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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第八章 〜親としては新米だけど頑張ります編〜
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1000.とあるメイド達の囁き。




 シンフェリア家本邸所属女中(メイド)

【本名、ジョアン・グル・カーレン】視点:




 私の名はジョアン、ジョアン・ランペイル。

 本当はカーレン辺境伯爵家の七女ではあるものの、現在、訳あって母方の姓を名乗っている。

 辺境伯爵家に生を享けた以上、日がな一日のんびり過ごせると思っている平民が多いと勘違いしているけど、実際には忙しいのよ。

 少なくともカーレン伯爵家では女性だからと甘えは許してくれないし、そもそも長女や次女ならともかく、流石に七女ともなれば、学ぶ事も自然と変わってくる事は仕方がない。

 かと言って私に剣士としての才能は無く、当然ながら魔法の才能も無い。

 前者は努力次第で何とかなるかもしれないけれど、後者は天より才能を授からなければどうしようもない。

 そして私は剣に生きるのは無理。

 武術の才能どうこうではなく、あの肉と骨を断つ感触、アレが無理、生理的にどうしても受け付けない。

 お兄様達はよくアレで、『ヒャッハー』て喜声を上げれるものだと思う。

 あと返り血が口に入る事があるのも、気持ち悪くて慣れそうもない。

 そう言うのも含めて才能だとしたら、私には武術の才能は皆無と言って良い。

 生理的に駄目なので、当然ながら魚や鳥肉を切るのも駄目。

 そうなると何処か適当な家に嫁ぐ事で、家に益を齎すしかないのだけど……、結婚はともかく、私、男の人も駄目なのよ。

 お父様やお兄様達は別だけど、殆どの男の人って恐いし、野蛮だし、臭いし、酷いと口を開けると歯がニチャ〜としている上に、口臭がドブのような匂いを発している印象が強すぎて無理。

 上のお姉様の一人は……。


『あんた、まだ幼い時に酔っ払いに絡まれて、抱き付かれた時の事を気にしているの?

 気持ちは分からなくもないけど、別に悪戯をされた訳でもないし、気にするだけ馬鹿よ、とっとと忘れちゃいなさい。

 い〜い、結婚だからって、別に相手を好きになる必要はないの。

 必要な時だけ、相手の隣で笑みを浮かべておけば良いし、夜だって目を瞑って、適当にそれっぽい声を上げて相手に任せて耐えておけば、勝手に満足して終わるわ。

 早いと十を数える間もなく終わる人もいるみたいよ。

 そりゃあ子供を産む時は大変かもしれないけれど、それで一生贅沢に何もせずに過ごす事が出来ると思えば、凄く楽な事じゃない。

 まぁ笑みを浮かべているのに疲れる事はあるけれど、でもそれだけで汗水垂らして働かなくても良いと思えば、簡単な事だと思わない?』


 とは言っていたけど、その瞬間、凄い形相をしたお母様方に叩かれていたけどね。

 十数える間に済むならと一瞬考えはしたものの、やはり私には無理だと判断出来たという意味と、お母様方の御様子から見習っては駄目と言う意味では、姉の意見は大変に参考になった。

 取り敢えず真面目に色々学びながら、日々を積み重ねて経験を積んでいたのだけど、ある日お父様に呼ばれて執務室に行くと、お父様と一番上の兄が待ち受けており。


 案の定、クドクドとお説教が始まった。


 貴族の家に生まれた以上、領地と民のために身命を賭すのが習わしだと。

 剣を取るも、杖を取るも、学問に打ち込むも、どのような形であれ、尽力するのが貴族の家に生まれた者の義務であり、責務であり、宿命だと。

 女の私は何処かの家に嫁ぐ事で、その役目を果たすのが一般的だとも。

 そういう意味では、私は何の役にも立っていないと言って良い。

 肉や骨を断つ感触が苦手で模擬戦でしか剣を握れない。

 魔法は才能がないので最初から問題外。

 知識があってそこそこ頭が回っても、男性恐怖症のおかげで書類仕事も無理な上、何かを研究して成果を上げれるほど秀でてもいない。

 だって何方も男の人との打合せは必須だもの。


『今一度聞くが、やはり何処かに嫁ぐのは嫌かね?』

『は、はい、申し訳ありません。

 どうしても男の人は恐くて、好きになどとてもなれそうになくて』

『それは許されない我が儘だと、分かっていての言葉かね?』


 お父様方を落胆させるのは、本当に申し訳がないと思いつつ、私は涙を堪えながら小さく頷く。


『ジョアンっ!

