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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第四章 〜新米領主編〜
477/1063

477.口の中で優しく溶けてゆく銘菓を作り上げちゃいます。





 見た事もないカイル殿下の第二子と第三子の着ぐるみ意匠図を、お久しぶりにお見かけした統括侍女長様の話を元に数枚書き上げて、オルディーネ領の屋敷に戻った私に待っていたのは……。


「お嬢様、リズドの屋敷に、天蓋付きの豪華な作りの寝台が大量に納められたと連絡が入りましたが、どう考えてもお嬢様の趣味ではないと思い、どの様な用途かお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 セバスによる詰問でした。

 だんだん増える来客の数に、この際、お客様用の寝台をお揃いで作り直して、尚且つ数を揃えようと、家具職人のサラに発注を掛けておいたのだけど、何か異常に納められるのが早い様な気が?

 一応はあの工房って、貴族向けの高級家具工房で、納品まで結構待たされると言う話を聞くんだけど、あまり待たされた記憶がない気がする。


「セバス、そこで私の趣味が変わったと言う発想は無かったの?」

「絶対にないかと」


 間を置かずに断言って、酷っ!

 中身がオッサンとは言え、一応私も貴族の御令嬢だよ。

 天蓋付きの寝台に憧れた、と言う発想があっても良いと思うんですけど。

 いえ、実際に天蓋付き寝台なんて、手入れの面倒な物は欲しいと思わないけどね。

 遮りたければカーテンで十分、前世である大手アパート不動産企業は……。


『可動壁で、広いお部屋をあっという間に二部屋に、将来の子供部屋にもなります』


 と、間仕切りの薄っぺらいカーテンを、可動式の壁と言い切っていましたからね。

 そこまで極端な事は言わないけど、私としてはそれで十分。

 まぁそんなのだから、セバスに断言されるのだけど。

 うん、覚悟を決めておこう。


「夏にね、陛下達がまた遊びに来るって言うから、その準備。

 ちなみに来られるのは、毎回巻き込まれているコッフェルさん意外に、王族六人、古き血筋の方々全部、他にも将軍をはじめ王城の役職持ちが数人と、その他重職の何人かに加えて、七家の辺境伯夫妻が予定。

 今回も付人や侍女と言う応援は無いので頑張って」

「……、……申し訳ありません。

 何やら幻聴が聞こえた様ですので、今一度お聞かせくだされませんか?」

「大丈夫、セバスの耳はしっかりしているから、幻聴でも聞き間違えでも無いと思うわ。

 だから、準備と当日は任せたから宜しく」


 そう言うなり、空間移動の魔法を足元に展開して、空間の穴に落下する様に逃亡。

 何やらセバスが言っていた気がしたけど、もはや聞こえない。

 黙っていたのに、聞きたがったのはセバスなので、文句は受け付けない。

 一緒に、胃を痛める仲間の覚悟が決まるまで、一人にしてあげるのも優しさからですよ。


 そうして夕食時、憔悴したセバスの表情とは裏腹に、何時も通りの周りの様子に、どうやらセバスは、私と同様にギリギリまで黙っている作戦を選んだ様子。

 どうせ今の我が家では、人手と技術不足で碌な歓迎は出来ない以上、慌てて準備しても意味はないからね。

 五日も前に皆に伝えれば、準備はできる事実にセバスも気がついたみたい。


「このレインボーサーモン美味しい」

「皮はパリッとサクサクなのに、中身はフワッと」

「見た目は塩を振って焼いただけなのに、相変わらず見事だよな」

「四匹はいけるね」


 セバスの追求から逃亡して、採って来たレインボーサーモンは、五月から初夏の時期に最初の旬を迎える、ニジマスを少し大きくした様な渓流の魚。

 ムニエルにも、香草焼きにも、燻製にもなんでもいける香り豊かな魚だけど、新鮮なレインボーサーモンが一番美味しく食べれるのは、単純な塩焼き。

 丁寧にヌメリと鱗を取って、ハラワタを取り出し、塩を振ってから炭火でじっくりと焼き上げるだけの簡単な調理。

 抜いたハラワタの所にフレッシュハーブを入れたのも、なかなかにいける。

 貴族社会だと、骨ごと皿に乗るなんて事はないけど、そこは我が家なので、貴族の見栄よりも美味しさの方が優先。

 骨が多い魚でも、ズボッと簡単骨抜きの方法を教えたら、幼いオルヴァー君でも楽しく美味しく楽しそうに食べれます。


 まぁ王宮の調理人からしたら、とんでもない手抜き料理に見えるかもしれないけど、如何に手を加えたかどうかなんて、ハッキリ言って調理人や貴族の自己満足に過ぎない。

 もちろん、手の込んだ料理そのものを否定する気は無いし、見た目が美味しさに繋がる事もあるから、お客様を持て成すには必要な事。

 でも、単純が故に美味しい料理と言うものは存在する。

 と言う訳で、美味しく楽しく食べる人達の健康に配慮したもの。

 此れが我が家での最優先。

 そう言う訳でアドルとギモル、美味しくても三匹目は駄目。

 塩分の取り過ぎにもなるから二匹まで。

 お野菜もちゃんと食べる。

 そこっ、お母さん見たいとか言わないのっ!

