430.成人しているんですから、お酒くらいは飲みますよ【上】
既に夕食もお風呂も済ませ、寝巻き姿で仲の良い女の子達が、私室で意味もないお喋るに興ずる。
前世で言うところのパジャマパーティー、……だったんだけど。
「ユウ〜さ〜ん、…うふふっ♪
か〜〜わいい〜♪ 食べてしまいたいですわ♪」
「もごごっ」
頬を赤く染めながら、甘える様な艶のある声を人の耳元で囁くジュリの言葉に、顔が一層暑くなるのを感じるのも束の間、ジュリの暑い抱擁によって私の顔はジュリの豊満な胸の中に埋められてしまう。
気恥ずかしさと酸素を求めてもがく間にも、ジュリの柔らかな唇が私の頭頂部を、髪の毛を押しのける様に愛を囁きながら、何度も唇を当てて行くのを感じ、その都度に彼女の想いが嬉しくて小さく身体が震え、自然と力が抜けてゆくのを感じてしまう。
「も〜う、ユゥ〜リィはこっちなの」
がばっ。
ジュリの凶悪なほど柔らかく、それでいて弾力のある胸部装甲による窒息攻めと、愛の囁き地獄から私を救ってくれたのは、幼い頃からの親友兼恋人であるエリシィー。
強引にジュリに抱きしめられた私の身体を奪い、そのままの勢いで今度は彼女の膝の上に乗せる。
ジュリもエリシィーも、冬用の毛足の長いラグの上での事なので、転がってもさして痛くは無いのだけど、自分の意識に反して、いきなり横にされれば、頭を揺らされて思考が止まるのは当然の事。
「素直に膝枕されちゃって、ユゥ〜リィ〜ってば、そんなに私の膝の上が好きなの〜?
そんなに耳まで真っ赤にして〜、か〜わい〜❤︎」
好きか嫌いかで言えば膝枕は好きだし、それが好きな子の太腿なら嫌いな人間はいないと思う。
あと耳まで赤いのは、先程のジュリの胸部装甲による窒息と、愛の囁き責めの余韻が残っているからです。
「私もね〜、ユゥーリィの膝枕は好きよ〜。
うふふふふ♪ でもユゥーリィを甘やかす方が好きなの❤︎」
そう言って、今度は膝枕をした状態で、エリシィーの可愛く濡れた唇が、私の唇以外の顔のあちこちに触れてくる。
姿勢が姿勢だけに軽いフレンチキスだけど、何度も何度も、優しく啄む様に……。
同時に囁かれる言葉をゆっくりと……、だけど身体の奥深くまで染み込ませる様に……。
「ん、んっ、はぅぅ……」
先ほどのジュリの時と同様に、自分でも顔どころか首元まで赤くなっているのは分かるほど顔が熱くなり、エリシィーの囁きと共に身体の力が、どんどんと抜けて言ってしまうのに反して、足がピンと勝手に伸びてしまう。
やっている事は、女の子同士の少し派手目のスキンシップ程度の範疇ではある。あるんだけど……。
ゔぅぅぅ、拙い。
このままでは堕とされて、また流されてしまう。
そう頭の片隅で、言葉が浮かぶのに、二人の想いを伝える言葉責めに、私の思考以上に心と身体が喜んじゃって逆らえない。
これが、ヴィーやアドルあたりの言葉だったら、友愛の言葉として普通に対応できたし、ギモルや残念王子あたりの言葉だったら、二人とも酔っ払っているでしょう、と言って適当にあしらえる自信はある。
と言うか、それ以前にこんな状況にならない。
でもね、好きな子の言葉は駄目。
無理、逆らえない、レジスト不可です。
想いが籠っていると分かっているだけに、尚更、無防備に心の奥に入り込んで来てしまい、胸がドキドキと鼓動が速くなり、自然と顔が上気してしまう。
