436.死者への祈りは真面にしますよ。悪巫山戯はなしです
今回も短め〜〜。
「例え身体がこの地に無くとも、彷徨えし悲しみの魂は死者を想いし者達の心に導かれ、残されし者達の悲しみにその魂を癒され、天へと還るであろう。
さぁ、皆々様、祈りましょう。
還らぬ者達の魂の安息を祈って。
苦しみと悲しみを、もう味わう事がない事を祈って」
重々しく澄んだ祭司を務めるローランド様の声が、何処までも続く蒼穹へと溶けて行くように、辺り一帯へと広がって行く。
韻を含み、リズムに乗った鎮魂の祈りは、聴く者達の心を掻き立て響かせ、酔わせてゆく。
何度も、何度も、数えきれない程に練習をして身に着けたであろう技術。
だけど、それはただの技術ではなく、神と死者へと捧げる祈りとして昇華させたであろう想いは、確かにそこに在ると信じたい。
冬の終わり、春の初め。
二年前のこの時期に多くの命が奪われ、更に多くの人達が住む家と故郷を失った。
紛争の犠牲者に対する鎮魂の儀式。
正確には、この地に移り住んだ者達が知る犠牲者達。
紛争に巻き込まれ命を無くした者達。
その時に負った傷から回復する事無く、永遠の眠りについた者達。
碌な食事も水もなく、飢え、渇き、病に侵され、苦しさの中で命を終えた者達。
職を手に入れれたものの、酷い仕打ちの中で世を恨みながら、絶望の果てに果てた者達。
分かる限りの名前を刻んだ石碑に向かい、この地に住む全ての領民一同が集い、一心に鎮魂の祈りを捧げる。
彼等の祈りに応えるかの様に、石碑は青く輝きを放ち始め。
やがて祭司の声と儀式が最高潮に達した時、一際大きな光の柱が天を衝く。
「「「「「「……っ」」」」」」
その眩い光景に、人々は天を見上げ、人々はより深く祈りを捧げる。
その祈りが天にいる想う者達に届かせようと、一層祈りを深める。
その想いを光の柱に込めんが為に。
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「赴任そうそう、大変な事をお頼みして申し訳ありませんでした。
おかげさまで、領民達の気持ちも少しは晴れたとは思います。
領民達を代表してお礼の言葉を申し上げます」
一応は事前にお願いはしてあったとは言え、教会の人を招いた翌日に、領民全員を巻き込んだ鎮魂の儀をして戴いたので、深くお礼の言葉を述べる。
ただ向こうの方も、赴任が確定したのは五日前と言うのだから、準備が大変だったと思う。
祭司を務めたローランド様を以外は、まだ祭事や引越しの後始末中みたいだからね。
「いえ、私共の祈りで多くの魂が救われ、残された方々が心休まるのであれば、それが私共の使命でありますし、喜びでもあります」
うん、もういないけど、何処かの似非枢機卿と違って、聞いていて驕っていような感じがなく、自然と言葉を受け止められる。
「ただ、今までにない儀式の進め方に戸惑いを感じてしまい、皆様方の祈りの邪魔にならなかったのか心配です。
いえ、儀式そのものは素晴らしいものだったのですが、私達の方が慣れずにと言う意味です」
まぁ、遠回しにクレームは来たけどね。
はい、祭儀の対象である鎮魂碑の発光現象は、私の要求による演出です。
何処かのゲームに出てくるような巨大な水晶柱石を使った鎮魂碑。
その中に刻んだ故人の名前群を、鎮魂碑の下に仕込んだ輝石輝と結晶と光水晶(陛下に製造と使用の許可済み)。
演出と盛り上がりに応じて、鎮魂碑を光らせるようにしてあり、今回は私が儀式に合わせて光り方を操作していた。
無論、悪巫山戯や面白がってではなく、真面目な慰霊としてですよ。
祭儀に演出やハッタリが付きものは、大昔からある事だし、人々の想いと心情をある程度コントロールするには必要な事。
少なくても故人への祈りを捧げ、想いを寄せる事への手助けになるのなら、ありだと私は思っている。
と、言う訳で、クレームは却下。
いきなり慣れない演出に、付き合わされた事に対してだけと受け取っておく。
そんな態度をとる私に、ローランド様は苦笑を浮かべ。
「あれ程の演出された祭事を、当り前と思って貰っても困るのですが。
都会であっても、あの儀式を見るためだけに一つのお祭りになる程かと」
「いずれは廃れるでしょうが、今はこの地に住む殆どの者達に関わる祭事ですので、少しでも印象を強くして、より多くの領民が参加しやすいように努めるのも、故人と故人を想う者達への手助けだと考えています」
「お祭り騒ぎにしたいだけの、口実の様にも聞こえますが」
酷い言い草だとは思うけど、実際お祭り騒ぎにしているので反論できない。
ローランド様が向けた視線の先では、何箇所も火を焚いて暖を取りながら、食事を出し、酒を振る舞って騒いでいる領民達の姿が見えますからね。
一応は教会の敷地に隣接した、公共の広場でやっているので、文句を言われる謂れはない。
「故人を偲び、生前を思い出す場を提供しているだけです。
亡き故人のために皆が集まり、厳正なる儀式で冥福を祈った後は、故人を想いながら騒ぐのは、悪い事だとは私は考えておりません。
貴族やお堅い教会の方からしたら不謹慎に思われるかもしれませんが、アレらもまた、人としてあるべき姿だと捉えては戴けないでしょうか?
