047『準備運動』
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翌日、妙な噂が流れ始ていた。
「シュメル君ってさぁ……」
「ああ、聞いたぜ? なんでも魔眼使いを目指してるとか」
「それってあれでしょ? 子供たちがよくやってる……」
「子供の頃よくやったなぁ。魔眼の魔法使いごっこ」
「木の棒を振り回してねぇ。あの頃は楽しかったなぁ」
「それを本気で目指すだなんて……」
「へへっ、意外と子供っぽいところあるんだな!」
「うん、なんか近寄りがたいなぁって思ってたけど」
「俺、ちょっと話しかけてみようかな……」
周囲の声を聞き流し、一直線に教室へ。
勢いよく扉を開けると、クラスメイト達から生暖かい視線を受けた。
その中でよく目立つ赤髪を見つけると、僕はゆっくりと歩き出す。
「やぁ、シュメル君! 魔眼使いを目指してるって聞いたよ!」
「実は俺の護衛に魔眼持ちがいるんだ。どうだ、一度会ってみてはどうだ?」
「おーっほっほっほ! シュメル卿も人の子でしたわね! 好感高いですわよ!」
「えっ、ああ、ど、どうもぉ……」
クラスメイト達をかわしつつ、その少女の前にたどり着く。
赤髪の平民は、一生懸命に自分のノートに落書きをして遊んでいた。
「ふんふんふふーん♪」
「おい」
「んへぇ? あ、シュメルさん。おはようございまぁぁぁぁぁぁッ!?」
「おはよう。今日もいい天気だなぁぁ??」
問答無用で、ルナにアイアンクロー。
いつもと違い、今回は少し強めに締め上げた。
「なっ、なんっ、何するんですかーーッ! どういうつもりで……」
「どういうつもりもくそもあるかーーッ! この噂広めやがったのお前だろ!!」
シュメルは魔眼使いを目指してる。
そんな、ちょっと恥ずかしい噂が蔓延している理由。
その根源。
こいつだ。こいつしかありえない。
現に、ルナは僕の怒ってる理由を聞いて下手な口笛を吹き始めた。
冷や汗を流しつつ、アイアンクローに捕まったまま目を逸らす。
「な、なんのことですぅ? わたし、馬鹿なんでよく分からないんですけどぉ」
「こ、この野郎……ッ!」
「い、いいじゃないですか別に! ほら、魔眼の魔法使いを目指してるって聞いて、みんなシュメルさんと話したがってますよ! いままでメガネさん以外友達いなかったじゃないですか! ぼっちだったじゃないですか! だからいいじゃないですか! 友達を作るきっかけ、それこそが、頑張るあなたへ私からの小粋なプレゼント、ってことで……」
「おっと、手が滑った」
「うんぎゃああああああああああ!?」
みしり、とルナの頭蓋から嫌な音。
絶叫する彼女を離すと、ルナはそのまま力なく机に突っ伏した。
「う、うう……傷物ぉ、シュメルさんに傷物にされましたぁ……」
「……お前ほんとに変なこと言うなよ。気持ち悪い」
「気持ち悪いって言いました!?」
ルナの反応を無視して、近くの席に座る。
「……一応聞くが、僕の目については」
「……言われなくても、広めてませんよ。私だってシュメルさんの嫌なことはしたくないですし」
「してんだよ、今現在進行形で。だから聞いてんだろうが」
まぁ、百歩譲ってだ。
百歩譲って、ルナが僕の目の問題を広めなかったのは良しとする。
だがな、なんだよ魔眼の魔法使いごっこって。
「ほら、真実を隠すならそれ以上に衝撃的な嘘の中、っていうじゃないですか。あのシュメル・ハートが魔眼の魔法使いを目指してるだなんて……いろんな意味で衝撃的ですよ」
「そもそもなんなんだよ魔眼の魔法使いって」
「え? 子供の頃、友達と遊んだり……………………あっ、ごめんなさい」
「おいこら、なんの謝罪だそれは」
僕に友達がいないってことか?
