479.そう言えば私、お給金って貰ってなかったわ。
「やっぱり、これくらいの高さまでかな。
此処から見張り櫓を建てれば海も一望できるし、地下で反対側の崖にまで通路を伸ばして、見張り用の部屋も作ったから、まぁ必要なら作るって事で」
軍港に接した軍事要塞とは言っても、本体部分は二百メートル以上もある断崖絶壁の硬い岩盤の中にあるので、基本的に地上部分は只の宿舎兼訓練施設です。
三階建ての鉄筋コンクリート製の建物は、魔法を使っている分、前世の鉄筋コンクリートよりも頑丈で、更に鉄筋に魔法銀を混ぜてあるため、定期的に魔法石に魔力を付与し続けておけば、基本的に劣化する事はない。
魔力タンクである魔法石は地下の部屋に置くとして、細かい部屋割りや内装は、国のお仕事。
部屋割りや内装を自由に出来るマンションみたいな感じ、と言えば良いのかな。
図面には無いけど、水力式のエレベーターもあるから、荷物の搬送も楽なはず。
「一応は図面に書かれた物は出来たけど、改めて見ると大きいわよね」
建物の大きさだけで、前世なら大きな病院か理系大学の敷地くらいあり、建物の総床面積で考えれば相当な物。
その上で訓練用の中庭があるのだから、全体の大きさがどれだけ大きいか分かってもらえるかと思う。
ちなみに、軍港より先に建物をつくったのは理由があって、もし陛下達が予定以上の人数を連れて来たら、屋敷ではなく此方に放り込もうと考えての事。
来る名目が軍港予定地の視察なのだから、その軍港に付随する建物で寝泊まりする事になっても問題はないはず。
私の屋敷が大きいとは言え、それは子爵家の屋敷としての話で、古き血筋の方達の屋敷と違って部屋数にも限りがある訳だから、そこは此方の都合を考えずに人数を増やした陛下達に責任があると言う事で。
まぁ多分、大丈夫だとは思うけど、一応は保険と言う意味です。
「主人、少し宜しいでしょうか?」
私を呼ぶ声に、建物から降りて会いに行くと、何故か困った顔のプシュケが。
なんでも設計図にない部屋の存在に気が付いたらしく、図面にない部屋の存在の意図を確認に来たのだけど、困られる様な理由ではない。
「此処の施設の一番の売り出しとして、絶壁を活かした展望大浴場の予定よ。
湾内を一望できるし、断崖絶壁だから外からの覗きの心配もなし」
此方も図面には無いけど作りました。
水源は確保するのだから文句は聞かない。
基本的に船旅では水は貴重なので、身体を清める事は殆どないと聞いている。
つまり臭いんです。
学習院時代に乗った航路の短い旅客船なら、金を払えばら盥一杯の水や湯を貰えるけど、軍用船にそんな快適さを見込めるとは、とても思えない。
唯でさえ汗臭いのに、ひと月以上も身体も拭かず、それが団体となれば、風呂好きの私からしたらカオスでしか無い。
健康にも良く無いし、防疫の観念からしてもありえない。
そんな訳で、例え軍事施設でも私の領地にある以上は、最低限の身を清める事を求めます。
一応、下の港設備の所にもシャワー室らしき物を作る予定だけど、そちらは海水や汚れ落とし用かな。
「……主人のお風呂付きは知っていますが、其処までします?」
「じゃあ逆に聞くけど、プシュケは今更お風呂のない生活に戻れる?
