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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第四章 〜新米領主編〜
475/1065

475.調理人雇いました、でも腕は微妙です。





「ほらほらっ、早く座らないと皆んなが食べれないでしょうが」

「…ぇ、…ぁ、その…」

「ぁ、ぁの…私達は後でも」

「そう言うのは良いから。

 此処では私が規則よ、従いなさい」


 月に一度の陛下への報告や商会の仕事を諸々終えた後、オルディーネ領に帰る際に、リズド街の別宅で研修を終えた調理人であるロッテ夫妻を連れて帰ってきた。

 昨日から今日の昼までは休んでもらって、夕食を作ってもらった訳です。

 そして我が家は私の方針で、屋敷にいる者はなるべく揃って御飯を取るのが慣わしにしてあるので、強引に席に座らせて夕食を始める。

 まぁ貴族だと、家族揃って食事する事自体しない家もあるから、使用人も含んで全員で食事なんて真似をしているのは珍しいでしょうから、戸惑う気持ちは分かるけどね。

 むしろ高位の方達だと、自室で食べる事の方がステータスになっているとか、ボッチ過ぎると引いてしまう自分がいたりする。

 でもあれって単にお互いが忙しくて、食事の時間を調整できないだけで、慣れる様に教育しているだけに過ぎず、出来るのならば家族揃って食事をしたいのが本音だと、ドルク様もヴァルト様も愚痴を言っていたんですよね。

 つまり、それをしたがるのは、ただの寂しい見栄張りです。


「諦めた方が良いですわよ。

 貴女達の主人になった人は、どうでも良い事に当主権限を使う変わり者ですから」

「そう、それでいて肝心な事には使わないのにね。

 ちなみに、ユゥーリィの実家でも、使用人まで一緒と言うのは、お祭りの時ぐらいね」


 こらこらっ、そこの二人、早速バラさないの。

 まるで私が碌でもない当主みたいじゃない。

 貴族らしい貴族かと聞かれたら、首を横に振りはするけど、悪逆非道な当主ではないつもりなので、誤解を招くような言い方は止めて欲しい。

 ……直ぐに分かる事って、皆んなして頷かなくても。

 それはともかく、今日は調理人としてシンフェリア家の使用人になった、ヴァイスとエマの腕のお披露目。

 我が家の団欒に慣れてもらいながら、率直な皆んなの感想を肌で感じてもらいたい。

 と言っても、作ってもらったのは宮廷料理ではなく、私が普段作る様な料理。

 その方が比較しやすいからね。


「わぁ、上品な味わい」

「うん、スープ一つにしても、口当たりが滑らかだよね」

「流石は王城の調理人ですわね」

「ウチの調理人とは比べものにならないわね」


 セレナやラキアはもちろん、大人の味覚を持つユリアにも高評価。

 伯爵家の令嬢であったポーニャも実家の調理人と比べても、ヴァイスとエマの二人の調理人としての腕が上だと分かるほどらしい。

 ただ……、此れは美味しいだけの料理ね。

 食育とか家族の健康を考えて作った料理ではない。

 貴族とは言え、ウチの子達は基本的に肉体労働従事者が多く、アドル達は日々の厳しい鍛錬以外に、開拓の指示を行いながらも、時には率先して先頭で身体を動かす。

 伯爵家の令嬢のポーニャだって魔法で村の開拓や港街の開発をしてくれているので、毎日クタクタになっている。

 まぁ本人は充実しているみたいだけどね。

 この地の守護がメインのルチアも、開拓の手伝いの傍ら、オルヴァー君の勉強を見ているし、領兵と称した自警団の鍛錬を行っていて、それなりに忙しい。

 最近、訓練している人達が厳しい鍛錬を受けながら、恍惚した表情を見せているのが凄く気になるけど、突っ込んだら駄目だと、心の中の誰かが言っている気がするので突っ込まないけどね。

