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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第四章 〜新米領主編〜
474/1067

474.土作りと、ストーカー魔導具。





「……ゔっ」


 鼻をつく匂いに、思わず声が漏れてしまう。

 結界の密度を上げて匂いを断つ事もできるけど、堆肥の発酵状態を確認するには、匂いを我慢する事も必要。

 雨に当たらない様に屋根の下にある目の前の堆肥は、まだまだ未成熟で、私の指示の下に、口元を布で覆った男達が、巨大なフォークの様な農具で掻き混ぜてゆく。

 腐った落ち葉や魔物の排泄物の混合物は、固まり掛けていたそれを解して混ぜたら、また一箇所に寄せて踏み固め、上から水を撒く。

 これを時間を空けて数度繰り返す事で、発酵が進み有機物が微生物に分解されて堆肥になる。


「此処のはまだ半月は掛かるわね」

「十分に使える様に見えますが?」

「発酵させて早く作っている分、完全に堆肥にさせてからでないと危険なのよ。

 土の精霊様は真面目だから、中途半端な仕事が嫌いで、途中で手を止めさせられるぐらいなら、怒られて呪いを掛けてしまうのよ」

「そ、そうなのですか?」

「頑固な職人気質な方と思って貰えれば良いわ」

「あぁ…納得です」


 精霊様と言いはしたけど、細菌なんて概念を、この世界の普通の人に話しても仕方ないからね。

 キノコの栽培の時に痛感したけど、魔法や魔物が存在するだめか、こう言った説明の仕方の方が通用してしまう辺りが、ファンタジーな世界なだけあると思ってしまう。

 堆肥の原料である排泄物や落ち葉や草には、様々な微生物がいるけど、当然ながら作物にとっての病原菌もいるため、醗酵の際に出る熱である程度死滅させないといけないし、発酵が未熟だと、畑に撒いた後に元より地中にいた病原菌などを活性化させてしまう可能性がある。

