444.領民にとっては、結婚式より披露宴の料理なのかも?
アドルとセレナの結婚式は、主だった作付けを終え、田植えがひと段落ついた頃に行う。
春先ではなくその季節になったのは、二人には申し訳ないけど領政の都合。
春の一大作業が終えた頃の方が、農作業に勤しんだ領民が参加してくれやすいし、結婚式の後に振る舞う料理によって、領民達を労う事にもなる。
ぶっちゃけて言えば、領民のガス抜きを兼ねた、お祭り騒ぎにするため。
まぁ平民の結婚式なんてそんなものだし、下位貴族もそれに近い。
中位や高位の貴族は厳正に厳かさが求められるけど、逆に王族まで行くと、国を挙げてのお祭りだったりするのだから、意味が不明だよね。
「結局、挨拶ぐらいで、やる事はそうは変わらないって事だろ?
死ぬほど緊張して気を使う事になるだけで」
「まあね。
ウチではやれる事がない、と言うのが実情だけど」
セレナとの、ちょ〜〜〜〜〜〜とした話し合いも無事に終え。
アドルやセバス達にも陛下達が来られる事を伝えたら、蜂の巣を突く様な騒ぎにはなったのだけど、夕食時には落ち着いた様で、アドルがそう言ってくれる。
セレナは……、うん、また何処か遠い目をしているけど、今は放っておこう。
一度、納得はしてくれた以上、セレナなら気持ちを切り替えてくれると信じている。
「田舎で人も物も格式も無い無い尽くしだから、他にやりようがないの。
陛下達もそれを楽しんでいられる所があるから、それを尊重するって事で」
「しかし、良いのか?
俺達みたいなのが陛下に口を聞いても」
「ガチガチに固まって、それでも必死になる姿を楽しむような方だから」
「「………」」
悪趣味だけど、それを乗り超えれる人間でなければ、言葉を交わす価値がないと言う立場の方なんだから、仕方ない事ではあるんだけどね。
まぁ、例え乗り超えれなくても、王妃様がフォローしてくださるでしょう。
王妃様は王妃様でそう言う方だし、そう言う役目を持つのもまた王妃様の役目でもあるからね。
「でもこれって、結局、ユゥーリィが教会を色々と弄ったのが原因じゃねえの?」
あぁ…、ギモル、そう言う事を言う?
人のせいにする様な事を言っちゃう?
「あっ、いや、ユゥーリィがそう言うつもりじゃ無いって事は、重々分かっているけどな」
分かっているなら宜しい。
まぁ確かに王妃様達の目的は、私が教会に施した仕掛けを見定める事だと思う。
『幾つになっても、結婚式は女の夢なのよぉ〜、見ていて心が弾むのよぉ〜』
なんて事を王妃様も王太子妃様も言ってはいたけど、それだけで王族が動く訳がない。
間違いなく、使われた技術を取り込むつもり腹積もりだと思う。
まぁ見せるのは、表向きの技術のみで、非常用に裏の技術は秘匿するつもりなので見られても大丈夫だし、表の技術は結局派手なだけのイルミネーションみたいな物だから、別に取られても構わない。
王族である以上、ハッタリは時には必要な物と言う考えは分かるもの。
……えっ、何でそんなの作ったのかって?
そりゃあ、魔法のあるこの世界だよ。
しかも場所は教会だよ。
口にはしないけど、ゲームやアニメにある様な、荘厳な演出をしたくならないと言ったら嘘でしょう。
そして今世の私は魔導具師であり、魔導士。
その道の専門家です。
演出に関しては素人だけど、前世の知識があれば何とでもなる。
存在しておらず、知らなければ何をやったって、神々しく映るだろうからね。
そんな訳で、二人の結婚式は、お祝いを兼ねて自重せずに演出します。
趣味です。やってみたいんです。当主命令なので諦めてください。
その代わり、予算は全て私持ち。
御祝儀も弾んで、結婚式が済んだら、二人に半月間のお休みをあげて、新婚旅行もプレゼント。
以前にゆっくりと観光に行きたいと言っていた、ポンパドールの港街へ送迎と一流ホテルの宿泊付き。
我ながら完璧です。上司の鏡です。
二人にヤリ過ぎと言われたけど、知った事ではありません。
前世の記憶どうこうは伏せて、そんな感じに説得をしました。
『私達は式を挙げれないからね。
その分をしてあげたいの』
まだ何か言おうとした二人は、私のその言葉で納得してくれた。
この世界は、同性愛に関してはそれなりに許容はされてはいるけど、それは見て見ぬ振りをしているだけで、社会的に容認されている訳ではない。
当然、教会で結婚式など以ての外。
だからアドル達には申し訳ないけど、自分達に出来ない事を、二人の結婚式に投影させてもらうだけ。
まぁ、だからと言って、陛下達が祝福しに来るとは、私も夢にも思わなかったけどね。
「ところでお嬢様、教会や集落の方への通達はどの様になさいますか?」
「……セバスはどうしたら良いと思う?」
以前にダルス達にも突然は勘弁して欲しいと言われたけど、言おうが言わまいがやれる事は同じなので、結果はさして変わらないのが実情なんだよね。
これが普通の街だったら、全く知らせないと言う事も普通にある。
王族という国にとって超重要人物だから、よからぬ事を考える輩がいる事もあるからだ。
でも、代表者くらいには知らせておいた方が良いかな?
