748.産休制度は使って貰わないと困るそうです。
鎮魂祭が終われば、村は田畑を起こし直したり肥を入れたりと、忙しい日々がやって来る。
「お嬢様、その様な事は本来は民だけで行うものでございます」
「主人のお手製の魔導具だけで十分かと」
「ユゥーリィは休んでいる」
「私やポーニャさんで頑張りますから」
のだけど、生憎とガードが固くて、今年は手伝えそうもない。
きっとそんな事もあろうと、そのぶん農機具の魔導具の開発や量産を頑張っておいて良かったと思う。
ユリアやラキアの時は、此処まで過保護にされていなかったと言うのに、私の時だけなんて解せないけど、文句を言おうものなら、屋敷の人間総出で説得して来るので大人しくしておく。
仕方ないので、今日は部屋に戻って執筆作業。
ライラさんに渡す新刊がだいぶ増えた気がする。
お手紙で、最近新刊が出ていない事が噂になっているらしいけど、気にしない様にと書かれてはいても、書かれていたら逆に気になってしまう。
この世界だと、娯楽物であっても三〜四年新刊が出ない事なんて当たり前の事なんだけど、半年も掛けないペースで新刊を出していたから、読者の中には作者死亡説が出ていると聞いて、ライラさん、思わず笑っちゃったって言うのよね。
『ゆうちゃんは、殺したって死なないと言うのにね』
コッフェルさんじゃやないんだから、ちょっと酷い例えだとは思うけど、そこはライラさんと私の仲だから言える事。
一応はプンスコしながらも手紙の返答の中で、お土産を沢山持って行くので楽しみにしていて下さいと返事をしておいたので、ちょっと頑張らないといけない。
この世界の史実を元にした騎士と王女の恋愛物を、某バラ風にオマージュして、ヒロインの王女はチョイ役のモブで、こんな史実もあったかもしれないなぁ~ぐらいの視点で書いた宮廷友情愛物語、全十八巻の超大作物。
正確には以前にも似たような内容の作品を書いたけど、人気があったので設定と視点を変えて大作化した作品だったりする。
でも単なるリメイクではなく、カップリ…もとい、友情の組み合わせは多数。
友情の三角関係四角関係と混迷としながらも、それぞれの立場に苦悩しながらも、国の為だと動く男達の物語。
腐らせるか腐らせないかは、読者のお任せで。
他にも珍しく男女の純愛物も書いたわよ。
お互いに異性を意識始めた頃の少年と少女の、甘酸っぱい恋を描いた短編物をね。
タイトルが【悲恋姫】と、切ない内容になっちゃったけど。
「でも、いいのかなぁ?」
つい口に出てしまう。
だってね、やるべき仕事は幾らでもあるのに、こうしてのんびりしているのは申し訳なく思ってしまう。
後回しにした事や、人に投げた事で迷惑を掛けているのに、私は自分の好きな事をやらせて貰っているのだもの。
「どうしたんです?
そんな溜息を吐いていたら、幸せが逃げちゃいますよ」
エリシィーもセバスもプシュケも、三つの村の陣頭指揮を執りに行っているので、代わりに双子ちゃん女中のアンネがお茶を煎れがてら、そう訊ねて来たので、素直に今の現状に対する申し訳なさに悩んでいると言うと。
「ユゥーリィ様、寝言は寝て仰ってください」
少なくとも、これは使用人が主人に言う言葉ではないと思う。
気にしないし、不快にも思わないけど、何故にそんな返事が返ってくるのかと疑問に思う。
「十分に仕事をしていますよ。
ユゥーリィ様は仕事が早いから、そう感じないだけです。
そもそも産休制度と言う、妊婦の方の制度をユゥーリィ様が作られて導入されているのに、そのユゥーリィ様が碌に制度を使っていない状態では、他の者が気にして使えません。
ですから他の人の為にも、もっとゆっくりして欲しいぐらいですのに、少しは御自覚ください」
えぇ~~、それは妊娠で以前のように働けない人のための支援制度であって、私の場合は魔法があるから、普通に働けるから関係ないじゃん。
「そのお顔は自分は関係ない、とかお考えのお顔ですね。
ですから先程も言わせて戴いたように、ユゥーリィ様が率先して使っている様に見せて戴けないと、他の人が困るんです」
うん、言いたい事は分るんだけどね。
ほら、産休制度って女性のための制度という認識があるから、中身がオジさんの私には自分が適用すべきと言う感覚がいまいちないのよね。
「う~ん、でもそんな気にするって事は、アンネは制度を使う予定でも?」
「ないです」
「じゃあ」
「メアリーにもないです。
ユゥーリィ様、気持ち悪い事を言わないでください」
「ぁぁ…、うん…、ごめんね」
双子ちゃん女中は、相変わらず男性嫌いみたい。
以前の家にいた時にかなり嫌な思いをしたみたいで、男性に対して完全に幻滅しているどころか、異性として見られる事自体を嫌悪している。
そこはあまり触れてあげるのは良くないので、話題にしない。
「別に謝って戴くような事ではありませんので構いませんが、それはそれとして、それに関係する相談はあります」
「話を聞かせてくれる?」
「いえ、今は相談しません」
「ちょっと、なによそれ。
揶揄っているの?」
