735.私にフリフリのドレスって、どんな罰ゲームですかっ。
「可愛い〜〜〜ですわ」
「ユゥーリィ、似合う、素敵、抱きしめたい」
秋の日の釣瓶落としとは言うけど、時間が空いたはずなのに、あっと言う間に日々は過ぎてゆき、冬の初めにある王家の舞踏会の日がやってきた。
心配していたお腹は膨らんできてはいるものの、前に持ってきた大きなリボンで誤魔化せる範囲……誤魔化せているよね?
こう言う時、童顔低身長だと子供っぽいとも言える過剰なリボンも、違和感が少なくて済むと言う。
うん、嬉しくない。
いえ、お腹が膨らんできているのは、元気に成長してくれている証拠なので嬉しいけど、子供っぽい雰囲気のあるドレスは嬉しくない訳で。
似合う似合わないは関係ないの。
中身が中年男性と私としては、こう精神をガリガリ削られるのっ!
「この意匠ならば、よく妊娠をお隠しになられる方達の衣装とは大きく異なりますから、尚更に危険度は下がると思います」
でもプシュケにそう言われたので、お腹の子供のためと我慢するしかないんですよね。
王家主催の会場には護衛騎士はおろか、従者であるジュリも連れてゆけないから、私一人で何とかするしかないし、私を心配する周囲の人間に安心してもらうためにも必要な事。
秋の終わりで冬の始まりに行う王族主催の舞踏会は、その年における社交の終わりを告げる物でもあるので、これが終われば春までは私の領地で冬籠もり状態。
問題は出産予定時期前に春の舞踏会がある事だけど、その時まで私が妊娠している事を隠せれば、出産を理由にまた領地に籠もれるので心配がほぼなくなる。
何故か私の妊娠は、国家機密並みに情報規制がされているらしいからね。
とは言っても、情報なんてどこで漏れるか分からない物だから警戒は必要。
「ふぇ〜〜ん」
廊下に出たところへ元気な鳴き声が聞こえる。
声からしてクレアちゃんかな。
お腹が空いたのか、オムツなのかは分からないけど。
「駄目よ」
「駄目です」
「ドレスに匂いが移ります」
まだ踏み出す前に駄目出しをされる。
可愛い赤ちゃんをあやしたいのに、意地悪だよね。
ちなみにクレアちゃんと言うのは、先日ラキアが無事に出産した子供の名前。
長男のユルギア君に長女のクレアちゃん、と一男一女と揃って二人の子供の父親であるギモルが大喜び状態。
「プシュケ、匂いって、確定している訳ではないでしょうが」
「もしもそちらでしたら、大惨事です」
赤ん坊なんだから仕方ないでしょうと思うのだけど、今から舞踏会に出かけると言うのに、排泄物の匂いを纏う訳にはいかないか。
「それとも主人、もう一つの方に着替えられますか?」
「う゛っ……あれはちょっと」
ヒラヒラした服も嫌だけど、ロリロリした服はもっと御免です。
お腹を隠すためと言っても、幾ら何でもアレは過剰でしょうが。
ロリは我慢できても、ロリロリは本気で勘弁して貰いたい。
あんな服を私が着るだなんて、痛いです、致命傷です、見たくもありません。
と言うか人の意見を無視して、勝手にあんなものを作るなと文句を言いたい。
いえ、シェリーちゃんやミーナちゃんに似合うなぁと意匠図を書いたのは私ですけど、それは私が着ないのが前提の話なのっ!
「おっ、ユゥーリィ準備が出来た様だな」
「きゃ〜〜ユゥーリィ可愛い〜〜っ、似合ってる〜」
「だな」
「そうそう、ユゥーリィはそう言うドレスの方が似合っているから、いい加減に諦めたら?」
そこへ同じく出かける準備が整ったアドル達が顔を出す。
今日は王家主催の舞踏会なので、護衛騎士や従者の待機室でもそれなりに華やかになるため、ジュリやアドル達も、いつもより華やかな姿なんですよね。
うんうん、美男美女は何を着ても似合うわね。
目の保養になるわ。
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【王城舞踏会場】
「西部の守護者たる、ユゥーリィ・ノベル・シンフェリア殿の御入場ーーーっ!!」
毎回思うんだけど、会場に入るのに一々読み上げるの止めて貰いたいわね。
私としては目立ちたくないのに、態々大きな声で読み上げるんだもの。
「ねぇ、あれって」
「城に乗り込んだとか聞いたけど」
「よく顔を出せたわね」
「恥ずかしくないのかしら」
「辺境伯と共に爵位を返上すべきでしょうに」
「あの様な者を何で放っておくのかしら」
おかげで注目を浴びまくり。
ついでに人をネタに囁かれまくりですよ。
もうね、針の筵かと言わんばかりに、視線が彼方此方から突き刺さる。
社交界の嫌われ者なので、今更と言えば今更なんだけど、最近落ち着いてきていたから、此処までなのは久しぶりだわ。
ウザイと思いつつも笑顔を貼り付けて無視して、まずは上位貴族の出席者の義務を果たしに行く事にする。
