736.怖面はドレスコードには引っ掛からないのですか?
「綺麗どころが二人揃って華やかではあるが、その華やかさを年寄りにも分けて戴けませぬかな?」
勢いが止まらないセリア様に困惑している所に、新たに声が掛かったのは私と同じ辺境伯の一人であるカリブ・オル・ネルソン様。
海賊の親分顔の素敵な小父様です。
「……、突然現れるのはお止めください。
私はともかく、驚かれる方もいますので」
怖面ではあるけど、意外に紳士である事を知っている私はともかく、セリア様が一瞬固まられてしまいましたじゃないですか。
少しは自分が怖面だと言う事を自覚してください。
もっとも、自覚しているからこそ真摯な言動なんでしょうけど、尚更に胡散臭さが増している気がするのは私の気のせいですか?
「カリブ様、その節はどうも。
ですがいつもは名代の方ですのに、カリブ様が御自身がお顔を出されるなど、珍しいですわね」
「偶には顔を出さねえと顔を忘れ去られそうだからな。
数年に一回は出る事にしているだけで、今回がその一度ってだけさ」
う〜ん、カリブ様の顔は一度御挨拶したら忘れそうもないと思うんだけど、流石にそれは口にはしない。
「そうそう、嬢ちゃんが作ってくれた壊血病の特効薬のおかげで、だいぶ死ぬ奴が減った。
その事についちゃファーガソンの奴も感謝していたぜ。
勿論、実際に病気に掛かる船乗りの連中もな。
奴等にとって壊血病は身近な死病だったからな、きっと嬢ちゃんのためなら命だって賭けるだろうぜ。
嬢ちゃんの敵はぶっ殺すってな」
「カリブ様、そう言う冗談はちょっと……」
王城の舞踏会場の真っ只中ですよ。
幾ら強面の顔に似合っているとは言え、ぶっ殺すとか、言葉を選んでくださいよ。
あと、今更ですけど声が大きいです。
「何を言ってやがる、冗談なんぞ一言も言ってねえぞ。
壊血病の怖さを知っている船乗りにとっちゃ、本気で嬢ちゃんは救いの女神だからな。
船乗りの家族だって、特効薬を齎した嬢ちゃんには感謝している。
ありゃあ、嬢ちゃんの事を気に入らねえ家の荷があったら、波に攫われたと言って平気で海に投げ捨てかねん状態だぞ。
俺やファーガソンの手の者で、嬢ちゃんはそう事は嫌うと説得して回っているぐらいなんだぜ」
「ぉ、お手数お掛けをいたします」
すみません、本気でシャレになりませんから勘弁してください。
あと、壊血病の特効薬に関しては、アーカイブ家が国を通して齎した事になっているんじゃなかったでしたっけ。
いえ、薬の製造元がが私の所だと言うのは伏していませんけど。
「おう、カリブが顔を出すとは珍しいな」
「人の事が言える立場じゃねえだろうが。
オメエさんも数年ぶりの顔見せか?」
「まぁそんな所だ」
そこへまた声を掛けて来たのが、これまた辺境伯の一人であるアークライド・ラル・アックスフルド様。
「まったく、カリブの様な怖面が、珍しく可愛いお嬢さんと談笑しているかと思えば、ユゥーリィ嬢だったか。
ユゥーリィ嬢が掛けてくださった谷を結ぶ橋のおかげで、我が領民は安心して旅を出来る様になりましたぞ。
あの橋を利用する者、その事で恩恵を受ける多くの者を代表して、感謝の言葉を伝えさせてもらおう」
「いえ、こちらこそアークライド様の御助力のおかげで我が領民は助かっております。
お礼の言葉など、寧ろ此方が述べさせて戴く身ですわ」
カリブ様との会話を聞くに、どうやらアークライド様も久しぶりに王都の社交界に顔を出したらしいけど、絶対にこれも陛下の差金よね?
特効薬の件にしても橋の件にしても、既にお礼を言われているのに、こんな場所で声に出して礼を述べるなど、どう考えても政治的な思惑があるとしか思えない。
「それでお嬢さん方は、どの様な話をされておられたんだね」
「カリブ様、女性同士の会話を尋ねるのは……」
「はい、ユゥーリィ様に卑怯な手で領地戦を仕掛けた、愚か者達の話をしておりましたの」
「え、と、セリア様?」
せっかく話が有耶無耶の内に立ち消えたと喜んでいたのに、何故に蒸し返すの?
「ああ、あれか。
三万以上もの相手を、氷漬けにして震え上がらせたとか言うやつだな」
氷漬けにしてません。
カリブ様、話を誇張させないでください。
いえ、確かに寒さで震えさせはしましたけどね。
「その話は私も聞いている。
確か一歩も動かずに、決着したとか言う奴だな」
アークライド様も話に尾鰭をつけないで。
寒さで真面に動く事も喋る事も出来ない様にした後、空間移動の魔法でちゃんと敵陣まで突入しましたからね。
一歩も動かずに決着したなんて事はありません。
なのでしっかりと誤解を解いておく。
誰一人殺していないし、一歩も動かずに決着したなんて事はないと。
「はっ、似た様なもんだろうが。
誰一人殺さない様に気を付けられるのならば、殺す気にだったらもっと簡単だって事だろうが。
トライワイト王国が十三隻もの軍船を引き連れて襲って来た時だって、一撃で決着したと息子からの手紙で聞いているぞ」
「我等が目の前で、海皇大蛇に皇帝蛸、そして三体もの大王烏賊を瞬く間に殲滅しておいて、その様な謙虚さなど嫌味でしかないな。
ユゥーリィ嬢は我等が認める辺境伯の一人だ。
もっと胸を張って堂々としておれ」
「残念ながら、その胸がねえがな」
うきゃ〜〜〜、なんでそう言う事を人前で言うんですかっ!
お二人とも、私が目立ちたくないって知っておられますよね!
静かな人生を送りたいと、分かっていますよね!
あとカリブ様、一言余計ですっ!
好きで貧乳をしているわけではないので、余計なお世話っ!
こう言う場で、何を破廉恥な親父ギャグを言っているんですかっ!
ぎゅっ
お返しに足を踏んであげるも……。
「嬢ちゃんや、本気でもう少し食べろや。
足を踏まれても、軽すぎて痛くもなんともないぞ」
くっ、怖面通りに無駄に頑丈な足をしてからに。
足を踏まれても平然とするどころか、逆に心配顔で言ってくるから腹が立つ。




