319.私の生きる道は、多分マシな方?
【セレナーゼ・アーベル】視点:
セレナーゼ・アーベル。
それが私の名前で、代々武官系の法衣子爵家の四女として生を受けたのだけど、これが運が良かったのかそれとも悪かったのかは、人によって捉え方は違うとは思う。
アーベル家には、兄が二人と少し年の離れた姉が三人いるのだけど、一番上の姉は伯爵家の次男の下へ嫁ぎ、次女の姉はアーベル家と同じ子爵家の嫡男の嫁となり、今や子爵夫人。
そして直ぐ上の姉は男爵家の後妻になり、私には上の姉三人で縁を使い尽くしたらしく碌な縁談が残っていなかったため、その事に哀れに思った両親に一応は選択肢が与えられた。
それと言うのも、伯爵家の次男の所に言った姉は、何かと兄と比較される次男の鬱憤の捌け口として暴力を振るわれる事が多々あるらしいし、子爵夫人になった姉は夫の幾つもの浮気の後始末に追われている挙句、夫が浮気をするのは妻である姉が悪いと姑に虐められる毎日だとか。
おまけに男爵家の後妻に行った姉は、夫が若くして前妻に逃げられた理由が分かり嘆く日々を送っているらしい。
別に相手が二番目の姉の所みたいに、彼方此方の女に手を出すほど浮気が酷いと言う訳では無く、浮気相手はただ一人だけらしいので、それだけなら貴族にはよくある話なので、姉も受け入れられると手紙には書いてあった。
ただ問題なのは、その相手と言うのがよりにもよって女装癖のある義弟らしく、夫である相手には子供さえ産んでくれれば良いと、それ以外は一切相手にされず、姉は女としての誇りがズタボロだとか。
何方にしろアーベル家は絶賛落ちぶれ中で、多額の結納金を返すに返せない状況であるため、お父様は姉達にしっかりと言い含めており、姉達は耐えるしか道はないらしい。
そして私はどうかと言うと……。
『金持ちの商家の正妻にと言う事だが、少しばかしお前と歳は離れていてな。だが先方は是非にとも』
『幾つですか?』
『その、…ほんの、二十四離れているくらいだ』
『私、先日の誕生日で十になった所ですよ。お断りですそんな幼女趣味のど変態』
『いや、もちろんお前が成人してからの話で、まぁ出来ればその数年前から商家としての勉強のために来てほしいという話も…』
『お断りですっ!』
貴族だから、幼い時に許嫁が決まる事は珍しくは無いし、多少年が離れた相手と言うのも無い話は無いけど、二十以上は流石に真面な家では聞いた事がないと、周りの方々からも聞いている
そもそも、私も十ぐらいまでの歳の差はともかく、兄や姉よりもお父様に近い年上の男に、好き好んで嫁ぎたいとは思わない。
流石にお婆様やお母様がその話を聞いて、お父様に苦言を言ってくれたので話は流れたものの、一年後、懲りずにお父様は別の話を持ってきた縁談が、これまた問題あり物件だったわ。
『喜べ、セレナ今度はちゃんとした貴族で、しかも長男が相手だぞ。
まぁあまり経済的に豊かではないが、歳もお前と八つしか違わない』
『……それで、お姉様達の時のような変な相手とか言いませんよね?』
『お、お前、そんな最初から疑うような真似を』
『お調べになられていないと?』
『う、お、その、…相手に失礼に当たるからな』
どうにもお父様の歯切れが悪かったので、お姉様達や知り合いを通して調べて貰ったら、真っ黒だったわ。
ええ、重度の被虐趣味のど変態っ。
特に年下の女性から責められる事に快感を覚えるらしく、ナニがとは言わないけど入れるより入れられる方が好きで、その手のお店の常連客だとか。
