310.よくよく考えたら悪巧みをするには、もってこいの場所ですよね。
【断罪の高台の秘密基地】
ずるずる。
つるつる。
ずぅ〜〜。
もぐもぐ
「「「ぷはぁ〜〜」」」
「ふぅ〜……」
蕎麦の喉腰と香り、そしてツユと共に口の中に広がる味わいに、私と三人は息を吐く。
「いやぁ、こんな音を立てて食べるなんて経験は初めてだね」
「城の者に知られたら、大目玉物ですよ。
それに味も悪くない、単純だけに誤魔化しようがない味わいですね」
「蕎麦などと、小麦の代替品でしかないと思っていたが、これだけの味がするのであれば、見直さなければならぬな」
周りにいる、アドル達がもう可哀想なくらいにカチンコチンに固まって、脂汗を流しているのを他所に、その原因たる三人は、これ以上ないくらいリラックスしている。
何せこの地なら、例えいきなり裸踊りをしようが、咎めたりバレたりする心配はないですからね。
もっとも、本当にそんな真似されたら、私が黙っていませんけど。
「それで、いきなり視察と言って、此処に連れて来させられた理由をそろそろお聞かせ願いませんか?
あと何かを食べさせろと言われたのでお出しはしましたが、本来の夕食を作って待っていられる方が気の毒だと思うのですが」
私が、いい加減に決意してそう話を促したのは、この国の王である陛下と、カイル王太子殿下、そして宰相であられるジル様と言う、国のトップスリー。
そりゃあ、アドル達も固まると言うもの。
ジュリとエリシィーは流石に二回目なので、そこまで固まってはいないとは言え、かなり緊張をしているのは仕方がないと思う。
私も最初は物凄く緊張していたからね。
ジュリ、そこで嘘言わないとか言う顔をしない。
「まぁ、そんな焦らない焦らない。
せっかく此処まで来たのだから、先に例の温泉を堪能させて貰うよ。
君達もそうするといい、その後で余人を交えずゆっくりと話そう。
あと食事に関して大丈夫、これくらいなら食べた内に入らないさ」
つまり趣味を兼ねて、場の仕切り直しをしたいと。
構わないですけど……、じゃあアドルとギモル、陛下達の護衛を兼ねて背中でも流して差しあげて。
はい、そこで死刑宣告を受けたような顔をしないのっ! 不敬よ不敬っ!
ただ一緒にお風呂に入って、お背中を流すだけなんだからっ。
後で冷たい飲み物を入れた携帯小型糧食箱を渡しておくから、それも忘れずにもってゆく事。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
「はぁ〜〜、吃驚した。
いきなり待機室から王宮の方まで案内されたと思ったら、陛下と共に空間移動でお供。
繁殖槽を軽く見た後、いきなりあんな会食でしょう。
心臓が止まるかと思ったわ」
「ユゥーリィが、普通じゃないって改めて実感させられたわ。
それにしても陛下にしろ王太子殿下にしろ、随分と気さくな方だったわね」
「二人とも気を抜かないでね。
あれ、そう見せているだけで本質は怖い方よ。
根は優しい方だけど」
暖かいお湯の中にいて気が緩んでいるのかもしれないけど、お湯から出ても気を抜いて大ポカをやりそうな二人に注意をしておく。
陛下は確かに根は優しい方だけど、それは陛下が個人でいられる時だけの話。
国王である時は、容赦のない判断をされる方だし、人を嵌める事なんてなんとも思っていない方。
判断基準は、国のためになるかならないか。
国の代表である陛下を、公で蔑ろにするかしないかでしかない。
私に爵位を与えたのも、領地としてこの地を認めたのも、結局はそれでしかないはず。
私に利用価値があるから、色々と許して便宜を図ってくださっているだけの事。
「はーい、気をつけまーす」
「ラキア、返事は伸ばさないの」
「ユゥーリィお母様みたい」
「当主だからお父様かもよ」
「だとしたら、娘とお風呂に入る変態オヤジ?」
「ぐわ〜〜んっ! 注意しただけなのに変態呼ばわりされたっ!」
冗談だと分かってはいても、『変態オヤジ』の言葉がグサっと突き刺さる。
ええ、中身はいい年したオッサンですから、罪悪感が半端ないです。
いえ、今は同姓だから罪悪感を感じる必要ないし、そう言う視線で見ていないから問題はないはずなんですけどね。
うん、何処がとは言わないけど、二人とも私と違って順調に育っているよねぇ。
きちんと手入れしていて肌も綺麗だし、運動してよく汗を掻くから新陳代謝が促されて、筋肉が付いているのに柔らかくて、吸い付く様な肌をしている……そこっ、眼福だなんて、思ってないからね。
「それにしてもアドル達は悲惨ね」
「だよねぇ、兄さん、きっとまだカチコチでいるんじゃないかなぁ」
そこの二人、別の場所をカチコチにしていたりして、だなんて馬鹿な事を言わないのっ!