 お前は今まで育てて貰った恩を返そうと言う気概もないのかっ!

 父上は、お前の気持ちを汲んで五年近くも我慢していたのだぞっ!

 それをお前はっ』

『止めぬかっ』


 お父様の隣で聞いていたお兄様が激高し、それをお父様が止めて下さった。

 分かっている、私が悪いのだと。

 本当は十四歳までに何処かの家の子息と婚約し、十五歳になった年に嫁がねばならなかった私を、私がどうしても嫌だと言う我が儘を聞いて下さっていたのを、今日まで我慢して下さっていた事には感謝している。


『……分かった。

 ジョアン、お前の意思を尊重しよう』

『父上っ!』

『もう決めた事だ。

 それにな、ジョアンは半年後には十九歳だ。

 私にとって可愛い娘であっても、世間では行き遅れだ。

 問題がある娘だと誰もが判断するだろうし、今更、ジョアンにとって良い縁談があるとは思えん』

『ジョアン程の器量があれば、側室ならば良い縁談相手もいるかと。

 実際、私の所にもそれらしい話は幾つも来ております』

『ふぅ……、側室ともなれば、正妻とのいざこざは避けられん。

 お前はぽんやりとした性格のジョアンが、そう言う事に向く性格だと思っているのかね?』

『そ、それは……、確かにジョアンはのんびり屋ですが』


 えぇ……と、私、そこまでぽんやりもしていないし、のんびり屋ではないですけど、此処で反論を口に出せば、間違いなく何処かの側室になれと言う方向に話が流れるので、黙ってお父様とお兄様の話に結論が出るのを待ち続ける。

 出来れば結論が出てから呼んで欲しかったと、心の内で愚痴を溢しながら二人を見守る事しか出来ない。


『とにかく、もう儂は決めた。

 これはカーレン家当主としての決定だ。

 黙って従え』

『……分かりました』

『さて、ジョアン。

 先程も口にしたが、我が家は国より辺境伯を任された由緒正しい家だ。

 その誇り高き家に生まれたお前が、なにも家のために返せないと言うのであれば、お前をこれ以上家に置いておく訳にはいかない。

 これは親子の情がないのではなく、多くの民を守り導く役目を持つ家としてのケジメなのだ。

 かと言って、本当にそのまま家から追い出すほど儂も親として心苦しい。

 故にお前には役目を与える事にした』


 そう言って与えられたのはカーレン伯爵家の名を捨て、母方の姓であるジョアン・ランペイルとして、ある家に誠心誠意でもって仕えよ、と言う内容。

 要は行儀見習いと称して、カーレン伯爵家を放逐されたって事よね?

 いえ、食べて行けるだけマシだとは思いますけど。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 お父様もお兄様も、私の事を少しも分かっていない。

 のんびり屋で御嬢様育ちの私が誰かに仕える事など出来るのか、と色々と心配していたけれど、私、あの女傑と謳われているお母様の娘ですよ。

 十四歳を目前にして婚約者の一人も見つける気も、誰かの婚約者になる気もないと分かった時点で、侍女や女中(メイド)としての作法や仕事をこれでもか、と無理矢理に身に付けさせられましたからね。

