320.男の子のベットの下は、見て見ぬ振りしてあげましょうよ。
「ふ~~ん、そう言う事ね。
まぁセレナの気持ちは分からない訳でもないけど、姿絵くらいは許してあげようよ。
男の子ってそう言うものだし」
気分転換に、外の空気を吸おうと思って廊下に出たら、何やら騒がしい声が聞こえると思って行ってみたら、セレナとラキアが、アドルとギモルを冷たい眼差しで見降ろして、クドクドとお説教をしていたので、見かねて事情を聴いてみたら、まぁくだらない理由だった。
むろん、セレナ達の気持ちは分かるけど、そこは男の本能みたいなものだし、取り敢えず仲裁。
アドルが胸派だとか、ギモルが足派だとかはどうでも良い話だし、詳細は色々と二人が可愛そうなので省くけど、姿絵くらいは浮気されるよりは良いじゃないの、とセレナを説得。
ついでにラキアも、ギモルが変なお姉さんに捕まったり、性犯罪者になる事を思えば良いでしょう、と二人には少しばかり不名誉な説得方法ではあるけど、納得してくれたのなら二人も問題ないみたい。
取り敢えずギモルは、部屋に入る時はノックをして返事を待つ事。
そうすれば今回の一件は防げた事だと、別枠でお説教。
最後に、ギモルしか聞こえない様に小声で、もし二人が愛し合っている最中だったら、言い訳は通用しないわよとね。
「ふぅ~、月が綺麗ね」
つい先程ちょっとした男女の諍いを見た後だけに、なおさら夜空に浮かぶ月にそう感じてしまう。
この世界の月は、色が血のように赤いとか、月が二つもあるとかではなく、ごく普通の月。
大きさとか距離とかまではよく分からないけど、多分それほど違わないとは思う。
潮の満ち引きの規模や衛星と言う事を考えれば、自然と条件も狭まるからね。
うわぁ〜……、月を見てそんな事を考えちゃうだなんて、我ながら風情が台無しだよ。
それにしても、やっぱりあの二人付き合っていたのかと、あらためて思う。
前々からそうだと思っていたし、そう言ったような会話もあったから、認識はしていたけど、ああ言う喧嘩になるぐらいに親密で真面目に付き合っているのなら、色々考えておかないといけないかな。
でもその辺りは、一度二人からじっくりと話を聞いてからか。
「……うん、そうだよね。
私も、そろそろ色々と覚悟を決めないと」
何時までも、流されてなぁなぁのままと言うのも良くないしね。
まだ昼間の温かさが残る夜の空気を、もう一度ゆっくり吸ってから思考を切り替える。
覚悟がいる事は後回しにして、再来月にある二人の誕生日をどうするかなんだよね。
実は二人とも誕生日が近く半月も変わらないし、この世界の人達は誕生日には拘らずに、月初め、月半ば、月終りぐらいの区別でしかなく、誕生月で括っている地域も多い。
特に平民であるエリシィーは、そもそも誕生日に拘っていなかったので、シンフェリア領に居た頃は、私が手作りの物を彼女に渡して、彼女も誕生月に手作りの物を渡してくれると言った程度。
それに子供の頃だったし、私はともかくエリシィーが困るから、本当に木の実とか花とか、そこらの歩けば手に入る物を加工してといった、今、思えば、微笑ましいばかりのプレゼントだったかな、お互いに。
むろん、今もその事は大切な想い出だし、消え物意外は収納の鞄の方に全部保管してある。
いえ……、前世の彼女に、付き合い始めた頃からのプレゼント全部取ってある事を知られた時、ドン引きされたのも想い出と言えば想い出だけど。
こほん。
それはともかく、エリシィーに何か欲しい物が無いかと聞いてみても、いつも要らないと言うんだよね。
もう十分に貰っているからって。
特にプレゼントした物とかないと言うのに。
ジュリはジュリで、以前にも聞いたけど、食欲はあっても物欲はあまり無い様子。
一時期ある著者の原書を大変に欲しがっていたけど、ああ言うのを誕生日プレゼントにするにはちょっとね。