「そうではなく、今、ユゥーリィ様は大変な時ですので、そんな時に相談しては、その方に迷惑をお掛けする事になりますので、ユゥーリィ様の状況が落ち着いて、社交を再開される時にお話しさせて戴きたいと思います。
今、敢えて口にさせて戴いたのは、ユゥーリィ様が率先的に制度を使って戴けないと、いずれその方が困る事になり兼ねないと思い、御報告をさせて戴いた次第です」
要は第三者を作る事で、説得力を持たそうと言う訳ね。
でもこれを無視すると、アンネの言っている第三者が本当にいた場合は困る事になるのよね。
口調的に、本当にいる感じだし。
ああ、そう言えば、アドルとセレナがそろそろ子供を作ろうか、とか言っていたからその事かも。
子供を産んだラキアが子供が可愛いからと、直ぐにもう一人作りたいとか言い出して、セレナに思いっきり怒られていたから、よく覚えているのよね。
ただでさえラキアは、四人の中での協定をぶち破って、ギモルに避妊はしていると騙して勝手に子供を先に作ったのに、またアドルとセレナの順番を無視して先に作られたら、自分達は何時作れば良いのかって、もう凄い剣幕だったわ。
何時でも作ればと思うのだけど、そこは護衛騎士として譲れないものがあるのだろう。
あんまり協定を気にし過ぎるようだったら、また今度叱っておこう。
護衛のお仕事だって、短期間であれば領軍の人達を使えば良いのだもの。
そもそもアドル達のみしか使わない理由もない。
ただ、一番信頼している護衛騎士で、気を遣わなくても良いと言うだけの事。
「そう、じゃあ聞かせて貰う日を楽しみにしておくわ」
「え~と、あまり楽しい話ではないですよ。
寧ろユゥーリィ様を困らせる話ですから」
うわっ、本当にガチの話だったみたい。
困る第三者がいる前提で、話しをしていて正解だったわ。
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【 双子ちゃんメイドの、なぜなにコーナー】
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メアリー「さて、作者が懲りずに、まさかの二回目のコーナーです」
アンネ 「ユゥーリィ様ほど気紛れではないのでマシだけど、お給金も出ないのに、いい加減にして欲しいものだわ」
メアリー「本当よね。今回は、話にも出てきた女性の雇用制度について少しだけ」
アンネ 「給金が出ればマシ」
メアリー「男性の四割か良くて六割かな」
アンネ 「家事を含めた家業だと無給。御飯食べさせて貰えるから良いだろ状態」
メアリー「安い分、雇用側は雇いやすい利点もあるんですけどね。飲食店関係なら賄いや余り物のお土産が付きますし」
アンネ 「残飯処理とも言う」
メアリー「私達の主人であるユゥーリィ様は、その辺りの制度を見直しては下さっているのだけど、逆に言うと厳しい見方もされています」
アンネ 「基本給は男性の七割。貰える方だけど、ケチだよね」
メアリー「その辺りは女性特有の事情があるから仕方ないわ。体調が優れなくて月に何日か休む女性も多いし、子供が出来れば年単位で職場を離れるし、そのまま復帰しない方もいるのだもの、雇用側から考えれば男性と同じという訳には行かないのも当然の理屈よ」
アンネ 「男達の方が二日酔いで遅刻したり、休んだりする人が多い。酷いと女の所に何日も泊まったまま仕事に来ない」
メアリー「……、……実際にはそうなんだけどね。ただ、オルディーネ領で働く女性は特別技術保有者手当法が適用されているの。これは就いている仕事に関して、優れた技術を保有しており、仕事に役立てているのであれば、追加手当を出させる事で、基本給の低さを補填させるという制度なのよ」
アンネ 「馬を走らせるための餌とも言うわね。」
メアリー「他にも女性専用の宿舎を幾つも建てて下さり、独身女性に対して安全な部屋を貸して下さっているわ」
アンネ 「相場通りとは言え、しっかりとお金は取られるけどね」
メアリー「設備とかを考えたら安い方なのよ。他にも育児休制度があり、幼い子供のいる家には、半日単位で取れる有給休暇を年に十日分もあって、これは男女共にある制度よ」
アンネ 「息子が熱を出したと言って、育休を使って妓楼に行く殿方もいるらしいけどね。何処のムスコが熱を上げたと言っているのかしら。……モゲれば良いのに」
メアリー「他の領ですと、子供が出来たと分かれば仕事にならないからと解雇される事を思えば、二年以内に職場復帰する事を約束するのなら、領が雇用者に代わって生活費を出し続けてくれる産休制度は画期的だけど、男性陣からの反発も強い制度でもあるわ。
職場復帰出来なければ借金になるという欠点があるのにね」
アンネ 「高い技術を持っている女性技術者の確保と、子供がいなくなれば、将来、領の運営が成り立たなくなるからの制度でしょ。文句を言っているのは、そういう将来を想像出来ない馬鹿な男だけ。腐った種は要らないと思うのだけど、どう思う?」
メアリー「……同感だけど、ユゥーリィ様が心配するから、過激な発言は控えなさい。何かあったのかと、また尋問されるわよ」
アンネ 「……アレは面倒くさかった」