 ええ、十日の内の何日かは屋敷にいる女中(メイド)達に交じって、一緒に使用人棟で寝泊まりしながら仕事もしましたよ。

 女は可愛くて甘えるだけでは駄目、と言うのがお母様の日々の口癖だもの。

 お父様とお兄様が甘やかして駄目になった(あね)がいるから、尚更にお母様の教えは厳しかった。

 カーレン家の娘としての教育を施されながら、その上で使用人としての教育よ。

 おかげさまで貴族令嬢と言っても、子供の基礎教育の教師は勿論、繕い物やお洗濯だってちゃんと熟せます。

 お洗濯物を畳むのだって、人を畳む事に比べたら簡単簡単。

 何せ無抵抗で力も要らないし、耳障りな悲鳴を上げる事もしない。

 但し、料理は相変わらず駄目。

 お肉やお魚を使わないのなら全然大丈夫なんだけど、貴族の家でお肉やお魚を使わないなんて事はまずないから、実質は駄目と言っているようなもの。

 でも下拵えくらいなら手伝えるので、今の所は戦力外勧告は受けていないわ。


 そして、私がお父様の命令で仕える事になった家はと言うと、……これが意外にも天国なのよ。

 御当主様が女性のためか、家臣も使用人も男の人よりも女性の方が圧倒的に数が多い。

 つまり男の人に怯えなくても良いし、此処にいる男の人達は身体が大きくて恐い人もいるものの、どの方も清潔で服装もきちんとしていて、おまけに臭くないの。

 それが、お屋敷の近くにある村の人達も含めてよ。

 まぁだからと言って私の男性恐怖症が無くなる訳でもないけれど、それでも恐怖感が薄まり、恐い男性が周りに少ない事による安心感がある。

 ただし……。


『くけぇぇぇぇぇっっ!』

『ペンペンペペペペンッ』

『もぉ〜〜〜〜〜〜っ!』

 ドッピュッ!ドッピュッ!

『ぷぇぇぇ〜〜〜〜っ』


 ごく一部、この歳になって下着を汚して気絶する羽目になった施設があるけれど、男の人達の中に放り込まれるよりは何倍もマシだと思えれば耐えられる。

 安全な場所で落ち着いて見たら、魔物だと言っても意外に可愛いかったしね。

 温泉クラゲはお湯を噴き出してくるけれど、熱湯ではないので掛かっても濡れるだけだし、驚かしたりと刺激しなければ、時折光らせる身体は素直に綺麗だと思える。

 あと濡れた服越しに見える下着に目を向ける、男の視線が只管に気持ち悪かったものの、此処の男性はそういう方は少ないのがせめてもの救いだわ。

 他にも本が沢山在って、休憩時間は好きに呼んでも構わないって言うのも嬉しい。

 使用人なのに一人一人個室を与えられているから、夜ふかしもし放題。

 但し、寝坊したり、昼間眠そうにしていると、お叱りを受ける。

 これは当然の事なので仕方がない。


「今日も美味しい♡」


 食事もね、本当に使用人が食べて良いのかって言うくらい美味しいだけでなく、一食で色んな内容がある。

 ある意味、辺境伯爵家の娘として過ごしていた時より、良い食事をしていると言って良い。

 他にも色々と恵まれた環境だという事は在るけれど、少なくとも此処なら一生働きたいと思えるくらい。


「欠点は山奥の田舎すぎて遊ぶ所がないし、自由に買い物が出来ない事よね」


 同僚の一人がそんな事が口にしたけれど、そんな物は私には欠点とは感じられない。

 街は男の人が多いから出掛けたくないし、そもそも、私、一応はカーレン辺境伯爵家の娘だったのよ。

 お母様に鍛え直されるまで、安全のためだからって基本的に敷地から出ない生活をしていたから、山奥だろうと外出しないのなら関係ないし、買い物も商人を呼んで購入していたから、私には元より関係がない。

 それに欲しい物は申請すれば大抵は購入出来る上に、この家が持っている商会が扱っている物であれば、使用人と言う事で特別割引で購入出来る。

 あっ、でも不満がない訳ではないのよ。

 これはある程度此処の使用人達が持つ、私達の主人(あるじ)に対する共通の不満だと言える。


「「「「着飾らないだなんて勿体ない」」」」

「「「「お世話したいのに、させてくれない」」」」

「「「「私達の存在意義って……」」」」


 そりゃ〜我が儘な御嬢様とか、横暴な女主人とかが相手ならともかく、この家の主人であるユゥーリィ様って、世間では色々と言われていた方らしいけれど、実際にお側で仕えてみてみると、す〜〜〜〜〜っごく真面目な方で、領民や家のために毎日凄い量のお仕事を熟しているだけでなく、鍛錬や研究を欠かさない立派な方。

 その上家族想いで周りの方に気を使ってくださっているだけでなく、私達のような新人にでも優しく笑みを向けられる尊敬出来る方なの。

 そうなると私達使用人としては応援したいと言うか、より良く見て貰いたいと言うか、それを自慢したいと言うべきか……、とにかく良い暮らしをさせて戴いている以上、少しでもお力になりたいと思うのは人間として当然な訳。


「今朝も地味な服でしたわ」

「幾ら屋敷内と言っても、もう少し華やかでも良いと思うのに」

「執事のプシュケ様曰く、アレでも良くなったそうですわよ」

「え?アレで?」

「あら、知らないの?

