044『序列戦開幕』
「ふんっ、はあああああああ……ッ!」
オリエンテーションを終えて。
早速序列戦へ! と行きたいところだが、授業は受けねばならない。
今日の最初の授業は、魔法学。
ようは、魔法をよりうまく使いこなすための知識を身に着けようね、という授業だ。
とはいえ、知識だけでは使いこなすには至らない。
そのため、今日みたいに実習授業も多く取り入れているらしい。
場所は訓練場。
クラスメイト達が、各々授業で学んだ知識をもとに魔法を使っている。
的へとむけて魔法を放つものから、基礎的な構築から始めるもの。
そして中には……基礎的な構築すらできないやつも存在する。
「ほりぁあああああああッ!!」
「ダメだねえ。凝り固まってるよお、彼女」
さっきから妙に気合の入った声を上げているのはルナ。
対し、ロールパン……もとい、ジツハが困ったように声を上げた。
えっ、なんでこいつここにいるの?
とは思ったのだが、実は同じクラスだったらしい。
なぜこんなにも奇妙奇天烈な髪形の男を見落としていたのか……。
ほんとに見る目がないんだろうかと内心悩んでいると、その悩みの種を植え付けてきた張本人の声が聞こえた。
「すでに魔術回路は不足なく作られているのに、それを使った形跡が一度もない。本来、魔術回路の設立と同時に起こるはずの身体強化すらありません。彼の言う通り『魔術回路が固まっている』……それなりに長く教師はやっていますが、きわめて珍しい例ですよ」
「それは……魔力量の問題ですか?」
困った表情のシルバー先生に、少し考えて問う。
ルナは無尽蔵の魔力を持っている。
それが影響して……そういった『魔術回路の固まり』に繋がっているのかも。
そう考えての発言に、彼は少し考えるそぶりを見せた。
「……過去にも数例、様々な要因から膨大な魔力を持つことになった人物はいました。ですが、参考にしようにも、似て非なる状態ですからね、彼女は……」
「持つことになった……ってことは、後天的なものですか?」
「ええ。個人の成長や、他者からの継承などあったようです。対して、彼女のソレは先天的なもの。しかも膨大ではなく、純然たる【無限】です。君の言う通り……固まりの要因としては、そのあたりがあげられるのかもしれません」
魔力量が桁違いに多いという話でもなく。
ただ、尽きない。底がない。そういう意味での無限。
……改めて言語化すると、つくづく反則だよなぁ、こいつ。
問題は、その「無限の魔力」を使えないってことなんだけど。
「ただ、彼らの中にも似たような例はありました。その方は体がぶっ壊れる前提で、むりやり魔術回路に魔力を全ぶっぱし、力業で『魔力を流す』をやってのけたようですが……」
「……それ、普通に死にません?」
「死にますね。その方は不死の種族だったので、まぁ、事なきを得ましたが」
気づけばルナの気合の声は消えている。
見れば、彼女は顔を青くして震えていた。
僕は彼女を安心させるよう笑い、優しく彼女の背を叩いた。
「安心しろ、痛みはどうしようもないが……傷は直せる。死にはしない」
「なっ、なんで! 私がその方法を試す前提なんですかぁ!?」
「えっ、前例あるなら、そっちの方が手っ取り早いかなって」
「バカ! おバカ! 頭の中まで筋肉詰まってんですかあんた!」
失礼な……これでも学年次席だぞ?
