446.エフェクト効果、最大で行きますっ!
新郎新婦が、教会の聖堂に踏み入れるのに合わせるかの様に、陽の光を受けていた水晶製のステンドグラスが、更に輝きを灯してゆく。
やがて新郎新婦が、聖堂一番前にある祭壇にいる祭事を司る神父の前に立ち、神父がその両手を二人を迎えるかの様に大きく広げた瞬間。
天井を含めた聖堂内全てのステンドグラスに輝きが灯るだけでなく、聖堂の床に一杯に描かれた表の魔法陣が、広がる様にして薄らと青白く灯る光景に、聖堂にいる人々は、深く溜息を吐いてゆく。
気がつけば、花台に乗った花瓶の中からも、その飾られた花を照らさんと光の柱を天井へと伸ばし、その天井を支えている中央通路脇にある何本もある柱にも、幾何学模様が灯っている事に、どれだけの人間が気が付いただろうか。
「アドルシス・カルミ、セレナーゼ・アーベル」
「「……」」
神父が二人の名を呼び、それに応えるかの様に新郎新婦に確かに大きく頷く。
二人の新たな夫婦の意思を確かめたのだ。
神に誓う事に後悔はないのかと。
異義がないのなら、沈黙で持って答えよと。
だから、多くの人々が集まる大聖堂でありながらも、誰一人声を出さないのだ。
神聖な誓いを邪魔をしない様に。
誰かの声が、二人の返事だと神に過って届けないために。
二人の意思を確認した神父は、祝詞を始める。
神に、今、此処に新たな夫婦が生まれた事を伝える祝詞を。
新たな夫婦に、神の祝福を与えんための祝詞を。
女性神父特有の高い声色。
だけど高い声であろうとも、重みがない訳ではない。
どこまでも澄んだ声音が、聖堂の隅々に、高い天井を突き抜けるかの様に響き渡ってゆく。
「「「「「……、……」」」」」
神父の祝詞。
その祝詞に合わせるかの様に、聖オルミリアナ神聖文字が、祭壇近くの何もない空中に浮かび上がっては、天へと昇って行く。
神への感謝を綴る文字。
神への誓いを綴る文字。
神からの祝福を願う事を綴る文字。
その一つ一つが、幾つもの祝詞の言葉と共に、聖堂の天井近くへと昇ってゆき、光の球を形作ってゆく。
その神秘な光景と荘厳な雰囲気に、聖堂にいる人々は否が応にも、吸い込まれてゆく。
やがて迎える終わりの時。
神父の力ある最後の言葉。
「新たな夫婦に神の祝福が在らん事をっ」
一際大きく、高々に上がるその言葉に、神聖文字で出来た光球は、その大きさを縮ませたと思ったら、一気に四散させ、天井高くに新たに浮かぶ魔法陣。
そこから虹色に輝く光の粒子が、新たな夫婦へとゆっくりと降り注ぎ、二人の纏う服を輝かせており、そんな二人を祝福するかのように、気がつけばステンドグラスがその光量を増し、同じ様に虹色へとその輝きを変化させている。
今、この時において、この場にいた者達は、一番の最高潮を迎えていただろう。
それを証明するかの様に、溢れんばかりの拍手と、二人の門出を祝う言葉が聖堂中に舞い、響き渡ってゆく。
高位の貴族の結婚式ではあり得ない事だけど、平民、または下位貴族ではよく見かける光景。
より多くの人達の祝いの言葉と、二人を迎える拍手が何よりもの祝福とされているから。
皆で力を合わせて生きて行こうと言う、仲間を迎えるための行為。
「「皆んな、ありがとう」」
新たな夫婦であるアドルとセレナは、多くの祝福を送る皆んなの光景に笑みを浮かべ、新郎であるアドルは感謝の声を挙げ、新婦であるセレナは化粧が落ちるにも関わらず、嬉し涙を流しながら眩しそうに、自らの夫になったアドルを眺めている。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
と言うのが、私の視点だったのだけど。
「ユゥーリィ、アレはヤリ過ぎ」
「聞いていた私達ですら固まってしまいましたわ」
「いつの間にか、二人の服にまで細工してあるし」
「ローランド様やレイドン様達、目元や口元が引き攣ってましたわよ」
神父役を務めたローランド司教と、その補助をしていたレイドン司祭には、祝詞の一部の発声の調子を変えて戴いたりと、色々と協力して戴いた訳だけど、流石に基調は変えていない。
向こうも要求した演出に対して許容範囲だと言っていたのだけど、ユリア曰く、突拍子もない話過ぎて、単に想像が出来ていなかっただけだと言う事らしい。
まぁ私も神聖な行事だからと言って、口頭と企画書による説明だけで、実演は見せてませんでしたからね。
陛下達にも見せなかったのに見せろとは仰りませんよね?