それに、屋敷の居間に置いてある大きな書棚には、ジャンル問わずに放り込まれており、その書棚の中に例の著者の原書が何故か置かれているのを発見してエリシィーと共に歓喜していたから、それなりにその著者に関する物欲は収まったらしいので、贈ったところで今更だと思う。
二人が気が済むまで、街で振り回されるのが一番なのかなぁと思いつつも、昨年はジュリ主導だったから、今年は私の方からプランニングしないと。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
【首都、王城内にて】
「まったくアッサリと立ち直っちゃって、面白くないな。
せっかく、色々と揶揄おうと考えていたのに、僕の楽しみを奪って楽しいかね?」
半月ぶりに、今度は秘密の研究所の定期報告に来てみれば、この傍若無人な暴言を吐く目の前のどうしようもない中年親父の顔面を、一度殴りたい気分に駆られるけど、此処は我慢我慢。
陛下は此方の反応を楽しんでいるのだから、乗ったら負け。
それに言葉の裏を返せば、それだけ心配してくれたとも取れるのだから、オルミリアナ家の事で落ち込んでいたら、激励しようと思っていたとも取れない事はない訳で……。
「拳がプルプルと震えているよ」
やかましいっ!
そこは黙って、見逃すのが大人の余裕でと言うものでしょ。
はぁ……、もうなんか心の中で盛大に突っ込んだら、怒る気も失せてきた。
取り敢えず静かに深呼吸、深呼吸。
気を落ち着けてから定期報告。
「今回も今のところ順調と言う訳か、面白みがないねぇ」
「面白みを求められても困ります。
とにかく、繁殖槽を広げた事で、少し気が立っていた子達も落ち着いたようですので、やはり一定の広さと静かな環境はいるようです」
「そこは人間も動物も魔物も一緒と言いたいけど、ある意味人間が一番密集しているとも言えるね」
前世の首都の、単位面積当たりの人口密集率から考えれば、この国の首都なんて天国とも言えるのだけど、比べる事自体がナンセンスなので突っ込まない。
「そう言えば、例の魔導具に使う薬草の件で、また教会に恩を売ったんだって。
態々二回に分けて売り込む上、向こうの提示額の半額以下にするとは、なかなかの策略だ。
アレだけ釘を差しておいたのに、また聖女の話が出てきたくらいだよ。
消費しながら薬草を増やすのは大変だから、使用割合の方針が決まった後に、あの量の苗と種の追加は、五年は変わって来る試算だそうだ。
初年度の増産能力が劇的に変わるのが理由だと報告を受けている」
「いえ、ただ私が調子に乗って栽培し過ぎた結果です。
あと聖女の話は全力でお断りです。
向こうとしては、人を聖女として祭り上げて利用したいだけでしょうからね。
だいたい何処の世界に、こんな俗物にまみれた聖女がいると言うんですか」
「本当の所は?」
「まだ、研究中のなのに、その癖して寄越せと圧力を掛けてくるであろう誰かさんに、対応出来るようにした結果です」
「そんな事だと思ったよ。
二回に分けたのは態とだろうけどね」
バレてら。
一度に大量に渡すと、初期需要に回されるのが目に見えていたから、その辺りの話が落ち着いた頃を狙って、増やす事を前提の話を持ち掛けたのが本当の所なんだけど、こうも見破られているとはね。
もうね、中身の年齢は似たようなオジサンなのに、陛下の掌で踊らされているって感じですよ、情けない事に。
これが本当の王族の力と言うものなんだろうね。
とりあえず聖女の件は、今一度、国から圧力を掛けて貰えるようにお願いする。
聖女なんて物にされたら、魔物の繁殖の研究が滞ってしまいますよぉ〜〜ってね。
「まぁその辺りは、言われなくてもやっている。
でも君が聖女になったら、さぞや歴史に残る笑える聖女になっただろうに、その姿を拝めれないのは、些か残念だけどね。」