前世ではそこそこよい大人だったから、愛を囁く事も愛を囁かれる事もあったけど、ここまで酷くなかった覚えはある。
少なくとも、ある程度は理性的に動けたのだけど、今世では、二人にいい様に振り回されっぱなし状態。
この辺りが、やはり前世は前世で、この身体が前世とは全く別の人間だと思い知らされるところなんだけど、今はそんな事を言っている場合ではない。
これが、もう一歩踏み込まれた行動だったら、それを理由になんとか拒絶出来たと思うのだけど、愛しい二人の今の状態での行動としては、ギリギリ許せるスキンシップの範囲と言うところが実に拙い。
拙いから、名残惜しい気持ちを振り切って、声を大きく上げながら、操作型の身体強化の魔法で勢いをつけて体を起こす。
自前の筋力? そんなのとっくに骨抜き状態に決まってます。
だから拙い状態なのっ。
「ふ、二人とも飲み過ぎっ!」
「ふふふっ、酔ってないですわ〜」
「そうそう、呑んででも呑んでなくても、出来るわよぉ」
ジュリ、酔っ払いは皆んなそう言うの。
あとエリシィー、酔ってない状態で偶にしてくるアレは、別の意味でゾクゾクするから、酔っている酔っていないに関係なく、手加減して欲しいのだけど。
事の起こりは、……多分今年のお酒作り。
お米を使ったお酒は、遠い東にある国から、シンフォニア王国へと入って来てはいるけど、まだ数は少なく、平民どころか、ごく一部の地域の上流階級で知られているだけらしい。
お米を使ったお酒は、前世の生まれ故郷ので私としては、お米を作っている以上は是非とも再現したいお酒の一つ。
今年は、精米段階で思いっきり削って、お米の芯の部分のみを使い、更にはこの辺りの井戸水を【水】魔法で超軟水にして、雪がたっぷり敷き詰められた雪室で、ゆっくりと発酵させたお酒は、狙い通りフルーティーで甘みを感じるお酒になった。
記憶にある前世の物とは比べ物にはならないけど、あくまで記憶でしか無いし、使われている技術も、魔法を使っているとは言え、知識不足と拙い技術を思えば良く出来た方だと思う。
無論、全てのお酒を大吟醸で作った訳ではなく、これはごく一部で、作ったのは精米歩合の高いお酒が中心。
お米だけでなく小麦や芋も混ぜたマッコリもどきや、芋や魔草大根を原料にしたお酒も作って、昨年より良い出来になってはいるけど、私の今年の一番の本命としては、この大吟醸もどきのお酒。
『味見用に少し取っておくけど、三分の一は火入れをして、残りはそのまま夏前まで雪中熟成させましょう』
絞ったばかりの生酒は、少しピリッとするけど、これはこれで味わいのあるお酒。
前世の私はともかく、今世では火入れした方が滑らかさがあり、そちらの方が好みだけど、火入れをしていない物を好む人もいるから、そこは多種多様に対応。
領主権限で一樽分を味見用に確保した物は、瓶に詰め直して警備の人達を含む家人用、コッフェルさんなどに贈る贈答用にと分け。
三人で部屋で飲んでいたのは、その内の一つ。
去年たくさん失敗品を作った分だけ、今年は成功率も上がり、味も一段と良くなっているので、長い年月を掛けて酒米用の種籾の選定が進み、米が変化してゆけば、もっと美味しくなって行くと思う。
来年から、販売用も考慮しても良いかな。
一級品とはいかなくても、普段の呑みのお酒としては十分な力があると思えるしね。
「ほら、ユウ〜さんも、もっと飲みましょう」
「ユゥ〜リィ、楽しくないの?
