435.余剰で過剰な人事は、問題が起こる気しかしないんですよね。
今回はちょっと短めのお話。
前世では三寒四温と言うけど、厳しい冬も何時迄も続く訳ではなく、いずれ暖かな春が訪れる。
最盛期には私の胸の高さぐらいまで積もっていた雪も、次第に低くなってゆき、やがて雪が降る日がなくなり。
積もっていた雪が自然と解けて地面が覗くのが当たり前になってきた頃、建物だけだった教会に、神父様達を迎える日が近づいてきた。
え、ジュリとの事ですか?
もちろん、上手く行きましたよ。
ある意味、こちらがドン引きする勢いで。
結局、……まぁジュリともね。
そこっ、ビッチとか言わないっ、愛があれば関係ないのっ!
ともかく三人の関係が一歩進んだ事は嬉しい限りだけど、まったく問題が無かった訳じゃないんだよね。
ジュリとエリシィーとの間で、プチ紛争が勃発。
理由は本当に馬鹿馬鹿しい事で、思い出したくもない。
誰が初めてだったとか、どうでも良いじゃない、仲良くいこうよと思うのに、エリシィーに取られたとジュリが拗ねてしまう始末。
その事にエリシィーも、私の色々な初めてをジュリが奪っていったのに、何を言っているのかと言い出したから、間に立たされた私としては堪らない訳で。
『ユゥーリィの唇は私が最初に貰っているから、ジュリさんとの事は我慢しているのに、贅沢言わないでください』
『嘘を仰らないでくださいっ!
ユウさんは初めてだったって言っていましたわ』
『嘘じゃないわ、ユゥーリィが寝ている時にね。こっそりと』
『そ、そんなの数に入りませんわっ!
だいたい寝ている人を襲うなんて卑怯ですっ!』
おまけに牽制なのか、知りたくもなかった事実が暴露されたし。
たぶん、何時ぞやのお泊まり会の時だと思うけど、エリシィー、人が寝ている間に何してくれているのと思いつつ、それは流石にノーカン扱いでは?
あとジュリ、貴女、寝ている私にあんな事やこんな事をしておいて、エリシィーの事を責められないからね。
二人とも次に、人が寝ている時に変な事をしてきたら、拳骨だからね。
うん、二人に愛されているなぁと思いつつも、諍いは勘弁して欲しいと、つくづく思ってしまった訳です。
因みに関係ない話だけど、この世界、秋から冬にかけて誕生日を迎える人間が多かったりする。
ミレニアお姉様は秋生まれだし、私も冬の始まり。
うん、まぁ雪深い田舎の冬は基本的に閉じ籠もりだし、社交界も冬はお休みだからね。
とにかく、そう言う事だと理解してほしい。
閑話休題
「お嬢様、祭壇、治療院、備品、食料、日用品、個室の用意、身一つで来られて
も、問題ない様に全て準備が整っております」
「いや、逆に身一つで来られても困るからね。
聖書と祭具と着替えくらいは、最低限持ってきて貰わないと」
「それを忘れるようであれば、聖職者として疑わしいと言わざるを得ないでしょうな」
「だよね」
セバスとの冗談まじりのやり取りはともかく、準備は整っているみたい。
私なんかザルだから、足りなければ用意すればと言うところがあるけど、セバスはその辺りは抜かりない。
元々侯爵家の執事として仕えていた実績がある訳だし、侯爵家くらいなら教会のお偉いさんを客として迎える事なんて普通にあるだろうからね。
この地に神父様を呼ぶのは、此方からお願いした事だから、その辺りは疎かに出来ない。
私自身は信仰心は無いのでどうでも良いけど、この世界の人達は基本的に教会と密接した関係があるため、領民のために仕方なしに呼んだと言うのが本音。
まぁ呼ぶ以上は、此方も色々と利用させてもらう。
祭事を通して領民の心の安息、病気や怪我の治療、子供達への簡単な読み書きや計算などの教育、教会と言う場を利用した文化の交流。
まぁ元々教会がしている事なんだけど、そこは此方の要求するレベルで行ってもらうと言うだけの事。
ただ、問題がない訳ではないんだよね。
ジル様に言われるまでもなく、真面な親父様を派遣してくる訳がないとは思っている。
この地の特殊性と言うのもあるし、私が教会に色々と売りつけているのもある。
恩とか魔導具とか喧嘩とか。
おまけに最近は直接言葉にして言われなくなったけど、聖女なって欲しいなんて寝言も未だある訳でして。
ともかく、教会の思惑を言い含められた人間が派遣されてくる事には違いない。
