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異世界転生、ちょっと足りない  作者: 藍澤 建
第二章【その芽は未だ青くとも】
44/50

043『たった一撃』

「序列戦のルールは簡単だ! 一定以上のダメージ、または合計五回の攻撃を与えられた方を敗北とし、勝ち抜き戦でチームごとの優劣を競う! その際、そのダメージ判断はこちらの魔導器で行っている!」


 グラウンドに作られたステージ。

 体育館の半分ほどの大きさだろうか。

 その上に立ち、先ほど渡された魔導器を手首にはめる。

 見た目はまんま、スマートウォッチである。


「その魔導器は、この学園敷地内に限り、使用者へのダメージを最初の五回のみ無効化させるものだ! 残りの無効化回数は魔導器の液晶画面に映されるから、よく確認しておくように!」

「質問いいかなぁ。……例えば、魔法で雨を降らせたら、その雫に触れる羽目になるだろうお? それは、一滴一滴が相手の魔法なのだから、五回のダメージ判定に入るのかな?」

「入らない。無効化されるのはあくまでも『攻撃』だ。無効化できる威力に上限こそないが、下限は存在する」


 ジツハの質問に学年主任が答える。

 上限がない、というのはいい話を聞いたな。

 手加減する必要がないのなら、余計な心配をしなくて済む。

 それに下限が存在するのなら、ジツハが言ったような『裏技』は使えないはずだ。

 心のつっかえが二つくらい一気に取れた気がして、ほっと息を吐く。


「ほかに、こちらが戦闘不能と判断した場合や、降参した場合も敗北と認められる。また、今回はオリエンテーションとして二人に戦ってもらうが、実際にはチーム同士の勝ち抜き戦だ。試合ごとに受けた攻撃のカウントはリセットされないため、注意するように」

「なるほどお。最初の試合で二回、次の試合で三回。そういう合計五回でも、敗北扱いってことだねえ」


 つまり、ダメージを与えた方ではなく、()()()()()()()()()

 どんなに実力差が離れた相手であろうと、チームとしてなら勝機を見出せる。

 そういうルールだ。……よくできているな。


「こりゃ、僕も油断はできないか」

「そうだねえ。……みんなやる気が出るんじゃないかい? チームとしてなら、あのシュメル・ハートにも勝てるかもしれないってさあ」


 チームの最大人数は五人。

 ってことは、一人につき()()()()()

 それだけで、シュメル・ハートを完封できる。

 ……まあ、僕一人を倒したところで、後ろに殿下とリオが控えている以上、無駄なことだとは思うけどね。それでも、霜の再来に勝てるかもしれない、ってのは大きな『餌』だ。


 主任からの説明を受けた瞬間から、周囲から向けられている視線の質が変わっている。

 畏怖、憧ればっかりだったものから、明確な戦意を浮かべたものへ。

 英雄譚(クラリス殿下直筆)の中でしか触れることのできなかった『霜の再来』が、いきなり手の届くかもしれない場所まで落ちてきたんだ。僕がそっちの立場でも、きっと同じ目をする。


 そう、納得はできる。



「とはいえ、譲るつもりはないですけどね」



 納得はできるが、可能かどうかはまた別の話だろ?

 一撃も受けずに、相手を倒す。

 それを5回繰り返す。

 そうすりゃ全部解決する話だ。


 そう判断し、訓練用として与えられた木剣を握りしめる。

 深呼吸し、目を細める。


 細かく五回ダメージを与える方が、よっぽどやりやすい。

 だが、戦士である以上、一撃で一定以上のダメージを与えた方が、見栄えはいいだろう。

 うん、今回も一撃必殺でいきますか。

 そう内心結論付ける。

 対するジツハは、苦笑いして肩を震わせた。


「でもみんな、この場に立てばやる気なくすよぉ。死ぬ気がするし」

「たとえ無力化できなくても、僕なら直せます。死にはしないですよ」

「そこはかとなく不安を感じるよお」


 そう告げると、彼は何か諦めた様子で杖を構えた。

 ……杖、ってことは魔法使いか?