うん、きっと呑み足りないからだよね」
そんな訳で部屋で三人で、軽く嗜むつもりだったのだけど、気がついたら大瓶二つが床に転がっている始末。
前世と違って、今世ではお酒が極端に弱い体質の私は、アルコールを分解する魔導具をしているとは言え、完全に分解しきれている訳ではないみたいで、量を飲めば当然ながら酔ってしまう。
コッフェルさんに言わせると、そんな魔道具をして酒を飲むのは邪道らしいし、私も本音の所はそう思ってはいるけど、こればかりは自衛もあるので仕方がない。
貴族の食事会や夜会では相手を酔わせてと言う事もあると聞くし、前後不覚になって記憶にない約束事をしていたら、とんでもない事になりかねない。
なにせ今世の私のお酒の弱さは、ジュリの時の失敗の例があるので、酔わない事の方が優先。
あの時はジュリが相手だったからまだ良いけど、もし夜会でそんな目に遭わされるとしたら、十中八九、朝目が覚めたら横にいるのは男性と言う事になる。
そんな全身が鳥肌が立つ様な目には、死んでも遭いたくないので自衛は大事。
中身が男なのに、男相手に貞操の危機なんて冗談じゃないからね。
現に何時かの失敗の後、酔い止め防止の魔導具の事を黙っていたら、誰かさんが再び人を酔い潰そうとしたし、もう一人の事情を知らない誰かさんも同じ様な事をやってくれたから、正解だったのだと言える。
『酔いに任せて襲って来たら、絶交』
と、宣言通りに出来る訳はないと分かってはいるけど、二人にはハッキリと言って以来、そう言う事は無くなったのだけど、その代わりに行われる様になったのが、この囁き攻めと、スキンシップ程度の軽い愛撫攻め。
絶対に狙っているとは分かってはいても、悶え死にそうです。
酔い以上に顔が熱くて頭真っ白になるし、嬉しいのか恥ずかしいのか、おそらく両方で訳が分からない状態。
この場に第三者がいたら、間違いなく私は羞恥心で気絶するか、心臓が止まるかしているに違いないと思う。
「ユウさんは、本当に可愛いですわ」
「うん、もっともっといじめたくなちゃう」
挙句に私の反応が楽しいのか、二人はこう言う事を言う始末。
魔導具の力を借りているとはいえ、呑み過ぎたため私も多少は酔ってはいるから、尚更、頭が働かない。
酔ったまま流されては駄目だと分かってはいても、好きな女の子に耳元で囁かれ続けられたら、私も答えたくなっちゃうと思うのは当然で……、でも、流されたら絶対碌な事にならないと、身をもって知っているので、なんとか理性の淵ギリギリで耐える。
とにかく酔いが少し回ってボォーとして、二人のお酒が途切れたから、こうやって一方的に責められる羽目になると状況を解析した私は、なんとか理性を振り絞って二人の魔の手から抜け出し、三本目のお酒を取り出す。
これはこれで、より泥沼に嵌まる様な気がするけど、今はこの危機を切り抜ける事の方が肝心。
なにせ二人とも、酔うと手加減してくれなくなる。
ナニがとは言わないけど、そこは察して欲しい。
「そのまま呑むのも飽きて来たから、別の味にしてみまましょう」
もどきとは言え、大吟醸でやるには少し勿体ないけど、とにかく二人の意識を私から少しでも離さないと。
ジュリにはオレンジ果汁と砂糖、そこに魔法で作り出した炭酸水を混ぜたオレンジサキーニにミントの葉を添えて。
エリシィーには、渋く濃いめの緑茶割りに。
私は、レモン果汁を入れて温めた、ほかほかレモン。
ち〜んっ。
厄払いに互いに、コップを軽く当てて鳴らして再び飲み始めるけど、私は魔導具の助けがあるとはいえ、ソロソロ自重すべきと、暖かくして酒精分を少し飛ばした日本酒をちびちびと飲みながら、此方から話題を誘導。
二人に任すから攻められるのであって、私から話題を振って行けば先程の様な空気にならないと考えての事。
少なくとも時間稼ぎにはなる……はず。
「それにしてもジルドニア様も横暴ですわ。
何処の家を廻るかなんて、ユウさんの自由ですのに」
「冬はどの家もゆっくりしている事が多いから、家同士の繋がりを深めるのは春まで待って、ゆっくりさせておくべきだと言われたらね」
話題として振ったのは、この冬に獲った白角兎の熟成肉一頭分をお土産に、幾つか家を廻る予定をしていた事に、国からストップが掛かった事。
本来であれば、ジル様達が干渉すべき事ではないし、私も干渉されるべき様な事ではないと思うのだけど、現在は港の件で国や私の後ろ盾の皆様が色々と動いてもらっている最中なので、高位貴族以外の家に、私が一定以上の親密さを見せる様な接触をすると、過剰な反応を示す家があるのだとか。