「驚いて何も出来ないに一日、追加の準備をするのに三日、直前に覚悟を決めるのに一日は必要かと思います。
それ以上は無駄に不安を与えるだけかと」
「……何か、出兵命令が来た様に聞こえるのだけど」
「似た様なものかと思います」
いや、全然似てないからっ。
王族が来る事と、戦争を同一視しないっ!
それって不敬だからねっ!
あと、皆んなも頷かないのっ!
「とにかく、五日前ぐらいが良いって事ね」
理由はともかくとして、五日前に知らせると言うのは妥当かもしれない。
私としては、もともと領を挙げての結婚式で、準備はそれなりにする事になっているから、一日前でも良いかなぁと思わないでもないけど、セバスがそう言うなら、特に反対する理由もないし、そうしておく。
「じゃあ、五日前に。
プシュケ、その日の夕食に、ダルスとケーニャ、そして教会のローランド様を招待しておいて」
「午前中でなくてもよろしいので?」
「ええ、午前中から呼び出したら、仕事にならないでしょう。
連絡事項を伝えるだけだもの。
皆んなの仕事の手を止めさせる訳にはいかないわ。
ついでに、簡単な打ち合わせもしておきたいし、要件は一度に済ませたいもの」
既に綿密な計画書を作って、相手に渡してあるし説明もしてあるけど、陛下達が来られる事によって多少の修正は必要。
でも陛下達の意向もあって、修正程度の事なので、さして時間は取られない。
夕食時間を選んだのは、巻き込まれる三人に対してのお詫びの前払いと言う事で、少し豪華な夕食にするつもり。
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「問題は当日の天気よね」
「天気だと、最悪、雨さえ降らなければね」
「風が強いと厄介ですよ。屋外での予定ですので、料理に砂が入る事も」
「周りが木々に囲まれていますから、そこまで強い風は吹かないと思うますけど」
セレナを外した女性陣を集めた披露宴の準備のための会議。
男ども? 役に立たないから放置だよ。
セバスは流石に戦力になるけど、逆になり過ぎてどうとでも対応できるから、この場には参加していない。
彼が動きすぎると、若い子達の勉強にならないからね。
だから此方に合わせます、と言う意思表明らしい。
やっては拙い事や、礼儀的に良くない事はプシュケやユリアがいるので、問題ないそうだ。
「風は、魔法で何とかなるかな」
風に干渉しても良いし、結界を張るのでも良いし、やりようは幾らでもある。
それこそネットを縦に張るだけで、だいぶ風は和らぐしね。
ただ天気だけはね。
「雨はユゥさんの魔法で何とかなりませんの?」
「……ジュリ、人を何だと思っているのよ」
私は神でも何でもない、前世の記憶があって、魔法が少し使えるだけの、ごく普通の貴族令嬢でしかない。
いくら何でも天候を変える様な魔法はないし、ゲームで出てくるような昼夜逆転する魔法なんて、寝て起きたら昼夜が変わっていたと言うならともかく、意味が不明だ。
アレって真面目に考えたら、惑星そのものに干渉して自転を促すだけでなく、それに共なう重力変化も抑え込むって、ど偉い魔法でしょう。
どう考えたって、人の身で出来る様な事ではない。
「せいぜいが盾の魔法で雨を防ぐくらいだし、流石に準備もなしでは結界の広さにも限界があるわ」
ぶっちゃけ、前世の知識を利用した魔法なら、雨雲を一時的に吹き飛ばすくらいの事は出来る。
ただ、同時に爆風と放射能で、結婚式どころじゃなくなると言うだけでね。
この世界、私が温度変化の魔法が使える事から分かる様に、実は魔法で陽子や電子どころか、中性子や重力子までを想像で操れてしまう怖い世界なんですよね。
理屈と魔法が使えれば、核融合や核分裂を簡単に行えてしまえる。