 双子ちゃん女中(メイド)も、毎日、重い本を整理してくれるから、意外に重労働をしている事になる。


 要は、御城勤めの内勤組とでは、身体が求める栄養が違う。

 他にも、お城の会食とかでは口当たりの良い物や、柔らかな料理が好まれるけど、普段の食事では、ある程度歯応えのある食事も大切だし、得られる満足感も変わってくる。

 それに上品な味わいは、逆の言い方をすれば特徴の少ない食事で、飽きも来やすい。

 そう言う物だと育ってきた、伯爵家の令嬢だったユリアやポーニャは馴染んだ物だろうけど。

 お金と手間暇を掛ければ良い物じゃないと知っている、他の子達はすぐに不満が出てくるでしょうね。

 身分的な事もあって、そう言う物だと押し付けられて育っていないからね。

 なにより陛下達が来た時、ああ言う料理を出されたら、さぞや落胆されると思う。

 お城で食べれるような物を、此処でも食べたいとは思わないでしょうから。

 陛下達が求めているのは、日常と違うものであって、贅を尽くした宮廷料理は陛下達にとって日常でしかない。


 言い方は悪いけど、家庭料理は下品で十分なの。

 宮廷料理は、王侯貴族の見栄や話を進みやすくする事を前提にした料理。

 家庭料理は、家族の健康に合わせた内容で、美味しく楽しく食べる事を前提にした料理。

 美味しいのは一緒だけど、そこに含まれた目的としているものが最初から違う訳です。

 まぁ、会食の練習の日はともかく、普段は此れまで通り私主導かな。

 私は自分勝手で、我儘だから、私のやりたい様にやらせてもらう。

 巻き込まれる皆んなには申し訳ないけどね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「レイチェル、例の物は出来てる〜〜?」


 鍛治職人のレイチェルの工房に顔を覗かせると……、うん、へばっていた。

 魔力炉に火が灯った形跡がない所を見ると、精製に魔力を使いすぎて休憩中と言うところかな?

 休むなら、自室で休めばと思うのだけど、そこは職人として許せないらしい。

 気分の切り替え的な休憩と休息の区別は必要だとか。


「ああ、ユゥーリィか。

 そっちは、まだ研磨の段階だから、組み立てと調整も合わせて後三日は待ってほしい」

「別に納期に間に合うならいいけど、来たついでに聞いてみただけだから」

「……なら言うなよ。

 納期を間違えたかと焦るじゃないか」


 今日は、周りに人がいないから、ぞんざいモードのレイチェルだけど、私はこう言う扱い方が気が楽で良いし、レイチェルとは領主と領民の関係ではあっても、お友達ではいたいから、切り替えが出来るなら、私としては普段は此方の方が嬉しい。

