1059.決闘【弐】、注目を浴びるのは嫌だから、とっとと一本目を終わらせてしまいましょう。
決闘なので今日の私の装いは領軍の軍服姿、人によっては騎士服とも言うけれどそこはどうでも良い。
パンツスタイルではなく、プリーツがたくさん入ったスカートタイプの方で、これは王妃様からの要望が『女性らしさを意識した姿で』だったからなのだけど、女性らしさと聞いてスカートと思う安直さは、中身がオジさんだから仕方ないと思ってほしい。
でも領軍の制服は背が低い私だとその魅力が引き出せていないものの、普通に格好良くて評判は良いのよ。
私のはその中でも士官用の上位モデル、を素材から見直した特注品。
一応は領軍の最高責任者なので無駄に煌びやかになっているため、着ているのが私だと、格好良さよりもコスプレ感が満載だったりする。
そこは嘆いても仕方がない。
剣での決闘ではあるけれど、まだ剣を手にしていないのは作戦の内。
魔導士である私に剣で決闘しろなどと無茶を言うのだから、これくらいは認められて当然。
戦闘訓練はしているけれど、剣の扱いは素人に毛が生えた程度の私が剣の間合いをギリギリまで隠していたとしても、本職の騎士なら普通は対応出来て当然。
「すぅ〜……、はぁ〜……」
一方決闘相手であるザーネン卿は……流石は剣の腕だけはドルク様もある程度は認められているだけあって、先程までとは空気が違う。
キッチリと剣士として空気を纏っている。
肝心の身体を纏っている鎧と服は、所属の部分が削られているものの、見る者が見れば、それが国の騎士団の師団長だけが身に付ける事が許されたものだと分かる。
普通は退役すると共に国に返すものだけど、一定以上の身分になると現役でない事を示すために一部を削って、記念として個人的に持っている事を許されるらしい。
只ね、左肩から掛けているペリースが騎士団の物ではなく、元老院の物なのよ。
鎧の意匠と合わねぇ〜〜。
何処まで、過去の権威を世間に示したいのよ。
と言うか、動きの邪魔になるのにペリースを身に付けたまま戦うつもり?
まぁ私を舐めきっているから、権威を示す事を優先しただけかも知れない。
因みに私はペリースも鎧も身に着けていない。
結界があるから鎧なんて意味はないし、逆に動きにくくなるだけ。
ペリースは先程までは付けていたけれど、今は外して控えているジュリに渡してある。
「準備はよいか、小娘っ」
「私は構いませんが、本日は何時もの剣ではないのですね」
「ふんっ、貴様如きに本来の得物は不用だ」
ザーネン卿はバスターソードの使い手と聞いてはいたけれど、手にしているのは幅広のブロードソード。
そしてもう片方にはショートソード寄りの短剣が握られている。
小柄な私が小回りを活かしてくると読んで、回転が速く長さの違う剣を持つ事で対応範囲が広くなる双剣を選んだ、と思えばおかしくはないのだけど。
利き腕で持っているブロードソードは新品同様の物に対して、短剣はかなり古めかしい代物。
おまけに探知の魔法の反応の仕方は……、覚えがある反応なのよね。
探知の魔法って特に意識をしなければ、相手に気が付かれにくいアクティブソナーの様な感覚を受けるのだけど、あの短剣の所だけ殆ど反応しない。
考えられるのは……。
「両者とも開始位置へ」
ようやく始まるようなので、相手の武器に対する考察を止めて開始線に足を向ける。
陛下の配慮で相手との距離は通常の数倍はあり、大凡二十メートル。
これは魔導士が攻撃魔法を封じた上で、騎士達と訓練する際に使われている距離。
実際には魔導士が時間内に逃げ切れなければ一方的にボコスコにやられる、殆ど虐めのような訓練なのだけれど、接近戦での対処方法を学び、如何に魔導士が多くの騎士や兵に守られているかを認識させるための物なのだから、そんな鍛錬があっても仕方がない。
そしてそれが故に、相手もこの距離を認めたのだろう。
元騎士団長なら、ハリボテの師団長であろうとも知っているはずだもの。
「まだ剣を出さぬのか?」
「ええ、腕を振るうと同時に収納の魔法から出せますので、御心配無用です」
「正面から戦おうとしないとは、卑怯だと思わぬのかね?
