314.溜まりまくっているので、そろそろ……。
「そういえばエリシィー」
「なに?」
エリシィーと膝枕と温もりに癒され。
ジュリの下手な、もとい上手とは言えない甘やかし方に、笑いが取れて一応は少しだけ癒され。
一晩ぐっすりと寝たら、思う事は色々あるものの、気持ちだけは少しは落ち着いたので、朝食時に声を掛けるのだけど、別に昨日の続きで甘えるためではないですよ。
エリシィーは甘やかしてくれるけど、何時でも何でも甘やかせてくれる程甘くはない。
『ユゥーリィ、甘えすぎ〜っ!』
っと言って、怒りますからね。
でもだからこそ、安心して甘えられるんだけど、それはともかくとして、私以外の治癒魔法の付加実験で手伝ってもらった魔導具の件が一段落したから、何か欲しくないかとか聞いてみたのだけど。
「いらない。
ユゥーリィの手伝いをしただけだもの」
いやいや、エリシィーの手伝いの件で色々助かった訳ですし。
……いらないと。
はぁ、何かの時に何かの形で返そうと心に誓いつつ。
「セバス、貴方に幾らかお金を預けていたわよね」
「はい、屋敷の管理などを含めた、費用の預かり金として金貨十枚程を預かっておりますが」
一々私に伺いを立てるのも大変だろうから、セバスとプシュケの権限で使える金額を定めて、毎月支出を確認した後、使った分を補充する形をとってはいるのだけど、少しばかり変えようと思った。
「それとは別に、もし私が何かあった時のために、多めのお金を預けておこうと考えているのだけど、そう言うのは貴族としてはどうなっているのかしら?」
「何か心配事でも?」
「ん、ちょっと、ある家の没落劇を目の当たりにしてね。
財産の没収とかなっているから、残された家人が心配になったのよ。
私だって今は羽振りが良いけど、いつ周りから怒りを買って、同じ目に合うか分かったものじゃないでしょう」
「それは、まずない事だと思いますが」
「セバス」
「他家の方の御協力の下で書面を作成すれば、可能ではありますが、その際に大きく税が掛かる事になりますし、ユゥーリィ様の自由になるお金でも無くなってしまいます」
少し下げた私の声色に、聞きたかった事に応えてくれるセバスに感謝しつつ、税金で済むならそれで良いし、そもそも預けた時点で私のお金ではないと思っているので、問題はない。
収納の魔法から先日の教会からの魔導具分の売り上げの一部が入った袋を取り出す。
「じゃあ、課税分も含めてこれだけ宜しく」
「……失礼ながら、袋の重み的に、かなりの金額があるように思えるのですが」
「白金貨で百五十入っているわ」
「「「「「「「……っ」」」」」」」
何か食堂の空気が重くなったけど、私にとっては再来月にも同額入ってくる金額でしかない。
教会との初期取引として、魔導具ギルドと言うかコッフェルさんに算出してもらった金額で、魔導具が一つが白金貨で十枚。
三種類で一組なので一組分で三十枚、それを五組なので白金貨百五十枚。
それ以外に更に未処理の管と蓋が百組に、そのための金型や治具を十セット。
魔法薬を作成するための専用の鍋や道具を二十セット
魔法薬の薬剤の原料を二千個分と、薬草の種と育成法を示したメモ。
そして、魔法薬のレシピと講義料で白金貨千二百枚なので、今回の取引の全額ではないので安心してほしい。
「少なかった?」
「い、いえ、十二分過ぎる程ですが、よろしいので?」
「もちろん、書類の作成に協力して戴くのは、コンフォード家で構わないわよね?
