表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生、ちょっと足りない  作者: 藍澤 建
第二章【その芽は未だ青くとも】
PR
56/58

055『隻眼の後継者』

 史上最強は誰だ。

 いつだって、その議論は世界のどこかで語られていた。


 世界には英雄がいた。

 過去の英雄譚が残されていた。

 生ける伝説が闊歩していた。

 伝説を殺す魔物が暴れていた。

 そして、それを殺す英雄もいた。


 民衆は語る。語り継ぐ。


 誰が最強だ。

 人も人外も押しなべて。

 一番強い、()()()は誰だ?


 世界へ絶望を振りまいた初代魔王か。

 その魔王を打倒した勇者ルミエールか。

 彼女を導き、今なお生きる魔女ステラカヴァズか。

 数百年の絶対平和を国に贈った単騎城塞か。

 アトラス殺し、特級指定竜種をすべて駆逐した剣の鬼か。

 吸血鬼族の『陽』への弱点を克服させ、多くを救った鬼の祖か。

 生ける伝説、個で戦争を終わらせた息子想いの剛腕か。


 誰だ。

 誰が一番強いんだ。


 多くの者が熱をもって語り合う。



 ――そのただ中で。


 数千年を生きる魔女は「答えは簡単だ」と鼻で笑う。



「最強? 私でしょ。だって負けたことがないわけだしね」



 フォルス・トゥ・ステラカヴァズ。

 自らが最強だと、彼女は明言する。

 恥ずかしがることもなく。

 謙遜することもなく。

 当然のように、純然たる事実として。

 不動の結論を、改めて口にした。


「また……ずいぶんと大きく出ましたね」


 神の寵児アルテナは、困った顔で苦笑する。

 対するは、つまらなそうに唇を尖らせる霜天の魔女。

 古き友人として、今は壊れてしまった敵として。

 アルテナは遠い昔を思い出す。


「ですが……そうですね。純粋な実力比べにおいては一考の余地はありますよ」

「一考? 余地ないでしょ。誰と比べてるわけ?」


 そう問われ、返答に困ることはなかった。


「魔王、アトラス殺し、吸血鬼の祖。彼らならどうです?」


 千年を生きるアルテナ。

 彼女がその人生において、絶望的な力の隔絶を感じたのは()()

 一人は、霜天の魔女ステラカヴァズ。

 もう一人は、かつて打倒した魔王、その人。


 ――そして、歴史に名を遺す英雄二人。


 片や、自分たちより百年後に生まれた剣鬼。

 片や、いにしえより永遠を生きる吸血鬼の祖。


「……あぁ、剣鬼クレストと、クラッシュベル。懐かしい名前だね」

「勝敗すら反転できる以上、勝つのはあなたでしょう。最強議論の結論には私も異論はありません。……ですが、シンプルな実力に限って言えば別の話」


 アルテナの言葉に、フォルスは少しむっとする。

 そういえば、だ。

 魔王と対峙した時も似た感情を抱いた。

「相手の方が強いかもしれないが、戦えば勝つのは私だ」と。


「無敵の不死殺しと、不老不死の怪物。果たして勝てますか?」

「……やめてよアルテナ。あいつらは()()()()()()()()()。私は同じ『人』に殺されたいのであって、獣に噛み殺される趣味はないんだ」


 元がどうであったのかは、フォルスも知らない。

 だが、今の「あいつら」は人ではない。


「無敵というのは、無生物の証明だ。吸血鬼の方なんか、私が生まれるよりずっと前から神に至ってる。神様にケンカを売ろうだなんて……そんな頭のイカレた奴いるわけが――」


 ――いるわけがない。

 そう言いかけて、フォルスは、はたと思い出す。



「……そういえばいたね。死神にケンカ売ってたやつ」



 視線は、部屋の隅っこで居眠りをしている老人へ向かう。

 すぴすぴと眠るその姿は、年齢相応にしか見えない。

 だが、かつての彼を思えば、その姿はまるで異なる【獣】と映る。


()()()()()()()()。そんな理由で神界まで乗り込んで、死神まで直談判。不死を断れた挙句、逆切れして大暴れ」

「その時、死神様を殴ったことがきっかけで、単身、神界全土と大戦争。最高神様ですら手が付けられず、しまいに、応援にやってきたクラッシュベル様の片腕すら切り落とした」