無論、度を過ぎた騒ぎが起こるのならば、私共で対処いたします。
ですが、彼等も分かっているはずです。
この集まりが、本当になんのためにあるのかを。
だからこそ、深い悲しみのあまりに感情を抑えきれない者もいるでしょうが、その悲しみの一端を分かる者達が周りに多くいます。
きっと、同じ悲しみを知る者達が鎮めてくれると、私は信じております」
と、それらしい事は言ったけど、冬の閉じ籠った生活のガス抜きも含まれているとは、流石に言えないかな。
むろん、今言った事は本当の事だけど、彼等の苦しみと悲しみを知らない私からしたら、領民のガス抜きの方が本音だったりする。
慰霊の形にしたのは、時期もちょうど良かったし、領民達にとって一番良い形にしたかったのと、年に一度の儀式で領民達の心が休まるのなら、と言う打算があったりする。
むろん、故人を思う領民の気持ちに泥を塗る気もないし、その想いは大切にしたと思ってはいるけどね。
でも、そんな事は言わなきゃ分からない事だし、態々言う様な事でもない。
逆の立場なら、感動を返せと言いたくなるもの。
「……少し、シンフェリア様の事が分かった様な気がします」
深い溜め息を吐きながら言われると、凄く残念なものを見たと言われている様な気がするので止めて欲しいのだけど。
あと、分かった様な気がするだけなら口にしないで欲しいなぁ。
なので、笑みと視線でもって、話の先を促す。
「失礼しました。
ただ少なくとも、シンフェリア様が聖女として担がれる様な方ではない、と言う事だけは確かな様で」
「元々聖女なんて柄ではありませんが、そう言う言い方をされると、とんでもない人間の様に聞こえるのですが」
聖女だなんて清らかな存在ではないし、面倒くさそうな立場なんて、まっぴら御免なので、聖女認定を諦めてくれるのなら、その評価は大歓迎だけど、だからと言って残念な人扱いをされたい訳ではない。
でも、じゃあやっぱりと言われても面倒なので、これ以上は突っ込まない。
「けっしてそう言う意味ではありませんので、その様に思われたのならお詫び申し上げます。
ただ、民の事をとても大切になされ、そのためなら既存の考え方や型に捕らわれない柔軟な考え方を持つ方なのだと。
この地の領主であるシンフェリア様、その考え方に沿う対応をしてゆきたいと考えております。
ただ、神の教えもありますので、その考え方に添えない事もあるかもしれない事だけは、どうか御了承下さい」
「もちろんです。
教会の方にはこの地の生活は驚く事ばかりかもしれませんが、どうかこの地に住む者の達のために、お互いに手を合わせて良き道を探って行けたらと思うます」
うん、只の牽制でした。
まぁいきなり此方のやり方を押し付けちゃったからね、向こうも教会をいい様に利用出来る物だと思われたくはないだろうからね。
教会は、ある意味治外法権を持つ他国みたいな物だから、その考え方は理解できる。
でも、それは逆もまた同じ。
教会が領主や領民をいい様に利用できると思ってもらっても困る。
その地にはその地のやり方があるのだから、それを乱して自分達のやり方を押し付けるのなら、それを許す訳にはいかない。
まぁ、互いに手探りで共存して行きましょうと言う話です。