後でお願いの手紙を書いておくから、中身の確認をお願いね。
それと皆んなで山分けしろと言う意味でなく、適した金額を貴方が私に成り代わって渡すだけの事よ。
言われなくても分かってはいるでしょうけどね」
基本、魔導具以外は向こうで製造してもらう事になっているので、今後の収益は魔導具の値段と利益還元分だけになるけど、おそらく扱われる数が数だから、二パーセントの利益還元でもそれなりの収入になると思うので、今回の分を支出と考えても、すぐに取り戻せると思う。
その魔導具も年間製作数制限を契約条項で設けているので、製造に追われて私が過労で倒れる心配はない。
教会はなんとかならないか言っていたけど、契約は契約。
どうしてもと言うなら、月に一、二個なら増やしても良いけど、その代わり材料である戦災級の魔石を教会で用意しろと言ったら黙った。
一台に数個使ってますから、一セット分を自分達で揃えようと思ったら、それなりに大変な数。
ええ、如何に無茶を言っているか理解してくれたようで何よりです。
実際、ストックは山程あるけど、それを態々教会に教えてあげる義理はない。
「あと、その内に教会から色々と素材関係の書類が送られてくるようになるから、分類別けをしておいて頂戴。
ついでに、今までドルク様の商会や、魔導士ギルドのから集めて読み終えた分も渡しておくから、そちらもお願い。
手が不足しそうならアドル達を使って構わないから」
「「「「げっ」」」」
教会には契約の一環で、世界中の教会に声を掛けてもらい、薬となる動植物の情報だけでなく、普通の動植物や伝記や旅行記など、様々な情報を集めて私に送ってもらう事になっている。
教会向けの理由としては、より効力の高いポーションを作るため。
今回使っている薬草にしたって、元は旅行記からの情報で、薬草としてはまさかと言う物が主材料になっていたりするので、何が役に立つかは分からない旨は伝えてあるので、真剣に集めてくれるとは思う。
より教会が大きな力を得るためには、必要でしょうからね。
そしてその集めた情報を下に使えそうな物があり、更に面白そうな事が思いつけば、それを開発してみたい。
何方にしろ、まだまだ増えそうだから、用済みの書籍や、綴り直してもらった書類等を収納する部屋と本棚を用意しないといけないし、私の手記や危ない内容の物はともかく、それでも大量だから書庫を建てる事も視野に入れないといけないのかも。
この際、今まで蒐集していた本等を、整理する時期ではあるかと思った訳で。
「むろん私も少し手伝うわ。
ちょっと休息を兼ねて、数日はノンビリしようと思っているから」
「休息で本の整理って」
「良い事かと思います。
私も助かりますし、お嬢様からしたら、良き発見もあるかもしれません」
流石はセバス。
何かを言おうとしたギモルと違って、何かを軽くやっていた方が、かえって安まる事を理解してくれる辺り助かる。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
「あの主人」
「ん?」
「古代神聖文字の物もあるのですが」
「使えそうな内容は一文だけで、中身の九割は愚痴に近い物だったわよ」
「よ、読めるのですか?」
「辞書片手にだけどね」
まぁその辞書代わりの翻訳本も、かなり怪しい所だったけど。
とにかく古代語だろうが外国語だろうが、使えそうな物は読みまくっているのだけど、当然ながら魔導具に役に立つ情報なんて、千に一つもないのが実情。
今、プシュケが手にした本なんて、使えそうなものが一文あっただけマシと言える。
無論、魔導具以外で役に立つ情報と言うのは多々としてあるので、全てが無駄と言う訳ではない。
「殆どが斜め読みで、気になった所だけ読んでいる物が殆どだから、気になる本があったのなら、自由に読んで良いわよ」
「それは助かります。
結構、気になる本もありますから」
「居間の方にも、適当な本を入れておく本棚も用意しておこうかしら、皆んなが自由に楽しめる本も収めておいてさ。
まぁ収めるのは、皆んなの好みや、貴女達が皆んなに読んで貰いたい本を選んで頂戴、新たに購入してもらっても構わないから」
ハッキリ言って、私が読む本は多少偏っており、娯楽系の本が殆ど無い。
何処かの二人は二人で偏ってはいるけど、あの二人も偏った本ばかりを読んでいる訳でなく、普通の娯楽系の本やそれ以外の本も読んでいるので、その辺りの教育を受けているセバスやプシュケに趣旨を話して任せるのが一番。
「ああ、これ、この本に書いてあったのね。
ふーん、やっぱり記憶違いじゃなかったのか」