 こんな図体の大きな子を持った覚えはない、と言うか貴方達、私より年上でしょうっ!




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 夏の陛下達の訪問。

 不穏分子に罠を仕掛ける口実とは言え、陛下達が本格的な港の視察に来る事には違いないので、今回は前もって分かっているので、少しだけそれらしい事をしようと思っている。

 と言っても、陛下達自身、手頃な不便んさと気楽さを楽しみにしているので、堅苦しいと感じる様な事をする気はない。

 そんなものは陛下達から言わせれば、この地の魅力を減ずる事だからね。

 そうなると陛下達の楽しみの一つが、王侯貴族らしくない私の料理。


 今回は、調理人であるヴァイスとエマに指示をして作らせるとしても、やはり楽しみにしてくれている以上、多少は私も関わりたい訳で。

 でも、毎回毎回、魔物の領域で採れた物を出すのもマンネリなので、今回はこの地で採れる特産物を活かした新しい料理を加えたいと思う訳です。

 と言っても、この地で採れる特産物と言っても口に出来るのは、繁殖させている魔物と魔草ぐらい。

 魔物の肉は普通に料理の中にあるし、魔樹によるの果物は、まだ増やし始めたばかりで、それほど数は採れない。

 どちらかと言うと、収納の魔法の中にある在庫の天然物の方が美味しいので、今回も天然物を使う為、出番はなし。


 そうなると使えそうなのは、魔草大根。

 既に、魔草大根から作った砂糖と乳から作ったキャラメルがあるけど、それとは別のお菓子を作ろうと思う。

 と言ってもケーキとかではなく、魔草大根から精製した砂糖、ピンクダイヤシュガーが主役。

 この世界で出回っている砂糖は、材料を煮詰めて出した液を遠心分離機でショ糖と糖蜜ぶ分離させて、ショ糖を結晶化させた砂糖が主流で、ピンクタイヤシュガーもこの製法で作られている。

 その際に残った糖蜜でお酒を作るため、糖液のまま分離させて結晶化させて作るブラウンシュガーは殆ど出回らない、と言うか知られていない。

 殆どはそれを材料にしたお酒や、更にそこから蒸留して作るアルコールに加工される。

 この世界の文化レベルからしたらお酒やアルコールは大切なので、それは仕方ない事なのだけど、今回は此方を原料にお菓子を作ってみようと思っている。


 と言っても黒砂糖を作って、お菓子と言うつもりはない。

 アレはアレで良いけど、今回の目的には流石に手を抜きすぎだし、使うなら材料の一つとしてぐらいだろう。

 とにかく、まずは糖液を煮詰めながら灰汁を小まめに取り、冷やして固めるのだけど……。

 う〜ん……、いつ見ても色が凄い。

 冷めると色が薄くなるとは言え、煮詰めている時はピンクどころか真っ赤なのよね。

 血を煮詰めているかの様な絵面は、甘い香りに反してどう見ても食欲が湧かない。


 それはさておき、冷えた物にゆっくりと圧力を掛けて蜜を分離させ、水分を加えて揉み込み、また圧力を掛けて蜜を抜く作業を数回繰り返す。

 これを前世では『押し』と『砥ぎ』と言う工程らしい。

 遠心分離機に掛けた物と違って、様々な成分が苦味や旨みとして残るブラウンシュガーだけど、こう言う方法だと、苦みとアクだけが抜けて素材の旨みのみが残る事になるらしい。