軍港を一つ作ると、多岐に渡って多くの利権が生まれるので、まだ殆ど何も決まっていない状態で、中心人物である私が社交シーズン以外の時期に動くのは、色々と余分な憶測を生みかねない、と言うジル様の考えは分からない話ではない。
ないのだけど……。
「その冬に、突然押し掛けてきた人達に言われても」
「ですよね〜っ」
「ああー、二人とも、話題を変えよっか」
エリシィーの言うとおり、言い訳に説得力が欠片もないのは本当の事。
どう見ても他に思惑があっての事だとは分ってはいるのだけど、今、その事を言っても仕方ないし、私としては空いた時間をどう過ごそうかと言う話題に持って行きたかっただけ。
でもこの儘では、陛下批判にまで話題がズレ込んでゆきそうなので、ストップを掛ける。
仮にも貴族である以上、たとえ自室であっても、陛下批判はよろしくない。
特に酔っ払っていて、自制があまり効かない状態なら尚の事。
二人の注意を此方に向けるため、別の日本酒カクテルを作る。
甘いの大好きなジュリには、日本酒に砂糖を少量、自家製カルピスで割ってカルピシュ。
自然な味を好むエリシィーには、日本酒をトマト果汁で割ったレッドサン。
私は、先程のほかほかレモンがまだ半分以上残っているので、今回は飛ばす。
お酒ばかりは良くないので、追加のツマミにポン菓子を投入。
熱した水と砂糖やキャラメルを掛けてから、冷やして固めて手頃な大きさでカットしてあるので、手で摘めるので比較的食べやすい。
ツマミになるかどうかと言われたら微妙だけど、合わない訳ではないし、ポン菓子はお米以外にも、玉蜀黍や色々な豆でも作れるので、本格的なツマミならともかく、こういった軽い場では、十分にツマミとしては成り立つと私は思っている。
前世では、駄菓子が主体の飲み屋もあったから間違いではないよ。……珍店の類だけどね。
ち〜んっ。
厄払いに何度目かもう忘れたけど、互いにコップを鳴らして仕切り直し。
今度は、話題を領内の産業に振ってみる。
無論、仕事の本格的な物ではなく、軽い内容。
「ラオーさん達は、意外な方向に目覚めましたわよね。
あんな可愛い石細工を作り出せるようになるだなんて」
「元凶はユゥーリィなんだけどね。
普通の石畳の道って、ユゥーリィが魔法で直ぐに作っちゃうから、自分達の存在に疑問を持っちゃたみたいだし。
何度か、この儘でいいのかと相談されたわ」
ラオー、トーキ、レイシンの三人は、難民になる前は元石工職人だったらしく、集落の歩道に石畳を敷いていたのだけど、いい加減に敷く場所が減って来たため、三人は経験のあまりない石工細工へと作業を移行した話。
でもそれが私が元凶みたいに言うのは止めて欲しい。
事の発端は、去年の春に陛下夫妻が視察した事で、不整地な場所をお二人が歩かれ、靴を汚してしまったので、私が主要な所は私が魔法でチャチャッと済ませてしまった事。
正直、陛下はどうでも良かったのだけど、王妃様をハイヒールであんな不整地を歩かせて転ばす訳にはいかないし、非公式とはいえ視察している王族に気を遣って見せない訳にはいかなかったと言う、ちゃんとした理由があった訳。
その結果、三人は敷かれていない場所を見つけては石畳を敷いていたのだけど、小さな集落にそれほど道がある訳もなく、新しい集落の方もポーニャが魔法の練習を兼ねてやってしまっているので、ますます三人の石工職人のとしての立場と仕事がなくなって来てしまった。
その結果、私が出来ない作業方向へと舵をを切った先が、石細工職人としての道。
もともと、街中の道や防壁の修復などが殆どで、そちらへの仕事が殆どなかっただけで、出来ない訳ではなかった三人らしいのだけど、石細工を作ったところで、経済が殆どないこの領地で、石細工の需要があるかと言うと、そうそうある訳ではない。
石臼などの道具のための石細工や、ちょっとした小物はあるけど、それ程の数は必要ないし、石だけに一度作ったら、そうそう擦り減ったりする物ではなく、三人が目を付けたのは、貴族や富裕層に媚を売る道。
つまり、この地では私と言う事なんだけど……。
『ユゥーリィ様、我らの力作を御覧くださいっ!』
『感謝の想いを込めて、魂が思うままに作り上げた傑作です!』
『領主様の可憐さと偉大さが、表現出来ていると思います』
ドガッ!