王族への挨拶は、頭を下げて一言程度でサクッと終わる。
後がつえているから、此処では顔を見せに上がりましたよ、と言う程度でいいんだって。
そうでないと挨拶を受ける王族も大変な事になるので、みんなで協力しましょう。
「ユゥーリィ様、お久しぶりです」
サクサクっと陛下に挨拶をし終えた所へ、私に声を掛けて来たのはアーカイブ公爵家のセリア様、……と、その旦那様。
「お久しぶりです。
ここ最近は、お手紙だけですみません」
「いえいえ、ユゥーリィ様がお忙しいのは存じておりますので、お気になさらないでください」
「でも今日は如何して此方に?」
この時期に行う王家主催の舞踏会に参加できるのは、当主夫妻かその名代のみ。
セリア様はアーカイブ公爵家の次期当主ではあるけど、ジル様が現役の内は陛下を支える必要もあるから、ジル様がこの舞踏会を欠席するとは思えないのだけど……。
「今回から特別に王家から御招待を受けましたのよ。
お祖父様も御歳が御歳ですから後何年も現役ではいられませんし、我が家は父があの様な感じですから当主としての繋がりが薄くなるからと、長年国に支えてきたお爺様に対する褒美の一つだそうです」
「まぁ、それはおめでとうございます。
王家主催の舞踏会に足を運ぶ楽しみが増えましたわ」
「そのような嬉しいお言葉、有り難う御座います。
それにしても、今日のユゥーリィ様は一段と可愛らしいですわね。
いつもその様なドレスを纏われては如何ですか?
とても素敵でお似合いですわよ」
「動きにくいから嫌ですよ。
それとセリア様は私と違い、大人の装いが似合う様になられましたね。
本当に羨ましいですわ」
「ふふっ、ありがとうございます」
セリア様は私より一つ上なので、もう立派なレディー。
前世においても大人の仲間入りしているので、綺麗なドレスがとっても素敵なんですよね。
二児の母なのに、腰のラインが全然崩れていないのだから凄い。
ちなみにセリア様、二人も産んだからもう十分だそうです。
女の子には恵まれなかったみたいだけど、貴族の家としては男の子二人がいれば問題ないので、最低限の義務は果たしたんですって。
次期当主としてやるべき事が多いから、少なくとも数年は遠慮したいとお手紙に書いてあった。
「そうそう、お祖父様からお聞きしましたわ。
領地戦で三つの家を相手に圧勝したそうですわね。
おめでとうございます」
セリア様の言葉に、周囲で聞き耳を立てていた人達の空気が凍りつく。
上位の貴族は知っているでしょうけど、情報網が未熟なこの世界では知らない家が多いのでしょうね。
せいぜい揉め事が起きたくらいだと思う。
「しかも相手は姑息で卑怯な手段で、ユゥーリィ様に碌な準備もさせなかったとか。
お祖父様に聞きましたが、相手の要求も酷いもので、あれは誰だって腹に据えかねる内容ですわ。
ユゥーリィ様がお怒りのまま三家を潰しても良いかと、陛下に許可を戴きに来るのも当然だと思います。
ですがそこは流石はユゥーリィ様ですわね。
陛下の許可を戴きに来るだなんて、お優しいですわ。
我が家ならば、卑怯な手段を用いられた挙句に、あの様な酷い要求を送りつけられた日には、問答無用に潰していましたわ。
それなのに陛下のお気持ちを汲んで、相手への被害を最小限に留めるだなんて、まるで聖女の様なお優しさだと思います」
ああ……、これは陛下とジル様からの差金に違いない。
私に有無を言わせないマシンガントークで、次々と周囲に聞き耳を立てている人達に、態々聞こえるような声量で言葉を紡いでいるのがその証拠と言える。
あと頼みますから、セリア様まで聖女呼ばわりは止めてください。
どこの世界に中身がオジサンで、紛争で圧勝する聖女がいると言うんですか。
「相手は三万をも超える混成軍に対して、ユゥーリィ様はたった三百で持って迎え撃ったとか。
しかも相手に何もさせずに、三万を超える相手を戦闘不能にさせたそうですわね。
お祖父様はユゥーリィ様が陛下の願いを受けてその程度に抑えただけで、ユゥーリィ様がその気になれば全滅させられたと仰られていましたわ」
その言い方だと、どう聞いても聖女よりも魔女でしょうが。
もっとも女性の魔導士なので、魔女ではあるんですけど。
「ぇ……と、そのね」
「それにしても、お優しくお心の広いユゥーリィ様を怒らすなど、愚かだとしか思えませんわ。
前々から思っていたのですが、ユゥーリィ様はもっとお怒りになられても良いと思います。
勿論、ユゥーリィ様が諍いをお好みになられずに、一人耐える事を選んでおられる事は十分に理解しておりますが、周囲のユゥーリィ様に対する行きすぎた態度は度し難いものがあると、常々思っておりましたのよ」
うん、どうしよう。
セリア様の勢いが、止まりそうもない。




