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私、お嫁になんていきません【1000万PV突破】  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
306/1130

306.お風呂を作った時から、欲しかったんですよね。





「なるほど。

 これは、なかなかに面白い肌触りだね」


 陛下が腕や顔に生地を当てた後、そう簡潔に感想を述べてくださる。

 高貴な人間が好んで使う絹ではない事に、側付きの人間が眉を潜めるけど、それは仕方ない事。


「絹では細く切れやすいため用途に適していませんので、麻糸や木綿を使いますが、水や湯をよく吸ってくれます」

「タオルだったか。

 ありがたく使わせてもらうが、これは何処の家が?」

「スカルチニア公爵家が、今後、製造と商品開発及び販売を行なってゆく事になっています」


 魔導具ではなく、テリー織りが出来る機織り機を、古き血筋の五公爵七侯爵の内の一つであるスカルチニア公爵家に技術供与の話を先月に持って行った所。

 とりあえず商品見本として、タオル、バスタオル、バスローブ、シーツ。

 それと、用途は限定されているけど、特殊な織り方をした泡立ちの良いボディータオルも。

 染色もされていないままの物ばかりだけど、それだけに誤魔化しの効かない状態の品。


「浴室繋がりでなら、確かに堂々と売り込めるのを利用したか。

 相変わらず抜け目がないね」

「別に黙っていても、スカルチニア卿から売り込みに来ると思いますが、黙っていたら文句を言いますよね?」

「当たり前だろ、どう見ても良いと分かっている物を、なんで王である僕に最初に持ってこないのかって」


 では、どうしろと?

 持ってきたら売り込みだと人聞きの悪い事を言うし、持って来なかったら除け者にしたと言うし。

 実際、それ自身はどうでも良く、それで困る私を見て楽しむ悪癖のある陛下だから、結局は何か文句を言われるのだから、困った大人だと思う。

 まぁ、挨拶がわりのコントみたいなものなんだけどね。


「魔導具ではないが、スカルチニアは良い技術を手に入れたね。

 顧客層が広く数売れる品だ、国外にもね」


 タオルは日用品だから、継続的に売れてゆく代物。

 最初は高価でも、使い始めたらこれでないとと言う品になってしまう。

 製法の機密を何処まで維持できるかに掛かるだろうし、製品開発を続けてゆかなければ、後追いの人達に追い抜かれ、追い越されてしまう類の技術なので、是非とも今後良い製品に育てていって欲しい。


「多少、上の方で揉めたようですが、そこで落ち着いたようです」


 魔導具でない物なので、私の商会でやると言う考えが一瞬でもなかったかと言えば嘘になるけど、基本的に新しい繊維産業は、資金力、組織力、販売力とがセットでないと難しい産業。

 スカルチニア公爵家は、もともと麻や木綿をはじめとする紡績産業も行っているため、結局はそこに落ち着いた。

 私と私の商会では、結局は何処かの家の力を借りなければ、とてもできない事業だし、もし事業を起こそうとすれば、そのために膨大な時間を取られるので、いつも通り丸投げして、利益だけを延々と吸い上げた方が楽だと考えた結果。

 とりあえず、そこでジル様が部屋に入ってきた事で前置きは終わりなのか、側付きの人間に献上したばかりの品を持たせて退出を命じたので、それを見届けた後に、私はいつも通りの定期報告を始める。


「なるほど、あの繁殖槽を拡張するほど、繁殖が順調と言うのは喜ばしい事だね」

「どうせ拡張するならばと、本格的な繁殖槽を別に作ろうと考えています。

 それなりにあの子達に合った物が分かってきましたので、将来的な拡張を考えた大規模な物をと」

「あの地は君の管轄だ、自由にすれば良い。

 そうそう、その件で一つ手続きがあった。

 ジル、例の手続きを」


 何かこの話の持って行き方って、何時かあったような気がするんですけど。

 しかも私が嫌がる様な話のパターンで。

 うぅ、今度はなんだろうなと警戒しながら、ジル様が用意してくださった書類に目を落とし。


「……ジル様、これは?」

「借金のカタとお思いください」


 借金って、私、借金してませんよね?

 ……陛下の借金と。

 いえ、陛下にお金を貸した覚えはないですよ。

 城の改装の代金も戴いていますし。


「帳簿を確認した所、設計料と持ち込みの材料の代金のみで、作業料が含まれておりませんでしたが」

「別にあれって、それほどたいした作業ではないですよ。

 全部合わせても五日も掛かっていませんし、陛下には普段からお世話になっていますから」


 そもそも高価な魔導具も買って貰っているので、それくらいはと思っていたのだけど、私の言葉に宰相モードのジル様が額に深く皴を寄せ……。


「そう言う問題ではありません。

 国としては、貴女程の魔導士を無料(ただ)働きさせた、と噂をされる様な事は避けねばなりません。

 そこで此方で魔導具師ギルドの方に、貴女の仕事を算出させて戴いた所、かなり予算を超過している事が分かりまして、残念ながら陛下と王太子の私費や王城設備に関する予備費では、とても支払いし切れる金額ではありませんでした」


 えーと、なんでそんな金額に?