少なくともお前よりは学力上だからな。
ぽかぽか叩いてくるルナを引きはがしていると、シルバー先生が笑っていた。
「とにかく、対処法は私の方でも探ってみます。あまり焦らず、確実に学んでいきましょう」
――ということで。
魔法使いルナ。
前途多難である。
☆☆☆
その後も授業は続き……ついに放課後。
殿下、リオと合流した僕らは、先ほども使った訓練場にやってきていた。
「一学年が約100人。であれば、5人1組で約20パーティ。三学年でおよそ60パーティが序列戦に参加いたします。その内上位30パーティだけが、対戦相手を選択して挑戦する権利が与えられます」
受付を終え、僕らは待機室に通された。
そこで、序列戦に対してそれなりの知識しかない僕。
何にも知らないルナとリオ。
そんな三人に、博識の殿下がいろいろと説明してくれている。
「逆に、下位30パーティは対戦相手を選ぶ権利はありません。そのため、対戦相手を選んで序列戦を申し込むのではなく、こうして訓練場で受付をする必要があります。……そのあとは運次第ですね。同じように受付する他パーティが現れるまでは、こうして待機室で待つ必要があります」
「なるほど、わからん」
「なんだか難しい話ですねぇ……」
理解できないのか、理解する気もないのか。
気の抜けた返事をする二人を前に、殿下も思わず苦笑している。
「……簡単に言うと、待っていれば敵が現れます。順番に戦って、勝てばいいだけの話です」
「だいぶ端折りましたね、殿下」
「うむ、簡単になったな。それならわかる」
思わずと口を挟めた僕と、どや顔で納得を示すリオ。
ルナは……とみると、彼女は根拠のない自信を顔に浮かべていた。
「なるほど! ようは、理由もなく自信満々に『新入生に現実ってぇものを教えてやらねぇとなぁ』なんてイキってる上級生のプライドをずたずたに引き裂いてやればいいってことですね!」
「…………」
「な、なんですかその目は!」
理由もなく自信満々にそんなことを言ってるルナに、冷めた目を送る。
「で、でも事実ですよね? 殿下の言ってることが正しいなら、ここで当たるのは下位30パーティ。……一年生を含めなかったら、二年生、三年生のうち、下の方にいる四分の一じゃないですか。俗にいう落ちこぼれってやつですよ、きっと」
「否定はしないけどな……おまえ、あんまり舐めたこと言ってると、戦った時にどんな酷い目に合うかわからないぞ?」
「へ? い、いやぁ、何言ってるですかシュメルさん。ここは男らしく、シュメルさんが先陣きって全員なぎ倒していく流れじゃないですかぁ」
ルナが当たり前のようにそんなことを言う。
僕は無言でリオと殿下へと視線を向けると。
「じゃんけんだな」
「ええ。戦う順番は公平に決めましょう」
「なっ!? なな、なんでそうなるんですかぁ!?」
待機室にルナの悲鳴が響いた。
対する二人は動じない。
「私だって戦ってみたい。戦闘経験も大切だと本に書いてあったからな」
「シュメル様の活躍を見てみたい気持ちもありますが、ルナさんの言う通り……現状は実力差が大きすぎます。苦戦もなく当たり前のように勝つだけでしたら、推しの手を煩わせるまでもありません」
「な、なに変なこと言ってるんですかこの人ぉ……」
「諦めろ。いつも通りの殿下だ」
そう諭す間にも、リオと殿下は既にじゃんけんの構えだ。
「ではッ、いざ尋常に!」
「勝負!!」
「ひぃん!? ほ、本気でやるんですかぁ!?」
悲鳴を上げて、ルナが僕を見上げる。
「殿下がそう望むんだ。僕もじゃんけんで構わないよ」
「くそったれ!!!」
四面楚歌。
ルナの味方は一人もいなかった。
そして彼女にとっては残酷な勝負が、今、始まる――。
「はい、最初はグー、じゃんけーん」
☆☆☆
「ぶげらはぁっ!?」
通算四回目の、一撃必殺。
上級生が吹っ飛んでいくのを見て、僕は小さく息を吐く。
「あ、アレぇぇぇぇぇぇン!!」
「ま、まずいぞ、アレン君までやられた! しかも一撃だぞ!?」
「上級生に華を持たせようとはおもわんのか!」
「人の心とかないんか?」
「負け犬風情がぴーぴーやかましいですねぇ」
「……ルナさん?」
