494.第二回お魚さん掴み取り大会っ!(改)
「「「せいっやーっ!せいっやーっ!」」」
タイミングを合わせ、勢いよく掛けられる声と共に、参加した領民が一斉に縄を引く光景を、私はもちろん、陛下達も微笑ましそうに御覧になられる。
海ごと氷漬けになって駄目になってしまった、魚取の掴み取り大会の代わりに、数日遅れで行った地引網。
以前に海水浴を楽しんだ小さな砂浜で行うそれは、網の輪が縮まるにつれて、海面を跳ねる魚が見える度に歓声が湧き、やがて砂浜に魔法で掘った大きな溝に魚が追いやられると、大量の魚の姿に更なる賑わいを見せる。
そんな中、形の良い魚を幾つか持ってきて貰い、陛下達の目の前で料理。
本当は調理人であるロッテ夫婦に任せるべきだろうけど、二人は御夕飯の支度をするために屋敷で頑張っているので、私が調理を担当。
作るのは簡単な物で、あくまで新鮮な魚を陛下達に振る舞うと言う催しでしかないですからね。
この催しによって、この湾内が如何に海洋資源が豊かなのかをお見せするためでもあるので、何方かと言うと料理はただのおまけ。
生魚は流石に敷居が高いので、軽く湯引きしたカルパッチョ風お寿司や、熱風でじっくりと焼いた塩焼きや、串揚げをタルタルかトマトダレかソースかお好みで、他にも派手に藁で焼いてタタキ風。
お上品な宮廷料理では、絶対に戴けないスタイルで提供。
王宮だと熱々の料理なんて、まず出ないみたいですからね。
「家でやったら、叱られるな」
「子供達や家人に知られたら、何を言われるか」
「此処にいる者達は、共犯と言う訳か。それも悪くない」
「と言うか、鍋すら使わず魔法のみで調理って、またとない見せ物だな」
反応を見るに楽しんでもらって何よりです。
少しばかし童心に帰って、悪戯っ子気分を味わえてもらえれるのも、封鎖されているこの地ならではだろうからね。
それに、辺境伯の夫人ともなると、偶に前線の騎士や兵士を鼓舞するために、外で食べる事もあるらしいので、それほど忌避はしてはいないらしいけど、流石に串ごと頬張る様な真似は体験した事はないらしく、『実に下品ね、でも美味しいわ』と言いながら、家では人目を気にしてできない体験を楽しまれている。
そんな中、領民達が歓声を挙げながら、魚を仕分けているのを見ていたファーガソン様が怪訝な顔をし。
「どうやら毒魚まで仕分けている様だが、毒を取って扱うのかね?」
指を示す方向を見ると、そこではオコゼやカサゴ、河豚やエイ等を纏めて木箱に放り込む姿。
確かに、毒を取る事は可能だけど、毒を取るためでも捨てるための作業ではなく……。
「いえ、食べるためですよ。
後で私が捌くために、ああして別にしてもらっているんです」
何故か私の言葉に騒つく陛下達。
もうね、珍獣を見るかの様な、信じられないと言わんばかりの視線が、ちょっと痛いです。
因みに聞き違いではないですよ。
正真正銘、食べるためです。
「信じられないも何も、先日も信じられないとか言いながら、タコを美味しいと言ってくださったじゃないですか。
それと似た様な物です」
「「「「「似てない、似てない」」」」」
「と言うか、タコと皇帝蛸を同列扱いって」
「皇帝蛸の身に毒はないから、百歩譲って良しとしたが、アレはどう見ても毒魚だろう」
「毒キノコを食べてから魔法で解毒する者もいると聞くが、はっきり言わせてもらうが悪趣味だぞ」
酷い謂れ様である。
タコはともかく、流石に陛下達に河豚とかは出せないと自重していたのに、仕方な
いので仕分け済みの箱から取って来て調理。
河豚とカサゴは唐揚げにして、塩胡椒と乾燥レモン粉末を振り掛けてシンプルに。
エイの身をムニエルにしバジルバターソース掛けにして、肝はワイン蒸し。
毒検知の魔法を掛けた上で、問題ない事を示す様に、私が一口ずつ戴いてみせる。
「うん、美味しい♪
立場上、陛下達にはお出しできませんが、毒の部分を取り除けば、美味しいお魚さんなんですよ。
エイも見た目はアレですが、新鮮であれば匂いもなく、色々な味付けに合うお魚さんです」
もう一切れパクリ。
毒を除いたとは言え、陛下達に毒魚と評される魚を出す訳にはいかないので、領民達に払い下げを。
ガシッ!
何故か陛下に、領民の誰かを呼ぼうとしたした手を掴まれました。
……出せって何をです?
