999.お誕生日会の翌日は、朝から忙しいのが普通なのかな?
---------- 第八章 〜親としては新米だけど頑張ります編〜 始り ----------
「朝食が済んだら、贈り物の確認と感謝の手紙を書く事にするから、申し訳ないけれどユリア、サクラ達の面倒をお願いね。
いつも感謝しているけれど、これからも頼りにさせてもらうわ」
「畏まりました、喜んでサクラ様を預からせて戴きます」
私の言葉に、ユリアの顔が一瞬花が咲いたかのように輝いた事を私は見逃さない。
やはり夕べの事で実家に戻されるのではないかと、不安に思っていたのだろう。
ファンデット伯爵夫人の実家の戻って来ないかという提案を、当主である私が前もって承知した上で、伯爵夫妻を招待したのではないかってね。
状況から仕方がないとはいえ、ユリアもそんな誤解をしないで欲しいものだ。
ユリアみたいな優秀で信頼出来る人間を、私が手放す訳がないじゃないの。
そもそも子供達の乳母を兼ねた、幼少期の教育係としての将来の話もしっかりしてあるのに、今更その計画を御破算する手間を、なんで面倒臭がりの私がしないといけないのか。
それにしても、先程のユリアの嬉しそうな顔。
まぁ良い事ではあるのだけど、ちっとも良くない事でもあり……。
「本邸に戻ってからの早朝鍛錬、ギモルだけ私の全力の相手をしてもらうから、そのつもりで」
「い゛っ!? な、なんで!?」
「ギモル、私は当主として話しているのよ」
「ぁっ、いえ、何故、私だけなのでしょうか?」
うん、空気の切り替えに咄嗟についてこれないなら、やはり一度絞めた方が良いと思ったのは正解ね。
それとまずは謝罪、それからでしょうが。
ユリアが己が夫の無作法さに、怖い目で見ている事にも気が付いているのかしら?
彼女の本職は礼儀作法の教師として我が家にいるのよ、自分の夫の不出来を許す訳がないでしょうが。
まぁいいわ、そのあたりはユリアに任せるとして。
「最近、気が緩んでいるのが目立つからよ」
自分の奥さんが実家と問題が起きたのだから、きちんとフォロー入れろっての。
ユリアの反応からして、不安で仕方なかったって感じよ。
それこそ夫であるギモルが、下手くそなりにちゃんと慰めて、またいつも通り歩けるように励ますのが夫の勤めでしょうが。
ユリアはその辺りを汲めない鈍い女じゃないわ。
視線を周りにやれば、セレナもラキアも私の視線に気が付いて、小さく頷いているから、二人の目から見てもギモルは有罪と。
なら、話は早い。
「冗談よ」
「ふぅ……、じょ、冗談でしたか。
あまり驚かすのは御勘弁ください」
「ギモル一人ではなく、妊娠中のセレナ以外の全員って言うだけ」
「「「げっ」」」
当主である私から言われるより、周りに責めてもらった方がギモルの立場が保たれるからね。
あとアドルの反応がなかったので、気が付いていないのであれば半ばギモルと同類。
付き合わされるラキアには申し訳ないけれど、そこは班で動くのだから、配慮の足りない所のあるギモルに釘を刺しておかなかった仲間の全体責任と言う事で。
私はあの三人が結婚する際に、ちゃんとギモルに言ったわよ。
ユリアは実家と色々と問題があったし、ラキアとは血の繋がった妹ともなれば、例え結婚の許可を得ているとは言っても、それは権力の下で頷いただけで本音は分からない。
共に家から何らかの干渉がある事も常に視野に入れておいて、その時は自分の妻を守りなさい、そして必要なら周りに頼りなさいってね。
「ハンデとして、全力装備で全員同時で構わないから」
「「「し、死んだ……」」」
死んだって酷い言い様ね。
殺したりしないし、攻撃魔法なしの上で、手加減出来る得物である癒しの獣扇を使うわから、そう簡単に死んだりしないわよ。
あと、私ちゃんと言ったからね、全員でと。
そろそろイリーナ達も、最低限の魔力操作が出来るようになってきたし、本当に誰を護衛すべきなのかを、その身体で知って貰った方が良い頃でしょうからね。
警備の小父様方は……、これも仕事の一環と言う事で、後で美味しいお酒でも差し入れするように手配しておこう。
「警備に穴が出ないように手配しておく事、忘れないようにね」
いくら本邸が何もない山奥にある田舎だと言っても油断は禁物。
平和だろうと、緊急の事態に備えておくのがお仕事なので、手を抜く事は許されない。
まぁ流石にそこまで気が抜けているとは思わないけどね。
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さてとお祝いの品の確認はエリシィー達に任せるとして、まずはファンデット伯爵家に抗議状を書かないとね。
誕生日会に参加して祝って戴いた事に対するお礼のお手紙も書くけれど、それはそれ、これはこれ。
ファンデット伯爵夫人がした事は感情として理解はするけれど、やった事は我が家の使用人の引き抜き工作。
実の親であろうと、ユリアが我が家に来た経緯を考えれば、ユリアにどうこうしろという権利はない。