 そもそも安く済ませるために、私に依頼したんじゃないの?


「あの爺さん怒っていたよ。

 あの大きさの水晶壁や大きな浴槽を丸ごと魔法石化なんて事は、世界中探しても誰にも出来ない事だって、安仕事をするのも大概にしろってさ」


 陛下の言葉に、ああ、それで何時ぞや不機嫌だったのか。

 コッフェルさんはコッフェルさんで、ギルドの長になった以上、魔導具師の生活を守る事を考えないといけないから、私のやっている事はそれに反している訳だもんね。

 うん、でもだからってこの値段は暴利すぎだと思うよ。

 いや確かに、王宮だからって他の家ではやっていない事までやった自覚はあるけどさ。


「それで色々考えてね、どうせ君の事だから、あれ以上の金を受け取る気ないだろ。

 そして僕は其処までお小遣いを持っていないから、代わりの物で支払おうってね」

「それで領地を認める書類ですか?」

「そう【死の大地】の向こうの【断罪の高台】全てを君の領地にってすれば、君はあの地で心置きなく研究できるし、僕は金を払わずに済む」

「いえいえ、どう考えても貰い過ぎですから」

「未開拓の土地なんて、一銅貨にもならないよ。

 ましてや、あんな陸からも海からも行けない絶壁の土地。

 君以外では価値がないも同じ事だ」

「価値がないって、あの周辺の山には結構な資源が眠ってますよ」


 そもそも【断罪の高台】自体が広大だし山も多く、地中探知の魔法の結果、かなりの埋蔵量がある様々な鉱脈があり、一部は魔法で採掘して使っているほど。

 普通であれば、戦争を引き起こしてでも奪い合いになる程の土地だと思う。


「君が言うのならばそうなのだろうが、現実には誰も手をつけていない、それが答えだ」


 ただ、魔物の領域と万年雪の山脈と火山に絶壁の海岸に阻まれて、誰も採掘に来ないと言うだけですよ。

 だとしても、幾らなんでも貰い過ぎだ。

 幾ら、漏らせない研究をしているからって、数日で終わる仕事でもらって良い物ではない。


「言っておくけど、魔物の繁殖による安価な水の魔法石や、防水布の開発の成功(・・・・・)の褒賞も含まれているからね。

 ここまで来た以上、成功するかしないかは君ではなく此方側の問題だ。

 そしてこの計画は、君が想像している以上の価値がある事だから、拒否は認めない」

「ゔっ」


 詰んだ。

 前は貴族の当主として、そして今度は領主として。

 たとえ一人も領民がいないと言うのに、領主としての責任だけは背負わされるって虐めですか?

 ……もともと私には、領地を開発する権利があって、あれだけ開拓しておいて今更って。

 あれは、秘密基地であって、開拓じゃありませんから。

 ……冗談は魔法だけにしろって、酷い言い草です。


「君がどうしても心苦しいと言うなら、今回のような城の改装に手を貸してくれるって事にしておけばいい。

 材料費は受け取ってもらうが、魔導具師としての作業料は受け取るも受け取らないも自由だ。

 領地を認めたお釣りって事にしておけば、あの爺さんも五月蝿い事は言わないと思うよ」


 まぁそう言う事ならば、それで良いです。

 どうせ領地に関しては拒否権がないのなら、少しでも私の精神的に楽な方が良いですから。

 ……じゃあ、早速、後宮の方の設備をお願いって。

 いえ、お釣りでやらさせて戴きますけど、何か問題でも?

 ……男性王族専用浴室にしかなかった坐湯の存在が女性陣に発覚して、奥方様達から恨まれていると。

 いえ、でもあれは向こうが要らないって言った物ですけど。

 ……良さが分からなかっただけで、知ったら是非とも欲しくなったと。

 知ったらって、……態々男湯に入りに来たんですか? 王妃様達が?

