478.これだけ働いても、基本タダ働きです。
「溜め池の方は完成いたしました」
「ポーニャお疲れ様。
でも意外に日数が掛かったわね」
「ユゥーリィさんとは魔力容量が違いすぎます。
これでも学院に通っていた頃より、だいぶ増えた方だと自覚しているんですよ」
「あっ、ごめんね。
ポーニャがさぼっているとか、そう言う意味じゃないから」
少し拗ねてしまったポーニャを宥めながら、自分の失言を反省する。
ポーニャは魔導士だと言っても使える属性が少なく、魔力の強さは魔導士としては平均並みではあるけど、魔力容量は平均よりも多い。
【土】属性特化で鍛えてきた事と、私が教えた魔力制御の鍛錬の結果、効率の良い魔力運用が同年代より出来ていると、上級魔導士であるルチアが太鼓判を押すぐらいの実力はあるとか。
あと、活躍の目立たない魔導士の典型とも言っていたけどね。
ただ、今回は比較した対象が悪かったと言うだけ。
「ユゥーリィさんは、まだ伸びているんですか?」
「ポーニャだって止まった訳じゃ無いでしょ」
「魔力と魔力容量の増大量は、少なくなってきています」
魔導士の魔力と魔力容量の成長は、二十歳半ばまでと言われているけど、成長のピークは十代後半と言われている。
でもそれは男性魔導士の話で、女性の魔導士はだいたい二十歳になる前に魔力の成長は完全に止まり、成人する十五歳くらいにはピークが終わってしまうらしい。
この辺りは、肉体の成長に影響しているからでは無いかと言う説があるけど、多分、魔力神経と言うこの世界の人間特有の器官がある事が、原因なのだと私も思っている。
ほら、女の子って身体の成長は早いけど、終わるのも早いからね。
対して男の子は、二十歳過ぎても身長や体格が成長するもの。
男女の身体の成長の違いと重なる事から、的外れな考えでは無いはず。
「ジュリとエリシィーも、そんな事を言っていたかな」
でも、身体の成長が十歳過ぎをピークに、あまり伸びていない私は、身長と胸囲の代わりとばかりに、魔力と魔力容量は伸び続け、未だ勢いが弱まる兆しは見当たらない。
ジュリにしろポーニャにしろルチアにしろ、ウチの魔導士の子達は、魔力が少なくなれば休めるけど、私の場合は魔力切れ知らずなので、魔力切れを理由に休めないんですよね。
操作型の身体強化の魔法を使っているから、肉体的疲労はあまりなく、魔力があるからまだ働けるのに、休むのって何か違う気がして。
うーん、前世の呪いなのか、このままだと社畜人生まっしぐら。
能力があるのも良し悪しだよね。
魔導具【完全回復薬】を二百倍に薄めた物を原料にして作った【体力回復薬】と、王城勤務の文官御用達の睡眠耐性剤を服用し続ければ、一年中働き続ける社畜人形の完成出来てしまう。
うん、自分で想像して悲しくなったので、暗い気分を振り払って現実回帰。
「水量は大丈夫そう?」
「ええ、どんどん滲み出て来ています。
それにしても、本当に硬い岩盤で、私では少しも掘り進めれませんでしたのに、こうも簡単に掘られているのを見ると自信がなくなります」
オルディーネ領の海岸沿いの断崖絶壁は、物凄い硬い岩盤で海と陸地を切り離しており、地表から十五メートルから二十メートル前後で硬い岩盤に当たってしまう。
当然、雨で降った水はその硬い岩盤で殆ど止まり横に流れて行くのため、硬い岩盤まで行かなくとも、それなりに掘って水路を作るだけで、自然と水が滲み出てきて水が確保できると言う寸法。
ポーニャにはその水路の先に、念のために溜め池を作る作業をしてもらった訳です。
「簡単じゃ無いわよ。
私も【土】属性魔法では、殆ど掘れなかったもの。
【時空】属性の魔法で、こうして空間ごと切り抜いているのだけど、範囲も狭いし制御が結構難しくてね。
簡単に見えるのは、単に慣れて来たって言うだけ」
軍港の要塞部分は、断崖絶壁内の一部を繰り抜いて部屋や通路にするのだけど、幾ら硬い岩盤と言っても、無計画に掘って壁や天井の強度を下げる訳にはいかないため、失敗を許されない一発勝負。