 そのためには、ある程度発熱しなくなるまで発酵させ、病原菌などの餌になるものがなくなり、餓死するまで持ってゆかないといけない。


「領主様、此方の方もぜひ見てください」


 領民の一人である、熊獣人の男性に案内されたのは、堆肥プラントの一角で行われている実験施設。

 そこで養殖されている物を見せるために、男性が堆肥を先程のフォークの化け物の様な農具で掘り起こすと。


「ひっ」


 隣で見ていたジュリが小さな悲鳴を挙げて目を逸らすのだけど、逆に私はマジマジと観察する。

 もちろん一緒に来ているエリシィーもジュリの様に拒絶せずに目を向けられるのは、育った環境の違いかな。

 ウネウネと長う胴体をクネらせて絡み合う、数え切れないほどたくさんの生物。


 ミミズ。


 まぁ貴族の令嬢の大半は嫌いでしょうね。

 女性同士の嫌がらせで、よく相手に送りつける物の一つだったりしますし。

 いえ、前世の漫画やアニメの話でなく、本当にあるんですよ。

 私の場合は前世が男だったから、これくらいなんて事はない。

 エリシィーにしたって、シンフェリアの地でも農業の手伝いをしていたし、此処でも少しやっているので、ミミズそのものには嫌悪感を抱いていないだけの事。

 ジュリも土弄りはしてはいるけど、基本大雑把な魔法での作業だから、普段は気が付かない振りをしているだけだものね。

 でも、流石に大量にいるミミズを目の前にしたら、見て見ぬ振りはできないか。


「まるまる肥えて、数も順調に増えているわね」

「はい、領主様に言われた通り、こうやって増やしてはいるのですが、ミミズなんて畑に幾らでもいるのではないですか?」

「いるでしょうけど、貴方が以前に居た村の畑と此処の畑では、いる数も大きさも全然違うのでは?」

「……あぁ、そう言えばそうかもしれませんね。

 言われてみれば、此処の畑のミミズは、領主様みたいに小さくて細っこいのばばかりです。

 あっ、いや、決して悪口と言う訳ではなく、そのすいやせん」


 途中ジュリとエリの冷たい視線に気がついた男性が、自分の失言に気がついて謝ってくるけど、まぁ言いたい事は分かるので私は気にしない。

 私が背が低くて、肉がついていなくて細っこいのは本当の事だからね。

 気まずい空気になりそうなので、とっとと話を進める。

 ミミズは、畑の土壌改良を促してくれる役割を手伝ってくれる。

 土を硬く絞めてしまわない土を排泄物として出してくれるし、そのおかげで保水性も良くなる。

 無論、増え過ぎれてゆく畑は問題だけど、山土が多く栄養価の少ないこの地の畑を改善してゆくには強い味方になるはず。

 その辺りは代表者のダルスには説明してはあるけど、あらためて目の前の男性にも説明しておく。


「モグラなどの被害が出てきたら、追肥を止めないと作物に被害が増えてしまうから、扱いが難しいのが欠点かな」

「はぁ…、こいつらがそんな事をしているんですか。

 領主様は、本当に色々な事を知っておられますね」


 前世の半端な知識だけどね。

 もう少し増えたら、区画を決めて休耕地に一定量を放つ事を指示しておく。

 放つ休耕地と量に関しては、いつも通りダルスに指示を丸投げしてある。

 結果が出て良さそうなら、土作りをウサーヂバ村の方で大体的に展開しないとね。

 港街周辺に作る畑のためにも、土を作っておかないといけないもの。

 中継港として発達させるためには、補給用の食料生産は必須。

 しばらくは、国中の彼方此方から安く買い付け、私が収納と空間移動の魔法で運ぶけど、将来的には自分達の土地で賄えれる様にしないと、港が機能しなくなってしまうだけでなく、飢える事になりかねない。


 それで肝心の港に関しては、既に埋め立て工事を終えて整地済み。

 二百メートル以上もある断崖絶壁の下に、港、倉庫街、船員用宿泊街と、三段階の高さに分けてね。

 景観もさる事ながら、空気が澱まない様に、ある程度風通りの良い街にするのが目的。

 あとは建物を建ててゆくだけだけど、そこは私はあまり手を出さない予定。

 移住予定者達が建てる事になっていたり、教会の様に私が運ぶ事になっている。

 上の港街は、水路の工事や配管()の埋設工事中だけど、主要部は終わっているから、人を入れて建築工事に入れると言えば入れる状態かな。

 水を使った水力エレベーターも作ったから、港から上の街への荷上げも楽だろうしね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【王城、カーライル皇太子執務室】




「と言う訳で、そろそろ軍港施設の図面をください」

「……何が『と言う訳』かは知らぬが、言いたい事は分かった」


 挨拶もそこそこに、開口一番の言葉に、カイル殿下は頭が痛そうに手で抑えながら顔を振る様子に、流石に不敬だったかなぁと思いきや。


「つまり港の工事が一段落着いたから、次の仕事に入るために図面を取りに来たと言うのは理解したが……、いや、やはり理解し難い。

 こうも港の工事が早く終わるなど、ヘンテコにも程があるだろう」


 どうやら、カイル殿下の予想より大幅に早く私が工事を終わらせてしまった事に、驚いていただけみたいだけど、この辺り反応がやはり陛下と違うなぁと思ってしまう。

 打てば響く様な反応が戻ってこないから、カイル殿下もまだまだ修行不足だなぁと感じるけど、まぁ私に慣れていないだけとも言うので、今回はヘンテコ呼ばわりされても気にしない。


「とにかく求められている規模が分からない事には、小さすぎて狭いだとか、大きすぎて使い勝手が悪いとか後で文句を言われても困ります。

 もう街の時の様に、私に規模を黙っておく理由はない訳ですよね?」

「此方の驚きは無視とは、父上も大概だが、君も大概だな」

「陛下に鍛えられましたから」

「それを言ったら父上の息子である私はどうなると言いたいが、まぁいい。

 君がラードの面倒を見てくれる間に、渡せる様に用意させよう。

 細かな所はまだ検討の余地はあるが、工事を始めてくれる分には問題ない」


 その検討の余地が原因で、全体の設計がひっくり返る事がありえそうで怖いのだけど……。

 前世でもよくあった事なので、気にしたら負け、でも、一応は念を押しておく。

 軍の施設という事で、頑丈さが求められる事から、断崖絶壁の立地条件を活かして一部は硬い岩盤をくり抜く箇所もあるから、やり直しは出来ないとね。


「それと、港部分の工事について、視察をしたいと言う事でしたが、何時頃に致しますか?」

「父上はなんと言っていたかね?」

「殿下に任せるとの事でした」

「そう言う事なら此方で決めさせてもらうが、おそらく夏頃になるだろう」


 陛下と違って、今から行くとか言われないだけマシかな。

 まぁ夏まで王族を御迎えすると言う緊張が続くとも言うけど、準備に必要な時期までセバス達には黙っておけば済む話か。

 どちらでも結局クレームが出るなら、私の気が楽な方が良いもの。


「ところで、殿下も本当に行かれるんですか?」

「当たり前だが、何か問題でもあるのかね」

「いえ、今更ですけど、今度行かれるのって、陛下夫妻に、王太子夫妻、第五王子のサリュード王子に、第三王女のフィニシア様。

 他にも古き血筋の各家の他に、財務局長、人事局長、軍部の…と言うか数名の将軍達など、国の主だった方が、碌に従者も付けずに何日も王都を開けるって不味くないですか?」

「視察のため、ひと月程離れると言う噂は流してあるな」


 実質は数日なのだけど、王族は病気で臥せっていると言う前王であるドォルドリア様と、療養のために御実家に隠居された王母様、そしてラード王子を含むカイル殿下の三人の子供達を除いた全員。