 周りが少しずつ変えていって、偶に気が付かれて、少し戻してとを繰り返してようやく今になったそうよ」

「御本人は楽で邪魔にならない服が一番、生成りの服でも問題ないんですって」

「し、信じられない。

 元は男爵家の次女だとお聞きしてますけど、それでも普通はもう少し興味を持つものじゃないの?」

「服に興味が無い訳ではないらしいのよ。

 本人が着飾る事に興味がないだけで」

「それ、興味がないのと一緒じゃない」

「化粧も技術をお持ちなのに、面倒だからと魔法で一瞬で終わらせられるのを、朝だけはプラーガ様の練習のためにと付き合って下さっているだけなのよ」

「そのお手伝いと言う名目で順番に呼ばれるものね、アレはアレで勉強になるから是非とも続けて欲しいわね」


 とにかく、主人(あるじ)であるユゥーリィ様は手が掛からなさすぎるのが、一番の不満。

 執事長のセルニバス様は、お子様方が大きくなった時のために自分を磨いておくようにと仰っているけれど、それってユゥーリィ様にとって私達は不要って言っているも同じだもの。


「とにかくユゥーリィ様って、完璧なのよね」

「全部一人で熟してしまわれるもの」

「幾ら魔法を使っていると言っても、私達より断然早い上に上手いし、自信無くすわ」

「仕事も出来て、お強くて、お優しい」

「御年齢を考えたら、少々幼い見た目が欠点と言えば欠点と言えるのかしら?」

「あれが良いという殿方も多いのよ」

「うげっ、私そう言う男性って駄目だわ」

「ユゥーリィ様が女性ではなく男性だったら、もうモテモテね」

「今のままでも、モテているわよ。例のお二人に」

「ちょっと、その件に関して興味を持たないように言われているでしょう」


 私の注意を促す言葉に、皆が一瞬だけ静かになる。

 他人の事は言えないけれど、私と違って家の女主人が男性に興味がないというのは、どう考えても家として問題があるもの。

 ただ、実際に後継者がいて家が存続出来るのであれば、使用人としては余計な事に口を突っ込むべきではないし、口を噤ぐべきなのだろう。

 特にユゥーリィ様のお相手が、同姓で私達と同じユゥーリィ様に仕える者となれば、余計な諍いが起こらぬようにするべき。


「でも、どちらが本命かってのは興味があるのは、皆、同じでしょう?」

「ジュリエッタ様じゃないかなぁ。

 あの美貌に、同じ女性として羨むぐらいの理想の体形だもの。

「コルセットで腰を締めてないのに、あの腰の細さって反則よね」

「でも聞いた話だと、あの方、此処の女性陣の中で一番食べられるそうよ」

「「「うそっ!」」」


 あっ、それは私も同感。

 以前に配膳をお見かけしたけれど、私達の倍以上の量が盛られていたもの、アレで太らないどころかあの腰回りって、流石に反則だと思う。

 しかも甘味が大好きって。

 私達が太らない様に、日々どれだけ我慢して努力していると思っているのかと思うと、正直に言わせて貰えるのならば殺意が湧く。


「……その件は口にするのは、悲しくなるだけだから止めましょう」

「真面目な話、何時も側にいて、何処にでも連れてかれるから、一番のお気に入りである事には違いないと思うわよ。

 厳しい事を言われる事もあるけれど、何だかんだと色々と甘やかせている姿も見かけますし」

「う〜ん、私はエリシィー様だと思うけどなぁ」

「私も、私も、だってユゥーリィ様って、外出先から帰ってくると、何時も真っ先にエリシィー様の所に向かわれるでしょう」

「ぁ〜〜……確かにそうね、途中でお会いすれば対応はされるけれど、私の知っている限りでも、基本的にエリシィー様、サクラ様と、この順番に顔をお見せになられるもの」

「その現場、私も見た事がある。

 お二人とも、すっごく自然な笑みを浮かべられていたから、印象が強かったわ」

「プラーガ様って子供の頃からの知り合いで、ずっと一緒に居られたと言うのも大きいわよね」


 女性としての魅力は間違いなくジュリエッタ様でしょうけど、それは男性から見た場合の魅力だと思う。

 対してエリシィー様は、確かに可愛らしい方ではあるけれど、それ以上に包容力がある女性って感じがする。

 男性は美人よりも、一緒にいて心が安まる相手を大切にすると本にも書いてあったけど、男女に関係なく心が安まる相手に惹かれるものだと思う。


「コホンっ」

「「「「「ぇっ?」」」」」


 咳払いと共に、何時の間にか執事のプシュケ様が私達の背後に立っている事に、此処にいる皆が気が付く。

 え? 本当に何時の間に?