『『『あぁぁぁぁーーーーーーーっ!!』』』
掛けられていた布の下から現れたのは、仰々しい台座の上に立つ私の等身大の像(美化三割増し)を、私は問答無用で魔法で粉々にした。
別に私はナルシストではないので、細かなところまで作り込まれた自分の像を見て喜ぶ趣味はないし、こんな自分の彫像を何処かに飾られるかと思ったら、恥ずかしすぎて気がついたら問答無用に魔法を放っていた。
決して胸部装甲までも三割り増しにされていた事に対して、虚しさと殺意を覚えた訳ではないとだけは言っておく。
『虚栄を張る趣味はない、二度と作るな』
そう言い渡した三人が次に向かったのは、同じく石象作りなんだけど、作ったのは私が何時だったかレイチェルが私の意匠図帳から写しとった、デフォルメした魔物の像。
象嵌技術もさる事ながら、特にペンペン鳥のお尻のデップリさを拘った部分は、見事に再現されており、サラの作った木で出来た文鎮ほどではなくとも、大きい分だけ重量感と迫力、そして可愛さが伴った見事な出来栄えだった。
『我々は猛省いたしました。
領主様の偉大さと寛大さを表すには、アレでは不十分だと目が覚めました』
『恐ろしい魔物ですら、領主様のお力に掛かればこの様に可愛いらしい存在へと堕ち、又は富へと変わる事を知っている以上、これ以上の物はないと考えました』
『どうかこれを、この領地の力を表す象徴一つとして、幾つか置く事の許可をくださいませ』
何やら仰々しく大袈裟な事は言ってはいるけど、結局はオブジェクトとして彼方此方に飾るために今後も作るから、買ってくれと売り込みに来ているだけなんですけどね。
まぁこれなら、殺風景な場所も癒しの存在になるし、幾つかは商会のゼルに預ければ欲しがる人間は欲しがるだろう。
可愛いは正義だからね。
それに今は私の意匠図が元でも、作り続けてゆけば、行き詰まるか自分達で昇華させるかするだろうから、上手くいけば新たな文化の発展になるので許可を出した。
その後は可愛らしい石像以外に、橋に付ける装飾用の石板で同じ様な意匠のレリーフを掘ったりと、自分達しか出来ない事を見つけれたと言わんばかりに、制作意欲に溢れている様子。
ウチの領民は可愛い物が好きな女性が多いので、概ね好評だし魔物の繁殖を行っている以上、特色と言えば特色だからね。
「三人とも意匠図にある奴は大半が作っちゃったから、冬は新しい意匠を起こすと言っていたから、これからが正念場かな」
「その辺りは大丈夫だと思いますわ。
ユウさんの意匠図から始めた物ですのに、物にも出来ずに終わらせたりしたら」
「黙っていない人達がいるものね。
ユゥーリィを神格化しちゃうなんて笑っちゃう。
ユゥーリィはそんなつまらない物じゃないのに」
「……」
何か物騒な言葉が聞こえた気がしたので、聞こえなかった事にしておく。
うん、私、少し酔っているもんね。
幻聴、幻聴。
ただ、このまま放っておくと、また嫌な幻聴が聞こえて来そうなので、話題の切り替えも兼ねて別のカクテルを作成。
ジュリには今度は少し甘みを抑えて、日本酒にライム果汁、砂糖に炭酸水で、サムライサワー。
ここにレモン果汁を少し入れると、また別のカクテルになるけど、それはお代わりを要求された時に作るとしよう。
エリシィーには日本酒をホエーで割って、少しだけレモン果汁を垂らす。カクテル名は忘れたけど、ホエーの自然な僅かな甘味と程よい酸味が、意外に日本酒にも合うのよね。
私の分は、日本酒に梅酒と豆乳、そして抹茶を混ぜてシェイクして作ったのは、なごみ。