碌に身体を拭いていない人間に、好き好んで囲まれたい?」
「お風呂は大切ですね」
お風呂は前世において、人類の生み出した至高の文化の一つ。
理解して貰えるのは嬉しいかな。
この世界は、私がお風呂文化を持ち込むまでは、行水か濡れた布で身体を拭くだけなのが主流で、お金に余裕のある人が蒸し風呂を楽しみ、お金がなくて綺麗好きな人は、川で水浴びをする程度。
全体で言えば、生涯、身体を洗う事がない人の方が多いと言えるほど。
だからそう人達と触れる事は慣れてはいるし、差別する気も軽蔑する気もないけど、悪臭が気にならないのとは別問題。
病原菌を持ち込ませないためにも、トイレとお風呂は成るべく清潔に保ってもらいたい。
湯沸かし機の魔導具と洗剤と便座は有料です。
これだけの大きな軍港施設となれば、洗剤の定期購入だけでも、結構な利益になるはず。
建物と水路の確保は無料なんだから、消耗品ぐらいは金を払えと請求します。
元々そう言う契約でもあるしね。
「主人が言うと、凄く阿漕な商売をしているように思えますね」
「酷いわね。
港にしろ要塞にしろ水路にしろ、真面に作ったらどれだけのお金と時間が掛かるかと思うのよ。
此処までの作業は、全部、私持ちなのよ。
それを考えたら、格安だとは思うわ」
「……掛かった時間はひと月程だと思うと仕方ない事かと。
普通は、どんなに急いでも十数年は掛かる工事ですよ。
費用も主人の賃金を考えなければ、無いも当然です」
そこは技術料と言う事で。
雇用を生み出さないのは、領主としては拙い考えかもしれないけど、こればかりは特殊な事情で人手不足だから仕方がない。
その辺りも、港を開港して人の出入りが出来る様になれば、しだいに解決してゆく問題。
軍港を作る事。
これが港町を作って、この地に人が自由に出入り出来る様にするために、陛下が出した条件の一つ。
まぁ町じゃなくて街になっちゃったけど、それは置いておいて、街を囲う防壁も条件の一つだったし、他にも色々制限はあるけど、これであの集落の人達が私が亡くなった後でも、安心して生活できる環境が出来る。
人の出入りがなければ、限界集落になるのが目に見えていたからね。
「そう言えば、私、自分のお給金って考えた事ないけど、どうなっているのかな?」
元々シンフェリア領に居た頃から、自分の稼ぎイコール研究費&お小遣いだったけど、実家を出てからは生活費が加わったものの、お父様達の目を気にしなくても良くなった分、狩猟と魔導具魔道具の稼ぎは増えていたし、コンフォード家に関わってからは、お金の心配はほぼしなくなったのよね。
ただ、ジュリやアドル達を家臣として雇う様になって、お給金を払う様になったけど、よくよく考えたら、自分に対するお給金って決めていなかった。
まぁ支出よりも収入の方が圧倒的に多いから、気にする必要がなかっただけと言うのが本当の所なんだけど、何時迄も取り決めがない儘ってのも良くないわよね。
人の財布と他人の財布を混同したら、流石に拙いもの。
「主人はあまりお金を使われませんので、気にする必要はないかと」
「そう言う訳にはいかないでしょう」
本来の費用に比べれば無いみたいな物と言っても、此処の建物の材料に使った砂や鉄や魔法銀だって、無料と言う訳ではなく、買って来た物も多い。
これからは領民も増えてゆくし、港を使って交易も始めるとなれば、公私の区別をきちんと付けておくべきだろうからね。
どちらにしろ、私のお小遣いの金額を、私の感覚で決めても仕方がないので、案だけは作っておいてとプシュケに頼んでおく。
実際問題、今までは領民のためにお金を使ったぐらいで、あまり大金を使う事はなかったけど、港街に作る別邸は、セバスとプシュケが凄く乗り気で、リズドの街に残っているジィーヤと結託して、既に職人の確保に動いていたりしているんですよね。