 ブラフと言う可能性もあるが、戦士らしい体つきではない。


 とはいえ、つい先日も『狡賢い相手(オーディ)』と戦ったばかり。


 たとえどんな風体でも、油断はしない。



「お互い、準備はいいな? では――試合開始ッ!」



 主任の声と同時に、ジツハが杖を振るう。

 杖先より赤色が滲む。

 それは火だ。

 炎と呼べるほどの熱量、範囲ではなく。

 されど明確に危険と判断できる火力が、杖先に灯った。


 火魔法。


 知識、経験よりジツハの魔法を読み解く。

 ……とはいえ、だ。

 似たような現象を起こせる魔法――幻影魔法などの可能性もある。

 が、魔法発動時に幻影魔法特有の紫の燐光が見えなかった。

 なら、シンプルに火魔法の可能性は高いだろう。


 そう考え、判断、割り切り。

 どーせ火魔法だろうが幻影魔法だろうが変わらんさ、と。

 同じ対処で間に合うと自信を胸に、万力を木剣に込める。


 みしりと、嫌な音。

 指が柄に食い込む感覚とともに、身体強化を巡らせる。


 身体強化が終わるまで、わずか数瞬。

 視界の端に、嫌な顔をしたリオが映った気がした。


 ジツハは、火を操りいくつかの矢へと変える。

 相対するは、不足なく身体強化を巡らせた肉体での、ただの一歩。

 助走なしで、僕の身体は一気にトップスピードへ。

 十数メートルの距離は、一瞬で潰れた。


 反応する間は、与えない。

 握りしめた剣を、ただ一閃。


 我ながら……おおよそ人に向けてはいけない威力の一撃だ。

 無効化されるとは聞かされてはいても、一応は、致命傷にはならない部位に。

 そうだな、と僅か数瞬逡巡し。


 僕は剣を、彼が杖を構えていた腕へと振り落とした――。


 瞬間、わずかな衝撃。

 強烈な手ごたえ。

 そして――耳をふさぎたくなるような破壊音が響いた。



「……っ!? し、試合終了! そこまでだ!」



 驚いて見れば、木剣は原型を留めないくらい粉々に砕け散っている。

 ……えっ、なんで?

 そう思ってジツハを見れば、彼は疲れた様子で座り込んでいた。


「な、なんでそっちが驚いた顔をしてるんだい?」

「いや、壊れるとは思って無くて……」


 見れば、彼の魔導器には『0』という数字が映っている。

 最初は『5』と表示されていたな。

 ってことは、今の一撃で五発ぶんのダメージが無力化されたってことだろうか。


「勝者は、シュメル・ハートだ! ……まさか、無力化されるとはいえ、人間相手に木剣が砕ける勢いで振り下ろすとは思わなかったぞ」

「……僕も予想外ですよ。これ、欠陥品だったりしませんか?」

「ふざけるなよ。私が昨日、直々に手入れしたばかりの品だ」

「……そうでしたか」


 ……まいったな、少しずつ父上に似てきた気がする。

『城崩し以外はまともに振るえない。だって武器が壊れるから』

 とは、父上の英雄譚では有名な話だ。

 そんなことはないだろう……と内心では苦笑いしていたのだが、いよいよ父上の馬鹿力を笑えなくなってきたな……。


「それより、無事で何よりです。大丈夫でしたか?」

「まぁ……一瞬、腕が消し飛んだかと錯覚したけどねえ。肉体的には無事だよお。精神的には……まぁ、色々と疲れてはいるけれどねえ」


 座り込んでいるジツハに手を差し伸べる。

 彼は疲れた顔で僕の手を取り、立ち上がった。


 その際……ふと、彼の行動が気になった。


 神界帰りのテラ・イヴン。

 彼に言われて僕に喧嘩を売ろうとして。

 でも、直前でブルって作戦変更し。

 それでも予定通りに僕と戦ったジツハ・イイヒート。


 ……で、その結果何があった?

 そう考えて、現状を見つめる。


『当たり前の勝敗』


 そう、それだけがあった。

 何の変哲もない、予定調和だ。

 警戒していた自分が馬鹿らしく思えるくらい、一瞬で勝負が決まった。

 この勝負に、その『何でも知ってる伯爵様』は何を見出したのか。


 そう、少し考えて。



 だけどその答えは、すぐに僕の下へとやってきた。




「でも、君も大丈夫かい? ()()()()()()()()()だろお?」




 ☆☆☆




「まったく……。カッコつけたつもりか。腹立たしい」

「まぁ、イイ感じにカッコついてるから、なんも言えないんですよね」


 代表試合が終わり。

 降段した僕を待っていたのは、リオとルナの冷めた視線だった。


「え、なに。なんですいきなり」

「見え透いた攻撃をわざと受けて……しかも、受けてから攻撃したな? 正当防衛のつもりか。……確かに、貴族らしい騎士道精神と言われればそれまでだが」

「一撃を受けたら一撃で。しかも、一ポイントしか減らせてない相手と違って、こっちは一撃で全ポイント奪ってるんですから。正々堂々格の違いを知らしめる、イイ感じに悪役貴族してましたよ。さすがはシュメルさんです」


 とりあえず、なんか腹立ったのでルナにアイアンクロー。


「ひぃいいーッ!? ど、毒っ! な、なんかピリピリするんですけどぉ!! こ、この男っ、ついに平民に手ぇ上げましたねっ! し、死んだら呪って枕元に立ってやるううううう!」