梅酒、……十年ぐらい寝かしたのを呑みたいなぁ。
ち〜んっ。
もう数える気もなくなった厄払いを兼ねた乾杯。
話題は、新しい集落であるウサーヂバ村の事。
なんとか冬までに、安心出来る住居を得れた事と、冬と言う事で畑仕事があまりない事もあり、自然と家の中での作業になるのは、一年前の最初の集落であるペルシーク村と同じ事。
ただ、一部の男性達が元の家族と和解して、此方の住居に移り住んだ事もあり、ペルシーク村と違って、ウサーヂバ村はそこまで男女比の差はないのだけど、此方のペルシーク村が女性優位の風潮があり、尚且つ若い女性が多いため、その作業と言うのが下着作りや、レース編みなどの小物作りに多少偏るのは、仕方ない事だと思う。
やっぱりね女性は可愛く綺麗な下着を着たいだろうし、髪飾りくらいの小物で着飾りたいよね。
「最初はあんな丈の短い下着なんて、はしたないと思っていたのですが」
「うん、私もジュリさんも慣れたよね。
ユゥーリィの策に嵌った気がするのは面白くないけど、慣れたら可愛いし」
期間限定とは言え、私が提案した意匠図や、それに似た意匠に沿った物であれば、材料は私持ちと言う私の政策が功を成したのか、洗濯をして干してある下着を見る限り、領民の下着事情はほぼ改善され華やかになったと言っていい。
え? 男? 男はどうでもいいです。
ポロリと醜い物が見えなければ問題にする気もないし、もともと服を作る分には、女性用下着用に用意した布ほど上等な物ではなくても、自由に使える布と糸はあるので、自由に作れば〜、と投げやりにだけど伝えてはある。
兎に角、領内の女性陣の下着事情に関して言えば、前世の衣装の物に近づいては来たとは言え、まだまだ発展途上状態。
商会傘下の服飾店に、この世界で言うところの前衛的な下着の衣装図の依頼をしてあるので、そちらの方もその内に独自発展してゆかないかなぁと思っていたりする。
少なくともエリシィーとジュリに、この世界の色気も何もない下着ではなく、現代風のエロ可愛い下着をつけさせるための下地作りのためではないです。
まぁそうなったらいいなぁ、と思いはしたのは確かだけどね。
目の保養と心の癒しは大切です。
「そう言えば、まだ相談じゃなく雑談の段階なんだけど、ミリアさんが縫い子さんをやりたい様な事を言っていたかな」
「ミリアさんと言うと豹の方の?」
「そう、犬じゃなく豹の方」
「そこまで需要があると思えませんが、なんでまた?」
領民も五百人近くいますから、同姓同名もいたりするから、間違えない様にするためにも、特徴で分ける事も仕方ないのだけど、集落が違うのだから、そちらで言い分けてあげようよ。
いえ、胸の大きさで言い分けた事のある私が言うのもなんだけどね。
豹型獣人のミリアさん、なかなかの胸部装甲の持ち主なので、よく覚えていたりするのは、二人には内緒。
自然と胸を支えるように腕を組む立ち姿が印象的。
「元々、その手の仕事をしていたと言うのもあるらしいから、腕の差が明瞭に出ていると言うのもあって、周りから頼まれる事が多いらしいんだけど、一番の問題は男の人達からのお願いらしいの」
「ああ、派手な事は好きでも、チマチマした事が嫌い、と言う口だけの横暴な輩ですわね」
「まったくね。
女だから縫い物が得意だろうからやれ、って態度が腹に立つと言っていたから、今の近所の便利なお姉さん扱いが嫌なんですって。
自分が出来ない事をやって貰える事に、感謝の気持ちも表せれないなんて人間として駄目ね」
お酒が入っている事もあって、二人の男性陣に対する評価は最悪。