 ただ、元々アクが少なく香り豊かな魔草大根なので、どれだけ密を絞り出せば良いのかは不明。

 やり過ぎれば、苦味やアクだけでなく、旨みそのものも抜けてしまうからね。

 とりあえずの試験として、一回から五回と回数を幾つかに分けて作る他に、最初から水を加えて揉み込んで一回だけ押した物も試作。

 薄いピンクの結晶を乾燥させて篩に掛けてから、ブロック魔法の応用で型に入れて押し固めて。


「異世界版『和三盆』の完成〜〜♪」


 と言っても形にしただけの試作だけどね。

 まずは通常の工法で作った五回の『押し』と『砥ぎ』を繰り返した物を一口。

 うん、砂糖その物を食べているとは思えない、棘の無い滑らかな味わいと口溶け具合はまさしく和三盆。


「でも、ピンクダイヤシュガーらしい香りも少なくなっちゃっているかな」 


 今度は逆に一回だけ『押し』だけをした物。

 色は先程の物よりかなり濃いピンク色で、どちらかと言うと赤色に近い。

 ……ゔっ、普通の砂糖を直接口にするよりはマシだけど、それでも刺々しさが僅かだけと感じられ、苦味や渋みも僅かに残っている。

 これもある意味、滑らかな味わいのあるピンクダイヤシュガーらしくはないよね。

 結果的にピンクダイヤシュガーの特徴をが残った和三盆は、三回『押し』と『砥ぎ』をして、更に『押し』で仕上げた物が一番だったかな。

 ただ『砥ぎ』の際に加える水分量や、『押し』の圧力やその時間でも変わってくるだろうから、目星をつけて実験を繰り返して、その結果から最適解を出せば済む話。

 今日はとりあえず、魔草大根でも和三盆が出来ると分かっただけで十分。

 木工職人のネルミさんに、木型を発注しておかないと。


「定番の花の形はもちろん、デフォルメした動物や魔物でも良いかな。

 他にも簡略した商会紋が入ったものなんてお茶請けに出したら、ゼルが商会の宣伝になると喜びそうよね」


 ちなみに商会【森の滴】の商会紋は、蔓草で編まれた雫の中に大樹のシルエット。

 と商会名に沿った意匠なのだけど、何故か大樹の下に翼の生えた白い角狼(コルファー)が寝そべっている。

 紋章を考えてくださったドルク様に意匠の意図を問いただした所、私の紋章として一番相応しいのは魔物と言うのは、まぁ狩猟を趣味にしているから良いとして。

 コッフェルさんや、ヴィー達から私が角狼(コルファー)の群れを瞬殺したと言う尾鰭のついた話の印象が強く、角狼(コルファー)の上位種だと言われる角翼狼を彷彿したとか。

 白いのは、まぁ色なし(アルビノ)の私からだろうけど。

 でも……、角翼狼って災厄級の魔物、神狼(フェンリル)の別称ですよ。

 幾らなんでも、私みたいな見た目は幼い可憐な女の子を相手に、彷彿するのは失礼だと思うのだけど、貴族後見人であるコンフォード家が授けた紋章を、気に食わないからと断る訳にもいかず採用している次第。


『この物騒さ、実にお嬢様にぴったりかと』


 うん、紋章を見るなり褒めちぎったゼルの顔に、商会紋の刺繍を施された布を投げつけた私は悪くない。

 まぁ決められた挙句に、商会紋として広まった以上は私も受け入れざるを得なかったのだけど、家紋は基本的にこの商会紋を分解して再構成して取り入れたもの。

 貴族後見人であるコンフォード家が、私の商会のために考えた模様を、全く取り入れない訳にはいかないと言う、貴族的配慮のため。


 私の家紋は盾の上に所属する国を表す図柄と文字。

 王の剣であり貴族を示す剣と、知識と魔導士を表す杖を交差させ、盾の下半分の左側を角狼(コルファー)の頭部のシルエットの白抜きと翼。

 角狼コルファーの頭部が左に向いているのは、オルディーネ領が国の東にある事を示し、外敵を威嚇している意味もある。

 その右側部分には、故郷であるシンフェリア領の領花である雪柳の花は、私の血筋を示すもの。

 盾の上半分は、爵位と所属の派閥を示す。

 その盾の後ろにある大樹のシルエットと、循環である円の形をした蔓草と、ジュリとエリシィーが一番好きと言う二種類の花で装飾された意匠で構成されている。

 国の重要な式典などでは、この家紋を施したマントを身に付ける事が義務付けられているらしい。


 この家紋が変わるのは、基本的に陞爵にしろ降爵にしろ爵位が変わった時。

 私が師と勝手に仰いでいる、アルベルトさんの実家であるガザルフィルド家が家紋を変えたのは、アルベルトさんの功績でガザルフィルド家が次の代で陞爵が決まり、アルベルトさんのお兄さんが家を継いだ際に変えたらしいのだけど、全く違う意匠にしたのは、行方不明扱いだったアルベルトさんに戻る家はないと示すためで、嫉妬心からだと、隠居したアルベルトさんのお父様とお母様が愚痴っていた。

 今でも年に一度、一番良い季節にお墓参りに連れて行くなど、お付き合いはあるけど、それ以上のお付き合いは断られている。


『実の弟の才を認めようともしない息子に、アルの弟子であるシンフェリア様を利用する資格はない』


 と、私との繋がりは徹底的に秘密にされている御様子。

 まぁ私も、アルベルトさんの手記に残された、家督争いで命を狙われたと言う言葉を否定する物がない以上、親しくする気はないですけどね。

 そう言う事情を知っているだけに、私の実家の家紋が爵位を示す部分が変わっただけで、そのままの意匠である事に安堵してしまったのは、私の未練なのだと思う。






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