対象が誰だと思っているのよっ、せめて思うだけにしなさい。
すぐにネタにしようとするだからとジュリ達に呆れつつも、あまり腐モードに入った二人を構っていても巻き込まれるだけなので、強引に話を戻す。
「言っておくけど、もし王妃様とかがお忍びできたら、セレナ達に任すからね」
「私達に死ねとっ!?」
「ほぼ死刑宣告だよっ!」
いえいえ、先ほど変態オヤジ呼ばわりした仕返しであって、それ以前にその様な事態がまずありえない。
あったとしても流石にお付きの人が付いてくるだろうから、私達がお世話をする事はまずないはず。
「エリシィーは早めに出て、何か軽いツマミとグラスを用意しておいて。
その後でジュリと共に隣室で待機。
セレナとラキアは、精神的に疲労しきっている二人と共に研究所の外を警戒。
こんな僻地では何もないだろうけど、警戒だけはしておいて、その方が二人も休まるだろうしね」
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「風呂上がりに冷たい一杯は嬉しいね。
白ワインを薄める事もなく泡水で割るなど、他所では味わえない味だ」
魔法で無理やりスパークリングワインにした物だけど、風呂上がりの一杯としては、十分な味わいだと思う。
それと、元にした物が以前にジル様に戴いた物なので、この世界の物としては物凄く美味しい代物だと言うのも理由の一つだろうね。
「さて、そろそろ本題に入ろうか。
この地なら密談にもってこいだから、いきなり無理を言ってすまなかったね。
と言うのも、先日、大司教が亡くなったから、そろそろカタを付けようと思ってね。
次の大司教は誰かさんのおかげで、多くの教会内や貴族の支持を集めたオルミリアナになる事は、まず間違い無いだろう」
「……」
そんな言い方をしなくても。
でも、確かにオルミリアナ卿は、大司教を目指してはいたけど、数年前まではどう見ても難しいとされていた。
まぁだからこそ、新型の魔導具の武具などを国外に持ち出して、国外からの支援者を得ようとしていたのだと思う。……失敗に終わっているけどね。
そこに私がオルミリアナ卿を通して、教会に魔導具を使ったサービスをする契約をしてからは、教会へのお布施は膨大になり、急速に教会内の発言力を強めてゆき、更にはそのサービスを教会に齎せたとして、サービスの恩恵を受けた貴族達からも感謝されている。
禿げ(から救った)侯爵、無駄毛(を無くした)侯爵として崇められる程にね。
しかも、何故か最近は以前以上に羽振りが良く、教会内の彼方此方にバラ撒いているとかいないとか。
そうなると次の大司教は、オルミリアナ卿しか無いと言う声も上がるのも自然な事。
「大司教になるための儀式として、聖山ククルマウントに十日間の祈祷で籠る事になるのだが、そこを狙いたい」
「まだ望む能力にまでなっていませんが」
「時間切れだ。
今が最大の機会だし、応急処置としては十分に見合うだけの能力がある」
作戦の要である、第三の魔導具。
教会に用意した三種類の魔導具の内、最後の一つではあるけど、生憎とまだ未完成と言わざるを得ない。
最初にこの話を持ち込んだ時から、魔導具としての寿命を伸ばし、安定する効力を出せる様にはなったものの、能力的には僅かに上がった程度で、見方によってはほとんど変わっていないと言って良い。
「カイル殿下達は、どの様なお考えで?」
「僕も父上と同意見だね。
今が最大の機会と言うのもあるが、試用品を極秘裏に試させている部隊からの評判は凄く良いから、軍部としては一刻も早く普及して欲しい代物だね」
「私めも陛下に賛同させていただきます。
それに例の計画を進めるには、教会を味方にしておくのが一番かと。
魔物を異常に嫌悪をしているあの者を排除するのも、教会に大恩を売り付けて例の計画に協力させるのも、今が絶好の機会です」
国の臣下である事を忘れたオルミリアナ家を排除したい陛下。
紛争や魔物から人々を守る軍からしたら、直ぐにでも第三の魔導具を正式採用したいと考えるカイル殿下。
そして、水の魔法石を普及させたいのであれば、教会を味方にするために、今、動くべきだと言うジル宰相閣下。
ハッキリ言って、国のトップスリーに要請されて、嫌ですと言える人間がどれだけいるだろうか。
ましてや、第三の魔導具も、水の魔法石も世に広めたいと言うのは私の願いでもある事。
「条件付きで要請に従います」
多分、これが未完成品を世に広めなければいけない、私のせめてもの抵抗だと思う。