「どう言う意味ですかっ」
「さあな。
それと、もう一つ、君の所にいる魔導士の件だが」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
はぁ……、またもや陛下に爆弾を落とされて、本気で頭が痛くなってきた。
いえ、今までに比べたら比較的まともな爆弾ではあるけど、問題が無い訳ではないし、何処をどうやったらそう言う話になるのかを聞きたい。
「少し涼もう」
王宮入口の従者待機室で待つジュリには悪いけど、少しだけ寄り道をさせてもらう。
一階の庭園の一つに足を運び、色取り取りの花と香りを楽しみながら、流石は王宮の庭園と感心する。
こっちは何方かと言うと裏側にある小さな庭園なのだけど、配置や植えている植物と手入れがしっかりと成されているし、小さくても空間を上手く使って小さく思わせないところが、庭師の職人ぶりが窺える。
それに小さいと言っても其処は其処、王宮からしたらと言うだけで、十分に広いのでそれなりに立ち寄る人がいるのか、人と擦れ違う事はある。
中には擦れ違いざまに色なしと擦れ違うなんて縁起が悪いと舌打ちをしたり、生まれの悪い雌猫だの、まぁ上品な囁きが聞こえるけど、場所が場所だけに鳥の囀りと思えばなんて事はない。
こんな事は魔物討伐の道ではなく、魔導具師の道を選んだ時から覚悟はしているからね。
まぁ直接絡んできてから考えれば良い事。
「それに、この子達には何の関係もないしね♪」
目の前に癒しの元があるから尚更の事。
あっ、サルビア発見、しかも蜜が甘い品種。
一瞬、蜜が吸いたくはなるものの、流石に王宮内なので自重して、今度屋敷に出入りの庭師にも頼んでみようと心に決めるけど、こんなのだから野生児令嬢だの言われるんだろうなぁと思ってしまう。
そんな事を思いながら庭園の花に、心を弾ませていると前方から、見覚えのあるお子様を発見。
ラードゥナルド・フォル・シンフォニア王子。
カイル王太子殿下の嫡子で、確かまだ六歳だけど、何処かの変態馬鹿残念M王子と違って、可愛いらしい王子オーラを纏う子なんだよね。
もっとも、春秋の王家主催の舞踏会で顔を合わせて、頭を下げて挨拶をした程度なので、向こうからしたら、私は知らないお姉ちゃんだろうけど。
とりあえず王族なので、道を開けてお辞儀を。
ふぁさっ!
「へっ?」
「白か、しかも黄ばんでやんの」
一瞬、起きた事が理解できずに頭が真っ白になったけど、よりにもよってスカートめくりの被害に遭うなんて、前世でも今世でも初めてですよっ!
ええ、もうガッチリと此方を眺めながら逃げ出そうとする、クソ餓鬼の襟首を捉まえてやりますよ。
逃しません。
何か離せとか、無礼だぞとか言っているけど無視。
王子の付人も、私と王子を離そうとしたけど、どうやら、ラードゥナルド王子の付人は私の事を知っていたみたいで、警戒を残しつつも踏み留まってくれる。
陛下発行の巫山戯た証書が効いているみたい。
とりあえず、前言撤回。
やっぱり、あの変態馬鹿残念M王子の甥っ子なだけはあると、目の前の王子の印象を大幅に修正。
別に仕返しなんてつもりはサラサラないですよ。
お子様に見られたところで、何とも思いませんからね。
でも、悪戯に人を傷つける行為を見逃す訳にはいかない。
なにせ今日は黒なのに白と口にし、更にああ言う言い方をするのは、その方が現実味があるから、それを選んで口にした訳ですから、完全な悪意です。
そう言う訳でお説教タイム。
まともなお説教の内容に付人の方も、まぁこれなら仕方ないと言った少し困った顔をされてはいるので、問題はないのだろう。
むしろ、この際言ってやって欲しいと言うような雰囲気さえある程。
と言うか、これ、本当は貴方の仕事じゃないのと、職務の怠慢ぶりを思わないでもない。
あぁ、でも、側付きと言えども、騎士の仕事じゃないのかな?
