女の言動から察するに……狙いは僕だ。

 ならば今、一番危険なのは――。


 咄嗟に二人を振り返る。


 シュメル・ハートを消す上で。

 今、一番邪魔なのはこの王族二人だ。


 振り返った先で、その男と視線が交差する。


「おや、ご名答」


 二人の殿下、その背後に。

 白いローブを羽織った、学者然とした男がいた。

 教員、では無い。

 纏う空気が血生臭すぎる。


 ――明確に、敵だ。


 そう感じた瞬間には、動き出していた。

 二人の殿下が背後を振り返る。

 それより早く動き出した僕――より、さらに早く。

 小さな影が割り込んだ。



「で、なんじゃ。ワシよか弱いじゃろ」



 短い白髪が風に揺れる。

 小柄に似つかわしくない甚平姿に。

 からん、と下駄の音が静かに響く。


「……氷魔の王、グレイス学園長ですか」

「知ってて攻め込んだわけじゃな? こっちは気にせんでええぞシュメルの小僧。なんじゃったら、そっちのガキンチョもシルバーのやつに対処させるからの」

「……パワハラですか? 勝てるわけないでしょう」


 呆れた様子で肩をすくめるグレイス学園長。

 そんな彼女の声を受け、いつの間にか近くまでやってきていたシルバー先生がため息を漏らす。


「何がしたいのかは知りませんが……狙うなら、学園長の不在を前提にするべきでしたね。無駄に歳を食っているわけではないんですから、それなりに強いんですよ、その人」

「シルバー、お主減給な?」


 ぎろり、と学園長がシルバー先生を睨む。

 鋭い視線をサラリと受け流し、首を横に振るシルバー先生。そんな二人の会話を受けて、なお。

 学者のような男は、余裕を崩さない。


「そうですね。ごもっともな正論です。万全を期すのであれば、彼女の不在は前提条件。それくらいは分かっていますが……」

「……む?」


 そっと、男の手が学園長の肩を掴む。

 当たり前のように、さらっと自然に。


 敵対する学園長の、間合いへ立ち入る。



「何事にも、相性というのは存在するでしょう」



 直後、衝撃が弾けた。

 先程の刀の一撃を優に超えるような、爆発するような衝撃。それと同時にグレイス学園長の体が吹き飛ばされる。


「な……ッ!?」


 オルドと同格。

 そう判断したグレイス学園長が、攻撃を受けた。

 そのありえない光景に目を見開くのと同時に。



「お忘れかよ。テメェの相手は俺様だぜ?」



 背後から肩を捕まれ、耳元で囁かれる。

 咄嗟に身を捩る。


 と同時に、痛みと鮮血が走った。


「が、は……ッ!」

「ははっ! あの一瞬で致命傷回避するかよ!!」


 肩から脇へと、一閃。

 肉体が両断される――その前に。

 心臓間際に城崩しを割り込み、受け止め。

 なんとか心臓への刃の到達を食い止める。


 だが、ダメージは甚大。

 肺に入った血液を、口から吐き出す。

 あまりの痛みに顔が歪み、視界が霞む。


「シュメル様!?」

「あー、あー、煩え煩え。お呼びじゃねェんだよ。喧し豚共。俺様なぁ、ひり付くような殺し合いに邪魔が入るのが大っ嫌いなんだよ!」


 無理やり刀を抜かれ、勢いよく血が弾ける。

 それと同時に反転を回すが――間もなく死期が迫り、咄嗟に飛んできた蹴りを両手で受け止める。


 だが、踏ん張ることは叶わない。

 赤竜にぶん殴られた。

 そう錯覚するほどの衝撃と勢いで、僕の体は訓練場の外まで吹き飛ばされてゆく。


 その刹那。


 僕のことをじっと見ていた学者風の男と、視線が交差する。


「まぁ、殺したくないのが本音、なのですけどね」


 そんなことを言い放ち。

 貴族のような一礼を挟め、男は言った。




「傭兵団【四律の天秤(アンチカルサー)】、君の命を頂戴にまいりました」



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― 新着の感想 ―
グレイスが吹っ飛ぶだとぉ?! あのロリババ……ロリが?!
グレイスピンピンしてそうwww オーディ一人称以外は強キャラだったから納得 別に変な一人称の強キャラはおかしくないか、威厳がないだけで
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