495.世話のかかる弟みたいなものですからね。優しくはしますよ。
「どうやら、彼方側の方も終わったようだ。
ユゥーリィ、予定通り王都との扉を」
領民、ほぼ全員参加の地引網漁大会が行われた翌日。
朝食を前の陛下の言葉に、アドル達に合図を送ってから、言われるままに空間移動の魔法を展開する。
此方から移動するためではなく、向こうから此方に移動するために展開した光の扉から姿を出したのは、見覚えのある近衛騎士。
そして、サリュード王子とその従者であるルー。
「父上、無事に粛清を終える事が出来ました。
此方が捕縛者と関係していた者達の名簿、そして此方の被害と事態をあらましを記した物になります。
まだ関係者の名は増えるとは思いますが、ひとまずは落ち着きましたので御報告にあがりました」
「うむ、予想よりも少なかったな。
成る程、後に引けぬ連中ばかりかで、日和見どもは文字通り日和ったか。
ところで、この報告書をかるく読む限り、ラード達は襲撃を受けた様だが」
ドキンッ。
知った名前と不吉な言葉に、心臓が跳ね上がる。
幼い年齢からして、危険が及ぶ可能性は少ないとは聞いてはいたけど、絶対ではない。
だからこそ、安否を知らせる魔導具をお貸ししたのに。
私は不安気にカイル殿下に視線を送ると、奥様であられるセレスティナ様をそっと抱きしめながらも、大丈夫と言わんばかりに頷いてくれる姿に、少しだけ心の中が晴れる。
そもそも、私は魔導具を介して知っているはずじゃない。
ラード王子達は生きているって。
そうだ、親であるカイル殿下とセレスティナ様が、ああして気丈にしてられている以上、知り合い程度の私が狼狽える姿を見せる訳にはいかない。
「ヤケになった馬鹿が、包囲を突破しまして。
言い訳を許して戴けるのならば、捕獲の命令が少々我々の足を引っ張る具合になりました。
幸いな事にラード自身が、シンフェリアに与えられた魔導具の盾で、その身と幼い妹達を守りました」
サリュード王子の話では、幼い妹姫と弟王子を背に、護衛を刃を潜り抜けた凶刃の一撃を、なんとか多重起動した光楯で受け切ったものの、体格差もあってそのまま吹き飛ばされてしまったらしい。
でも、流石にそこで兇刃を振るった相手は、サリュード王子に取り押さえられたみたいで、ラード王子達は無事に保護出来たとか。
「まるで数年前の、お前とフェニの時の様な状況だね」
「私は、吹き飛ばされる様な無様な姿は見せた覚えはないですが、ラードには後でお褒めの言葉を掛けてあげてください」
「当然だ。
兄として妹達を守ったのだ。
アレの祖父としては誇らしく思う」
「それと、その痴れ者ですが、御命令通り生かして捕獲しております。
捕獲の際に少々怪我を与える事にはなりましたが、今は血の一滴も出しておりませぬし、もはや剣を振るう事もも逃げる事も出来ませんので、どうか御容赦を」
「よかろう、この程度の事は当初より織り込み済みだ。
ラード達には、王族として良い経験となったであろう。
サリュードよ大義であった。
私とカイルは城へ戻るが、お前は此処で暫し短い休息を取るが良い」
なにか怖い言葉が含まれていた様な気がするけど、そこは全力で気がつかないふりをする。
うん、王族怖い。反乱、怖い。
そして朝食も取らずに、そのまま空間移動の光の扉を通って帰られる陛下とカイル殿下、そしてジル様を含むお城の重臣達。
王妃様達は、今しばらく此処に残るみたい。
騒動が落ち着くまでと言うより、状況把握するまでと今後の方針の決定するまで、この安全な土地で待機なのだとか。
辺境伯達の方も、朝食後に帰られる予定。
元々今回の視察は、反乱分子を燻り出すための餌としての名目でしかないし、反乱の鎮圧が上手くいかなかった時の場合、いざとなったら動いてもらうために辺境伯にまで召集を掛けられていたみたいだからね。
事が済めば、視察を取りやめて戻るのは、当然の流れなのでしょう。
それにしても、陛下は此処を御自分の秘密基地か何かと思っておられるのかな?