 神界をめちゃくちゃにされた神族からも。

 祖の片腕を切り落とされた吸血鬼族からも。

 多くの怒りと、それ以上に大きな恐怖を植え付けた人類最強の狩人。


 今は衰え、見る影もないが。

 かつての『隻眼のオルド』を想い、フォルスは微笑む。



「人の中では、昔のオルドがぶっちぎりで最強だったからね」



 ま、当然私を除いて、の話だけれど。

 そう結論付けて、霜天の魔女は窓の外へと視線を向ける。


 想いを馳せるは、その後継。


 史上最高の潜在能力。

 魔女が導き、狩人が教え。

 オルドが早くして「教えることがない」と呆れた怪物。


 人類最強が、文字通りに『全て』を教えた学び子は。


 きっと、当然のようにその座に至るだろう。




「いつかその牙は、私の首にも届くんだろうね」




 ☆☆☆




 アイサ・クローズ。

 彼女はシュメル・ハートをよく知っていた。


 妹を助けた救世主。

 隻眼のオルドに弟子入りした次世代の英雄。

 王城に入り浸る、氷の魔女が育てた怪物。


 自分から『神童』の呼び名を奪った男。


 気になる要素はいくらでもあった。

 最初は、妹を任せるのに大丈夫かという心配から。

 次に、自分を超える才能に対する嫉妬から。

 彼女はシュメル・ハートに興味を持った。


 だから接触し。

 

 その少年の前に立ち、理解に至る。


(うむ、これは勝てないな。なんだこの男は)


 口にも表情にも、一切出さなかった。

 だが、相対して理解できたこともあった。

 この学園の誰もがシュメルの力量を読めないように。

 アイサもまた、シュメルの全てを読み切れなかった。


 シュメル・ハート。

 彼の金色の瞳に見据えられて。

 最初に感じたのは、恐怖だった。


 珍しい色ではあれど、なんの変哲もない瞳。


 だけどその根底に垣間見た。

 幾百、幾千と――彼が殺してきた『血』の色を。

 それが人とは限らない。

 動物や魔物の可能性だって高いだろう。

 だが、その血の色は、その濃さは。


 到底、今の自分に太刀打ちできる経験(モノ)ではない。


 才能の話ではない。

 それ単品では、シュメルもアイサも同等だ。

 だが、その上で。

 重ねてきたモノも、年数も違う今。

 年上であるはずのアイサ・クローズ。


 彼女は、自分の劣等を()()()()()()()


「なのに、普通に戦えている。これはおかしい。なにか変だ。そうは思っていたんだ」


 その時になって、彼女は再び理解する。


 シュメル・ハートと戦い。

 彼の身体能力が自分以下だと理解した。

 才能だって同列なものだと把握した。

 純粋な近接戦闘においてこちらが勝ると考えた。


 その上で、大前提としていた直感が否定されていたため、彼女は首を傾げる思いだった。


 その違和感が。

 疑念が、嫌な感じが。


 ――今、解消される。



()()()()()()()()()()()()、か」



 シュメル・ハートは顔に汚れを塗る。

 アイサの目には、それが何かの『合図』に見えた。

 あるいは、切り替えのスイッチだろうか?


 彼の表情から――感情が落ちる。


 この極限状態において、脱力に両手が揺れる。

 構えが変わったというより、構えが、壊れた。

 両頬に塗りたくったのは、三本線の汚れの痕。

 獣の髭のようにも見えるその汚れ。

 見方を変えれば、それは狩人特有の刺青のよう。


 その目から、光は失せた。


 見開かれていた瞼が落ちる。

 細められた目の奥に煌めくは――純然たる殺意のみ。


 その姿に。

 その殺意に、背筋が震えた。


 それは恐怖によるものでもあり。

 同時に、未知への武者震いでもあった。


「……っ、は! それが、本来の姿か!」


 戦士のソレとはかけ離れている。

 どう見ても()()()()()()()()姿()()()()()