もっとも、原子や分子どころか、細胞や目に見えない細菌の概念すらもないこの世界では、他の人間は使いようがないし、ある程度の精密な魔力制御が無いと干渉が出来ないので、私の様な転生者がいない限り問題はないと思う。
でも、一応は危険な知識や技術なので、ジュリやコッフェルさんにも教えていない。
「となると、やっぱり雨が降ったら、予定通り共同住居跡の倉庫かな。
陛下達は、屋敷の方に移動してもらうから、あとは申し訳ないけど勝手にって事で」
「広さだけを言うなら、植物園の方を開放しても良いけど、花粉が飛んで料理に混ざるのも拙い植物は前もって移動させておかないといけないけどね」
「見た目は良いけど、そう考えると、やっぱり怖いわよね」
「ウチの人間だけなら、笑って済ませれるんだけどね」
それも大概どうかと思うけど、結局はそう言う事。
陛下達が来られるにあたって、披露宴の会場をどうしようかと言う話になった訳です。
もともと此方は、披露宴の名前を借りたお祭りでしかなかった訳なので、雨が降ろうが風が降ろうが、平民なので何とでもなったんですよね。
共同住居跡の倉庫も、様々な薬草や品種改良中の植物を育てている植物園も、広さは十分にあるし、少しくらい匂いが籠っても、私達はあまりそう言うのを気にしない。
でも、高位の貴族や王族ともなると、その辺りを配慮しないといけないんだよね。
二つとも、そこまで考えて立てた建物ではないから、換気はそこまで良くはなく、いくら美味しい匂いでも、室内で大量ともなれば、慣れない人間には顔を顰める事になりかねないもの。
かと言って、領民達には御馳走を食べれる数少ない機会。
「やはり、雨が降ったら陛下達は屋敷へ。
天気が良く披露宴に御参加されるなら、そのままで、されないのであれば屋敷と言う流れでいきましょう」
もともと準備や当日のお手伝いのための人間は確保してあるし、アドルとセレナの御両親が、もしかすると参加されるかもと言うかもしれないと言う事で、お客様が来られるかもしれない事は言ってあったので、予備の人間も用意してあるから、たぶん問題ないでしょう。
「問題は料理かな」
「領民の男達の要望も兼ねて、ガッチリ系で見た目もある物を用意する予定だったけど」
「料理の内容を変えずに、数口ずつに分けて、気軽に手に取れる様にしましょう」
「両方用意して、机を分けると言うのは?
それなら、ガッツリ行きたい人も満足するだろうし」
「手間が掛かるけど良いの?」
「女性陣は寧ろ喜ぶかな、量より種類を食べたいから」
食事は、お祭りを兼ねていると言う事もあって、ビッフェ形式。
まぁ田舎なので、お祭りの時の様に屋台も出すけど、其処は其処、目の前で料理をされたら美味しそうに見えるので、それを活かす形で飾り付けをすればなんとかなると思う。
料理は何時も通り、この集落で出来た物以外に、私が彼方此方の街から買い集めてあった食材に、趣味の狩猟で得た魔物のお肉や食材。
当然、アドルとギモルの可愛い家臣の結婚式という事で、繁殖しているペンペン鳥だけでなく、まだ繁殖を始めて一年も経っていない金羽大鶏二十匹と赤毛剛牛鬼も一頭まるまる使う予定。
まだまだ頭数が多いと言えないため増やすべき時だけど、こう言う時に使わないで何時使うと言うのか。
他にも商会傘下が経営している、焼肉店とお鍋店からも出して貰って、私の収納の魔法の中に当日まで保管予定。
勿論、私直営の甘味のお店からも、大量に出してもらう事になっている。
お店の子供達は、本当に良い子達でね。
私の可愛い家臣の結婚式のためならって、物凄くやる気で、新作も幾つか作るって張り切っているんですよ。
そんな訳で、今回は私は料理はせずに、二人の上司であり、領主である事に専念。
セレナの化粧も、私から技術を学んだエリシィーが、自分の実力を試したいと言ってきたので、お仕事取られちゃったし。
と言うか、下働きをするなと、皆んなに止められていたりする。
私もお祝いしたいのに。……酷い。