いつもいつも悪巧みに此処を使って、まるで此処が悪の秘密基地みたいに思えるから、出来れば止めて欲しいのだけど。
まぁ悲しい宮仕えだから、拒否権なんてないんですけどね。
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辺境伯達をお送りした後は、特にする事もなくのんびり。
王妃様達も気丈に振る舞ってはいても、心配でない訳ではないだろうし、サリュード王子もかなりお疲れなのか、朝食も取らずに用意した部屋で死んだ様にお休みになったからね。
こっそりと様子を見に行った時に、安眠とリラックス効果が出るお香を炊いておいたので、起きた時に少しは身体が楽になっている事を祈るばかり。
どうやら、狭い所で長い時間待機している事も多かったみたいですし、緊張を強いられて碌に睡眠も取れていなかったみたいです。
ちなみに辺境伯達をお送りした時、皆さんにこんな事を言われちゃいましたよ。
『こんな森の中でなく、街の防壁近くにしておけ、詰所の人間には此方で話を通しておく、お主が来たら無条件で通せとな』
街から離れた場所、しかも街道からかなり離れた森の中からの移動は、よほど不満だったみたい。
私としては周りを脅かせたり、変な誤解を受けないための事だったんだけど、街道に行くと、迎え来た時の人達がそのままいたので、おそらくずっとあの場で野営を強いられていたのだと思うと、なんとなく納得。
幾らお役目でも気の毒だものね。
そのまま、街の防壁の詰所まで送らされてマーキングの魔法のし直し。
陛下もそうだけど、空間移動持ちの魔導士に、こんな事を安易に許しても良いのかあなぁと思ってしまい、尋ねてみると。
『お主相手に警戒しても、無意味だからな』
皆さん、バラバラにお送りしたので、一緒にいた訳でもないのに、揃って同じ様な言葉が返ってきたんですよね。
信じてくださっているのなら嬉しい言葉なのだけど、どうにも違う様な感じが。
うん、小娘相手に警戒しても仕方のない、と言う意味だった事にしておこう。
そんな訳で、王妃様達は庭でお茶会をしているので、私は自由にして良いと仰られたので、領民の皆さんと捕ってきたお魚さんと格闘。
私は主に河豚やカサゴなどの毒のある魚を相手に捌いては、生食用は収納の魔法に、それ以外は加工用にと領民の皆さんに加工作業を丸投げ。
その後は、収納の魔法から凍った海水をブロックごとに取り出し、凍ってはいるけど、魔法で氷だけをその場で細かく砕いて、その中にいたお魚さんや海藻は、食べられる物と食べられない物とを仕分け。
凍った海水は、その下に落ちる段階で海水に戻り、大きな桶の中へ。
樽には布が張ってあり、海水を濾す事で余分なゴミを取り除いた海水は、桶の底に落ちるなり、魔法で水分を蒸発し塩だけが底に溜まってゆく状態。
量が多いので、ブロックを二十個ぐらいづつにして、同時並行作業。
冷たい氷を相手に、手じゃなく魔力の紐だから出来る技。
魔法を操りながら、コンベアに流れる食品検査をする作業員の如く目で監視して、魔法で仕分けるだけの単純作業。
前世だと機械とセンサーでよくある光景なので、私が変な訳ではない。
そう言う訳で、皆んな引かないのっ!
仕分けは私だけでしている訳じゃ無いからね、皆んなの力なのっ!