交易の関係もあるから、貴族らしい建物にするみたいだし、いったい幾ら掛かる事やら。
それに陛下達が別邸に仕える人をやると言っているので、そのお給金を含めた経費や維持費だけでも、膨大な金額になると思う。
そう考えると、そろそろ心の中の財布の紐を閉めておこうと思う訳です。
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「孫よりお嬢様の給金についての話を伺いましたので、軽くお話をさせて戴きます」
数日後、いつも真面目なセバスだけど、いつも以上に真面目な表情のセバスに、私が思った以上に家の財政が良くないのかと心配する。
帳簿上では問題はないはずだけど、これから必要される金額の予想は、一般人の感覚の私では想像が付かない話だからね。
「まずは魔導具師としてのお嬢様の収入に関しましては、そのままお嬢様の収入となりますが、その代わり掛かった費用もお嬢様の個人資産から支払われます。
例を例えますと、お嬢様が【浪漫兵装】などと称した、趣味で作られた物の材料費や鍛治士であるレイチェル様への報酬などが挙げられます」
魔導具で大金を稼いでいると思われている私だけど、開発費が嵩むばかりで実りが無い物もあれば、作っても需要が無かった物もある。
中にはセバスが例えに挙げたように、レイチェルと組んで浪漫兵装など称して、実用性を考えずに趣味で作った物などもあるから財布は別にして当然よね。
前世の知識があると言っても、私がやっているのはメインとしては新技術の開発だから、この時代の商売としてはかなり博打性が強い代物だもの。
個人の責任でやってもらいたいと思うのは当然の事。
「魔物の繁殖槽に収支に関しては、領民の手が入った段階で、シンフェリア家の事業扱いになりましたので、人件費、諸経費、税金などを差し引いた金額がシンフェリア家の収入となり、その内の六割が当主であり開発者であられる、お嬢様の収入となります。
他にも商会【森の雫】の純利益の五割がシンフェリア家の収益となり、その内の更に六割がお嬢様の収入になりますが、お嬢様が開発した製品に関しての利益供与金は、別途で商会からお嬢様個人に支払われます。
これはコンフォード家の【女神の翼】も、魔導具師ギルドも同様の扱いです。
ただ、ルチア様とメアリーとアンネが開発に協力した分の利益供与分担金に関しましては、此方から差し引かせて戴いております」
事業者主への分配比率が高いのは、この世界特有と言うか貴族社会故の文化なんでしょうね。
これでも一割ほど余所の家より少ないし、その分だけ事業拡大費と予備費と資本加算金として組み込んであるので、まだ健全と言えば健全な割合だったりする。
「お嬢様が趣味の山歩きで採って来られる魔物などに関しましては、領民が手伝った解体費用を差し引いた売却金額が、お嬢様個人の収入になっており、ジュリエッタ様の分も同様にさせて戴いております。
また売却せずに、素材としてお嬢様が保管してある物に関しても、そのままお嬢様の個人資産扱いとさせて戴いております。
それから領地と領民のために使われた魔導具の代金は、領の費用から出させて戴き、手数料などを差し引いた金額を、製造者であられるお嬢様の個人資産に移動させて戴いています。
勿論、お嬢様の領民ためにと言う意向を考慮しまして、試作や実用試験の協力を願うためと言う名目で、可能な限り低い金額設定とさせて戴いております。
現在領民の手によって育てられた、食料品や特産物の販売はお嬢様の商会を通して行っている形になっておりますので、人件費諸経費を差し引いた上で、利益の内二割を商会の利益として、二割を税金として差し引いた中で、六割がシンフェリア家の収入となり、その中から税金を差し引いた物から、規約に基づいた割合分を領民の収入に当てていますが、移民の際に掛かった費用をシンフェリア家が立て替えている事になっていますので、全て借金の返済に充てております。