空き部屋の床を五つ埋める程もある本の書籍や書類の束の整理となると、当然ながら脱線する事もあり、ついつい本に夢中になってしまう事も仕方ない事かと思う。
ええ、そう言う訳で、本格的に読む訳ではないので椅子やサイドテーブルを用意しなくても良いからね。
お茶なんて、本が汚れたら堪らないから不要。
いいの、いいの、適当に目を通しているだけだから。
「外国語なんて無理」
「読めない物は整理できない」
「だからそう言うのは纏めて、別の部屋に持ってゆけば良いって言ってるだろ」
「渡すからアドルとギモルに任せた」
「私も〜」
「お前等な」
何度目かは知らないけど、セレナとラキアの言う事も分からない訳ではない。
でもせめて言語毎には仕分けしておいて欲しいので、注意だけはしておく。
はい、無理とか言わない。
言語の違いを見るなんて、観察力の問題だから、出来ない事じゃないから。
急ぎじゃないから手を止めて、本を読むくらいは良いけど、本の仕分けはしっかりとお願いね。
時間が来たら、鍛錬の方に行ってもらっても問題ないから。
まぁ……、その内にこちらの様子を見て、鍛錬に逃げてゆきそうではあるけど、別にそれを咎める気はないので放置。
あの四人は、あくまでお手伝いだからね。
「これ等、全てお嬢様は目を通された訳ですか?」
「ん〜、まあね。
でもさっきも言ったけど、どうでもいい所は読み飛ばしているわよ。
本の価値を考えたら、もったいない話かもしれないけど」
収納の魔法から此処に出して有るのは一部とは言え、書籍の何割かは自己資金での購入品。
基本、ドルク様の商会が掻き集めて私に寄贈してくれた物や、魔導士ギルドとの取り引きで送ってくる物。
他にも私がお世話になっている家からの寄贈品もそれなりに有り、ギブアンドテイクな所があるとは言え、それなりに皆さん私に投資をしてくれているからこそ、今の私があると言ってもいい。
幾ら前世の知識を利用したアイディアが有っても、それを実現するための方法は一から作らないといけないし、それには多くの知識や材料が必要だからね。
何方にしろ、本が貴重で価格が高いこの世界において、正規の書籍だけでも一財産あると言っても良い所蔵量には違いない。
「いえ、お嬢様の事が、少し分かるようになってきました。
此方が想像していた以上の方と認識を改めなければいけませぬ」
「……どう言う認識をしているか聞いても良いかしら?」
「それは秘密でございまする」
「残念。でも、最初にも言っておいたけど、私はそんなたいした人間じゃないわよ」
「面倒臭がりで、貴族の令嬢とは名ばかりの田舎娘でしたかな?」
「ええ、そうよ。
現に貴女の知る令嬢と比べたら、優雅さの欠片もないでしょう?」
社交界を垣間見て、本当の令嬢と言うものを私は知ったけど、正直、ああ言う風になれなくても良いと思うし、なりたいとも思わない。
だって、面倒臭そうだし窮屈そうだもの。
皆んな家を背負って大変だなぁ、と言うのが正直な感想。
だから、私は影口を叩かれようと、貴族令嬢としてはメッキで構わないし地金が見えていても気にしない。
その事で、もうお父様達に迷惑が掛かる事はないしね。
「確かにお嬢様には、私の知るような御令嬢方の優雅さや雅さは無いかもしれませんが、お嬢様は他のご令嬢方がお持ちでない物をお持ちです。
私や孫にとっては、それで十分にお仕えする価値があります」
少なくともセバスの言うそれが、猿令嬢、田舎令嬢、魔物令嬢、令嬢の癖に身体を動かす野蛮人など、社交界で言われている私の渾名の様な物では無い事は、短い付き合いながらも信じられる。
でも……。
「セバス、貴方は貴方よ。
そしてプシュケはプシュケ。
貴方の価値観が、プシュケの価値観だというような言い方は止めなさい。
そういう考え方は人を見誤る元よ」
こんな事、セバスは言わなくても分かってはいるだろうけど、やはり血の繋がった家族というのは、そういう所は見誤る事が多々ある。
家族だから、言わなくても分かっているはずだとね。
私は、前世でそれで大失敗して、愛する人を繋ぎ止めれなかった。
だからこそ、今世の今でもその事はトラウマになっているし、今も怯えている。
せっかく手にした家族を失いたく無いと。
もう二度と自分から手放す事にはしたくないと。
「そういうお嬢様だからこそ、仕え甲斐があると言うものです」
「お世辞はいいわ」
口では何とでも言えるし、態度は表面的にはどうとでも誤魔化せる。
それでも、そういう言葉は嬉しく感じるし、信じたいと思える。
だからそれを本物にするために、努力し頑張ってゆくしか無いんだよね。