「本当に、餌に回しちゃうんですか?」
「気持ちは分かるけどね、砂に混じった貝って、凄く不快で美味しくないの。
手間も掛かるし、この際だから、何時も美味しいお肉と卵を与えてくれる子達に還元してあげようと思うの」
冷凍貝の処分に、領民の何人かが聞いてくるけど、これは私も泣く泣くの断念。
私だって、それらの貝が本来は美味しいと知っているだけに悔しいですよ。
領民の殆どが難民で、飢えを経験しているだけに、私以上に複雑な思いがあると思う。
でもね、全く無駄にする訳ではないので、そこは我慢して欲しい。
魔物達は硬い貝殻があろうと、そのまま平気でバリバリ食べるからね。
きっと栄養をたくさんとったペンペン鳥のお肉や、金羽大鶏の卵はさぞ美味しくなると思うんですよ。
と言う訳で、しばらく繁殖槽にいる魔物達の御飯は豪勢。
舌が肥えて癖にならない様に、少しづつ分けてだけどね。
「でも牡蠣とかは食べられるから、燻製やオイル漬けにして美味しく食べましょう。
美味しく、楽しく、食中毒にならないのが最優先」
貝の中には砂抜きの必要のない貝もあるので、それは普通に食用には回せるんですよね。
ただ、なんの処理もしないまま一度冷凍してしまっているので、美味しさはどうしても落ちてしまうので加工用。
そのままでは食用に回せないものも、出汁用に回せれる物は回すし、出汁を取り終えた粕は魔物の餌や肥料行き。
直接、口に入るものが減りはしたけど、せっかく得た海の恵みですから無駄にはしません。
塩漬けにする塩も大量にありますからね。
因みに塩は作るのにも税金が掛かるけど、それは売買したりするための塩の事で、個人が消費するために作る塩は対象外。
シンフェリア家と言う個人の家の消費用です。
塩漬けにした食物も消費用です。売買しません。
せいぜいお土産に陛下達にお渡しするぐらいです。
しかもその陛下からの許可済みなので、何ら問題ありません。
『余達の安全を最優先するために、領民達の催しを台無しにした儘では余の名に関ろう。
代わりの催しを考えるが良い。
それとお主の申し出どおり、凍らせた海水から作った塩に関しては、免税対象とする』
五匹の魔物を狩り終えた後、陛下に許可を戴いており、先日の地引網は、その代わりの催しとして行われた物。
おかげで住民が楽しめた上に、食料確保&塩代が浮きましたので、私としてはウハウハです。
いえいえ、それ以上に儲けているだなんて、この際関係ありません。
アレはあくまで個人の資産ですし、投資分を考えたら領の運営としては大赤字も良いところですからね。
そんな感じで、明日の魚の粗鍋大会は、参加できないけどよろしくね〜、と言って後片付けを任せて、今日も一日頑張って屋敷に戻ってみれば。
「やっと帰ってきたか、そこに座れっ」
うん、何故か横柄な態度のサリュード王子。
あれ? ジュリとエリシィーも何故かご機嫌ななめ。
「お前は少しは自分が年頃の娘だと自覚しろ、このヘンテコ娘っ!」
「がぁ〜〜〜〜んっ!
サリュード王子にまさかのヘンテコ扱いっ!」
突如として始まるお説教。
理由は、お疲れの御様子だったサリュード王子の枕元に、お香を焚いておいた事。
使用人の誰かだろうと礼の言葉を掛けたら、誰も知らない。
しかも、その手の事に一番詳しいのは私だと言う事は、屋敷の皆んなの共通認識らしく、事実確認をするまでもなく犯人の特定が終了。
結局、気遣いは嬉しいし礼は言うが、男の寝室に年頃の娘が一人で入るだなんて、何を考えているのかとお説教です。
誰も味方いません。
私としては、男の人の部屋と言うより、世話の掛かる弟君の部屋に入っただけの気持ちなのだけど、言わん事は分かるので、黙ってお説教を受けておきます。
サリュード王子は残念な性格では有っても、根に持つ性格ではないですし、言うだけ言ったら、少しは気が晴れるでしょうからね。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
カランッ。
ふと、夜中に目が覚めて、もよおしついでに夜風に当たろうと下に降りてくると、其処には、切子硝子の器を片手に、蒸留酒を嗜むサリュード王子の姿が。
氷は自動製氷機の魔導具から、自由に取り出せる様になってはいるけど、お酒は、メアリーかアンネあたりに出してもらったのかな?