と言ったら黙ったと言うのもあるけどね。
もちろん、相手が理解出来ていないだろうと理解しての事ですが、それが何か問題でも?
「まぁ、領民同士の結婚式は、格を落として控えめな演出になる予定だから、丁度良いんじゃないかな。
二人とも喜んでいたし」
この後、ひと月ほど経ってから、教会では幾つもの結婚式が予定されている。
この地に来た元難民が、この地でやっと安定した生活を手に入れ、新たな夢を見れる様になった証。
集落を一からの開拓で、此処まで来れたのも彼等のおかげでもあるから、式を挙げるための教会へのお布施は、今年に限ってはアドル達の結婚のお裾分けで御祝儀で払ってあげる、と言ったら次々と声を挙げてたんですよね。
中には夫婦になってはいても、色々な事情で式を挙げれなかった人達が、式を挙げれる人達を羨ましそうに見ていたので、構わないからやっちゃいなさいと許可を出したため、結婚式ラッシュを迎える事になる。
流石に、ウェディングドレスは総出で作って使い回しするみたいだけど、無いよりマシだしね。
とりあえずリボンで、違いを出す方法を幾つか伝えておいた。
あと、ひと月も間を置いてあるのは、アドルとセレナの結婚式が特別だったと知らしめるためと言う事にしてあるけど、実際は聖堂に施した演出用の魔導具に教会の人達が慣れるための練習期間だったりする。
流石に全ての祭事に、一々私が出張って演出なんて、とてもやってれません。
教会との付き合いは、あくまでギブアンドテイク。
エリシィー家族への過去への行いや、聖女なんて馬鹿な事を言い出す教会とは、それくらいの距離感で丁度良いと思っているので、せいぜい私に利用されてください。
「ああ、こんな所にいたのか」
「女同士が集まって裏で話している中で、平気で声を掛けれる辺り、流石は陛下」
「君ね。周りに人がいない時は相変わらずだね」
「では恭しくした方がよろしいですか?」
「止めてくれ。
君にそう言う事をされると、何かを含んでいそうで怖い」
勝手な上に、酷い言いがかりである。
陛下ではあるまいし、そんな事はしませんよ。
まぁ、披露宴会場の料理や飲み物、参加者やお客様の様子の確認と情報共有のために裏に引っ込んでいたら、ついつい話し込んでしまったのが実情で、お客様を放っておいた私に非があるのも確かですけどね。
あと、仮にも国王ともあろう方が、串ごと肉を頬張るのはどうかと思うのだけど。
……こう言う時でもない限りやれないから、自由にさせろと。
まぁ普段は口に入れる物を、とことん毒見されたりする訳ですし、ナイフやフォークを使わずに串ごとなんて、許されない訳ですからね。
一応、毒検知と毒消しの魔導具の指輪をお渡ししてあるから、大丈夫だとは思うけど、それを擦り抜ける毒物と言う物はあるかもしれないので、過信はいけない。
魔導具:孔雀双蛇の指輪
私の魔導具【酒精殺し】の発展系で、何方かと言うと此方の方が本来の開発していた物。
【酒精殺し】はアルコールに弱い、私の身体に合わせるために急遽特化型として開発したものに過ぎなかったりする。
でも、まだまだ未完成品で結構魔力喰いなので、陛下ぐらいの魔力容量だと食事中ぐらいしか装着しておけないと言う欠点がある。
腕輪か足輪にして魔力貯蔵用の魔法石を付ける手もあるけど、まだまだ改善の余地があるので、考えるとしたらその後かな。
因みに首輪にしていないのは、女性の私ならともかく、男性がするには場所的に目立つため、警戒していますよと言う事から、能力が一段下がる事にはなるけど、指輪型にしてみた次第。
だからこそ、余計に魔力を無駄に消費するんですけどね。
とりあえず、私は皆んなと別れて、陛下と共に披露宴会場という名のお祭り騒ぎをしている広場へと、共に戻りながら陛下のお相手をする。
お客様方のお相手をするのは、ホスト訳を務める当主のお仕事ですからね。
ちなみに領民達には、陛下達の抜き打ちの視察と、アドル達の結婚式の日が偶然重なってしまったものの、陛下達の御配慮で、領の祭り事でもある結婚式を優先する様に命じられた、と言う事になっている。
「それと、あと五年はやりませんよ」
「君ね、僕の話も聞かずにいきなりだな」
「違うのですか?
