307.春の苦味は想いの苦味? いえ、自分勝手なだけです。
さくっ、もぐもぐ。
口の中に油と塩の味と共に、コシアブラの野性味のある味が口の中に広がってゆく。
うん、私、コシアブラの天ぷらって好きなのよねぇ。
この苦味が良い。
皆んなも、それぞれ好きな味付けで楽しんでいるみたいだから、私も満足。
ストレス溜まる事があったので、従者のジュリや護衛のアドル達を放っておいて、こっそり山歩きをしてきた甲斐があった。
まぁ、その後で怒られたけど。
せめて、一言、言ってゆけって。
無性に、春の山の最後の恵みを味わいたくなったのだから、仕方ないと思うんだけどなぁ。
あと、こう言っては申し訳ないんだけど、私が本気で山歩きをするには、ジュリはまだ足手纏いなんだよね。
ええ、毒草や毒キノコを籠の中に入れるなってね。
余裕がある時はいいけど、余裕がない時はイラつく原因になるので、申し訳ないけど今回は置いて行ったわけ。
「お浸しも良いけど、こっちの胡麻和えも良いですわね」
「俺は肉巻きがいいな」
「炒めたのも良いけどな」
「お米に混ぜたのも好き、一緒に入れる具材次第だけど。
エリシィーさん、後で細かい調理方法教えて。
オニギリとかにしておいたら、後ででも食べれそうだし」
「記録を取っているから、纏めた後でよければ」
「こまめよねぇ。毎食記録につけているんでしょ」
「勉強、あと、ユゥーリィがそうしろって」
エリシィーには、侍女という立場もあるし色々考えがあって、私と料理を作りながら全部記録してもらっている。
元々私がやっていた事でもあるけど、人数が増えた事で品数も増えたので、エリシィーに丸投げ。
ある程度貯まったら、私が見直しながら料理ポイントを書き足して清書をしてもらう予定。
新シンフェリア家の料理書としてね。
ついでに出す料理本は代筆者をエリシィーにして、エリシィーのお小遣いにしてもらおうと本人には黙って画策中。
そうそう画策と言えば、皆んなに伝えるのを忘れていたわ。
「陛下から領地をもらう事になったわ」
「「「「「「ぶふっ!」」」」」」
皆んな汚いよ。
セバスとエリシィーは流石だけど、他の皆んなはアウト。
ちゃんと口に手で塞ぎきれなかった罰として、食器の後始末と台所の掃除をお願いね。
いや、どう言う事かって、口を塞がなかった罰と、……そっちじゃないと。
「別に、秘密基地のある土地周辺を領地として認めるって書類に、強制的にサインをさせられてきたから」
「強制的って、普通は喜んでサインするものだと思うんですけど」
「まぁ、ユゥーリィだし、きっと管理が面倒って理由で嫌なんでしょう?」
結局は、そこに行き着く訳ですけどね。
「でもユゥーリィの立場からしたら、普通は認められるのって当然だよな」
「あれだけ開拓してある訳だしな。
あれって開拓した土地だけなら、ちょっとした村ぐらいあるだろ」
確かに色々な面倒毎を避ける事もあって、年金の出ない法衣貴族ではないので、その権利はありましたよ。
あと広いのは単に調子に乗って、切り開いただけです。
「でもまぁ、ああ言う設備もある訳だし、ユゥーリィの領地って事にしておいた方が問題はないわよね」
「そうそう、うちの領地でやっている事にゴタゴタ言うなって言えるもの」
いえ、もし何かあっても知らんぷりする気満々でいたのに、もし領地として認められると、責任追及どうこうと問題があるから、秘密の研究所にしたかっただけですから。
そう言うヤクザみたいな思考はどうかと思うよ。
「お嬢様、詳細を聞いてもよろしいでしょうか?」
「セバスとプシュケに今の段階で説明しても、何も出来る事はないわ。
色々と機密も抱えている土地だから、そう言う土地を持っているとだけ認識してもらえれば良いと思って、この場で話をしただけよ」
現状では人手は足りてるし、あの地に誰かが住んでいる訳ではないから、執事の二人にはお呼びではない。
何せ領民がいない以上は領地運営は必要ないからね。
当然ながら税収もないけど、土地の広さで国に納める税金が決まる訳ではないので、現状私が納める税金は私が得ている利益に対してと、皆んなの人頭税のみ。