三人の姉と違って愛は生まれるかもしれないが、そんな歪みまくった愛は全力でお断りしたい。
『今回の話もお断りさせてください』
『お前、そんな我が儘言うなら、もう家を出る道しかないぞ、それだと貴族落ちだぞ』
『ではそれでお願いします。
まさか、これだけ碌でもない縁談ばかり持ってきて、いきなり放り出すなんて寝言は仰いませんよね、お父様』
事前にお婆様とお母様を味方につけて、お父様に挑んだ結果、昔から交友のあるカルミ家とドールゼン家の子達と共に、貴族の姥捨てや・もとい学習院に入る事になったけど、私としてはそれは願ったりの話だった。
なにせ、昔から密かに想い寄せていたアドルと一緒だったからね。
お婆様とお母様と話し合って、こう言う風に持って行けるようにした甲斐があったと言うもの。
まぁその後はなんやかんやとあって、無事にアドルから告白させる事に成功して、良い仲にはなれたけど、そこはそこ私もアドルもまだ子供だったし、子供らしい清い交際に留まっている。
でも、その分アドルの心を掴むには、丁度良かったとも言えたかな。
『ア~ド~ル~♪
私、浮気って許せない性質だから、よ〜〜く覚えておいてね❤︎』
と、可愛らしく釘を刺してはいるけど、そもそも私は浮気なんてさせる気はないし、必要以上に縛る気もなく、女友達くらいは許すつもり。
そうでないと知り合いの伯爵家の子達みたいに相手を縛り付け過ぎて、相手を不幸にしてしまう。
まぁあれはあれで幸せかもしれないけど、私の求める幸せではない。
でも最終手段としての、良い勉強にはなったのは確かではあるかな。
そんな訳で、適当にアドルに粉を掛けて来る子達を裏で排除しながら、将来を目指して勉強と鍛錬とお小遣い稼ぎをしていたのだけど、結果としては私達四人は理想に近い環境に恵まれた。
ええ、アドルに粉を掛ける子が、ほぼいない環境。
ユゥーリィ・ノベル・シンフェリア。
家からの指示で、学習院で知り合った年下の子の家臣として護衛する事になったけど、そこに不満はない。
力も金も勢いもある新興貴族だし、ユゥーリィ自身も物凄く良い子だよ、色々な意味でね。
その代わり、かなり変わった子ではあるけど、この子はアドルに対しては安心なので尚更良い所だったりする。
アドルやギモルに興味がないし、そもそも異性として見ていない。
まぁ、どうみても芽がないのに、想いを寄せるギモルには御愁傷様としか言いようがなく、そのギモルを…と言うか、実の兄を想うラキアは、今の状況の方が都合が良いみたいなので、反対はしないけど応援はしにくいので、心の中で頑張りなさいとだけ祈っておく。
『此処に来てからおが金溜まる一方ね』
『使う暇もないし、使う充てもあまり無いからね』
見習いと言う事でお給金は安いけど、基本的に衣食住の全てがユゥーリィ持ちで、装備品も貸与され、出先での食事代も貰ってるから、偶の外食か、ちょっとした小物を買うぐらいしかお金の使い道がない。
そもそも護衛としても家臣としても未熟だって分かっているから、遊んでいる場合じゃないって言うのもあるし、将来の事を考えると貯金しておくに越した事はない。
ユゥーリィ自身、あまり貴族でいる事に乗り気では無いからね。
ただ、そんな理想の環境でも問題がない訳ではなく。
ギッ!
ガッ!
つ、強いっ。
圧倒的に速く、鋭く、重い一撃は受け止める度に、降伏の二文字を脳裏に思い浮かばせる程の強い意志の籠った攻撃。
でも此れなら、屋敷の警備についている年配の教官達の方が何倍もよっぽど強い。
どちらにしろ勝負をつけるなら一瞬で!
ダンッ!