それとは別口でシンフェリア家の資産から領民に小遣いとして毎月渡しておりますが、現在のところ返済は順調です。
まぁそれも全てお嬢様の御力があっての事ですが、此方の方もシンフェリア家に入った内の六割がお嬢様の収入になります」
数字としては大体把握してはいたけど、改めて説明を受けながら書類に記載された数字を目で追うと、偏りが酷い。
魔物の繁殖槽での収益だけでも結構あるはずなのに、領としての収入など、私個人の収入金額から見たら無いに等しい。
と言っても、これは我が家がおかしいのではなく、家の当主に力を集中させ、家の中での発言権を高める貴族社会特有のもの。
「出来て二年も経たない村で、これだけの収入がある時点で十分に凄い事だと思われますが」
「元々、私とジュリが此処でひっそりとやっていた下地があったからよ。
本当に一からと言うわけではないし、領民の数に合わせて大きくはしたけど、基本的には私の収入の一部が領民に移って大きくなっただけ。
まぁ手伝ってもらえるから、私としては楽が出来るから、その事自体には助かっているから問題はないけどね」
とはいえ、それでも移民の最初の一年は本当に大変だったけど、それに比べたら更に移民が増えた二年目はだいぶ楽になった。
大雑把なインフラ整備をした今では、ほぼ丸投げ状態。
特産品開発も、方向性を決めて基本技術が確立したら、これもまた丸投げ。
魔導具や新製品の試験も協力して貰っているから、問題点の洗い出しも早くて楽。
魔導回路を使った農具用の魔道具も、魔導具師の素質のある子を鍛えて作らせているから、そちらもいずれは手を離せれるはず。
まだまだ魔力制御が荒く、魔導回路用の治具の魔導具を用いても、ごく簡単な物しか作れないけど、私の作業が減った事には違いないので助かっているから、そこは評価している。
その子からしたら、農作業用の魔道具を作る事で魔物と戦う事以外の価値を示せるので、魔物と戦わなくても済む訳だし、魔導具師としてではなく、魔道具師として特化する事で、戦う事には向かないと思わせておけば、今までの様に魔法の才能を隠して生きるなんて子も少なくなるはず。
私の場合、『魔法使いのなり損ない』と『領主の娘』と『病弱』を盾にして大手を振って生きて来たけど、それが出来る子達ばかりではないから仕方がない。
私が図太いだけと言う意見もあるけど、それは認めない。
陛下達に比べたら、私なんて繊細な部類ですからね。
「現在、リズドの街屋敷を含め、領の維持費と貯蓄は、商会からの通常収入だけで十分に賄えられるのが現状です。
今後、港街に出来る予定の別邸と使用人の給金と維持費は、港の使用料、関税、人頭税を含む税収から十分に賄えれる予定になっております。
ただ、開拓を行う貴族の慣例と申しますが、港街の開発費や当座の維持費などに関しては、一時的にお嬢様の個人資産から、かなりの金額を立て替えて戴く事になりますので、お心に留めておいてくださいませ」
まぁその辺りは、最初から覚悟していた。
此処に村を作るときもそうだったしね、それが港街レベルになるだけの事。
幸い、無駄遣いはあまりしていないから、収支が取れるようになるまでに何十年掛かろうが問題はない。
そう思いながら、説明と共に書類を目を通してゆくのだけど、港街の税金の使用用途(案)の中に気になる点が……。
「ちょっと待って、税収をそのままウチの収入に当てるのは拙いでしょう。
領の収入は、領のために使わないと」
「無論、税収から得た領費から、領主に対する税収でございます。
お嬢様の領民を思うお考えは、よく理解しておりますので、そこは御安心くだされ」
それにしたって領主に対するって三割って、多くない?