「決まっているだろう。
この間の結婚式の時に貸し出してくれた指輪だ」
ああ、アレですか。
魔導具、孔雀双蛇の指輪。
毒検知と解毒の魔法を封じた魔導具で、確かにアレなら、大量に口にしなければ、河豚の毒も大丈夫だとは思いますけど……。
仮にも国王陛下なんですから、その辺のチンピラが物をセビル様な言い方は、なんとかなりません?
いえ、お貸しはしますけど。
「……、……、……美味い。
君はこんな美味しいものを、僕等に食べさせずに独り占めしようとしていたのかね?」
あれ程ドン引きしておいて、酷い言い掛かりだと思う。
それを差し引いたとしても、普通、毒魚を陛下に出そうだなんて思いません。
ロッテ夫妻の実家の兄達が、王族に食中毒を企んで極刑になっているのに、そんな真似が出来る訳がないじゃないですか。
そもそも、タコのアヒージョを出しただけで、白い目で見られたのに、毒魚を出しただなんて世間に知られたら、後で何を言われるか。
「いや、よくよく考えれば、ある意味、王侯貴族らしい料理と言えるね。
確かな知識と料理の腕、そして毒検知と解毒と治癒の魔法を持ち、尚且つ全幅の信頼を置ける魔導士を横に置いて食事をするなど、権力を持つ者だけが味わえる料理としてな」
「……王族ならば、万が一を考えて、まずは危険を避けるべきかと思うのですが」
「ふんっ、危険を避けてばかりでは得られる物はないさ」
凄く高尚そうな事を言ってはいるけど、只の河豚料理の話です。
只の魚の唐揚げごときに大袈裟に言い過ぎです。
はいはい、他の毒魚料理もですね。
お酒はワインよりも、此方の方が合いますよ。
よく冷えたハイボールと日本酒もどきをお出ししておく。
ああ、他の方々も食べると。
良いですけど、夕御飯の分は、お腹を開けておいてくださいね。
ヒョイパク。
「お、確かにこれは美味えな」
コッフェルさん、横から手を出さなくても、ちゃんと盛りますから、摘み食いみたいな真似は止めてください。
と言う訳で、コッフェルさんのお皿から、今、摘まれた分は減らしておきます。
……酷いって、当然の事ですっ!
「そりゃそうと嬢ちゃんや、オメエさん凄い事を言われたって気がついているか?」
凄い事ってなんですか?
私は、ただお魚さんを美味しく料理しているだけですよ。
……陛下から全幅の信頼って、単に私にそんな度胸がないと知っているだけですよ。
そんな大層な物じゃありません。
まったく駄目ですよぉ〜、そんな昼間から寝言を言う程に飲んだら。
一応は護衛として来ている訳ですからね。
はい、お酒は取り上げです。
仕事中は、お茶や果実水で我慢してください。
「ひでぇ〜」
どちらの言う事ですか。
仕事してください、仕事を。
「それはそうと、こいつらは他にどんな料理が出来るんだ?」
「それぞれ癖はありますが、なんでも出来ますよぉ。
河豚やオコゼはお鍋にしてもいいですし、新鮮なら生でも食べれますね。
カサゴは季節や場所によっては寄生虫がいる事があるので、知識が無いのならば生食は止めた方がいいです。
エイも釣ったその場でなら刺身も食べれますけど、収納の魔法がない限り、すぐに臭くなるので定番としては煮付けですね。意外にお酒にも合いますよ。
河豚やオコゼやカサゴの干物は美味しいですし、味醂干しもいけます。
セバスが時折、夜更けに自室で携帯竃で、干物を炙って一杯引っ掛けていますからね。
堂々と下の部屋でやれば良いのに、何度言っても止めないんですよね。
部屋でこっそりやるのが良いんだって、子供みたいな言い訳をして。
匂いでバレちゃうんですけど、もう最近は見て見ぬ振りをしています」
執事であるセバスの意外に困った所業はともかくとして、採ったお魚の殆どは加工行き。
煮付けにしろソテーにしろ新鮮でないと出来ないから、その分は私の収納の魔法で保管しておけば良いとしても、私がなにかあった時には沢山の人が困る事になるから、後日、皆んなで天日干し作業や塩漬け作業の予定。
お米があるから熟れ鮓という手もあるけど、アレは熟成に時間が掛かるので、少量生産で評価待ち状態。
そろそろ一度味見をしたいところだけど、出来れば三年は寝かしたいです。
「あれ?どうしたんです皆さん。
そんな、にこやかな顔で此方を見て」
……寄越せと。
いえ、そんな皆んなで囲い込まなくても、言ってくださればお土産に出しますよ。
私、基本的にビビリなんで、怖いので止めてください。
……災害級の魔物相手にビビらない私が、この程度でビビるものかって。
酷い……。