「はいはい、待ってる待ってる」


 彼女は絶叫して触られた頭を振り回していたが、自業自得なのでスルーした。

 あと、毒は一切使っていない。ピリピリするのは彼女の被害妄想である。

 僕は不満げな顔をするリオに向き直ると、肩をすくめた。


「……嫌味にとらないでくださいよ。あれが僕の実力ですから」

「ふん。英雄の息子も楽ではないな。ああいった英雄らしい戦いを求められる。その面、私のような誰からも期待されない立場は楽でいい」

「そうですか。少なくとも僕は期待しているので、立場的には僕と一緒ですね」

「……あまり嬉しいことを言ってくれるな。今日はいい夢が見れそうだぞ」


 公子の発言に思わず苦笑していると、後ろから殿下の気配がした。

 振り返ると、いつも通りにこにこと笑っているクラリス殿下。

 ……かと、思ったのだが。



「シュメル様。……あの一撃、見えていなかったのですね?」



 声を潜めて、殿下の声が耳に届く。

 リオにも、ルナにも、届いてはいない。

 それくらいの声量で、図星をつかれた。


「……さすがは殿下。よく見てますね」

「長年、貴方のことだけを見て、考えてきたのです。不調があれば分かります」

「ぐ……っ!」


 思わぬ返答に、言葉を詰まらせる。

 何故って? 嬉しくなっちゃったから。

 こちとら思わぬ不調に困惑してるっていうのに。


「と、とにかく……殿下の言う通りです。僕は攻撃されたつもりはなかった」

「……やはりそうですか。ひとまず、皆様には黙っておきましょう。私たちで解決できる問題かもしれませんし、現状、広まった勘違いも悪いものではございません」


 騎士道精神、正々堂々とかいうやつね。

 全然意識してはいなかったんだが……まあ、都合のいい勘違いだ。

 原因を突き止め、解決するまではこのまま放置でいいだろう。


 少なくとも今は……原因も分からないままでは行動にも移れない。



『君よりは目がいい自信がありますよ、シュメル君』



「……シュメル様」


 今になって、先ほどのシルバー先生の言葉がよぎる。

 きっと、殿下も同じなのだろう。

 まるで今の状況を予期していたようなセリフだったからな。

 もしや……とも思ったが、何でもかんでもすぐに聞きに行くのでは成長にならない。


「まずは、自分で考えます。分からなかったら素直に聞きに行きますよ」


 前世、サラリーマン時代からの教訓でね。

 まずは自分で考える。

 それでもわからなければ、素直に聞く。

 そっちの方が成長になるって話だ。

 真偽は知らんけどね。


「偶然だって可能性もあります。見逃しただけって話も」

「シュメル様に限って、それはないと思いますが……」

「いずれにしても、試せることは試してみないと」


 それに、もしこれが僕の『不足』だというのなら。

 ……悪い気はしない。

 学び、育ち、奴を超えるための学園生活なんだ。

 新しい『伸びしろ』なんざ、大歓迎さ。


「では、()()()()、で考えましょう。私もご助力いたします」

「それはまた、心強いですね」


「……なんだ、二人で内緒話か? 私も混ぜろ」

「だっ、だめですよリオさんっ! なんだかいいところなんですから!」


 ふと視線を感じると、リオとルナが騒いでいた。

 こいつらになら、相談してもいいかもしれない。

 と、一瞬思ったけれど、ルナがいるんだもんあぁ。

 こいつに弱みを打ち明けたら、翌朝にはクラス中に広まっていそうな予感がする。


「…………」

「なっ、なんですか! その信頼の欠片もない目は!」

「いや、何でもない」

「何でもありそうな目ぇしてるじゃないですかぁ!」


 うん、言うのはやめよう。

 この問題は、殿下と二人で考える。

 と言っても……あまり時間もなさそうだけど。



「では、オリエンテーションは以上とする! 本日の放課後より、訓練場で序列戦の受け付けは開始予定だ! 在学時間は思いのほか短い……ゆえに、迷わず、思う存分挑戦するがいい!」



 今日より受付開始。

 となると、序列戦までもう間もなくだ。

 それまでに原因を見つけ……られるかどうかは、分からないが。


 少なくとも、トップテンのチームと当たるより早く。

 必ずこの原因を見つけ、解決して見せる。

 そうでもなければ――。




『自分に向けて放たれた魔法が、見えなかった』




 そんな、アホみたいな欠点。

 抱えたままでは、上位陣の相手なんて夢のまた夢だろう。


 見下ろした右腕には、『4』とカウントの減った魔導器が残っていた。


次回『序列戦開幕』

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― 新着の感想 ―
前回誤字したばかりにコメントへのハードルが内心上がっていますがそんなの気にせず投下します シルバーじゃん それはともかくルナかわええ
殺意のない攻撃だったから認識出来なかった的な感じなんですかね
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