ちなみに、ここ数年の連続した王城の大改装に、財務局から暫く勘弁して欲しい、と前回の改装の後に泣きつかれています。
私もそんな方の恨みは買いたくありませんので、どうか御容赦くださいませ。
それに、王都の大聖堂の改修工事を終えてからの方が職人の手も空きますし、そちらを参考にしたものを、専門の人間がしっかりと構想を練った上で考えてくださると思いますよ。
その頃には、この地に多少は人を招き入れられる様になっていると思います。
あと、教会での演出は、子供の頃から構想を練っていた物で、直ぐに他の物をやれと言ってやれる物ではありません」
悔しいけど、私のは所詮は素人仕事。
前世の知識に助けられているだけの一発屋。
王城での儀式を行う場所なら、国内外問わず目の肥えた方の目に晒される訳だし、儀式を行うとなれば、尚更、中途半端な物は許されない。
演出のための加工のお手伝いは魔導具師として出来るけど、職人としては二流品程度の物しか作れない私の出番ではない。
王城で儀式を行う様な場所なんて、超一流の職人が手がけるべき所だからだ。
それに、構想の件にしてもそうだ。
魔法のある世界に目覚めて、ステンドグラスをダントンさんとオーフェン神父に教えてから、ゲームやアニメの世界の様な境界を演出できたらなぁ、と漠然と考えていたからこそ出来た事。
王の儀式で行う様な演出は、意外にゲームとかでは出ないから、あまり参考になる物はないんですよね。
いきなり窓ガラスを突き破って、魔王の手下が姫を攫うとか。
天井を突き破って降りてきた竜が暴れるとか。
後は信じていた家臣が、謁見の間でいきなり謀反を起こすとか、再現しちゃ駄目なものが多い。
と言うか、竜種を手懐けるとか無理だし、そもそもこの世界に魔王とかいないしね。
「ちっ、使えない奴め」
「いい加減に浪費ばかりせずに、真面目に政務に取り組んでください」
魔法のある世界だから、下手な小物による演出は逆に軽んじられるから、やるなら徹底的にと陛下を煽って、一応は納得してもらう。
まぁ、今は見た事もない演出に興奮し、その余韻に酔っているだけだろうから、冷静になれば陛下は分かってくださるはず、……多分。
「まぁいい。
だが、その代わりフェニが式を上げる際は、君が代わりに演出する様に。
君なら魔導具の手助けなどなくとも、魔法で可能であろう」
そっか、そう言えば第三王女のフィニシア様も、もう十四歳だもんね。
出会った頃は、似た様な背丈だったのに、私と違ってしっかりと大人の階段を上がっているからなぁ。
ぼんっ、きゅんっ、ぼんっ、と女性らしく成長をしており、凹凸の少ない私としては羨ましい限り。
「そう言えば、そう言うお話を聞かないんですが、お相手はもう決まっているんですか?
