445.例え好きでも、全てを受け入れている訳じゃないんですよ。
田植えが始まる頃、私とジュリは今年も田植えに参加せずに、山歩き三昧。
理由は私が田植えに参加すると、他の皆んながやる気をなくすと言う、酷い理由でハブられてしまっているため。
今回は、もう直ぐアドルとセレナの結婚式もあるので、お祝いを兼ねた春の山の恵みと、お肉の追加の確保が目的だけどね。
無論、海の恵みも出すけど、それは港街で買ってきて終わりなので、漁師や海女の何人かに声を掛けて一船買いで終わる話。
流石に広い海を、知識もなく漁になんて出ませんよ。
足場が限定された海での狩りは、クラーケンの時で懲りてますからね。
だから、プロの漁師にお任せしてと言う奴です。
「ユウさん、張り切るのは良いですけど、間違っても竜なんて狩ろうなんて言わないでくださいね」
「しないわよっ!
って言うか、竜種って食べれるの?」
「……食べれたら、狩るんですか?」
うん、一瞬悩んだ自分が恨めしい。
飛竜のような竜の名を冠しただけの亜竜種は、物によっては食べれるらしいけど、竜種や龍種が食べれると言う話は聞いた事はない。
そもそも、その飛竜も栄養価が高すぎて、食べすぎると鼻血が出る様な代物。
龍種なんて、確かにお肉という目で見たら、バラ肉とロースやサーロインの塊と言えるかもしれないけど、この世界の超越種を相手に美味しそうと言えるほど、私はイカれてはいないつもり。
そもそも、竜種にしたって食べれるかどうか分からないのに、死ぬ様な思いで狩って、実は食べれませんでしたとか、凄く不味かったでは洒落にならない。
「ジュリがどうしても食べたいと言うなら、頑張るけど」
「しなくて良いですわっ!」
自分で言い出しておいて、逆ギレするだなんて酷い。
「一応、祝飯の主役は赤毛剛牛鬼だから、大物は必要ない予定。
この時期なら岩崖大鳥と深赤王河蟹や深緑王河蟹かな。
猪系は、秋の方が美味しいし、採ったのがまだあるからね」
果実系は時期的にもう少し後なので、今回は在庫を使う予定。
「できれば、この時期の蟹は嫌ですわね」
「あれは油断したジュリが悪い」
もう数年前だけど、当時のジュリの盾の魔法では深赤王河蟹の高速水流刃は、二秒も持たないから避ける様にって言ってあったのに、私の真似をして盾の魔法で受けるもんだから、足を切り飛ばされた事がある。
今はそんな油断は大分なくなったし、ジュリの魔力制御も上がって盾の魔法で受け止め切れるぐらいにはなってはいるけど、ジュリにとってはトラウマ物の嫌な思い出。
うん、怖い。
ジュリが命を落とすのが。
血塗れになって、地面に転んだあの時の光景が。
半狂乱になって、周りにいた深赤王河蟹の群れを吹き飛ばした自分が。
大切な人達が傷つくのが……怖い。
自分を制御出来ずに、破壊の権化になるのが怖い。
もしかすると、だからなのかもしれない。
趣味と称して、自分の命を晒し自分を追い込み、どんな時でも自我を保とうとしているのかも。
そんな訳……ないか。
私は自分勝手で、我儘な人間だから、そんな殊勝な考え方をする訳がない。
変な考えが浮かんじゃったな。
「今のジュリなら、油断しなければ安心な狩りになるはずよ」
「何時までも同じ失敗はしませんわ」
怖い目にあった時の失敗は未だにしているのにね、とは流石に突っ込まない。
羞恥心に悶えるジュリも可愛いけど、流石に可哀想だもの。
「そう言う訳で、安全な山歩きで終わる予定なので、今夜も無しだから」
「あんまりですわっ!」
私の趣味の山歩きに付き合って、偶にジュリにとって洒落にならない相手に出くわす時がある。
そう言う時、ジュリは失敗しようが何しようが、必死に歯を食いしばって耐えるのだけど、その反動で夜は泣き崩れる事も。
そんなジュリを、私は夜に慰めたり、相手をしたりするのだけど、安全な山歩きで済んだ場合は、当然不要な訳。
だから、愛がなくなったとか、そう言う事を言わないの。
後、先日の事、私、まだ怒っているんだから、当分は二人ともそう言うのは無しと言ったでしょう。
「うぅ…」
「泣いた振りをしても駄目」
女の子の涙に弱い私でも、流石に騙されません。
まぁ二人には悪いけど、少し頭を冷やす良い機会だと私は思っている。
冬の途中から、ず〜〜〜と爛れた夜の生活が続いていたけど、先日とうとう私がキレた。
切っ掛けは、私のミスによるバッティング。
そりゃあ疲れが溜まっていたら私だってミスもするし、二人には悪かったとは思うけど、だからと言ってアレはない。
以前でさえ三人同時は駄目と言ってあったのに、それをやらかしてくれた。
いえ、なんだかんだと流されて、同意してしまった私も悪いけど、やっぱりアレは嫌だ。
ごく普通に二人だけなら、半分意識が飛んではいても、きちんと愛し合っているのを覚えているし、互いの想いが心地良いからいいよ。
でもね、覚えていないのは嫌っ!