 私、気配探知を怠っていなかったわよ。

 歩いてくる音だって、まるで聞こえなかったし。


「皆様、随分とお手隙のようですね?」

「「「「「ぁぁ……いえ、そう言う訳では……」」」」」


 そして笑みを浮かべてはいるのに、目が少しも笑っていない。


「いえいえいえ、このような場所で集まり、禁じられている下世話な詮索をされているのですから、暇を持て余していない訳がないではありませんか。

 ただ、貴女方が興味を持たれて、こうして話題にする気持ちは理解出来なくはありません。

 ですが、その事によって今の均衡が崩れる危険性がある事を、貴女方は理解しなければならないという事を少々軽んじておられる様子。

 ですので今一度お教えしましょう。

 そのような不用な興味本位によって被害を一番受けるのは、私共の主人(マスター)である事を失念してはなりません。

 何故なら主人(マスター)は普段は気丈に明るく振る舞っておりますが、本来主人(マスター)は身体が弱く、ちょっとした心の不安が元で体調を大きく崩す恐れがあるからです。

 事実、私が主人(マスター)にお仕えしてからも、何度も生死を彷徨っておられます」

「「「「「う゛っ」」」」」


 た、確かにプシュケ様の言う通り、ユゥーリィ様が生まれつき身体が弱い方だというのは聞いていた。

 実際には元気な方なので、すっかりと忘れていましたけど……、プシュケ様の雰囲気から察するに事実なのでしょう。


「さて、改めてお聞きしますが、貴女方は主人(マスター)の平穏を脅かす者ですか?」

 ひゅっ


 あれ? 何時の間に糸が首に?

 え? これって?

 嘘? 全員に?

 拙い、拙い、拙いっ!


「「「「「以後、気を付けますっ!」」」」」


 私達の言葉と同時に、首に掛かる糸の感触が消える。


「そうですか、それは良かった。

 余計な掃除をしなくて済みました」


 掃除って、それって絶対に私達の血と死体ですよね?

 恐くて聞けませんけど。


「ああ、そうそう、庭師が冬の間に庭に肥料をやって土作りをすると言っていましたので、お手隙のようですから、手伝いに行って戴けたら助かります。

 花を愛でるのは、主人(マスター)の数少ない女性らしい嗜みですからね」


 ええ、全員が全力で首を縦に振ります。

 本音は力仕事や汚れる仕事は嫌だけど、断れる状況ではないですからね。

 ええ、断るだなんてあり得ません。

 幸い、私は少しばかし身体強化が使えます。


「そうそう、講習でもお聞きしていると思いますが、主人(マスター)は花を愛でるのは好きなのに此処の屋敷の庭が小規模なのは、主人(マスター)が花を目にすれば面倒を見たがるからです。

 今まで人手の関係で小規模でしたが、今年から拡張する以上、いい加減な仕事は主人(マスター)の手を煩わせる事に繋がります。

 ないとは思いますが、もしも貴女方の仕事に不備があり、マスターのお手を煩わせる事があれば、その時は……お分かりですよね?」


 背景、お父様、お兄様へ。

 私はお父様達が言う『ぽややん』ではないと思っていましたが、やはり心配されていた通り『ぽややん』だったようです。

 周りの皆が禁止されている会話をした際に、私なりに止めはしたものの、そのまま周囲に流されてしまいました。

 話が続いた時点で、その場を離れるべきだったのです。

 恵まれた職場環境にはそれなりの理由があり、気を緩めるべきではなかったのだと。








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― 新着の感想 ―
1000話到達おめでとうございます!お疲れ様でした!
1000話おめでとうございます ユーリィもエリシィーとかジュリを着飾りたい愛でたいと思ってるんだから、自分だって周りの人達がそうしたいと思われる事にいつになったら自覚しようよ(苦笑 いつまで中身おっ…
1000話おめです!
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