「誰か領民でもできたら、その時には頼らせていただくわ」
そもそもあんな僻地に誰も来ないでしょうけどね。
でも、もし領民が住めるようになるまで、例の計画が世に広まっていれば、二人も仕事ができるだろうから、あの土地を紹介しても問題はない。
だけど三方を守の御領域に囲まれており、残りも断崖絶壁の海という陸の孤島だからこそ、手付かずでいる訳だから、そんな心配はないのが現実。
つまり要らぬ心配というだけの事だけど、それを馬鹿正直に言う訳にはいかないので……。
「二人が不要と言っている訳ではなく、仕事の管轄が違うのと、まだ話せる段階ではないと言っているだけよ。そこは誤解しないでおいて」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
「ん〜〜♪」
「そろそろ、鍛錬に入りなさい」
ほぼ毎日行うジュリの魔力制御の鍛錬。
その一番の基本である魔力の循環制御は終わりのない鍛錬で、ジュリの鍛錬を見るようになってから、この鍛錬をやる前にジュリの心を落ち着かせるためにやる軽い抱擁。
もはやジュリにとって別の目的になっているような気がするけど、これの後はジュリの魔力の流れは穏やかだから、今だに続けている。
私もこの時間が嫌いではないし、ジュリへの愛しさも感じる時間だから大切にしてはいるのだけど、やり過ぎは良くない。
ぅんっ、ん。
こらっ、どこ触っているのよ。
人のお尻揉まないのっ!
そう言う事なので、ジュリにいい加減に瞑想に移るように言い、私は横で作業を続ける。
「……」
正直、此処まで魔力の循環が出来るようになってきたら、私が態々見る必要はない所にはきている。
制御の鍛錬だって、基本は一人でやって行くべき事だし、魔力の構想訓練も同様で、ここまで来たら疑問に思った時に聞けば良いレベルで、もう見習いと言う段階はとっくに達しており、魔力の制御力だけを見れば、歴戦の経験を持つルチアさんに匹敵しているほど。
実戦経験が少ないから、魔物討伐騎士団の魔導士とした場合、使い物になるかは別だけどね。
『此方でやった方が集中できますわ』
うん、そんなのは口実でしかないし、自室で地道に魔力制御の鍛錬をしている事も知っているので、自室では集中できないなんて言い訳は通用しない。
でも、そう言うところがこの子の可愛い所なんだけどね。
ちょっと強引なところがあるけど、ジュリの真っ直ぐな想いが物凄く嬉しいし、こうして甘えてくれる分、私はもっとしっかりしなければと頑張れる。
まぁこの子はこの子でだいぶ無理して頑張っているから、ちゃんとそれを認めて受け止めてあげたいと言うのもあるけどね。
そしてさっきの甘え方は、……多分、お誘いなんだろうなぁ。
うん、その事に顔が自然と熱くなるし、それに伴ってその……ね。
最初の頃と違って、すっかりと慣らされてしまっている訳で、そこはまぁ……ね。
ただエリシィーの件も含めて思うのが、このままで本当に良いのかなぁと思う時がある。
二人とも、もの凄く良い子で魅力的な子だから、いつか本当に好きな人が出来て私の元を去って行ってしまわないかと不安に思い、勝手に気落ちする事が……馬鹿な悩みだって分かってはいるんだけどね。
だいたい、最初は二人とも子供だからとか、一応は同性だからとか、中身がオジサンで年齢差があるとか、そんな理由を付けていたと言うのに、今や私の方がコレなのだから、我ながら呆れるしかない。
もしかすると私って実はチョロイとか?
だってね、二人とこうなった経緯を思い返してみれば、ある意味凄い事だしね。
お酒で酔っ払って朝を迎える。
寝ている所に布団に潜り込まれて、朝を迎える。
幼馴染みの物凄い過去にショックを受けている所へ、そのまま押されて朝を迎える。
そして、その後は、そのまま流されて、押され押されて今の結果だから、そう疑問に思ってしまっても仕方ないと思う。
でもね、たとえ流された結果だとしても、やっぱそれでも私の想いは変わらない。
エリシィーが好き。
ジュリが好き。
たとえ不誠実であっても、その想いだけは誠実でありたい。