元々過去の経緯もあって男性を嫌悪している所がある二人だから仕方ないけど、普段はちゃんと分別あるんだよ。
アドルやギモルやセバスとか、屋敷の警備の人達、他にもヴィーやジッタの様に真面と言うか、ごく普通の男性が多く、変なのはごく一部だと認識はしている。
男も女も関係なく、どうしようもない人間というのは、ごく一部にいたりするのは仕方がない事。
それに、元々男尊女卑があるこの世界では、ある程度は仕方がない事なんだけど、エリシィーの言葉の感覚だと、少しそれを逸脱してはいるけど、領主である私に問題として取り上げる程でもないって言うところかな。
まぁ今度、一度課題を与えて見込みがありそうなら、お店を持たすのもありか。
近所の便利なお姉さんだから問題があるのなら、きちんとしたお店としてなら、互いに意識するだろうし、その辺りの礼儀の問題もなんとかなると思う。
どうせ大芋金色虫の繭から、魔絹糸が量産出来る様になったら、布関係の方面にも力を入れないといけないから、今から職人を育てておくのも悪く事じゃないからね。
「本人がやる気なあって、動けるなら良いんじゃない」
夢を見て語るだけで、努力しない人間ならいらない。
世の中、天性の素質と言う物は確かにあるけど、それだけでなんとかなるほど世の中甘くないし、ある程度までなら努力だけでもなんとかなる。
そのなんとかなる程度の地盤がなければ、更なる上の物なんて目指せない。
産業なんて物はそう言った物の積み重ね。
努力だけではなんともならない事が多いけど、努力をしなければどうにもならない物。
「ユゥーリィが、そう言うならそう伝えておくわ。
話を聞いた限り大丈夫だと思う、作った物も見せて貰ったけど、私達が着ている物とそれほど差があるとは思えないし」
ふーん、それはそれで拾い物だと思うけど、それだけ腕があるなら何で、こんな田舎にと思うのだけど。
そう思っていたら、難民生活から脱した就職先が縫い子とは名前だけで、只管中古品の服を修復させられるだけの毎日だったとか。
それだけならば耐えてお金を貯めてと思えたけど、実際は朝から夜遅くまで働かされて、お給金は見習いと言う事で半額以下で、天引きされる宿舎の狭い部屋と硬いパンとスープの代金で粗無くなっていたとか。
その上、見習い期間は三ヶ月だったはずなのに、書いた覚えのない契約書には五年間になっていて、この儘では飼い殺しにされるだけと察して、違約金のためになけなしのヘソクリと長い髪を売って逃げ出して来たとか。
それはまた酷いのに当たったなと思いつつも、獣人族に差別意識のある地では、そう言う所でしか雇われ先がなかったのかもしれない。
ましてや、難民と言えば聞こえは良いけど、側から見たら貧民街の浮浪者と変わらないから、信用という点ではないに等しいものね。
どうしても、その辺りで足元を見られてしまいがちになってしまう。
「でも、それなら楽しみですわね」
「そうね、色々頼めそうだし」
「ん? 欲しいのがあれば、何時もの所で頼めば良いじゃない」
「「………」」
二人が望むなら、普通に作ってあげるのに、何を言っているのだろうかと口にしたら、何故が二人してジト目で此方を睨んでくる。
「彼処はなんだかんだ言って、貴族向けの店でユゥーリィの店だからね」
「そうですわ。
貴族として相応しくないと思える物は作ってくれるとは思いません」
「無難な下着ばかり」
「きっと求めている様な物は作ってくれませんわ」
無難って、ドロワーズ主体のこの世界の下着を思えば、彼処で作ってれる下着はかなり前衛的な物だよ。