 軍部は信頼を受けている人間が抜け、緊急時の指示を与えれる人間も不在になる事態は拙いじゃないかなぁと思ったのだけど、カイル殿下から帰って来たのは、どう考えても問題が起きる事を前提としているとしか思えない言葉。

 と言うか誘っていますよね。


「……あの、見え見えじゃないですか?」

「これに引っかかる様な馬鹿がいるから、頭が痛い所さ。

 まぁ分かっていて、それでもと思う輩もいるんだろうけど」

「私からすれば、好き好んで、何で成り代わりたいと思うのか、と思うんですけど」

「楽そうに見えるんだろうね。

 それとも後先考えずに、只、牛耳ってみたいだけかもしれないけど」


 王なんて、基本的に仕事を丸投げしているとは言え、それを管理するのは王だし、重要な決定を最終的に判断するのも王。

 他にも各国との調整だったり各派閥や関係各所に調整を呼び掛けるのも大切な仕事で、傍から見ているほど楽ではない事は、陛下やカイル殿下を見れば分かりそうなものだけど。

 まぁ、他国ではその判断や調整すら他人に任せて、酒池肉林に埋もれ放蕩三昧な王侯貴族もいると言うから、幻想を抱く気持ちは分からない訳ではない。

 ただ、仕事をしない日々って、さぞやつまらない人生だろうなぁと思うのは、前世の社畜な人生を送った影響かな?


 とにかく、そう言った特殊な例を除けば、王族って好き放題出来るように見えて意外に出来ないのよね。

 四六時中誰かの視線に晒されている訳だし、臣下に嘗められないためにも、弱みを見せられないだけでなく、寧ろ出来て当然な所を周りに示していかないといけない。

 当然、何処かに偏った贔屓をすれば軋轢を生み、より大きな混乱の火種になる訳で。


「被虐趣味があるとしか思えません」

「……言っておくが、父上にも私にも、そう言う趣味は無いからな。

 あと、君が城に小まめに足を運んで、仕事を手伝ってくれると言うなら、父上も私も楽になると思わないかい?」

「仕事漬けの人生を送りたくありませんので、謹んでお断りいたします。

 今一度話を戻しますが、ラード王子達は連れて行かれないんですよね?」

「餌は必要であろう。

 直系でまだ幼いとなれば、利用価値を考えれば、さして身の危険はないさ。

 あの子達が大きくなる前に、馬鹿共をある程度一掃しておきたいと言うのもある」


 幾ら王族でも自分の子供に対して冷たく非道な行いだとは思うし、本音を言えば反対はしたいけど、国として考えた場合、確かに殿下の言う通り幼いからこそ安全だと言えるのであれば、今が不穏分子を焙り出す機会なのかもしれない。

 大きくなればなるほど、様々な意味で利用され傷つく事になるし、王族だけに責任を追及される事になってしまう。

 成人前とは言え、既に大人の女性として扱われる事もあるフィニシア様を残さないでいるだけ、よく考えた上だという事は窺えるし、既に熟考した上での決定であるならば、この事に臣下である私が口にする事は出来ない。

 それは陛下やカイル殿下の覚悟を汚す事だから。

 私が出来る事は……収納の魔法から三つの小さな首飾りを取り出して、カイル殿下にお渡しする。


「これは何かね?

 君の事だから魔導具だと言うのは分かるのだが」

「小さな物なのでたいした物ではありませんが、肌に当たる様に身に着ける様にして下されば、私の方で位置の把握と生存確認くらいは出来ます」

「ありがたい心遣いだ、これだけでも助かる。

 だが君に責任を押し付けて置くままにする訳にはいくまい。

 今回の事が無事に終われば、返却をしよう」


 二年前、エリシィーが狂信者に襲われた後で作った発信機の魔導具で、昔、私がエリシィーに贈った首飾りの魔導具の上位にあたる魔導具。

 だけど、これってハッキリ言って非常事態以外では唯のストーカー行為用の道具でしかないんですよね。

 知ろうと思えば、何処に出かけているかどころか、方向と距離を地図と照らし合わせれば、御風呂やお手洗いに行っているのも分かってしまいますからね。

 皆んなの分を作って渡そうとしたところで、エリシィーにその事を突っ込まれて、お蔵入りした魔導具だったりします。


『私は、ユゥーリィがくれたこれ(首飾り)で十分だから』


 大切そうに胸にあるであろうそこに、そっと手を当てるエリシィーの姿に冷静になれたんですよね。

 アドル達も非常時以外は逆に危険だし、相手が知らないからこそ意味がある道具だと言っていた。

 今回の場合、この一件が終わった後もラード王子達に身に着けさせていたら、たえず私が気に掛けておかなければならない義務が生じてしまう。

 でも、それは本来は近衛の仕事であって、例え臣下であっても私の役割ではない。

 特殊な事情だからこそ許される保険。

 カイル殿下も、それが分かっているからこそ、先程の様な言葉を返してくれている。





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