覚悟を決めると共に魔力を流して、一気に間合いを詰めて目の前の相手の喉元に剣を突きつける。
何度やっても、視界が一瞬暗転する程の加速に慣れないものの、とにかくこれで決着。
事の起りは、ユゥーリィの警護任務で王城の入口近くにある待機室で待機中の出来事。
更にその理由を追及するなら、ユゥーリィは新興貴族で陛下のお気に入りと言う事が原因らしく、それそのものは分からない話でもない。
ユゥーリィの成功が面白くないと思う貴族がいて、それは同じ家臣にも伝播している輩もいる訳で、そして私達はまだ子供と言えるような歳となれば、そりゃあ因縁もつけられると言うものだわ。
でもこうして待機室の裏の広場で、こうして打ち合う程の経緯は、もう忘れたけどね。
「御指導、ありがとうございます」
「う、うむ、今のは良い踏み込みだ。
今後とも励むがいい」
剣を納め、敢えて私から人生の大先輩らしい相手に、指導の感謝の言葉を述べる事で相手を立てておけば、これに懲りてもう手は出してこないだろう。
確かに、二撃刃を交えた後、私が一方的に剣を突きつけて見せたように見えるけど、実際には、相手の方が対人戦においては何枚も上手の技量を持っている。
真面に戦ったら、私達では十回戦って十回全て負けるであろう事は最初の二撃で十分理解できたし、相手もそう確信していたと思う。
でも、そんな予想に反して勝てた理由は簡単。
真面でない戦い方をしたから。
アドル達を含む私達は、四人共も魔力持ちのため身体強化が使えるのだけど、これだけなら、今、剣を合わせた相手も出来る事。
だけど、私達四人はユゥーリィから魔力制御の鍛錬の方法を教えてもらっていたし、ユゥーリィの家臣になってからは厳しい魔力鍛錬の指導も受けている
剣や戦士としての技量はともかく、身体強化の出力が相手とは決定的に違う。
その上、ユゥーリィの手によって護衛兵としての制服に、瞬間的に動きを増大する仕掛けが施されているから、私はそれも使ってやっとこさ勝ちを拾っただけの事。
ユゥーリィがよく私達相手の模擬戦で、出力勝ちで勝てているだけだと言っているけど、今の私と先程の相手との一戦がその通りだと言える。
あれだけ強いユゥーリィが、未だ鍛錬をし続ける意味も良く判るわ。
同レベルの身体強化持ちで、ユゥーリィの魔導具の助けがなければ、今、圧勝したかの様にみせた相手には、手も足も出ない事には変わらないと言う事がね。
ラキアの方も決着はついたみたいだけど、……あーあ、ケガさせちゃって、あの未熟者め。
大方、制服の魔導具を操り損ねて勢いが付きすぎたんでしょうね。
まぁ、私も出力を上げ過ぎて、視界を一瞬暗転させちゃったから人の事は言えないけど。
「ポーションがあって良かった~」
「でも使ったって事は、報告しないといけなくなったわよ」
「げっ! そう言えばそうだった」
「何方にしろ、あんな使い方をして黙っていたら、明日は地獄で即バレよ」
そして、そんな便利で強力な魔導具にも欠陥があって、使い熟せなければ強力過ぎて自爆するだけだし、短時間以外の酷使は翌日に酷い筋肉痛に襲われる。
制服に仕込まれた身体強化の魔導具は、一瞬一瞬使う事が基本なのに、それをあんな風に連続して使ったら、地獄の筋肉痛は免れられない。
まったく人が折角、穏便に済まそうとしていたのに、ラキアのど阿呆め。
……まぁ、またエリシィーさんに泣きついて、コッソリと治して貰って、ポーションを補充をするかだよね。
何方にしろ、ユゥーリィの成功に嫉妬する人達は、想像していた以上に多く、この手の厄介事はそれなりにあるから、度胸はそれなりに付いたかな。
年配の凄腕の教官達にコッテリ絞られているのもあるけど、なにより……。
『ひぃ〜〜〜、ユゥーリィの人非人っ!』
『大牙猪なんて無理っ!』
『そんな事を言ってる場合かっ!』
『俺が前に出て注意を引くから、頼むっ!』
ユゥーリィの家臣になったばかりの頃から、たった四人で、何度、有害級はおろか、人災級の魔物の相手をさせたれた事か。
部外秘と言う魔導具の装備や得物のおかげで何とかなってはいるけど、未だに魔物との戦闘は慣れそうにない。