「下級生に手も足も出ない己が弱さを呪ったほうがいいんじゃないですか?」
「あの、ルナさん……」
「華を持たせるって、ようは忖度しろってことですよねぇ。上級生としてのメンツを守るのに必死とはいえ、その過程でプライドを放り投げちゃうのはどうかと思いますけど――」
「る、ルナさん! ちょ、ちょっと静かにしましょうか!」
向こう側の控室から絶叫と。
こっち側の控室からイキリ声。
舞台の上の僕は板挟みにあい、頭を抱えた。
「な、なんだと! あの女……ぶんなぐってやる!」
「下級生だか異性だか知ったことか!!」
「まずはシュメル・ハートを引っ込めるところから始めよか!」
「アレン君たちが四点は削った! あと一点だ!」
じゃんけんに負けて喜びイキってるルナにため息を漏らしつつ。
同時に、カウントが『1』まで減った腕の魔導器を見下ろす。
……また見えなかった。
今回は、ジツハと戦った時以上に、一層集中したつもりなんだけど。
限界まで意識を巡らせても……なお、見落としてしまう。
しかも、四回連続だ。
四人を倒して、四人の攻撃が全部見えていない。
一人につき一撃貰い、気づけばこんな状態だ。
……なんでなんだろうなぁ。
可能性としてはいくつか思いつくが……確信がない。
一人首をかしげていると、最後の相手がステージに上がってきた。
「その快進撃もここまでだ、若き英雄よ! 貴様はここで討ち果た――」
「あ、選手交代します。棄権扱いで構わないです」
「すぁぁぁぁぁぁあああ!? な、何故だ!?」
だって、ねぇ?
さっきから『早く交代しろ』と視線が背中に刺さってるし。
僕が振り返るより早く、その男は立ち上がる。
煌々と、神の目が日の下で蒼く輝いていた。
「待ちかねたぞシュメル。やっと私の出番ということだな!」
「そうですね。あと一勝は託します」
出場権利のじゃんけん。
たまたま僕がひとり勝ちして、こうして戦っているわけだが。
諦められん! といちゃもんをつけてきたのがリオである。
絶賛強くなるために努力の努力中。
そんな彼は、僕と入れ違いでステージへと上がっていく。
「シュメルさんシュメルさん! だ、大丈夫ですかねぇ、リオさん。相手の上級生、かなりやる気満々の様子ですけどぉ」
「おう、お前のせいだな。あとなんで僕の心配はしてくれないんだよお前」
「いやだって、ぶっちぎり強いじゃないですか、シュメルさん」
そう言われて、僕は思わず殿下を見た。
殿下は首をかしげてにっこりと笑っていたが……この人がいる限り、僕が「ぶっちぎり」ってことはないさ。苦笑交じりに肩をすくめると、僕の視線を読み取ったルナが戦慄する。
「えっ、もしかして……クラリス殿下って人間やめてたりします?」
「やめてませんよ」
「失礼なこと言うなよお前」
「だ、だってぇ!」
「……おい貴様ら。少しは私を応援しようとは思わんのか」
ルナを責めていると、ステージ上から公子の声がした。
振り返ると、既に戦いは始まっていた。
……というか、終わりかけていた。
「な、なんなんだ!? 俺は一体どこから攻撃を――」
「……拍子抜けだな。入学試験のような『熱』がない」
リオ・カーティス。
彼の攻撃は、すべてが不可視。
その上、僕みたいな『死期察知』でもなければ不可避だ。
ここからでは、何が起きているかもわからない。
ただ、何もない場所で上級生の体が弾かれる。
まるで……そう、小さな弾丸で打ち抜かれたみたいだ。
どしゃりと、上級生があおむけに倒れる。
と同時に、彼の保持ポイントが全損。
あっという間に、リオの勝利が確定した。
同時にこれで、序列戦初戦も勝利となる。
『勝者、1年生01パーティ!』
『序列更新』
『41位→34位へ!』
「ほ、ほえぇ……リオさんって、めちゃくちゃ強かったんですねぇ」
「当たり前だろ。僕にちゃんと勝って、学年主席を取ったやつだぞ」
不可視で不可避とか、序列戦では間違いなく反則だろ。
そんなことを思っていると、ふと、悩まし気な殿下の声が聞こえた。
「ふうむ……パーティ名も考えなくてはいけませんね」
「大魔導士ルナと愉快な仲間たち、ってのはどうですかねぇ」
……冗談か? さすがに冗談だよな?