「まだ起きていたのか、子供は寝る時間だぞ」
「私、一応は成人しているんですけど」
「ふん、不用心に男の部屋に一人で入り込む令嬢なんぞ、子供と一緒だ」
別に不用心と言う訳ではないですけどね。
サリュード王子相手なら、どうとでもなりますとは、流石には口にはしない。
王子にも男のプライドがありますし、じゃあ試してみるかと言われても、話がややこしくなるだけですからね。
「それで、こんな夜更けにどうしたんだ?」
「ちょっと夜風に当たりたくなって、星も綺麗ですしね」
「……お前は、少しは昼間の説教で懲りる気にはならんのか?
年頃の娘が庭とはいえ、夜更けに出ようなど考えるな」
「此処は私の屋敷ですよ。
庭であろうと、これ以上の安全な場所なんてないですよ。
それに、ウチの子達は結構優秀なんですよ、分かりません?」
「……なるほど、確かにな」
アドル達は友人ではあるけど、私の家臣でもあり、その主な役割は私の護衛。
当然ながら、夜中に私が部屋を出た時点で目が覚め、此方の気配を探っているのが分かる。
まだまだ未熟で、相手に気配を探っているのを気取られてしまうレベルだけどね。
それでも、王子が気にしてやっと分かるレベル。
まぁお酒が入っているから、言われるまで気がつかなかっただけかもしれませんけど。
「興奮して眠れませんか?」
「……昼間、寝過ぎただけだ」
「嫌なお役目でしたでしょうに、本当にお疲れ様でした」
小規模とはいえ、反乱分子の粛清。
国の軍を巻き込んで蜂起するのではなく、小規模で先鋭で持って政治の中枢を抑え、王族に血を引くラード王子達を神輿にしようとした者達を、罠に誘い捕縛する任務。
でも、その様な小規模で済む反乱と言うのは、相手を制圧するための軍が必要がないと言う事であり、政治の中枢である王城の内情を、ある程度知っている人達だと言う事。
つまり顔見知り。
サリュード王子は、その知人達をその手で罪人として捕縛してきた。
幾ら任務とはいえ、何も感じない訳ではないはず。
「……以前にもあった事だ」
「だからと言って慣れる訳ではないでしょう」
「……ああ、そうだな。
反乱を起こした者達の中には信じていた者もいた事に、自分の未熟さを実感させられたさ」
「王子が信じた方なら、そうせざるを得ない事情があったのかもしれません」
「……知った様な事を」
不味そうに酒を煽る王子に、お酒を注いた後、私も一杯だけお付き合いしますと言って、グラスを収納の魔法から取り出して自分の分を注ぐ。
そのままだと濃いので、炭酸果汁割りですけどね。
お子様で結構。
なのでこう言う時だけ、大人扱いでストレートで飲まそうとしないでください。
「ですが、そういう事はあると思うんです。
私は親不孝者で、お父様に家を出て行けと言われました。
原因は私にありましたし、その事でお父様を恨んではいません。
寧ろ、そうさせてしまった事を申し訳ないと思っています。
でも、お父様だって、けっして望んで娘に放った言葉ではなかったはずですし、そんな決断をしたくてした訳ではないと、今でもお父様達を信じています」
私は家を出て終わったけど、残されたお父様やお母様は、さぞ苦しんだと思うし、今もその事で付き合いの少なくない社交界で、肩身の狭い思いをしているだろう。
そう考えると、本当に申し訳ないとは思うけど、家を出た私にその事で何か出来る訳ではない。
ただ、その事実を真っ直ぐと受け入れるだけ。
うん……、一杯だけと決めたけど、もう少し飲んじゃお。
「ふんっ、比べるべき様な話ではないな」
「ふふっ、そうですね。
私のは、私の我が儘が引き起こした事ですから」
子供の我が儘。
家を出た後、もう関わる事のないと思っていた貴族社会で、何度も言われた言葉。
それでも、それは私が何年も悩んだ末に選んだ道。
だから他人に何を言われようが関係ない。
「……だが、分かる話ではあるな。