 お父様とダントンさん達が、そんな感じだったからね。


「それで、死んだ様に横になっているのは、精製のしすぎ?」

「……死んでない。くたばっているだけ」


 どう違うのかと突っ込みたいけど、否定しないと言う事は、そうい事なのだろう。

 因みに精製と言うのは鉄鉱石などから、玉鋼を作る事。

 もともとレイチェルは鍛治士ではあっても、王都の鍛冶士だけあって製鉄を行う環境がなかったため、製鉄を行うだけの知識も技術もなかった。

 それで色々と工夫したり試行錯誤したのだけど、結局は時間と人手不足もあって断念。

 私が原料の鉄鉱石を買って来て、魔法で鉄を抽出して製鉄しても良いけど、それだと私がいないとどうにもならないという事になる。

 そこで私の得意分野である魔導具師としての出番。


 魔導具:|無限の精製《アンリミデッド・ピュアリフィケーション・ワークス》


 鉄鉱石から鉄を抽出する魔導具だけど、鉄だけでなくアルミや錫や鉛やチタンなどを自動で分けて抽出する。

 魔導回路と魔法石のハイブリット型の魔導具とはいえ、私が魔法で抽出するのに比べて、抽出効率は悪いし、魔力の効率も良くない。

 それでも既存の通常技法で生成するよりも、やや高い純度で精製してくれる。

 ぶっちゃけ、そこ等の鉄分を含んだ石や砂からも鉄を精製してくれるけど、含有率からして効率は悪いかな。

 魔力の消費が精製量に比例する訳ではなく、魔導具に投入した材料の量に比例して増える稼働時間、イコール、魔力の消費量だからね。

 それでも大量の燃料を使った挙句、色々と健康に良くない物も垂れ流す通常の製鉄に比べたら、環境に優しい魔導具には違いない訳です。

 その分、魔導士でもない只の魔力持ちであるレイチェルには、少し厳しい魔導具ではあるけど。


「以前にユゥーリィが言ってた、河原の砂から精製してみたんだけど、思っていた以上に良い鉄が採れたから、楽しすぎて遣り過ぎちゃってさ」


 ……うん、ただのお馬鹿さんでした。

 調子に乗って魔力を使い過ぎて倒れているだなんて、自業自得です。

 レイチェルらしいと言えばレイチェルらしいけど、材料の問題が解決した事がよほど嬉しいんだろうね。

 求められる強度の違いや、粘りを出すための混合の比率を研鑽していく必要はあるけど、逆に言えばきちんと記録を残してゆけば、安定した品質の物を作り出せると言う強みになる。

 ちなみに値段を付けたら、とても高価な魔導具になると思う。

 材料の調達も加工も私だから元手が殆ど掛かってはいないけど、売り物だったらとても普通では買えない様な代物になるし、広めたら雇用を奪い関連産業が成り立たなくなるので、オルディーネ領専用の魔導具かな。


「誰か精製専用に人を雇ってみる?」

「ん〜〜、そうだなぁ。今の所は考えてない。

 使ってみて少し分かったけど、あの魔導具ってさ、魔力だけでなく此方の意思も反映しているのか、『こう言う鉄だったら鍛治がしやすいなぁ』と考えている時と、何も考えていない時だと、少し違う気がするんだよね。

 僅かな差だけど、やっぱりそこは手を抜きたくないし。

 なら、本気で鍛治をしたいと思う人間じゃないと、この仕事って大変なだけだからさ」


 魔導具の核になっている魔法石は、もともと魔物の魔石だから、魔法陣に組み込んでいなくても、なん等かの意思が影響する事は十分ある話。

 でもレイチェルが言っているのは、そう言うことではなく、鍛冶士としての話。

 鍛治って、もの凄く大変で危険な仕事なんだよね。

 鉄を柔らかくしたり、くっ付けたりするために、夏場でも高温に晒されるし、小さな火傷は日常茶飯事で、一歩間違えれば大火傷で死ぬ事もある。

 鉄を打つために、重い槌を振るい続けるから腕も肩も腰も痛むし、赤く燃えている鉄を見続けるから目も疲れもする。

 ヤスったり研磨をする際に、その破片が肌に刺さったり、目に飛んできたりもする訳だから、本当に好きではないとやり続けられないし、良い物は作れないのだとか。


「私は馬鹿だからさ、色々やらかして父さんや母さんや兄さん達、あと工房の皆んなに迷惑を掛けて家にいられなくなっちゃったけど、ユゥーリィのおかげで、此処で自分の好きな物を作らせてもらっている。

 まぁ半分以上、ユゥーリィに押し付けられた仕事だけど、そこは御飯を食べるためだから、なんとも思っていないし、むしろ感謝はしている」


 いや、口にする時点で思っているよね?

 こんな山奥の田舎なのに、王族に納めるような物を、いきなり無理やり何度も作らせたりしたらか、文句の一つ言いたいのは分かるから、口にして突っ込まないけど。


「だからさ、余計に思うだ。

 せっかく一緒に仕事をやるなら、鍛治を楽しめる奴と仕事をしたいって。

 その方が、もっと良い物を作れる気がするんだ」


 ただ、彼女が口にした事は凄く一途な想い。

 職人馬鹿とも言うけど、こう言うのは嫌いではないと言うか、好きなんだよね。

 だから、それ以上無理には勧めない。

 でも将来の事を考えて、いずれ弟子を取る事だけは考えておく様には言うけどね。

 ゆっくりで良いからと。


「それで、ユゥーリィは今日な何の要件で来たんだ?

