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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第六章 〜オルディーネ編~
747/1077

747.湿っぽいのは苦手なので、とっとと逃げ出します。





 冬の終わり、春の息吹を僅かに感じる頃、毎年恒例の慰霊祭の日が訪れた。

 元々はこの季節に起きた隣国からの紛争によって、幾つもの町や村が巻き込まれた結果、故郷を失ったものの生き残った多くの人達が難民として集まり、倒れる同胞を見取りながらも私の所にまで辿り着いた人達が、それまでに亡くなった人達の魂が安らかに眠れるよう鎮魂を願う日。

 既に何度も行っている催しではあるけど、まだ数年程度の浅い歴史しか持たない。

 だと言うのに、また新たな慰霊碑が増えてしまった事は、とても悲しむべき事なのだろう。


「うぅ、ぅぐっ、あ、ありがとう、ありがとうございます」

「あいつらが、あいつら、少しでも安らかに眠れると思うと」

「ぁぁ…、わ、私等のために、うぅ、本当に、本当に、ありがとうござい、ぁあ……」


 でも、鎮魂の儀式を終えた後、真新しい石碑に向かって涙する人達や、こうして私の周りに来て、泣きながらもお礼の言葉を口にする人達の姿を見ると、もしかすると喜ぶ事なのかもしれない。

 彼等の苦労も悲しみも知る事の出来ない私は同情するだけだし、感傷に浸っている振りをするだけではあるものの、やはり私は悲しい事だと思う。

 ただ、そんな感傷や雰囲気も……


「はいそこの人、下がって」

「気持ちは分かりますが、下がってください」

「はい、領主様へは気持ちは伝わっていますから、下がりましょう」

「すみませんが、領主様に近寄らないようお願いします」


 私に人を近寄らせまいとする、見習い護衛騎士達の声でぶち壊しなのよね。

 私の村なら私を害する人間はまずはいないと言っても、事故は起こり得るし、その事故を防ぐために、今回は見習い護衛騎士であるイリーナ達に、経験を積ませる事もあって私の周囲の護衛を任せたのだけど、もう少しなんとかならないのかと思ってしまう。

 まるで、何処かのアイドルコンサートの警備員じゃない。

 うん、まだまだ勉強と経験が必要ね。


「怪我人が出る前に戻るわよ」


 新しく出来た三つ目の村であるオケアン村の人達は、今回の慰霊祭には初参加。

 彼等は隣国のとある領地に住む人達だったんだけど、度重なる重税と不作と不漁に加えて土砂崩れによって畑がほぼ壊滅した事によって、村を捨てざるを得なかった人達。

 でも、だからと言って全員が逃げ果せれた訳ではなく、逃げる最中にも多くの人達を亡くしている。

 歳をとり過ぎて逃げる体力がないからと食糧もない村に置いて来た人達や、厳しい逃避行に耐えられなかった人達の名前を刻んだ慰霊碑を新たに作り、一緒に鎮魂の義を行っただけだけど、それで怪我人が出ては何も意味がない。

 イリーナ達も私に近寄ってくる人達の対処でパニックに成り掛けているから、何時事故が起こるか分からない状態。

 暴徒ならば対処も楽でしょうけど、彼等の場合は、ただ私に礼の言葉を告げようとしているだけだもの。

 しかも涙を流しながら。

 まだまだ子供だし、経験が不足しているイリーナ達では、どう対処して良いか分からないわよね。


「魔法で帰らないので?」

「たいした距離でもないもの、健康のためにも歩くわ」


 確かに空間移動の魔法を使えば、直ぐに屋敷へと帰れるけど、それじゃあつまらないじゃない。

 せっかく良い天気なのだから、景色を眺めながら歩いて帰りたい。

 急速に出来た村だけど、今は少しづつ変わるだけの村をね。

 儀式の場から離れれば、私に礼を述べようとする人達は後を追ってこない。

 と言うか、昔から住む村の人達に後を追わないようにと止められていたりする。

 まぁ、一応はこれでも妊婦だからね。

 きっと気を使ってくれたのだろう。


「はぁ、良い天気ね」


 少しずつ春の息吹が感じられるし、梅に似た木が蕾を大きく膨らみ始めさせている。

 きっとあと数日で蕾を解して、その小さな花を咲かせるわ。

 うん、その時にまた見に来よう。

 別に妊婦だからって動いていけない訳ではないし、健康のためには散歩は必要。

 いい加減に屋敷の庭を、只管に歩くのも飽きたと言うのもある。

 柔軟や軽い運動は許されているけど、やっぱり物足りない。

 よしっ、お腹の子が生まれたら、絶対に山歩きに行って大自然を堪能してやるわ。

 レナさんが気を遣って偶に獲って来てくれるけど、やっぱり自分で獲って来た物の方が美味しく感じるし、……ほらっ、レナさんって雑……、いえ、大雑……じゃなくて、粗忽……そうそう大らかだから、違う物まで獲って来る事も多いし、獲った後の処理もね。


「ふふっ、もう着いちゃった、残念ね。

 皆んなお疲れ様、色々と気がついた事があるでしょうから、ちゃんと報告書に書いておくのよ」


 屋敷に辿り着いたので、イリーナ達四人を解放してあげるのだけど、ちょっとだけ顔を歪められてしまう。

 うん、どう報告書に書こうかと、きっと今から頭を悩ませているんでしょうね。

 まぁ在った事を書くだけなら楽だけど、護衛騎士見習いの四人は反省や改善点なども書かないといけないからね。

 今日の状況ではどう言う事が有り得たか、同じような時にどう動くべきかとかを、状況に応じて考えれる様に癖を付けさせるためにね。

 だからある程度の思考が出来る様になるまでが大変。

 でも言語化させる事で、考えが整理できるから、報告書一つとっても大切な成長の道具。


「「「「……はい」」」」


 うふふっ、頑張れ。

 ヴァイスとエマに、後で四人にお菓子でも持って行ってあげる様に声を掛けておこう。

 脳への糖分補給は大切だからね。


「ん……」


 本当……、最近はよく動くわね。

 まさかお腹の中で踊っている訳ではないだろうけど、でも私と一緒で舞踏が好きな子だと良いな。

 親子で踊るのも楽しそうだもの。


「……、……っ」


 楽しい想像をしたばかりだと言うのに、突如として暗い感情に襲われる。

 歯を食いしばりながら、楽しい事を考える。

 この子を必死に肯定する。

 いてもいい子だと。

 産んで良い、ううん産みたい子だと。

 親子四人で笑っていたいと。

 うん、……早く帰ろう。

 二人の元へ……。

 私の中の嫌なものも、二人がいれば……。


《大丈夫、気をしっかり持って》


 最近、また時折聞こえる様になった声。

 でも、今は少しだけ感謝。

 私が暗い方向へ揺らいだ時に、こうして声を掛けてくれるから。

 でも、やっぱり怖いから、静かにしていてほしい。

 私は【    】なんてものに興味はないの。

 長生きすら出来なくても良い。

 ただ今の儘、大切な人達と人として生き、大切な人達に見送られながら人と死ねれば、それだけで満足だもの。

 そうでしょ、だって【ユゥーリィ】は本来死ぬ運命だったのだもの。

 偶々【相沢ゆう】の記憶が蘇って、その運命が狂っただけ。

 【ユゥーリィ】としても、【相沢ゆう】としても、おまけの人生を送っているのだもの、十分に贅沢な事なのよ。

 これ以上を望む事なんてないし、必要ないわ。




 だから【    】、見守るだけにして。






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