308.二股を認めたくて認めている訳ではないんですのよ。
短めな話だけど、ジュリ視点をちょっとだけ描きたくなったので。
【ジュリエッタ・シャル・ペルシア】視点:
「ぅん……」
すぐ隣で、静かに眠るユウさんの寝顔を、うっすらと光球の魔法の光が照らす。
魔力を絞って、本当に微かに分かる月光にも劣るくらいの優しい光。
ユウさんが鍛えてくれた魔力制御のおかげで、微量な魔力の調整も出来るようになったから出来る事だけど、それでも魔導具師ほど細かな制御にはほぼ遠い。
手加減してくれてはいるんでしょうけど、ユウさんが私に求めているレベルは、もの凄く厳しもの。
ハッキリ言って、そんな事が数年で出来たら国の歴史に残るレベルの魔導士ですわと言うレベル。
それを多少、そこらの魔導士より魔力が高いと言っても、そう成れるかどうかは別の話。
ただ、ユウさんは辿り着くと、心から信じてくださっているから、私としては頑張り続けないといけない。
少なくとも、ユウさんの狩猟で足手纏いにならずに、付いて行けるぐらいには成りたいですわね。
たとえ、それが英雄レベルであろうとも、それがユウさんの隣に立つために必要であるならば、そうなって見せるだけの事。
「……うぅ、…そっちは駄目…」
ふふっ。
彼女の可愛い寝言に、私は更に満面の笑みになってしまう。
少し前までの行為で、ぐったりと意識を朦朧とさせたまま眠りに付いてしまったユウさんに、毎回不満がない訳ではない。
そのまま言葉を交わしながら、心地よく眠りにつくなんて行為が、一度も出来た事がない訳ですから。
何時も先に寝てしまうか、最中だと言うのに体力が尽きて寝てしまっていたりと、不満なんですよ、私は。
ぷに、ぷに。
だから、つい柔らかそうな頬を、優しく突いてしまう。
でも、ユウさんは同い年とは言え、身体も小さく体力が無いですから、すぐに疲れてしまうのも仕方ない言えば仕方ないとは分かってはいるんですけどね。
でも小さな身体をしてはいても、中身は私よりよっぽど、しっかりされている人。
優しく、強く、賢く、そして聡明。
多少の変わった所は、寧ろユウさんの愛嬌とも言える所。
度々、そのヘンテコさが逸脱する事がありますけどね。
それでも、私を救ってくれた人であり、導いてくれる人。
私の暗い過去さえも、吹き飛ばしてくれた。
過去の事実は消えないけど、それでも私の心の中の闇を打ち払ってくれたし、受け入れてくれた。
「多少強引だった事は、反省していますけどね」
止められなかった想い。
一方的に打つけてしまった想い。
それでも止められなくて、押して押した。
結果的には、ユウさんは受け入れてくれたのだけど、今度は別の不安があった。
だってユウさんには、ずっと気にしている人がいたから。
服の下の首飾りをずっと気にしていた。
『親友との絆かな』
以前に聞いた時のユウさんの顔は、今でも忘れない。
もの凄く大切で、愛しそうに首飾りを見ていた事は。
だからいつか私を置いて、その人の所に行ってしまわないかと、いつも怯えていた。
だから信じられない事に、あの歳になっても本当にそう言う事に慣れていない、ユウさんに私の存在を刻みたくて、無理をさせてしまった事も反省はしているけど……、今を思うと、それが私にとって当たり前だったのかもしれない。
でも仕方ないじゃ無いですか、ユウさんを肌で感じていたかったんですから。
不安など、気のせいだと思い込みたかったんですもの。
『えーと、彼女は私の親友のエリシィー』
そして不安は的中した。
ユウさんにとって、首飾りの相手は無条件で受け入れられる存在。
その事は、どこかずっと張り詰めていた物が消えているユウさんの態度を見れば明らかだったし、何よりユウさんから匂う彼女の匂い、そして彼女から匂うユウさんの匂い。
身体強化で強化した鼻で嗅げば、昨晩何があったか一発で分かる事。
『ユゥーリィを甘やかす事かな』
でも、結局は私は、その子を受け入れるしかなかった。
ユウさんがずっと張り詰めていたのは知っていたし、その張り詰めたものを解す事が出来ないでいる事も自覚していた。
なにより、彼女の事を見るユウさんを見れば、彼女はユウさんにとって必要な存在だと言う事は、誰の目にも明らかだもの。
そして彼女も私がユウさんにとって必要な相手だと認めてくれた。
お互いに、絶対に誰にも譲りたくないと言う想いも一緒だったけど、結局はユウさんが無意識であろうとも私も彼女も必要としている事実。
それが彼女を認める選択せざるを得ない全てだと言えるし、その事で、ユウさんをこれからも想い続けても良いと思うと、気が楽になったのは確か。
その頃からかな、なんとなく間食の量が減ったのは。
以前ほど食べたいと言う要求が沸かなくなったのであって、決して『……ジュリ重い』と寝台の上で言われたからではありません。
ええ、私は背が人より少し高いだけであって、決して重くはありませんわ。
それはともかくとして、人の事は言えませんけど、彼女はなかなかに強かな人間でしたわ。
『よくユウさんが直ぐに受け入れましたわね。
どんな汚い手段を使ったのですの?』
『同情を引いて、ショックを受けている時になし崩しにね。
ユゥーリィ、昔から流されやすいから成功すると思っていたし』
少なくともユウさんから聞いていたような、純粋無垢の聖女ではないのは確かでしょう。
そしてある意味、私以上の苦しみを味わって来た人。
彼女から聞いた話は、ユウさんがショックを受けて隙を作るのも分かる事。
その後、意気投合したのは、今、思っても不思議ですけど、結局はユウさんを基準にお互い考えているからなのだと思う。
同じような暗い過去を持ち。
どうしようもないほど、同じ人を好きになって。
何より同好の士ともなれば、話に花を咲かせるのも当然で、ついつい時間を忘れてあの著者の作品について論評し合うのは、今も続いている。
『私は内を』
『私は外を』
だから二人でそう決めたし、ユウさんは色々と隙が多く流されやすいから、二人で見張ろうとも決めた。
そう言うユウさんだからこそ、今、こうして三人でいられるけど、これ以上増えられるのは堪らないですからね。
ユウさん自身、そんな気はないと分かってはいても、私や彼女のように隙が多く流されやすいユウさん相手になら、やりようは幾らでもありますもの。
そのためには、まず私がユウさんが行く場所に、何処にでも付いて行けるようにならなければいけない。
置いて行かれないようにしないと。
だと言うのに……。
「まったくなんですの、少しぐらい毒草や毒キノコが混ざるからって、置いて行くなんてあんまりですわ」
だからつい今日の不満を口にしてしまう。
私、本当に頑張っているのに、そんな事で置いて行かれるだなんて本当にショックでしたし、寂しかったですわ。
その不満が、つい出てしまったのかユウさんが嫌がる方も可愛がってしまった。
だって、あんなにも余裕なく焦りながら翻弄されるユウさんの表情って、とっても可愛くて素敵なんですもの。
「ん…、…す…き…だか…ら」
ええ、私も好きですわ。
こうして寝顔を見ていても、ちっとも飽きませんもの。
たぶん、それはこれからも変わらない。
でも惜しいですが、そろそろ眠らないと昼間がキツくなりますわね。
ホプキンス様の教導は、ユウさんとは別の意味で容赦ないですから。
「おやすみなさいユウさん。良い夢を」