 ……聞いてくれるなって、まぁ外には言えない話ですよね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

 シンフォニア王国国王

【ジュードリア・フォル・シンフォニア】視点:




 退出する少女の背中を見送った後、深く溜息を吐く。

 相変わらずあの子は自分の価値が分かっておらず、非常に危なっかしい。

 実際、あの子がその気になれば、痛い目を見るのは彼女を利用しようとした連中になるだろうが、それでも傷つくのは彼女と彼女の周りにいる者達。

 周りの環境が整いつつあり、その心配は大分減ったものの、彼女自身はああ言う感じだから困ったものだね。


「ジル、君も含めてだが、彼女に借りがある家には言っておけ、馬鹿は排除しろと」

「言われるまでもない事ですが、更に言い含めておきましょう」


 幼少から病気で長く寝込んでいたと聞くから、おそらく家の者に迷惑を掛けぬように我慢し、家のお荷物だと、自分を過小評価する癖がついてしまっていたのだろうな。

 だが、シンフェリアは経緯はともかく、彼女を手放す事になって正解だったね。

 彼女が此処までの才と力があると知ったら、馬鹿があの山奥まで攻め込んででも、彼女を得ようとしていただろうからね。

 結果的に、シンフェリアの戦禍に呑まれずに済んだ訳だ。


「あの子、何処まで気がついているかな?」

「今はともかく、すぐに気がつくでしょうな」


 もともとあの地は、国の領土と言い張るには微妙な地だったから、彼女が開拓してくれれば、大きな顔で主張できるし、過疎化して消えても歴史として残る。

 褒賞とは言ったけど、そう言った国の都合で利用した部分も大きい。

 無論、彼女があれだけ開拓したのだから、領地として認めるのは当然だと思うけど、あそこ迄広い領地にしたのは、そう言った理由だ。

 我が国の貴族の領地として、実効支配している土地であったと言う実績があれば良い。

 国内で与えすぎだと文句を言う輩は黙らせるだけだし、今まで手を出さなかった土地に何を今更言うのかとね。

 それだけの事を、彼女は国に齎しているんだから当然だし、例の教会に技術供与する予定の第三の魔導具が与える影響を思えば、これくらいは必要だ。

 僕は公平な人間だから、ちゃんと働いたらそれに応じた褒美は取らせるよ。

 逆に言うなら、文句があるなら、彼女を超える功績を立てなよと言ってあげるだけだけど、まず無理だろうね。


「それでジル、東の方はどうなった?」

「既に復興の準備に入っていると」

「やれやれだね。

 約束を守れない連中は痛い目をみないと分からないのかね。

 それとも僕を弱腰だと思って、舐めていたのかな」


 例の温暖石関係の鉱山の利権も、条約の締結で収まったかに見えたけど、案の定と言うか此方が温暖石を使った製品を出し始めたら、一度放棄した鉱山を求めて力尽くで奪いに来たので、此方も力で黙らせた。

 もともとこんな事もあるだろうなと、軍備は昨年の夏から少しずつあの地に集結させていたからね。

 先王である父の時と違って、今度はきっちり攻めてきた連中は壊滅させてやったから、僕の代では二度と刃向かって来ないだろうさ。

 まぁ僕は約束を守る人間だから、ちゃんと条約通りの土地にしか手をつけないさ。

 温暖石の新しい利用方法で、価値が暴落した僅かな紅炎石の鉱脈をありがたく採掘し続ければ良い。

 あの辺りの地は、それ以外に大した産業がないから、いずれは廃れると分かっている地に、戦で使い物にならなくなった設備や道具を、一から揃えるための投資をする価値があるかは知らないけどね。


「一時期、幾つかの採掘場が占拠されたものの被害は軽微で、街の方も上がった火の勢いの割には、被害は思ったよりも少なく済んでいると報告はありますが、別からの報告では、幾つかの村や町は焼き払われた様です」

「内訳は?」

「騎士と民を合わせて死者が凡そ二百五十、重傷者が三百七十、怪我人は二千に届かない程だと」


 その程度で済んだのなら僥倖。

 たかが鉱山のためと思えば被害は甚大かもしれないけど、少なくともこれで僕はやる時はやるよと隣国へ牽制できたと思えば必要な被害だと言えるし、国内の開戦派も少し大人しくなってくれるだろうさ。

 開戦派だって言っても、本当に戦争をしたいなんて連中はごく僅かだからね。

 軍事費を削減されたくないだけの連中がほとんどさ。


「食料と物資、そして教会へ被害者への救護要請をしておいてくれ。

 金と護衛のための兵は出すともね」

「既に手続きは済ませ、陛下の指示次第で動けるようになっております」

「感謝するよ。一日違えば、かなり変わるからね」


 まぁ此処までは規模や歴史はともかくとして、それほど珍しくない事。

 戦や紛争が起これば、建物が破壊され死傷者が出る。

 そして戦地から逃げ出す難民も出る(・・・・・)


「あと、悲しくも、住む家と土地を失くしてしまった民は上手く誘導しておいて。

 きっと女神が救ってくれるだろうからね」


 あの子は、裏切ったり刃向かう人間にはそれなりに容赦しないけど、それ以外に関しては、あの子自身が思っている以上に他人に甘い子だと言う事を、あの子は自覚していない。


「さて、ジル、先程も聞いたけど、

 彼女、気がつくと思うかい?

 何処から、何処までが僕が仕込んでいる事かをさ」

「……陛下」

「怒るなよ。

 必要な事だって君も分かるだろ、この国の宰相ならね」





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