悪かったですね、こちとら三歳から今まで修行三昧で。
強いて言うなら竜の庭に住まう怪獣たちがお友達です。
ふざけんな。
「あ、あまり落ち込まないでくださいね……? わ、私、お友達になりましょうか?」
「……あまり言うな。みじめになる」
何故か心に深い傷を負った僕は、頭を抱えてため息を漏らす。
「……まあいい、今日の放課後あけておいてくれ」
「えっ? デートですか? 奢ってくれるなら行ってやらんこともないです」
「序列戦だよ。……マジで初っ端戦わせるぞお前」
「い、いいい、いやだなぁ! じょ、冗談ですよぉ!」
冗談の顔じゃなかっただろ今。
そう思いつつも、僕は気にしないことにして話を進めた。
「実はここに来る前、もう一つ噂を流しておいた」
「えっと……どんな噂ですか?」
「シュメル・ハートは魔眼の練習中なんだろ?」
恥ずかしい噂を広められたのは事実。
だが、ルナならやるだろうと信頼があった。
なので色々諦めはつくし、なにより、恥ずかしいだけで終わるのももったいない。
と、いうことで。
「今なら。練習中の今なら倒せるかもしれない」
ジツハと戦って、周囲から僕へと向けられた感情は理解した。
身近な英雄。触れがたいが、超えられるのなら試してみたい。
そんな、畏怖と憧れが混じったようなものを、僕は同級生や上級生から向けられている。
だから、勝ち目があると噂を流した。
今ならば。
魔眼なんかにうつつを抜かしている、この瞬間ならば。
まだ、シュメル・ハートに勝ち目はあるのだと。
攻撃が見えないから、ではなくて。
魔眼なんてものを練習中だから、と曲解させて。
自身を餌に、魚を釣った。
「喜べルナ。今日からは対戦相手が大量だぞー」
「え、っと……なんか、嫌な予感がするんですけど」
その『予感』とやらに顔を歪めるルナに向かって。
僕は立ち上がり、短く笑う。
「大正解」と。
☆☆☆
『勝者、大魔導士ルナと愉快な仲間たち!』
『序列更新』
『34位→32位へ!』
『勝者、大魔導士ルナと愉快な仲間たち!』
『序列更新』
『32位→31位へ!』
「……なかなか、上がりづらいな」
「そうですね。最初の一度目に当たったパーティが、比較的上位だったのでしょうか」
放課後。
一時間と少しで、僕らは既に二度の序列戦を終えていた。
初回とは異なり、順位はなかなか上がっていかない。
……まあ、こういうこともあるだろう、と考えて噂を流したわけだが、まさか一時間で二回も戦えるとは思わなかったな。噂一つで想像以上の効力だ。
「お疲れ様です、殿下」
「いえ、まだ疲れるほどの相手ではなかったかと」
今終わったのが、通算三度目の序列戦。
戦ったのは、じゃんけんで勝ったクラリス殿下。
序列戦では魔導器が使えない。
そのため、貸し出された武器で戦う必要があるのだが……正直、殿下にはあまり関係なかったな。
竜剣レオニス、神聖魔法、その二つを封じてもなお、身体強化一つでゴリ押していた。
結果、無傷で五人抜き。
僕以上の完勝である。
「うへぇ……め、めちゃくちゃ、強いじゃないですか……」
「シュメル様ほどではございません」
「勘違いするなよルナ。謙遜だ」
「ど、どっちが正しいこと言ってるんですかぁ……?」
僕と殿下を見比べ、困惑するルナ。
そんな彼女を放置して、僕は先程までの序列戦を振り返る。
二戦目はクラリス殿下の無双劇。
木剣片手に、一撃を受けることもなく五人を圧倒した。
その様を、試合運びを。
互いの攻撃を、防御を、回避行動を。
よく見た。
対する一戦目は、リオが出ていた。
ちらりと見れば、青い顔をしたリオが居る。
彼は先程からひっきりなしに口元を押さえ、吐き気をこらえる素振りを見せている。
……まぁ、見覚えのある光景だ。
十中八九、あの『裏技』をやったのだろう。
フォルス……はないだろうから、殿下が教えたのかな?