「ユゥーリィ、出す」
「へっ、な、何を?」
「決まっていますわ、衣装図です」
決まっているんだぁと思いつつ、酔っていてやや目が座っているエリシィーとジュリに突っ込んでも十倍で返ってくるだけなので、言われるままに話題に上がっている下着関連の意匠図帳を取り出して床に広げると、二人がお酒のコップ片手に下着談義を始める。
それだけなら可愛らしい話なんだよ。
側から見たら、女の子三人がふわふわのラグに女の子座りしながら、雑誌を見ながら楽しそうに会話している様に見えるだろうからね。
でもね……。
「ユウさんは、こう言う下着が似合うと思いますわ」
「清純派の下着だと、今とあまり変わらない」
「レースと刺繍が多用されていますわ。
それにユウさんには白がよく似合いますもの」
「それは分かるけど、ユゥーリィは上質な絹糸のような髪に、紙の様に白い肌だから、ユゥーリィをイメージする色は、ジュリさんが言う様に白だと思う」
「純白の白と、紅玉石よりも澄んだ赤、まさにユウさんを表す色に相応しいですわ。
そのユウさんを表す白に、繊細さを表すレース地に包まれたユウさんを一枚一枚。
……じゅるり」
何を想像したのか知らないけど、恍惚したジュリの表情に背筋が寒くなる。
そもそも、セリフからして怖いよ。
「ジュリさん、それは違う。
だからこそ、ユゥーリィは、濃い色の下着方が似合うと思う。
汚れを何も知らない様な可憐で幼なげな容姿の下には、ユゥーリィの白さを際出させる黒の大人の意匠な下着は、きっと妖艶に映る。
その姿に相応しい姿にユゥーリィを染め上げてゆく、ふふふふふっ❤︎」
よしっ、どんどん呑まそうっ。
口当たりが良くて、とにかく飲みやすいカクテルを作る。
二人に話を合わせながら、私も酔わない様に自重するのを諦めて、兎に角二人に飲ます。
どれくらい時間が経ったかは分からないけど、二人が私に着させようとする下着の候補が二十を越した頃。
「ん…、ちょっと行ってくる」
「……私も、御一緒しますわ」
利尿作用のあるお酒を飲めば、当然、出るものが貯まる訳で。
所用で部屋を出る二人を見計って、部屋の鍵を内側からしっかりと掛ける。
戻ってきた二人が、部屋から締め出された時がついたら後が怖いけど、今が肝心。
理由なんて酔って寝ぼけてしまい、そのまま寝てしまったなど、どうとでもなる。
実際、魔導具の酒精分解化能力を漏れた酒精分で酔っているけど、正直、酔っていられる気分じゃない。
そりゃあ中身が男だから、好きな子に可愛い下着を付けてもらうのは好きだよ。
着けている姿を見るのも、普段の服の下からエロ可愛い下着が出て来たら、そりゃあ興奮もする。
でもね、それはあくまで【する側】であって、【される側】だったら話は別。
脱がされる前提で話をされたら、【される側】としては、冗談じゃないと言うのが本音。
私が自分用に求めるのは実用性重視の下着であって、可愛い下着はもちろん、エロい下着を着て喜ぶ趣味はない。
ましてや脱がされる側として、それを楽しみ興奮する様な性癖はないです。
ノーマルです。
普通が良いです。
いや、二人との関係を普通と言って良いかはともかく、普通が良いんです。
実際はどうあれ、私はそう言う性癖はない。
もし、あのまま呑んでいたら、無事に済むとは思えない以上、仕方がない事。
敵前逃亡?
結構、明るい健全な恋人関係を保つためには、時には逃げる事も必要な事。
勝てない戦に挑むほど自虐的でも、酔狂でもない。
「さぁ、後片付けをして寝よう」