 だから隠したのか。

 だから手加減していたのか。

 そう理解すると同時に、彼女は叫ぶ。


「これより先は、命の取り合いといこうか! 戦士ではなく一人の人間として! 恥も外聞もない泥試合を所望する!! 逃げてくれるなよシュメル・ハート!!」


 あえて観客席に聞こえるように、叫び通して。

 アイサは満足気な笑みを浮かべた。


 さぁ、これで『言い訳』は済んだ。


 これ以上は、小手先の技はいらない。

 剣を構える。

 先程とまでは、異なる覚悟で。

 身体能力も戦闘技術も。

 自分よりまだ劣る少年へ。


 たった一つ、『経験』だけが勝てない相手へ。


 その経験とやらは、いかほどだと。

 時代の麒麟児は、全霊で挑む。



「さぁ、『1』(いのち)を賭けて、殺し合いだ!」



「――火の一【狼骨(ろうこつ)】」



 みしりと、嫌な音が聞こえた。

 音が聞こえた先は、彼の両腕。

 制服の隙間から見えた彼の腕は、形を大きく歪めていた。原型こそ残しているものの――それは人の腕ではなく、まるで狼の腕のように見えた。


 獣のような凶悪さと。

 鎧のような頑丈さ。

 それらを持ち合わせた異形へと、腕を作り替える。


 それは魔力による身体強化では、ない。

 純粋な筋力操作(マッスルコントロール)による技術の極点。


 隻眼のオルドが作り出した、殴り合いの前の作法。

 神を素手で殴り殺すための、最低限の筋肉武装。



 ――当然、人が触れれば挽肉まっしぐらだ。



「うむ! 触れれば死ぬな!」



 それを理解した上で、アイサは迎え撃つ。

 シュメルが始動する。

 一切の予備動作なく、初手から最高速へ。

 瞬くような接近に、彼女は当然のように反応する。


「ハァッ!!」


 タイミングは外さない。

 間合いなんて見誤るものか。

 アイサは『神剣』を眼前のシュメルへと振り下ろす。


 ――だが。



「煙の二【大過亡く】」



 全霊で振り下ろした剣。

 万象を切り裂く大英雄が神剣は。


 ぬるり、と。


 無骨な腕で、受け止められる。


 ……それはありえない感覚だった。

 受け止められたはずなのに。

 受け止められたのを見ているはずなのに。


 受け止められた、と。

 その感覚だけが、どこかに消えて。

 彼の残り『1』ポイントは、全く変動を見せていない。


「し、衝撃全てを受け流した……ッ!?」


 ありえない。

 が、現実がそうと告げている。

 本気の一振。

 神剣の一撃。

 それを()()()()()()()()()()()()()()()()


 馬鹿げてる。

 意味不明な技術の塊。

 それを目の当たりにするアイサを、技が襲う。



「火の四【霜月】」



 直感が叫ぶ。

 回避しろ、と。


 咄嗟に神剣を手放し、全力回避。

 と同時に、先程までアイサのいた場所を掌底が撃ち抜く。


()()()()、か! それは痛いな!」


 その狙いを見抜き、アイサは苦笑い。

 みぞおち。

 人体の急所のひとつ。

 強く打てば呼吸が止まり、人体は動きを止める。


 ……凶悪な技だ。


 一撃でも受けてしまえば、次の致命傷を躱せない。

 というより、あの『腕』での攻撃だ。

 次の一撃など許されない。

 みぞおちどころか、胴体すら貫通して一撃だ。


 だが、喰らわなければどうということもない。


「『火』とやらは物理的な技、『煙』とやらは、少々トリッキーな技の種別と見た!」


 距離を取り、時空を割る。

 その中よりもう一振の剣を呼び出す。

 先程とは違うもの。

 今度は、夜空のように黒い剣だ。


 これが何かを、彼女は知らない。

 知らないがまま、思うがままに振るうだけ。


 ――ただ、振るうことができるかどうかは別の話だ。



「火の三【遠雷】」



 虚空を打つ、拳。

 間合いの外側での行動に、アイサは困惑。

 ――直後、聴覚が風切り音を捉えた。


「な……っ!?」


 直感に従い、何も無いはずの空間を避ける。

 傍から見れば、意味の分からない行動でも。

 間一髪。

 彼女の髪が、まるで弾丸にでも撃ち抜かれたように激しく揺れる。その光景が物語る。


「遠距離攻撃……! そんなのもできるのか!?」


 拳で空を打ち。

 その衝撃を飛ばす。

 言語化すればありえないことを、やってのけている。


「つくづく常識外れ! だが!」


 遠雷と同時に、シュメルは再び距離を詰めていた。

 その姿を見逃すアイサではない。

 シュメルの拳が始動する。

 その動作を確認してから、アイサも動いた。


「――ッ」


 攻撃の完全受け流し。

 大過亡く、とやら。

 ソレがある以上、攻撃は通らない。

 どう足掻いても勝ち目は無い。


 ――と、考えるのはあまりに()()()()()()


 思考停止はつまらない。

 困ったのなら、考えて、考えて。

 可能性でも、行き当たりばったりでも。

 弱点かもしれない、って当たりをつけて突き進め。


 そっちの方が、彼女は面白いと感じてしまう。


(先程は完全に流された! だが!)