それでも誇りある貴族のするべき事か」
「あらあら、お認めになられた事に今更口にするだなんて、ザーネン卿の仰る騎士道とは、その程度の物なのですね」
こんな小娘を相手に魔法抜きで剣での決闘をさせる時点で、騎士道も何もないので、此方の手の内を晒せと言ってきても気にしません。
と言うか、相手にそれを言う資格はない。
ザーネン卿が左手に持つ短剣に一度目を向けて、薄く笑ってみせる。
その事に気が付かずに、生意気な小娘と悪態を吐いているのだから、相手をするだけ疲れるだけなので、言わせたいように言わせておこう。
年寄りは独り言が増えるものなので、放置しても問題ない。
なにより……。
「では、始めてください」
決闘が始まったもの。
それにしても少しだけ意外だった。
脳筋で考える力が退化してしまって無いようだから、てっきり開始と同時に猪の如く真っ直ぐ突っ込んでくると思ったけれど、どうやら私に初手を譲るつもりみたい。
ザーネン卿は人を見下ろしながら、短剣を持つ手の指でクイクイと私を誘っているもの。
どうせ騎士道とかではなく、相手に初手を譲ったと見せ掛けて、一歩もその場から動かずに相手を降してやった、とでも考えているんでしょうね。
長さの違う双剣を手にしている所を見ても、私の攻撃を受けてみせて、もう片方の短剣でって所なのだろう。
一応は私の攻撃を警戒して、幅広いだけでなく通常よりも厚みのあるブロードソードを用意しているのがその証と言える。
アレは剣ではあるけれど、同時に盾でもある。
「悪い作戦ではないと思いますよ」
私も似たような事を考えていましたからね。
但し、違う方法で。
ぽう、ぽう
ぽう、ぽう
身体の各所に色の付いたブロック魔法が浮かぶ。
私の身体強化の魔法だけでは、その出力を活かしきれないため支えとするための物であって、防御や攻撃に使うためではない。
それが立会人や観客にも分かるように態々色を付けているし、そういう私用の特別規定なのだから、私はきちんと守る。
両手を後ろに構え、そのまま収納の魔法に手を差し入れ、剣の持ち手をしっかりと握り、そのまま剣に魔力を通す。
用意した剣は魔導具の剣ではない。
只の剣。
魔力を通しやすいように魔法銀を少し用いてはいるので、魔剣ではあるけれど、只、それだけの剣でしかなく、私が遊びで作った程度の代物。
銘は無い。
飾り一つなく、只、実直なだけの両刃の剣。
分厚い剣身を持つ、鉈のような無骨な片刃の剣
その二本の剣を、私は左右の手にそれぞれ握る。
双剣で挑む。
奇しくも相手と同じ答えを私は選んだ事が、運命だったかは知らないし興味もない。
私は私の考えで以て、選んだ結果でしかないもの。
運命なんて物に自分の生き方を賭ける程、私は物好きではないし、夢見る乙女でもないわ。
中身は現実主義のオジさんだもの。
例え相手が神であっても文句は言わせない。
「いきます」
出した言葉に意味はない。
嫌な相手であっても、偽善が僅かばかしの罪悪感を持って自然と出た言葉なのだとしたら、私はまだ人の心を失っていないのだろう。
だとしても、私が今から成す事は何一つ変わる事はない。
後ろに下げた手を前に向かって左右から振り抜く。
二本の剣は収納の魔法から姿を現しながら、目標に向かって大きな風音を立てながら左右から襲い掛かる。
ブォーーーッ!!
この距離は遠い?
いいえ、剣の射程範囲よ。
文字通り風を切って、更に大きな風音を発すると言う事は、それだけ空気が動いているからこそ。
つまり体積が大きい事を示す。
「「「「なっ!」」」」
形こそ無骨なだけの剣ではあるけど、その大きさが普通ではない。
全長三十メートルはある、唯々只管に巨大な剣。
個々の銘は無い。
剣の分類としての名はある。
浪漫兵装【斬 艦 剣】
文字通り艦を切る程までに巨大な剣は、私が前世の記憶を元に遊びで作っただけの欠陥兵装。
剣真の幅が三メートル、厚みが五十センチと、長さに比例した大きさの分だけ重量があり、魔力を流して剣を強化しなければ、自重で折れてしまうと言う致命的な欠陥がある上、大きすぎて剣技などと言う物とは無縁。
打ち下ろす。
突く。
薙ぎ払う。
この三つしか技がないため、相手にとっては剣筋が酷く読みやすい。
当然重すぎるため、繊細な技など不可能に近い。
「ぬぉぉぉっ!」
頭の中は腐っていても、流石は剣聖候補に名を連ねただけはある。
ザーネン卿は左右から迫る巨大な剣。
逃げ場は後ろしかないものの、初手を私にさせるために余裕ぶりすぎたため、後ろに飛んで逃げるには既に手遅れと咄嗟に判断したのか、巨大な剣過ぎるため剣同士がぶつかり合わぬように上段と下段と分かれて振られた剣の隙間を咄嗟に見極め、そこに活路を見出した。
本来であれば、そんな隙間など無いのであろうが、剣が巨大すぎるがために生まれた隙間。
その隙間に向けて、ザーネン卿は全開の身体強化で以て、真っ直ぐと前に飛び込んでくる。
巨大な剣を振り抜いた事によって生まれる、私の隙を突くために。
引く事など最初から考えていないとばかりの勢いで……。
ぶぼんっ!
一瞬にして風音が変わる。
剣が風を切るのではなく風を受ける音へ。
剣の刃ではなく、腹で風を受ける音へ。
握りを僅かに変える事で剣は横を向き、左右から迫る剣と剣との隙間はその瞬間に喪失する。
ベゴッ!
「ごぁ……」
哀れ、ザーネン卿は左右から巨大な剣の腹に挟まれて、無様な声をあげながら、ズルズルと大きな身体を地面へと滑らかせてゆく。
「し、勝負ありっ! 勝者、シンフェリア辺境伯爵閣下っ!」
はぁ……、こうも見事に罠に引っ掛かるだなんて、幾ら何でも手応えがなさ過ぎないかしら?