何回やったのかは分からないが……まぁ、彼の脆弱体質を思えばたった一回でも地獄の苦しみを味わっているはず。無茶するもんだよホント。人のこと言えないけど。
ということで、流石に序列戦への参戦は見送った方がいい、とアドバイスを送ったのだが……まぁ、強情というかなんというか。
彼は体調不良を根性でねじ伏せ、見事一戦目をたった一人で勝ち抜いて見せた。
その結果、今は青い顔をしてぶっ倒れている訳だが……その試合もよく見た。
「……シュメル様」
「うん。もう大丈夫です」
確信を胸に立ち上がる。
と同時に、すぐさま次の対戦相手が現れた。
どういうシステムなのか……。
そこら辺はよく分からないが、とにかく、噂に寄ってきた対戦相手が沢山いるってことなのだろう。
早速とばかりに対戦相手はステージへと上り、僕の登壇を待ち構えている。
「っ! あ、あの人たちは!」
「……ルナ、何か知ってるのか?」
「はい! 通称【初心者狩り】……! 3年生の癖して、わざと『ランキング31位』をキープし、1年生を狩りまくってるっていう極悪なヤツらですよ! 噂になってました!!」
「失礼なお嬢さんですねぇ! つい先程、どこかのパーティが連勝を重ねて、私たちから31位の座を奪い去ったばかりではありませんかぁ!」
ルナの声に、耳聡くステージ上の男が反応する。
言葉の割に、その顔には笑みが浮かんでいる。
まるで、楽しくってしょうがない、と言わんばかり。
男の浮かべる下衆な表情に、思わず顔が歪む。
「31位になったパーティは、30位以上へと上がるため、必ず32位のパーティと戦うことになる、という隠しルールがあるようです。このルール自体、明言はされていませんが、まぐれでの『勝ち上がり』は許さないということでしょう」
「なるほど……」
ここで、今の相手チームの立場を考える。
奴らは31位をキープしていた。
すると、下級生の頑張り次第で32位に落とされた。
しかし、自分たちを蹴落とした31位は、次は必ず自分たちと戦わなければならない……と。
それが楽しくって仕方ない三年生か。
なんとも……小物というか、器が小さいというか。
目を細め、僕は改めて彼らを見つめた。
三年生ってことはダンジョン経験者、のはずなんだけど、彼らからはさして脅威を感じない。
「……遊び呆けてる学生さんか。楽しそうで何よりだ」
「……はぁ?」
武器を片手に、登壇する。
支給の木剣は、相変わらず軽いし手に馴染まない。
しかも壊さないよう、ゆっくり振るう必要がある。
その上、目の問題もあるときた。
……気を使うことが多すぎる。
そういう意味では、遊び半分の学生さんならちょうどいい試験石になってくれるだろう。
「学生さん? ……どういう意味ですかねぇ?」
軽く木剣を振り払い、質問を堂々と無視をする。
その上で、質問に質問で返してみた。
「31位をキープしてるって話ですけど、それは、なにか意味があっての事ですか?」
ぴきりと、相手の額に青筋が浮かぶ。
「……お利口さんには分からない話でしたかねぇ? 私たちは初心者狩りだと聞いていませんでしたか? 右も左も分からない、でもダンジョンには行きたい。そんな勢いだけで地に足が付いていない一年生たちを、大人気なくボコボコにして叩き潰す! その快感が全て、という集まりですよぉ!」
なるほど、やはりクズか。
再確認して安堵する。
「今はヒヨっ子だとしても……未来は分からない。学者、魔法使い、戦士、英雄。どういった道を辿り、どんな形で名を売るかなんて分からない」
「ただ! そういった未来に行き着いた先で、私たちは誇れるわけですよぉ! そんな英雄も、昔は自分に勝てなかったんだと! 私は英雄に勝った男なんだと!」
「うーん。面白いくらいカスですね」
きっぱりと言い切ると、相手の額に浮かんだ青筋が、ビキビキと音を立てて深くなった。
「……なんと、言いました?」
「騎士道精神は大切なんでしょう。だからこそ、安売りはしません。カスにはカスなりの。クズにはクズに相応しい戦い方をします。あなたがたから攻撃は受けません」
敢えて言い切る。
攻撃を避けて『騎士道精神』を疑われるなら、と。
最初から、それらしい言い訳を並べ立てる。
そしてこれは同時に、自分への挑戦だ。
「……っは! 何を言い出すかと思えば!」
「あなたは思う存分格下相手にイキった挙句、未来でこう言い残すわけです。『シュメル・ハートには一撃も当てられず、準備運動として屠られた』って」
今回勝てば30位以上は確定だ。
そうなれば、下位からは卒業。
晴れて上位の仲間入りってことになる。
そして上位からは……対戦相手を選択できる。
だから、これは準備運動だ。
上位陣――序列十位以内に挑むための試運転。
果たして今の僕は、どれだけ動けるのか。
そう考えて、頬を吊り上げる。
魔導器を腕に嵌めた。
超人的な直感から、常人的な視覚へと意識を切り替える。
合格ラインは……攻撃を受けずに五人抜き、って所かな?
「では、準備運動を始めますね」
「こっ、このガキぃぃぃぃいい!!」
互いに武器を構える。
さぁ、戦ろうか。
思う存分、僕の準備運動に付き合ってくれ。
次回『才能の片鱗』
何度でも言おう。
シュメル・ハート。
彼は強くなるべくして生まれてきた、神の子。
まごうことなき、天才である。