 ――()()()()()()()()()()()()、とかはどうだ?



 その可能性にかけて、彼女は動く。

 狙いは、シュメルが攻撃するタイミング。

 その瞬間を狙っての――相打ち狙い。



 結論からいえば、その狙いは正しかった。



 シュメルの技は、まだ発展途上。

 彼は攻撃中に受けた衝撃までは、受け流せない。


 故に、アイサの考えも行動も、最適に近しい。




 ただそれでも、届かないものは届かない。




()()()――【煙る鏡】」




 シュメルの拳が迫る。

 それに合わせた、アイサの剣撃。


 間合いは外さず。

 タイミングも完璧。

 何ひとつとして文句の言えないカウンターを前に。


 ふっ、と。


 その拳が。

 シュメルの姿が。


 剣撃を前に、()()()()()



「は!?」



 それは堂々とした敵前逃走。

 正確にいえば――相手への誤認識強要だ。


 アイサの読んだ通りの、トリッキーな『煙』の技。


 その最奥に眠る『奥義』とされた、嫌がらせ。

 されど戦闘中にされてはたまったものではない。



 俗に呼ばれる、()()()()()、とやらの極地。



 アイサの剣が、空を切る。

 その間合いの、拳ひとつ外側で。

 彼はまんまとタイミングをずらして拳を構える。


 その姿に、アイサは思わず頬を引き攣らせる。



「……なにを、されたのかも分からないが、これだけは言えるぞ、弟くんよ」



 ――拳が、振り抜かれる。


 対処する術など、最初から与えられていなかった。

 回避も防御も間に合わない。

 全霊の一振を振り抜いた、その瞬間を狙い撃ち。


 回避不能な一撃必殺。


 それは堂々とアイサ・クローズの腹を直撃。

 衝撃と共に、勢いよく吹き飛んでいく彼女を前に。



 ふと、シュメルの瞳に光が戻る。




「……君、ちょっと強すぎだよ」




 最後に、そんな言葉が聞こえた気がした。



 ――堂々、決着!

 

 以上、第二章【その芽は未だ青くとも】でした。

 次回より、第三章、開幕となります!


 ということで、ちょっとだけ次章予告です。



 ☆☆☆



 学び舎での「ぬるま湯」はどうだった?

 思うがままに楽しめたかい?

 それとも……やっぱり退屈だったかな?


 魔女は遠方より問いかける。

 疑問は届かず、想いは通じず。

 ただ、願いだけが彼へと届く。


「もう少し、刺激は欲しいところだよね」


 彼女は、かつての『仕掛け』へ目を向ける。

 あっさりと負けてくれたわけだけど。

 英雄殺し。

 忘却の獣。


「キミ、そんなんで終わるヤツじゃないでしょ」


 終えたはずの悪者退治。

 過ぎたはずの英雄譚、その一幕より。

 獣は牙を研ぎ、牢獄より空を見る。



 第三章【鋭き牙を隠し持つ】



「私は殺されるからね」

「アトラス殺し」

「全ての要は……あの女ですか!」

「ふへ?」

「なーに迷ってんのさぁ。殺せばいいじゃないの」

「クラッシュベルの末裔か」

「えっほ、えっほ、伝えなきゃ」


「シュメル・ハートが死にかけだって、伝えなきゃ」


「さぁ、夢が冷める時間だよ」


 

 次回――新章、堂々開幕。 


 こっから先は、退屈なんてさせないよ。



「そうか。その赤髪、魔王の因子と言うわけだ」


「君、名前は――ルナ、といったかな?」



 ☆☆☆



 ブックマーク、高評価お願いします。

 作者がとっても喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
銀君めっちゃ腕落とされてますやん そこだけいつか番外とかで見たい() で、次章が前コメ返で言ってたルナとの戦闘がある章かな? 面白すぎる。楽しみすぎる。感謝感激雨アラモード() なんかネットミームが…
例の吸血鬼は腕を切り落とされる運命にでもいるんですかねぇ あの最高神が手を焼き、クラッシュベル何某の腕を切り落とすって、オルド化け物すぎないか? あと、いずれ最強へと至る道670話から200年間教師や…
ぶっちゃけ雨森と現段階のシュメルって武力だけでいったらどっちが上なんですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