領の税収の内、二割が国に対して税金として持って行かれる訳だから、半分近くが領のため以外に消える計算になる。
「お嬢様の御指摘通り、大半は二割程なのですが、あの港街を開拓した後に基礎工事を行ない、更には頑強な二重の防壁までも、全てお嬢様が御自身で魔法で行われた訳ですので、あの港街を使う者達はお嬢様に代価を支払う義務がございます。
その上、街を整備するための資金は、お嬢様からの借入金で行う事になりますので、その返済にも充てなければなりません。
そしてその代価でもって、また領内を開発し、権利を確保して戴ければ、シンフェリア家の今後がより安泰になるかと」
うん、こう言う話を聞くと、やっぱりセバスは高位貴族に仕えていた人間だって理解できる。
もうね、前世の価値観を持つ私から見たら、言っている事が宇宙人語だよ。
でも結局言っている事って、要は財閥を作れって事だよね。
きちんと人を雇って領内の資源を開発し、利益を出して領民に還元する。
そのためには、数代に渡るほど長期的に安定した収入を確保しておく必要がある、と言いたいのだと思う。
私の解釈にセバスは否定しなかったので、それほど間違ってはいないのだろう。
「あと、やはり害獣や魔物の討伐するための領兵は、必要でありますので、どうしても一定以上の資金の確保するためには仕方なき事かと」
「そう言えばそんな金食い虫があったわね」
今の所はルチアが鍛えている数十人だけだけど、アレは基本的に村の防衛と見回りのための、素人に毛が生えた程度の自警団みたいなもの。
実家のシンフェリア領みたいな田舎だと、それだけの人手もないし、維持費も惜しいから、問題がある度に傭兵を雇う形を取ってはいたけど、それだとどうしても後手に回ってしまう。
だから基本的にお金に余裕があるのなら、領民を守るための兵力を揃えておくのは、領主の仕事だと言える。
軍港はあくまで国のための設備と兵力であって領のための兵力ではないので、自費で用意する必要がある訳です。
幾ら私が空間移動の魔法があると言っても、別々の場所で数で来られたら対応できないからね。
「その他にも、港街の治安を維持する事を考えれば、最低でも二百人程は要るようになりましょう。
港街の規模と今後を考えれば、もっと増やしてゆく必要がありますが、先ずは人を育てれる環境に致しません事にはなんとも」
「流石にそれは時間を掛けるしかないわね」
質を問わなければ人数は揃うだろうけど、指揮するだけの能力を持つ人間は少ない。
経験者を雇うにしろ、やはり訓練と経験を通して時間を掛けてシステムを構築していく必要がある。
もしいきなり不心得者がトップに立ったら、目も当てられない状態になるからね。
オルディーネ領くらいの面積があるなら、将来的には領兵だけでも数千人はいてもおかしくないし、貿易港という事を考えると他国から狙われやすいため、更に必要になるだろうとか。
現在、領の全人口が五百人にも満たないのに、凄い構想だとは思うけどね。
「お金が掛かるから、長期的に安定した収入の確保が必要なのは分かったけど、話がズレていない?
私のお給金のお話だったはずよね?」
「いえいえ、欲の無いお嬢様に、少しは安定した収入の大切さを分かって戴きたかっただけにございます。
現状はお嬢様個人の収入で賄えてしまっている故に、逆にお嬢様の後を継ぐ方の時の事を考えて戴きたいと思いまして」
色々な人の力を借りているとは言え、基本的に私個人の力で成り上がった家だから、私一代で終わってしまわない様にと、心配するセバスの気持ちは分からないでもないので、とりあえず聞こえている振りはしておく。
私自身は、私一代で終わってしまっても問題はないと思っているもの。
単に、今は貴族である事の方が、家族を守るのに都合が良いから貴族でいるだけと言うのが本音。
一応はセバスの言う方向性で努力はするけどね。
「さて、本題となりますお嬢様のお給金に関してですが、お嬢様の言うお給金と言うのは、お嬢様の収入そのものではなく、お嬢様が月当たりの自由に扱っても良い金額。
つまりお小遣いの事だと言うのであれば、正直申しまして、論ずるだけ無意味です。
今、説明させて戴いた様に、シンフェリア家としての収入から一定の割合を出したとしても、お嬢様個人の収入の方が遥かに上回っておりまして意味はありません。
お嬢様個人の収入から、そこからお嬢様の研究費を差し引いても、その金額は莫大であります。
例を申して、昨年の研究費を差し引いた、お嬢様の年間個人収益の一分を、お嬢様のお小遣いに割り当てたとしましても、月当たりで白金貨十枚を遥かに超えております。
百枚を超える使われ方をされましても、さほど問題はありません」
うわおっ! 驚きの金額だよっ!