二人の事だから、ちゃんと愛してくれていただろう事は信じられるし、途中までは覚えているけど、結局ほとんど覚えていなければ、無茶苦茶にされただけなのと変わらない。
そんなのは怖い。
頭が真っ白になって、何も考えれなくなっていても、ちゃんと覚えているからこそ、受け入れられるのに。
そうでなければ、例え愛する二人でも、あんな物を受け入れるのは無理。
翌朝、泣いてグズる私に、流石に二人も反省してくれた様で、もう二度と無茶はしないと誓ってはくれた。
あの時の二人の表情と言葉は、本当に私を案じているって信じられる。
勿論、二人も、私を最初から苦しめたかった訳ではないって事も。
結局、想いは一緒で、互いに証が欲しかっただけ。
その後、色々話し合ったかな。
例え魔呪具でも、自然の理に逆らった物なので、元々出来難い事。
焦っても仕方なく、何年も掛けて長い目で挑戦して行かないといけない事。
うん、もっと早く、きちんと落ち着いて話し合えば良かった様な事をたくさん。
『回数をすれば良いと言う物じゃないからね』
やっぱり、医療知識が未熟なこの世界は、当然、その辺りの知識も遅れており、とにかく回数をこなすのが基本だと思っていたみたい。
間違ってはいないけど、正しくはない。
まぁ、魔呪具によるものが当て嵌まるかどうかは知らないけど、とにかく長い目で、出来たら幸運のつもりでと言う事で納得して貰った。
あと笑ったのが、何故か安全日と言う神話がまかり通っている事に、苦笑せざるを得なかったかな。
月経の知識はあっても、体温や排卵日の関係の知識のないこの世界で、どうやったらそう言う話が出てきたのかは知らないけど、それは神話です。
危険日はあっても、安心日は存在しない。
それが前世での常識だったし、この世界でも多分通用する常識。
『互いに無理をせずに、ゆっくりいきましょう』
結局、二人も無理をしていたみたい。
私に負担が掛かっているって分かってはいても、私が子供を好きなのを知っているから、尚更それを叶えたいと思ってね。
ただ、それなら、魔呪具が私でちゃんと動作する様になる日まで待ってくれてもと思いはするけど、私が二人に私との子供を産んで欲しいと思う様に、二人も私にそう思う事は止められない。
気持ちは分かっちゃうから余計にね。
なので、中途半端な物を寄越した陛下が全部悪い。
だいたい、幾らなんでもジュリとエリシィーの二人が彼処まで求めてくるのはおかしいと思って、それから更に二人に詳しい聞き取り調査と色々試した所、どうやらあの魔呪具は【呪い】と言う言葉が付くだけあって、装着者の精神に干渉する機能があるみたい。
推測だけど、倫理観を曖昧にしたり、性欲を増強させ、興奮状態に持ち込む様な作用がね。
ただ、それほど強制的な物ではないらしいので、本人達がその事を自覚すればある程度抑えられる物らしいのだけど、逆に言えば知らなければ魔呪具の機能に流されてしまう、怖い機能。
だから私的には、今回の事は二人のせいではなく、陛下のせいにして心を落ち着けた。
私にだけ動作しない物を寄越したのも陛下。
一つだけでなく、三つも寄越したのも陛下。
知らなければ、危険な状態になる代物を寄越したのも陛下。
理不尽かもしれないけど、それが事実だし、おそらく陛下は説明を受けていない機能の事を知っていて、敢えて黙っていただろうからね。
無論、可能性をくれた事には感謝しているけど、それはそれ、これはこれ。
ある意味、夫婦の危機を迎えた訳ですから、この恨み、全部、筆に乗せて書いてやる。
と、言っても愛のない物語は好きではないので、愛をたっぷりにね。
「あっ、でも、普通に一緒に眠るのは構わないからね」
「それで十分ですわ」
顔を少しだけ赤く染めながら頷くジュリの姿に、一層ジュリが愛しくなる。
普段は強気な癖に、本当は自信がなくて一生懸命頑張るんだけど、それでも不安が消せないから、自分を誤魔化すために強引な行動にも出る事がある子。
家族想いで、その家族に嫌な目に遭わされたと言うのに、それでも家族を愛している強い子。
弟のベル君の前では、格好良くて何でも出来る姉でいたいと願う優しい子。
でも、実は甘えたがりのなんだよね。
甘い物に目がなくて、その癖して体型を気にして、時折騒いで。
どのジュリも、可愛くて愛しい。
だから大概の事は許しちゃいたくなる子なんだよね。
我ながらどうかと思うし、周りには甘やかせ過ぎだと言われちゃうけど、仕方がない。
「ユウさん、此処キノコがいっぱい生えてますわよ」
「……ジュリ、それ食べたら、お腹下すじゃ済まないからね」
「えっ?」
「ジュリはキノコに手を出すのは禁止っ!」
「せっかく見つけたのに酷いですわ」
「酷くないっ、とにかく今回は禁止っ」
流石に、量を確保するのが目的である今回の山歩きで、未だ毒キノコが三割も混じるジュリの鑑識眼を信じる訳にはいかない。
毒消しの魔法があるにしても、結婚式のお祝いの料理、しかも高貴なお客様も出席されるとなれば、間違いは許されないので、今回は可哀想だけど仕方ない。
ええ、決してジュリを甘やかしているだけじゃないですよ。
ちゃんと厳しくすべき所は厳しくしています。
結局、この日、ジュリだけでなく、エリシィーも含めた三人で、ぎゅう〜と優しく抱きしめ合い眠った。
三人の瞼が重くなるまで、その日あった事を話しながら。
ただ、ごく普通の夜を……。
大切に抱きしめる様に……。
手放してしまわぬ様に……。