まぁ直ぐに、そんな無茶な特訓を受けさせたれた理由も判明したんだけどね。
ユゥーリィが秘密基地と呼ぶあの地には、時折、魔物が来るみたいだから、必要な事だと嫌でも納得した。
本来、魔物の領域ではなくても、周囲が魔物の領域に囲まれていたら、そこから魔物が出てくる事があると考えて備えるのは当たり前の事だと言える。
『この辺りは、大方狩り尽くしはしたけど、一応は慣れておいて貰った方が良いからね。
あと、大きな雀は見敵必殺! 容赦なく射殺しなさい。
必要な投擲槍の魔導具は、此方の屋敷の倉庫に用意しておいたから』
大きな雀というのは、人災級の魔物で皇紅雀の事。
人災級と言っても、そんな物が群れでいる上に、空から襲ってくる訳だから、実質は戦災級で、本来であれば、私達ではとてもじゃないけど相手にならない魔物。
だけど、ユゥーリィが部外秘と言って用意してくれた魔導具を使うと、狩れるんだけどコレがまた大変。
二回も投げるともう殆ど魔力切れで、三擲目を投げた日には座り込んでしまうのは他の三人も似たり寄ったり。
かと言ってへばっていると火球は飛んでくるわ、巨大な体に押し潰されそうになるわで、ユゥーリィーの家臣になって、本気で死に物狂いになった事が何回あった事か。
おまけに、魔法で上位の魔物の固有スキルを再現したと言う【咆 哮】と【威 圧】を何十回も受けたから、そりゃあ普通の人間が相手ならば、そうそう恐れで固まる事はないわよね。
でも、ユゥーリィの所にいると、それでも油断できないから困る
『ふ〜ん、君達がユゥーリィの護衛ね。
僕はあまり五月蝿い事は言いたくないから、簡潔に言うよ。
君達の仕事をやり抜く事だ、家族処か一族の命が惜しいならね』
ユゥーリィが席を外した時に言い放たれた、この国の絶対権力者の言葉と【威 圧】に、本気で心臓が止まる思いがした。
ユゥーリィの放つ【威 圧】に比べたら大した事はないかもしれないけど、恐さの質が違いすぎる。
ユゥーリィのはあくまで私達に対する鍛錬。
でも、陛下の放ったそれは、何処までも本気で恐ろしい程に冷たい意思。
『まぁ、魔物相手に守り抜けなんて無茶は言わないけど、それ以外はね、分かるだろ?』
言い訳を聞く気も、容赦する気もない。
軽い口調の陽気な声ではあったけど、その目は確かにそう語っており、ユゥーリィが陛下が怖い人だと言っていた意味が、よ〜〜〜〜く理解できた。
お父様やお母様から教えられ、刷り込まれていた物とは別の意味で、私達四人はそれを心底実感したわ。
ユゥーリィってば、よくもまぁ、あんな人達の相手が出来るものだと尊敬できる。
「ん~~♪」
「どうしたんだ?」
「ん~~、なんでも♪」
ユゥーリィの家臣でいる事は、想像より遥かに大変だったけど、後悔はしていない。
だってね、屋敷で私達に与えられた個室の一つ。
その室内で、意味もなくアドルにもたれ掛かるのだけど、これが心地良いんだよね。
こうして触れ合っていると、ぽかぽかと身体が温かくなるし、物凄く安心できる。
互いに成人したとはいえ、護衛としてもユゥーリィの家臣としても未熟で、とてもじゃないけど子供なんて作っている余裕なんて無いから、そう言う事は今だに無いし、アドルもきちんと式を挙げてからと言ってくれているので、私はそれを信じて待つだけ。
だから、今は二人っきりでいられる時間と、こうして甘えられている時間が物凄く愛しいと感じるし、この甘くて優しい時間の為に教官達の厳しい指導に耐えて、ユゥーリィの無茶振りな要求にも頑張れるから。
ガラッ!
「頼まれていた姿絵が手に入ったから、酒でも…ぁっ」
「……馬鹿っ」
頼まれてた姿絵?
へぇ~~~。
ふ~~~ん。
「ギモル、その本を渡しなさい、後、二人とも詳しく話を聞きましょうか」
「いや、これはその…なっ」
「俺は頼まれていただけで」
「てめえ最悪な場面で来ておいて、普通そう言う事を言うかっ!?」
御託はいいから、まずそれを渡しなさいっ!
今年も後僅かになりましたが、此処まで読んで戴きありがとうございます。
来年は皆様にとって良い年である事を。
明日は一月一日なので、一時に投稿します。