お立場からして、国外の王族か、高位貴族と言う事でしょうけど」
「いや、今の国外の王族とかには碌なのがいなくてな。
特に、何処かの誰かさんがポーションなんてとんでもない魔導具を作ってからは、誰かさんに近づくために碌でもない縁談ばかりが来る上、フェニを真面に幸せそうにしてくれそうな相手は、そう言う輩の力に負けて引き下がったからな。
まぁそれくらいで引き下がった訳だから、結局、守るだけの力のないクズだった訳だし、ある意味、篩いに掛けられて丁度良かったと言える」
自分の娘の縁談に碌でもないのが集まるのを、人のせいにするのは止めて欲しい。
私、本気で何も働きかけてませんし、そもそも国外とのお偉いさんなんて、名前すら碌に知りませんよ。
せいぜい主要国家の王家の名前くらいです。
「かと言って国内はな。
まだ十年も経っていないが、色々と粛清した後でな。
主だった貴族に、あまり王族の血を与える訳にもいかん」
ここ最近、と言っても十年単位だけど、降嫁は王妹殿下であるジュシリィーナ様だけで、陛下の第一王女も第二王女も国外へと嫁いでいる。
多分、国外の真面な相手と言うのはそこで終わっていて、後は問題の残る政略結婚になってしまうのだろう。
陛下にしろ王太子殿下にしろ、お二人は王族にしては珍しい恋愛派。
でも、それを他国の王族に求めるのがおかしいのであって、そう言う意味では陛下は現実主義でもあるのだと思う。
「それに、フェニは子供の頃は病弱だったからな。
他国へ嫁げば、子作りの道具としても見てもらえぬ可能性が高い、おそらく離宮に置かれて終わりだろう」
「……」
だからこそ、悩んでいるのだと思う。
たとえ王族であろうとも、せめて夫婦間ぐらいは幸せであって欲しいと、親として願っているからこその言葉。
そんな陛下に、酒の入ったグラスを渡し、私も同じく口にする。
今年の冬に仕込んだお酒。
山の傾斜を利用して洞窟に作った雪室で、雪の中でじっくりと数ヶ月寝かせた物で、樽だしの新酒の時様な棘は既になく、滑らかな口当たりと喉越しへと変化している。
「まぁ、目ぼしい相手が見つからねば、サリュードかラードあたりと結婚させる事も視野に入れている」
「げほっ、げほっ」
衝撃の言葉に、思わず口にしたお酒に咽せてしまう。
いえ、だってね、冗談にしても性質が悪いですよ。
「あ、あの」
「ん? 二人が欲しくなったのなら、今の内だぞ」
「いえ、そうではなくて。
今日という日に、そう言うお戯れなお言葉は、些かどうかと思いますが」
まったく、この陛下は、そう言う冗談は以前にも止めて欲しいと言ったにも関わらず、こう言う事を平気で聞いてくる。
本気で要りませんからね。
男は嫌です、女の子が良いです。
そして既に可愛い嫁達がいます。
「まぁラードはともかく、サリュードにはフェニと結婚させられたくなければ、いい加減に相手を決めろと脅してはある」
「あのう、この場合、フィニシア様のお気持ちの方を尊重して差し上げるべきかと思うのですが」
嘗て家の都合で、男の記憶と価値観を持つ私が、よりにもよって男と結婚を強要されそうになった身としては、意に沿わない結婚には物凄く庇いたくなる訳でして。
と言うか、本気でお二人を結婚させるつもりですか?
「そちらの心配はない、寧ろフェニはそうなる事を望んでいる。
元々、サリュードとは仲が良かったからな」
そっか〜、フェニシア様、乗る気なんだ〜……。
前世の価値観からして、実の兄弟でと思いはするけど、前世でも昔は近親婚とかは普通にあったとか聞くしね。
家庭内性被害とかなら話は別だろうけど、王族とかならあり得る話かも。
前にもそんな御先祖がいたとか言っていたし。
しかし、実の妹と結婚か。
……、……、ないわ〜。
前世で妹がいたし、可愛がっていたけど、家族愛と恋愛は別物。
妹の可愛さに萌えはしても、異性としては見てなかったからね。
今世にしたって、アルフィーお兄様とダルダックお兄様と言う、仲の良い二人の兄がいたけど、恋愛感情を持てるかと言ったら絶対に持てない。
と言うか、相手が男の時点で無理。
私の事はともかく、今世でも身近に似た様な悩みを抱えている兄妹がいるけど、今のところ干渉する気はないので、黙って結果を見守り中。
同性同士と、人様に自慢できない様な恋愛をしていると言う時点では、人の事を言えないからね。
「それで、今回、態々フィニシア様までもを、お連れしてきた訳ですか。
御自分の御結婚の式の時のための参考として」
「いや、前回、奥さんも義娘も肌が艶々になって帰った理由を話してしまってな。
自分達ばかりズルイと、ムクれられてな」
そっか〜、そっちなのかぁ。
いやいや、そんな訳がない……よね?




