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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第八章 〜親としては新米だけど頑張ります編〜
1064/1065

1064.決闘【漆】、負けず嫌いも此処まで来たら、ある意味あっぱれよね。





「ぐっ!このっ!」

 ガンッ、ガンッ

「如何しました?

 息が上がってきていますわよ」

「ぅぉぉぉっ!」

 ギャリッ、ガッ、ガンッ!


 必死になって正面から剣を振るい続けるザーネン卿。

 でもその剣は私の身体に届くどころか、全て私が手にした剣によって遥か手前で叩き落とされ、または弾き飛ばされ続けている。


「くぉのぉ〜〜っ、これなら〜〜〜っ!」

「そんな大きな剣で全体重を掛けた突きを行うだなんて、隙を作ってからならともかく、相手の姿勢を崩しもぜずに放った所で真面に当たるわけがありませんよ」

「正面から剣で真面に受けたではないかっ!

 何故、吹き飛ばんっ!」


 そりゃ〜ブロック魔法で身体を支えていますからね。

 あと受けたではなく、敢えて受け止めてあげたの。

 ザーネン卿の身体強化の魔法は鍛えてはあるけれど、私から見ればそれなりでしかない。

 天災級の魔物である氷皇龍のゼノお爺様、その尻尾を掴んで振り回せる私の身体強化とそれを支えるブロック魔法の威力の前では、幾ら勢いを借りて剣先の一点に体重を乗せようとも、毛先一筋分も動く訳がない。

 寧ろ押した分以上に、自分の身体が後ろに吹き飛ぶだけ。


 ガンガンッ!

「何故だっ、何故だっ!」

 ギギンッ!

「お前など魔法さえなければ、唯の小娘のはず!」

 ヂギッ!ギ!

「何故、そんな小娘に、儂の剣が通じんのだっ!」

 ゴガッ!

「こんな、剣筋すら立てれない小娘にっ!」


 剣の腕ではザーネン卿の方が遙かに上。

 それこそ比べる事さえ小烏滸がましいと言える程の差。

 魔法を一切使わない本来の私であれば、真面に剣を受けるどころか最初の一撃すら躱す事すら出来なかっただろう。

 でも実際にはこうして剣を合わせている。

 ザーネン卿が振るう剣に合わせて(・・・・・・)、私は手にした剣を振るい、ザーネン卿の剣を弾く。

 剣に関しては才がなく、素人当然の私がだ。


「貴方と同様に、身体強化の魔法は使っていますよ」

「魔導士の身体強化など、お遊びに過ぎんっ!」

 ガガン、ガッ!


 答えは、ザーネン卿が言うお遊びの身体強化の魔法。

 一口に身体強化の魔法と言っても、色々な種類がある。

 大きく別けて、身体その物に魔力を投入して強化する魔力投入型の身体強化と、身体の表面を結界で覆い動かす事で、結果的に動きを強化する操作型の身体強化、その二つがある。

 でもそれは大きく別けての話し。

 特に魔力投入型は奥が深く、足により大く魔力を投入する事で脚力重視の強化を施せるし、皮膚の表面に集中すれば防御力重視。

 他にも眼に魔力を集中すれば、遠くが見えたり動体視力が上がる事はよく知られている。

 でも脳の記憶を司る海馬などの部分に魔力を集中すれば記憶力が上がったり、計算や思考を司る部分に魔力を集中すれば思考速度が上がる事は殆ど知られていない。

 私は魔力投入型の身体強化とは相性が悪いけれど、それは身体を動かすための強化であって、それ以外に関しては相性が悪い訳ではなく、魔力眼のように掛けている事すら忘れる事があるくらい相性が良い物もある。


「遅いですね。

 動きを見てから反応出来る遅さですわよ。

 貴方の言う小娘で、お遊びの身体強化しか使えない私ですけれど、それでもこれくらいは出来ます。

 これで騎士と自称している(・・・・・・)のですから、恥ずかしくないのですか?」


 そして思考速度が上がるという事は、周りの時間の流れが遅く感じるという事。

 でも幾ら思考速度を上げても、高速で振るわれる剣の動きを見てから対応する、なんて真似は普通は出来ない。

 人間の神経伝達速度が、その速度について来れないからだ。

 魔力投入型の身体強化の使い手の中には、その神経に魔力を投入して信号の伝達速度そのものを強化する方もいるらしいけれど、飽くまで強化でしかなく、その強化にも神経の強度と耐久性の関係上限界がある。

 でも操作型の身体強化はその制限がない。

 意思の力で操作する操作型の身体強化は、思考速度がそのまま操作速度に直結するからだ。

 無論、魔力操作がそれについて来れれば、と前提条件が付くけどね。

 だからこそ、私は魔力制御の鍛錬を疎かにした事がないの。


 ヂンッ!

「少しは工夫したら如何ですか?

 今の技の組合せは既に三回目ですよ。

 技の起こりさえ見逃さなければ、今のように振るわれる攻撃を利用して、逆に貴方の姿勢を崩す攻撃を放つ事など、剣に対して素人の私程度にでも出来てしまうと言うのに、攻撃が単調なっていると言われてもおかしくない程に迂闊な選択です。

 まさか、もう全てを出し尽くしたとか言いませんよね?」


 強化した眼で相手の動きを見極め。

 強化した記憶野で、見極めた動きを記憶し。

 強化した思考速度で、過去の動きと比較し、攻撃を往なすのに最適な位置と角度で剣を振るうかを判断し。

 強化した動きで以て、相手を一方的に蹂躙する。

 技も何も在ったものではない。

 単に相手に動きに合わせて、無理矢理に剣を振り回しているだけ。

 ううん、私は剣を剣として扱っていない。

 剣を、唯の鉄の棒として振り回しているだけ。

 おまけにその剣も魔力で強化しているから、何十合も打ち合っていても未だに刃毀れ一つしていない。


「それと、だんだん力任せになっていませんか?