硬いって事はそれだけ重さもあるから、無闇に掘れば崩落も十分にに考えられる。
階段とかも使いやすさを考えたら、等間隔でやらないといけないからね。
簡単なのはまっすぐ円筒形の穴を掘って、螺旋階段を作る事だけど、物資を大量に運部だけならともかく、人の動線や軍事施設という事を考えたら、あまり好ましいやり方ではないので、こうして図面に通りに地道に掘ってゆく。
まぁ最後の方が、調整のため段の高さや幅が少しだけ変わるのは、御愛嬌と言う事で。
「明日からは内陸に向かって水路をお願い。
此方はそれほど深くなくて良いから、一応、誰か護衛を付けるけど希望があれば聞くわよ」
「わかりました。
ではセレナ様か、ラキア様を」
流石は生粋な伯爵令嬢。
男性と二人きりになる状況を生み出さない辺り、しっかりとしているわよね。
私なんて、その辺りを殆ど気にしないから、ジュリとエリシィーが怒るんだよね。
不用心だって。
これでも以前よりは、男の人に警戒するようにはなったんだけどね。
「そう言えばジュリは?」
「上で要塞建築予定地の周辺の伐採をしておりましたわ」
「調子に乗ってやりすぎなければ良いけど」
「あら、そこが可愛いのではなかったのですか?」
「もちろん。でも心配は別」
惚気じゃ無いけど、自信満々の絶好調の時のジュリって、失敗の時の落差もあって可愛いんだよね。
だからついつい甘やかしちゃうんだけど、私の悪い癖かな。
今回もやりすぎてたら、植林すれば良いやなんて思っちゃっているし。
「流石にもう無いとは思うけど、伐採した木が倒れて来て潰されているって事になっていないかは見ておいてあげて頂戴。
私はもう少し此方をやってから上がるから」
「……えーと、そんな事があるんですか?」
信じられないような顔で訪ねてくるポーニャだけど、それがあるのがジュリな訳で。
過去に二回、自分の方に倒れて来た木に潰され掛けた実績を持つ。
「それと、盾の魔法は何時でも出せるように、と言うか出しておいてね。
ちゃんと声を掛けておけば大丈夫だとは思うけど、魔導具が何時飛んでくるか分からないから」
「……あのう、私の盾ですとアレは防げないんですけど」
「大丈夫よ。
一瞬でも耐えられれば、流石にジュリも気がついて動きを止めるから」
魔導具:除草円月輪
草どころか木でも岩でも真っ二つにできる強力な魔導具で、基本的に一年も保たない消耗品ではあるけど、今やジュリの主要武器の一つ。
魔力は強くても魔力容量が少なめのジュリにとって、少ない魔力で強力で広い範囲をカバー出来る魔導具は、元が草刈り機の魔導具でもジュリにとって有難いものらしい。
まぁジュリは魔導士なので、本当の主要武器は魔法だし、接近戦はルチアによって更に凶悪さを増した体術がある。
もっとも、草刈り機の魔導具は凶悪過ぎて、武器としては殆ど牽制用でしか無いんだけどね。
ただ、先程も述べたように調子に乗ったジュリは強いんだけど、失敗も十分あり得るたりする訳。
過去に数度、伐採作業中のジュリに迂闊に近づいたり、作業中は前に出るなと言う忠告を忘れた領民を真っ二つにしそうになった事があったのよね。
どっちもどっちなんだけど、ジュリにはまだまだ本当の意味で、魔導具を自由自在と言える程の制御力が付いておらず、周りに対する状況把握が甘いから、その辺りをもう少し頑張ってもらいたいとは思っている。
「……怪我程度なら治せるけど、流石に死んじゃったら、どうしようもないからね」
「ひっ」
只の独り言だからね。
ポーニャに言った訳じゃないから、そんな怯えないで頂戴。
いや、その危険性が全くない訳ではないから、関係ない訳ではないけど。
ジュリって、優秀な子には違いないんだけど、色々な意味で残念美少女なんだよね。
……ポーニャ、そこでなんで私よりマシとか言うのかな?
私、ジュリほどドジっ子じゃないわよ。