帳簿上では目を通してはいるのだけど、お金としてはもはや理解の範疇を超える数値だっただけに、実感がなかったけど、お小遣いの金額だよと言われたら、私、無茶苦茶に儲けているわね。
そりゃあ彼方此方で嫉妬を買って、妬まれる訳です。
去年はラード王子に高価な魔道具の服を、何着も王家に売りつけたのも大きいとは言え、我ながら凄い金額だよねぇ。
一応、誤解のない様に言っておくと、私が突発的に始める事業とかは、その私のお小遣いから出す事になっている。
けど、だからこそ成功した時のリターンも大きいため、積もり積もって大きくなっていると言う、雪だるま状態。
きっと現実逃避で、考えない様にしていたのかもしれない。
うん、面倒臭がり屋の私なら、十分にありえる。
「ちなみに研究費などを除いた場合、お嬢様がお小遣いとして、此処二ヶ月で使われた金額を御存じで?」
「……アドル達の結婚式もあったし、服も色々作ったから」
「アドル様とセレナ様はシンフェリア家の家臣。
その祝い事や費用を、当主であられるお嬢様が出されると御決めになられた以上は、シンフェリア家からの予算から出すのが筋にございます。
アドル様達への祝福の御裾分けとして領民の結婚式に対する費用も、領民ためと言うより、シンフェリア家の事業を担う方々への福利厚生費用として処理をさせて戴きました。
それとお嬢様が個人の趣味の服としてジュリエッタ様とエリシィー様に贈られた物以外は、仕事着になりますので、勝手ながら同様に修正させて戴いております。
無論、お嬢様が領民の勉強のためにと購入された数々の物も、アドル様とセレナ様の婚姻記念旅行のお土産を買い取る様に指示を受けたのを機に、領の開拓研究費として処理させておりますが、出来ましたら次回から、その様に最初から処理をお願いいたします。
その上で、どれだけ使われたか御理解されておりますか?」
「……金貨六枚ぐらい、……かな?」
「その中からお嬢様のお付き合いで、振る舞われた料理や、その材料費などのを差し引かれた場合は?
これもお嬢様のお立場の場合、本来は交際費等として、経費で落とすべき物ではあります」
「……よ、四枚くらい?」
「ええ、金貨四枚には達しておりませんが、問題なのが、その殆どが私共がお嬢様に、ほぼ強制的に作らせて戴いているドレス代だと言う事です。
謂わば女性当主として必要な経費です。
以前から申し上げておりますが、お嬢様はもう少し散財すべきかと御進言申し上げます」
うん、私としては散財したつもりで、これなのだから、確かにお小遣いの金額を決める意味ないよね。
「ちなみに我が家としての予算は大丈夫?」
「十分に確保してあります。此方の帳簿にて、御確認くだされ。
毎年屋敷の備品や装飾品等の購入予算がかなり余り、増えてゆく一方で御座います」
それは予算の立て方がおかしい気がするのだけど、他の子爵クラスの家の予算からすると、ウチは一人辺りの人件費や消耗品にお金を掛けている方なんだけど、……全体的に見て予算に対して支出が一方的に少ないんだよね。
この辺りは私が魔法でやっちゃったり、魔導具を作って消耗品などが少ないのが原因だし、ど田舎で貴族同士の付き合いが少ないのも原因。
最大の理由は、教会の建物を買収した時みたいに大金がいる時は、その事が記憶に強く残って、それ以上にお金を稼いだり、お金の代わりに労働力や魔導具で支払っているのが一番の原因と言えるのかも。
「お嬢様、何度も言いますが、お金はあるのですから、もっと使いましょう」
貴族が散財するのは、経済を回し、人と文化を育てるため。
うん、それは分かってはいるんだけどね。
でも前世の価値観を持つ私としては、そんな面倒な事をせずに、直接経済を回しちゃえば良いじゃんと思う訳でして。
というか正直に言って面倒臭い。
「前にも言ったけど、港街の別邸は出した条件に収まれば自由にして良いから、セバスに任すわ。
予算に関しては自由にして良いから、遣り甲斐はあるわよ」
でも、そういう前世の価値観があろうとも、ユゥーリィとして生きた時間が、貴族の面子と言うのも大切だと言うのは分かるからね。
なのでセバスの言う事を蔑ろにする気はない。
私が、貧乏性の引き篭もりってだけでね。
だって、お金を使うのも面倒くさいんだもの。