 まさか帳簿の確認とか言わないよね」


 うん、お望みならしても良いけど、今日はその予定ではないし、また王族やお城に納めるための仕事を持って来た訳ではない。


「ウチに調理人が二人も入ったから、レイチェルに二人の要望を聞いて、色々と作ってもらおうかと思って」

「ああ、誰か来たと噂は聞いているけど、調理人だったのか。

 ……あれっ、でもユゥーリィ自分で作るのが好きじゃなかったっけ?」

「陛下に押し付けられたのよ。

 大勢で押しかけた時に、私が調理に掛かりきりになるのは良くないから、それ用に鍛えておけって」

「……それって、何度も来る気があるからだよね?」


 陛下は港街が本格的に動き出したら、必要だからとは言ってはいたけど、レイチェルが言った様な事態を【しない】とは言ってはいないので、そうとも言うかも。

 流石にないとは信じているけど、陛下が王の座をカイル殿下に譲ったら、隠居しに来ないかとビクビクしているのは、多分私だけではないと思いたい。

 遊びに来る程度ならともかく、居住されるのはハッキリ言って迷惑だしね。

 なにより、面倒臭いです。


「考えたくはないけど、そうみたいね」

「ダルス爺さん達も御愁傷様としか言えないね」


 相手は超大物、何かあったら大変だから、気を遣って仕方がないだろうしね。

 って、私には言ってくれないの?

 ……自業自得って、私、何も悪い事はしてないのだけど。


「それで、いつも通り鋼と魔法銀(ミスリル)の魔剣で良いのか?

 包丁に魔剣と言うのも毎度ながらどうかと思うけど」

「今回はちょっと違うところがあって」

「まさか金剛不壊鉱石(アダマンタイト)製とか言わないよなっ!?」


 それはそれで面白そうだけど、流石に止めておく。

 以前に、こんな辺境まで付いて来てくれたのと、アドル達を鍛えてくれているお礼を兼ねて、屋敷の警備の人達に金剛不壊鉱石(アダマンタイト)製の剣を贈ったら、最終的には喜ばれたけど、最初は青い顔をされてしまったのよね。

 普通なら高位貴族の家宝並みの物で、金剛不壊鉱石アダマンタイト製の武具を貰える程の働きはしていないって。


 金剛不壊鉱石(アダマンタイト)は鉱石自身希少なのだけど、その加工が物凄く大変らしく、ある触媒と魔力を含んだ高火力の炎でないと加工出来ない特性があって、形状変化の魔法も、その段階にならないと通用しない。

 そのためか、金剛不壊鉱石(アダマンタイト)製の武具なんて物は、魔法銀(ミスリル)を使った魔剣とは比べ物にならないほど高価な物らしい。

 ただウチの場合、火龍の鱗を使った魔力炉があるため、私が魔力を補充してあげれば、私でなくても比較的容易に加工出来てしまうんですよね。

 日にちを掛けて魔力炉に魔力を貯めれば、レイチェルだけでも加工はできるので、あくまで特殊金属による鍛治程度でしかない訳です。

 コッフェルさんに自重しろと御小言を貰っても、何を自重すれば良いのかと逆に聞きたいぐらいで。


「ちなみに作ると言ったら?」

「お説教案件。

 元武具専門の鍛冶士として、流石に金剛不壊鉱石(アダマンタイト)で、只の包丁は見過ごせない」


 せ〜〜ふっ。

 冗談でも言わなくてよかった。

 とりあえず、今回は普通の魔剣と同じ工法の包丁を二セット。

 そこに、洗浄と殺菌の効果を持たせた魔法石を包丁の柄の部分に埋めてもらう事も含めて発注しておく。

 プロの調理人だからね、頑丈さや錆難さよりも、そう言った効果の方が喜ばれると思っただけの事。


「言っておくけど、魔剣と同じ製法の包丁を、絶対に普通とは言わないからな」


 初めから魔剣で良いのか聞いてくる時点で、レイチェルも此方側だと思うのだけどなぁ。

 王都のお店の時、魔剣と同じ工法で解体用の包丁を注文した時、彼女の親兄弟、兄弟子達、全員呆れていたのに、面白そうだって受けてくれたのはレイチェルだからね。

 レイチェルも十分にヘンテコ側です。






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