家や派閥の都合に当人の意思など関係なく、それを選ばなければならない事はある。
俺も仮にも王族だ、そう言う事がある事を否定はせん。
あいつらも、それに巻き込まれただけなのかもしれんな」
不味そうに再びグラスを傾ける王子。
でも、先ほどの様に苦々しい表情ではなく、哀悼に満ちた顔で。
もしかすると、その知り合いの葛藤に苦しむ様子を想像したのかもしれない。
私も、顔を知らないその方へ、そして、今回の騒動で怪我をした方々を思って、グラスを傾ける。
そして……。
チンッ。
王子のグラスと自分のグラスを軽く当てて鳴らす事で、追悼と厄払いです。
順番は逆になりましたが、此処は想う事が大切です。
「くくっ、言っておくが、コップを打ち鳴らすのは平民の習わしだぞ」
「知っている時点で、関係がありませんよ」
「確かにな。
こんな場だ、王族も貴族も平民も関係はないな。
顔も名も知らぬあの馬鹿者のために、想ってくれるお前の想いは今は有難い。
……少しだけ、少しだけだか救われた気がする」
寂しそうに、コップを持つ手に視線を移す王子。
私はそんな王子の姿に、ゆっくりと、静かに問いかける。
「やはり辛いですか?」
「……あぁ。
こんな事を言っていたら、王族失格なんだがな」
「別に良いじゃないですか、王族だろうがなんだろうが、辛い時は辛い。
素直にそう思えば良いんです。
泣くも喚くも、自由です。
ただ、王族として求められている時に、それを出さなければ、それで良いじゃないですか」
我ながら、酷い暴論だと思う。
でも人の心なんて完璧じゃない。
幾ら想いが強かろうが、揺らぐし、不安になる事もある。
それを無理矢理閉じ込めたとしても、堰き止めたそれは何時かは決壊し、感情の海に溺れる事になる。
私が何度もやってきた失敗。
多分、これからもやるだろう失敗。
だけど、全く反省がない訳でもないし、懲りていない訳でもない。
時には想う儘に振る舞う事も大切。
個人でいられる時と場所があるのなら、それで良いと思う。
それで周りに迷惑を掛けたのなら、それ以上に周りを助ければ良いだけの事。
巡り巡って、皆んなで助け合えば良い。
ぽんぽんっ。
そんな訳で、膝を軽く叩いて王子に催促。
なにか、頬が引き攣っているけど、知った事じゃありません。
収納の魔法から、魔力伝達コードを取り出し、王子を拘束。
あはははっ、魔力眼があろうと関係ないですよ〜。
大人しく膝枕をされなさい。
私はこれで癒されるんですから、正真正銘の男の王子なら本望でしょうが。
中身はオッサンですけど、ピチピチの十六歳の女の子の太腿ですよぉ〜。
嬉しくない訳がないじゃないですか。
男を膝枕するだなんて本来なら嫌ですけど、まぁ王子ですし、今夜だけは特別です。
「お、お前、酔っ払っているだろっ!」
「二杯しか飲んでませんよ〜。
ほらほら、今なら泣いても誰も見ていませんし」
「だ、誰が泣くかっ!
って言うか、絶対酔っているだろっ!」
酔っていないと言うのに、しつこい。
まぁ多少フラフラと気持ち良い状態ですけどねぇ。
ああ、そう言えば飲んだの蒸留酒だったから、少しくらい酔っているかも。
飲む予定もなかったから、酒精殺しの魔導具もしてませんしね。
まぁでも二杯だけですし。
ああ、暴れない暴れない。
「ぐっ、う、うごけん」
「ふっふっふっ、身体強化したって無駄ですよぉ〜」
そもそも私と王子とでは、魔法の出力が違いますしね。
少し酔っているから、あまり暴れると手加減出来ずに、コキっといっちゃいますよ。と言ったら、大人しくなった。
因みにコキッと言ったらコキッです。
敢えて何とは言いませんけどね。
なので、ラード王子にしてあげる様に、優しくサリュード王子の髪を撫でてあげる。
優しく……。
ゆっくりと……。
小さく子守唄代わりに、優しい曲を歌いながら。
酔いも手伝い、王子が深い眠りにつく、その時まで。