 武器への魔力付与による強化は、魔力の大きさと魔力操作力を合わせた値に比例しているんですよ。

 魔導士である私の武器への魔力強化と、貴方の未熟な魔力操作で強化した剣が、同じ強度で有る訳がないのですから、もっと丁寧に優しく受け流さなければ、剣が摩耗する一方です。

 見てみなさい、もう刃毀れでボロボロではないですか

「や、やかましいっ!

 儂の剣が、本物の騎士である儂の誇りが、貴様のような小娘を相手に折れてなるものかっ!」


 未だに負けず嫌いな言葉を発してはいるけれど、既に敗色は誰の目にも濃厚。

 全ての攻撃を一方的な力と速度で弾き飛ばされ続ければ、体力の消耗も早くなるし、動きの切れも悪くなって行く。

 疲労からか、一撃一撃の間隔もだんだんと開いてきている事に気がついていないのだろうか?

 視野と思考が狭まり、振るわれる剣も単調になってきている。


「気が付いているか分かりませんが、未だに一歩も私の足を動かす事も出来ていないのに、肩で息をするほど息が上がり始めるだなんて、騎士としての鍛錬を怠っていませんか?

 私みたいな小柄な女性に、よりにもよって体力で負けるなど、騎士としては恥以外の何物でもないと思いますよ。

 自慢にはなりませんけど、私、体力の無さでは定評があるんです」

「ぜぇ〜……、ぜぇ……」


 無酸素運動に近い全力攻撃を続けていたら、そりゃ〜幾ら体力があった所ですぐに息が上がるのも当然の事。

 魔力投入型の身体強化をするのであれば、心肺機能も強化する事を意識しなければ、幾ら魔法がある世界であっても息なんてすぐに上がってしまう。

 おまけに私が開始から一歩も動いていない事に、言われてようやく気がついたみたいで、精神的な疲労が一気に襲い始めたのも大きいと思う。

 かと言って、休ませる気もない。


「流石に一歩も動かないまま終わってしまっては、騎士を名乗る(・・・・・・)貴方にとっては無念な事でしょう?

 ですので、今度は私から足を動かしてあげます」


 宣言通り、一歩一歩、ゆっくりと脚を進める。

 ザーネン卿を休ませる事なく、今までの様に攻撃を受けだけでなく、私からも剣を振るっていく。

 私から剣を振るう事で隙が生まれるけれど、ザーネン卿が相手ならば関係ない。

 意識が加速した世界では、嘗て剣聖候補であろうとも鈍間な剣士でしかないため、幾らでも対応出来る。

 ワザと剣を受け止めさせる攻撃を続ける事だってね。


 ギンッ!

 ガッ!

 ヂギッ!


 疲労のためか剣を合わせる度に、大きく姿勢が崩れ出すザーネン卿。

 でも倒れる事など許さない。

 これまで負けた理由を敢えて与える勝ち方をしていたのは、私が騎士の方々に敬意を払っているからこその配慮だったけれど、ザーネン氏は自らの意志でそれを拒絶した。

 だから負けたくないのであれば、簡単に負かして上げない様にして上げる。

 地面に崩れ落ちようとする度に、その瞬間だけは脚の速度を上げて、ザーネン卿が倒れようとする先に一瞬で回り込み、倒れないように反対側に打ち込む。

 当たる瞬間一瞬だけ勢いを殺して、倒れ込む身体を押し上げるように剣を受け止めさせる。


 ガッ。

 チン。

 ギン。


 どれだけ剣戟を重ねただろうか、もうザーネン卿はフラフラだ。

 振るう剣の勢いも、最初と比べれば見る影もなくなった。

 それでも剣を合わせようとする姿だけは、正直、見事だと思う。

 性格は最低ではあったけれど、剣に生きてきた事だけは確か。

 きっと朝から晩まで、剣を振り続けた事もあっただろう。

 それだけの情熱を持って歩んできたであろう事は、素人の私でも何となく理解出来る。

 でもだからと言って、何をしても許されると思っている考えは許されない。

 此処まで来たのだ、最後まで手を抜く気はない。


「ぜぇ……ぜぇ……、く……そ」

 カンッ。

「な、なんで……ぜぇ……はぁ……」

 カン・

「はぁ……ぜぇ……、なんで」


 今のザーネン卿なら、きっと子供でも勝てるだろう。

 でも、私は動きを止めない。

 疲労と悔し涙に顔をクシャクシャにしていようとも、相手は未だ剣を向けているのだもの。

 剣は凶器であり狂気でもある以上、その剣を手にして振るう意思を見せている内は、私から止める理由はない。

 騎士道?

 理解はしているけれど、そんな考えを私に求める方が間違えている。

 ただ相手に合わせて、此方の攻撃も加減をするだけの事。


 どさっ。


 どれだけ打ち合っただろうか。

 操作型の身体強化で身体を動かしていた私は、それほど疲労はない。

 でも、精も根も尽きたザーネン卿は、ボロボロで折れて短くなった剣を降ろすと共に地面に座り込み。


「ぜぇ〜…ぜぇ……儂……の…、ぜぇ…ぜぇ……負け……だ。

 殺…すなり……、はぁ……はぁ…好きに、……ぜぇ…はぁ……し…ろ」


 ようやく、自ら負けを認めた。

 全てを出し尽くしたのであれば、少しは満足できたでしょう。

 おそらく此れが剣を持つ最後になるでしょうからね。







ユゥーリィが決闘の勝者の権利として求めたのは何でしょうか?

1070話で公開しますので、お楽しみを。

ついでにGWスペシャルで7日まで毎日更新します。



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