「じゃあ、もう女の子を困らすような事をしないようにね」
「わかったよっと!」
ひょい
げこっ
王子は反省をする振りして、ポケットの中から取り出して私に投げつけてきたのは、小さなカエル。
私の顔に張り付くのだけど、残念。
常時、体に沿うように結界が張ってあるので、そのままズルズルと結界に沿って落ちてゆくのを手で拾ってあげる。
「可愛いお友達を投げるなんて、酷い事じゃないのかな?」
「お、おまえ、怖くないのか?」
「別に、特に毒のある子じゃないしね」
ガシッ。
「はい、二番煎じは戴けないかな。
あとあまり強く握ったら可哀想だから、逃してあげなさい」
懲りずに、もう片方の手で投げようとした王子の手には、小さな蛇が握られていたので、先に止めて素直に指を緩めた蛇と先程のカエルを庭先に離してあげる。
もうね体長が一メートル半もあって、二、三メートル高く飛び上がるカエルとか、鎌首を上げた状態で高さが四メートルもあるような蛇を思えば、爬虫類は苦手ではあっても、これなら可愛い部類。
「さてラードゥナルド王子、もう少しお話が必要なようですね」
チラリと付人に視線を送ると、王子の勉強部屋等はどうでしょうかと提案されたので、是非とも案内してもらう。
「くっ、離せっ! この馬鹿力女っ! 引きずるなっ!」
「じゃあ、肩車で」
「やめろっ、恥ずかしいだろうがっ」
こちとら前世からの研究職、根気の勝負に子供相手に負ける訳もなく、一刻も話し合いを重ねた頃には、砂漠クラゲを素材にした高分子吸収材を基に、ネタで作った巨大なクッションに座らせた王子どころか、付人も一緒になってぐったり状態。
なにせ一度座ったら最後、私の力場魔法魔法の操作で、起き上がろうにも起き上がれませんでしたからね。
結局、ラードゥナルド王子曰く、つまらない毎日だったみたい。
同年代の男の子の友達は……。
『だって、あいつら僕の言う事しかしないから、一人でいるのと変わらない』
かと言って、同年代の女の子達は……。
『大人し過ぎてつまらない、だいたいすぐに泣くし』
泣く原因は、まぁ先程私がやられた事みたいな事らしいのだけど、そりゃあね、こんな幼い王子のお友達となるような子って、だいたい同い年か歳上の子で、王子の機嫌を取るように言い聞かされているだろうし、女の子は正真正銘、深窓の御令嬢だろうから、そりゃあカエルだの蛇だの百足だの投げつけられたら、泣き叫びもすると思う。
そして王子としてはイエスマンの年上の男の子より、大袈裟な反応をする女の子を泣かせて遊んでいたらしい。
ただ、大人の女性は流石に怖いので手を出さないあたりは、度胸が無いのか、それとも賢いのかは知らないけど、正解といえば正解でしょうね。
『最近は叔父上は、忙しいらしく全然遊んでくれなくなったし』
そして、これがラードゥナルド王子の不満の爆発の原因だったみたい。
以前は月に数度、遠慮のない遊び相手になってくれたらしいのだけど、この一年半以上、数えるほどしか遊んでくれなかったとか。
そっかー、そりゃあ、つまらないわよね。
五、六歳と言ったら遊び盛りの年頃なのに、王子としての教育を詰め込まれているだろうから、数少ない楽しみがなくなったら、不満も爆発もするだろうね。
月に一、二回ならどうせ城には顔を出すし、陛下達にはお世話になっているから。
「じゃあお姉ちゃんが、今度から遊んであげる」
「お前みたいなヘンテコな女、お断りだっ」
「が〜〜んっ!
こんな子供にまでヘンテコ言われたっ!」