でも、これはある程度覚悟しての事なので良いのだけど……。
「ディアーナ・ローランドです。
長い付き合いになると思いますので、どうかよろしくお願いいたします」
「こ、此方こそ、よろしくお願いします」
約束の日、王都の大聖堂に顔を出して紹介されたのは良いけど、ほぼ私担当と化しているラルフィード枢機卿に紹介されたのは、四十代に届いているかなぁと言うくらいの妙齢な女性司教。
ええ、司教ですよ。
総人口が五百人に満たないような、田舎の領地にある教会の神父に司教って……、うん、有り得ない。
因みに、世界中に勢力を持つ聖オルミリアナ教会内の階級は大きく別けて、大司教、枢機卿、大司祭、司教、司祭、助祭、修道士と七つの階級があって、大司教と枢機卿は世界中にある幾つかの聖地の中で、教会の本拠地があるシンフォニア王国にだけにある役職。
世界中にある聖オルミリアナ教会のまとめ役とされており、大司祭は他国で言う所の、その国の教会のまとめ役に相当する。
司教は、その中の地域全体を纏める人間という事になり、その下は一気に格が下がるけど、聖地と地方では同じ役職であっても、格が違ったりするらしい。
その聖オルミリアナ教の本拠地である聖地で、司教になれるような方が、大都市と言うのならともかく、総人口が五百人に満たないような田舎の領地。
その教会の神父に司教が来るだなんて、普通は考えられない事。
普通は助祭や、その下の修道士が昇格して、田舎で修業を兼ねて神父になると言うのが通例だし、地方では、そのまま内部昇格する事も多い。
中には派閥争いや問題を起こして、地方に飛ばされる事もあると言うのもあって、子供の頃にお世話になったオーフェン神父は、元々王都で司祭をしており、派閥争いに負けた煽りを受けて、地方に飛ばされた典型的な例らしい。
その司祭ですら、地方都市に行けば、その地の教会のトップに立てるだけの格があるのだから、聖地の司教が田舎の教会に赴任すると言うのが、どれだけ破格で、あり得ない人事なのかと言う事が分かって貰えると思う。
そんな思わぬ出来事に驚きを隠せなかったため、ラルフィード枢機卿が少しだけ困った顔で、派閥争いや何かの責任を取らせた結果ではないと伝えてくる辺り、向こうもあり得ない人事だと言う自覚はあるようです。
「驚きの事かと思いますが、これは教会からシンフェリア様への誠意と受け取って戴けたらと思います。
シンフェリア様が、人々の為に齎せたものを鑑みれば、これくらいの事はさせて戴くのは当然かと考えておりますし、もし何かありましたとしても、司教の位の者がいるとなれば、その責任を果たせると言う考えもありますので、どうかお受け入れ下さるよう、教会を代表して私からもお願い申し上げます」
その後も何か言っていたけど、要は司教となれば、何か問題を起こしたとしても、教会としても知らぬ存ぜぬは通用しないので、その覚悟があっての事だから安心して受け入れて下さい言う事みたい。
どうやら以前に遠回しに伝えたように、シンフェリア領であった事を調べた上で考えて下さったみたいなんだけど、それならそれで、司教なんて大物を寄越さずに、信頼ある人間を寄こせば良いだけの気もするんだけど。
まぁ他にも思惑はあるのは確かか。
何方にしろ、もともと此方が派遣をお願いしている訳だから、人選に文句を言える立場ではないので、取り敢えず受け入れるしかないのだけど。
「あと此方がローランドを支える、司祭のアイリス・レイドン。
修道士のサッシャ・リムートとキャロル・ロイズ。
そして、聖騎士のレオナ・スプリントになります」
紹介された五人はいずれも女性で、ローランド様もレイドン様も、治療神官の経歴を持つ方で、修道士の二人も治療院の方の手伝いをしていたとか。
此方の要望に沿った人材ではあるのは有り難いけど、どう見ても過剰な人材だよね。
おまけに、教会の自衛組織である聖騎士までもが付いて来ると言う。
魔物の領域に近い土地とは話してあるので、最低限の自衛力と言われれば、私としては納得するしかないのだけど、……まぁ贅沢は言っていられないか。
領地に移動した後は、執事であるセバスと、領民代表のダルスとケーニャに女性神父達のお世話をお願いする。
私は大雑把な事しかできない領主だから、出来る人に丸投げです。