そう思ってルナを見ると、きょとんとした顔だったので僕は察した。
そして諦めた。
「……よし、それでいこう。その大魔導士ルナが魔法を使えないだなんて聞いて、他のやつらがどう思うかは知らないけどな」
「承知しました。それでは、そのパーティ名で申請しておきます」
「へっ? え、えへへ……じょ、冗談に決まってるじゃないですかぁ! ちょ、ちょっと殿下? あ、あの、申請書類に名前を書かないでもらって……」
ルナが焦り始めたが、すでに手遅れ。
1年生01パーティ。
もとい新生『大魔導士ルナと愉快な仲間たち』パーティ。
ぶっちゃけパーティ名なんて何でもいいからね。
せっかくなら、ルナの黒歴史にしてやるのも悪くはないだろう。
ということで。
パーティ名のことは解決したので、ステージ上のリオへと意識を戻す。
「……にしても、何なんだろうな、あいつの魔法」
「にしても、じゃないですよぉ!? 殿下を止めてくださいよシュメルさん!」
「嫌だ」
「嫌だぁ!?」
縋りついてきたルナを引きはがしていると、ステージから降りてくるリオと目が合った。
リオ・カーティス。
依然として彼の魔法は不明だ。
パーティに入っても、魔法だけは頑なに教えてくれない。
別に無理に聞き出そうとは思わないが……気になるものは気になってしまう。
少なくとも、図書館でいくら調べても彼の魔法についてはわからなかった。
ならば、前例のない新しい魔法を授かったのか。
あるいは――既存の魔法を、超絶技巧で魔改造しながら使っているのか。
後者にしたって、不可視の弾丸、斬撃、打撃、盾だ。
これだけの武器を内包する魔法なんて、まるで想像がつかない。
「そういえば、大魔導士ルナの魔法もまだ教えてもらってないよな」
「ぴぃ!? わ、私の魔法は、そ、その……使えてからのお楽しみってことで……!」
……なんだ、気になる言い方だな。
もしかして非戦闘系の魔法か?
いや、だとしてもこいつの場合は魔力のごり押しだけで強いだろうし……。
なんなら、基礎的な身体強化だけでも現状の僕に迫るはず。
たとえ戦闘に使えない魔法だとしても……将来は僕と肩を並べて前衛だってできるだろう。
むしろ、ダンジョン探索を思えば前衛としての働きに期待しているまである。
問題は、性格的に前衛が務まるかってことだが……。
「…………」
「な、なんですかその目は!!」
ま、ルナだしな。
大丈夫だろ。王族に失礼なこと言えるメンタルしてるし。
精神性の強さなら僕以上もあり得る。
前衛としての素質は十分だ。
あとは、頑張って魔法を使えるようになってくれればいいんだが。
「……どいつもこいつも、伸びしろばかりだな」
努力を始めたばかりのリオ。
魔法さえ使えれば、一気に花開くルナ。
そして、攻撃の見えない僕。
どいつもこいつも不足に伸びしろばっかりだ。
まあ、リオとルナに関しては個人の頑張りを信じるしかないが……。
こと僕の問題に関しては、今の戦いである程度可能性は絞り込めた。
「シュメル様」
ふと、殿下の真剣な声。
振り向けば、彼女は自信を胸に断言した。
「原因がわかりました。この後、お時間よろしいですか?」
それは、急成長の弊害。
彼は天才であり、転生者であり、環境に恵まれた。
すべてに恵まれすぎた。
故の、見落とし。踏み飛ばし。
「ようは、君は強くなるのが早すぎたんです」
次回『伸びしろ』
新たなシュメルの挑戦が、始まる。