この辺りはユリアを採用する際に、ガスチーニ侯爵家のヴァルト様に言質を戴いているし、何かあってもガスチーニ家が責任を持って対応するとまで言って下さっている。
それくらいユリアはガスチーニ家のために尽くし、その結果、ガスチーニ家の加護を受けて可愛がって戴いており、ガスチーニ家は我が家を信じてユリアを紹介した経緯がある以上、私はその信頼を受け継ぐつもり。
それだけでなく、ユリアは自分の子供にだけ与えるべき母乳を、私の娘であるサクラにも分け与えてくれているよ。
溢れんばかりの愛情を、他人の娘であるサクラにまで。
そこまでされているなら、我が家はユリアを全力で守るのが当然の責務。
ファンデット伯爵家は、私の代わりに教会派を纏めて下さってはいるものの、ユリアの幸せを犠牲にしてまでして貰いたい事ではない。
と言う訳で、私の想いの限りの抗議状を書いていると……。
「ユゥーリィ、ずいぶんと怖い顔で書いていると思ったら、はぁ〜……。
気持ちは分かるし、嫌な事は真っ先に済ませたいのだろうけど、まずはユゥーリィ宛の手紙を全て目を通してからにした方が良いわよ。
確か下の方になっているけれど、ファンデット伯爵夫妻が帰られる際に渡された手紙があったはずよ。
多分、謝罪の言葉が書かれていると思うから、相手の謝罪の文も読まずに抗議状を送り付けるのって良くない事だったと思ったけれど、違ったかしら」
「はうっ!」
その可能性をつい失念していたわ。
そうだよね、国から教会派の纏めの実務を私の代わりにと任されているのだから、当然ながらその辺りの配慮が出来て当然の人物よね。
まあ、周囲に信頼されるくらい仕事は出来ても、家庭が駄目駄目人間の典型みたいだけど。
ぇぇ〜と手紙は……、あっこれね、どれどれ……。
「……うん、エリシィーの言うとおり謝罪の内容だったわ。
正式の謝罪状を持った使者を後日王都邸に送るから、奥さんの非礼を許してほしいって。
ファンデット伯爵家としては、ユリアの幸せこそ願えど、我が家からユリアを奪う気持ちは一切ないって書いてあるわ。
これで抗議状を送ったら、私、完全に悪者じゃない。
別に悪者でも構わないけどさ」
「ユゥーリィ」
「しないって」
少なくとも、謝罪状を持った使者が来るまではね。
「本当に?
何か企んでいそうな顔をしているけど?」
「しない、しない」
謝罪の内容が真面ならってだけよ。
いやあ、世の中にはあるのよ。
謝罪と言いつつも、中身はどう見ても喧嘩を売っている内容って言うものが。
もっとも、陛下が任せたような人間が、そんな巫山戯た真似をするとは思わないものの、どんな事態になってもいいように警戒は必要。
まぁ世の中には、人の予想の斜め上の事をしてくれる人がいるから、いくら警戒してもどうしようもない事なんて物はあるんだけどね。
ええ、何時も似非笑いを浮かべる何処かの陛下とかっ!
人を策略に巻き込むのが大好きな、何処かの腹黒国王とかっ!
「し、失礼致します。
開封した贈り物の中で幾つかお目を通しして戴いた方が良いかと思い、お声を掛けさせて戴きました」
王都邸所属の女中の娘が声を掛けてきて、私が視線を上げると共に、彼女の言う目を通しておいた方が良いと言う物が、大雑把に並べられている方向に視線を向けたため、私もそこに目を向けたのだけど……。
「アレって服や装飾品の類いよね?
後で纏めて軽く目を通すから、今は一覧だけ作っておいてくれれば構わないから。
残す物と下げる物の判断は、エリシィーに一任しているから、彼女の言葉の下で動いて頂戴」
エリシィーを出し抜こうと言うのではなく、親切心からの言葉だったのはなんとなく分かる。
綺麗な服や装飾品は、多くの女性の心を躍らせる物だからね。
でも生憎と私は中身がオジサンなので興味はない。
無論、嫁や周りの娘達に似合うかなぁとか、言う意味では興味はあるけれど、態々仕事中に時間を掛けて楽しむ程のものでもない。
そんな時間があるなら、早く仕事を終わらせたいと言うのが本音。
「はぁ……、ユゥーリィ、少しは付き合ってあげたらどう?」
「ぇぇ……、面倒い」
「彼女達は主人であるユゥーリィを着飾りたいの。
どんなのが似合い、どんな物を好むかを把握したいと一生懸命なのよ」
「そこは気にしなくても良いと言う事で」
「良い訳ないでしょうが。
主人の好みを把握していないなんて、使用人からしたら恥なのよ。
だいたい昨日だって彼女達、朝からユゥーリィを磨く気で待機していたのに、ユゥーリィったら魔法で済むから要らないって、例え本当でももう少し言い方があったと思うの。
だから、半刻で良いから付き合って上げたらどうなの」
好みって……、地味で楽な服装なら何でも構わない、と言う私の好みは全力で無視する事が前提なのに、それって意味あるの?
でも此処で抵抗すると、たぶん後でエリシィーがムクれる展開よね?
家令を命じておいて、使用人を育てる事に協力しないって。
何だろうか、休日に家で平日の疲れを全力で癒やす夫が、妻に買い物ぐらい付き合いなさいとお叱りを受けているような、複雑な気分になるのは気のせいですか?
「……分かったわ」




