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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第八章 〜親としては新米だけど頑張ります編〜
1053/1076

1053.王太子妃殿下の苦悩 その肆〜彼女の領主としての仕事と忙しさ〜。





 シンフォニア王国、王太子妃。

【セレスティナ・フォル・シンフォニア】視点:




「どうか王太子妃であらせられまする貴女様の御威光で以て、我が家にお力を貸して戴けないかお願い出来ないものでしょうか」

「……伯爵、御自分の奥様と御子息が、彼女に対してどのような言動をしていたのか御理解されておりますか?」

「そ、それは……」

「それと、以前に別の者を介して彼女の力になれないかとお話しを持っていった際に、伯爵はその話しをお断りいたしました事をもうお忘れですか?」

「確かに、確かにお断りした記憶は御座いますが、それは妻と息子に恥を掻かされたばかりでして、我が家としましては頷く訳には行かない状況であり、今とは事情が違いまする」


 はぁ……、息子を婿に迎えろと強引に迫っておいて、相手が断ったら恥を掻かせたと一方的に悪し様に放言して騒ぐ夫人もどうかと思いますのに、息子は息子で彼女の側で何時もいる女性を、序でに愛人に迎えて遣っても良いなどと、継ぐべき爵位もないからと婿養子を望んでおいて何を勘違いしているのか、爵位を持つ相手に対して不遜な事を口にするなど、欠片も同情が湧かない。

 それらの事を差し引いたとしても、目の前の人物の願いは厚かましい事この上ない。

 彼がこうして王太子妃である私に、深々と頭を下げてまで願い出ている事の発端は半年程前の話。


『ご歓談中、失礼致します。

 王太子殿下よりシンフェリア様に至急の言付けが御座います。

 ─────領にて、大規模な土砂崩れが起きたため、魔報にて国へ救援の要請がありました。

 街道を塞ぐ形で起きた土砂崩れは、近くの村をも巻き込む程の物で、空間移動の魔法と収納の魔法を持つシンフェリア様に、救護隊の移動の御助力を』


 話を最後まで聞かずに、彼女は直ぐさま動き出しました。

 幸い問題の領への空間移動のための魔法は以前にしてあったらしく、そこから空を駆ける魔導具で以て移動。

 魔導具を見られる事なく空から舞い降りた彼女は、探知系の魔法と盾の魔法と収納の魔法を駆使して土砂に埋もれた生存者を救助しながら、どんどんと土砂や落石を退かして更に多くの生存者を救助していったそうです。

 重体の者は治癒魔法で、軽傷の者は治癒魔法を封じたポーションを配らせて治療に当たらせるなど休みを取る事もせずに、黙々と熟していったそうです。

 残念ながら助からなかった者も多くおり、生存者の救助活動が一段落すると、助からなかった者達さえも土砂から救い出して下さったようです。

 見るに堪えない姿になった者もいたと言うのに、一人一人丁寧に布に包みながら。

 そうして、その頃になってようやく此方も救援の部隊を送り込むための準備を終えた時。


『第一次救助は大方の目安を終えました。

 二次被害対策や救援物資等の搬送は国にお任せいたします』


 再び空間移動の魔法で王城へ戻ってきたのです。

 颯爽と現れて、颯爽と去る事で、手柄を国に渡したかったのでしょう。

 遠い地に領地を持つ彼女にとって、それ以上の事は面倒事を引き寄せると判断して。

 事実、その後に彼女の魔法で送り出された救援隊の活動によって、迅速な対応をした夫であるカーライル様の手柄とする事になりましたが、カーライル様はかなり複雑なようですが、それも仕方がありません。

 民の命を優先した結果とは言え、既に手柄を押し付けられすぎているのですからね。


 問題は此処からで、国の救援は飽くまで災害が起きた後の民の命を守り、雨風を多少なりとも防ぎ、自分達で生活出来るようになるまでの物資を幾らか援助するまでです。

 それ以上の事はその領地を治める領主の役割ですし、救援物資や部隊を派遣した際に掛かった諸経費は領主に請求されます。

 国としても民を救う事を優先はしますが、国庫には限りあるため銅貨一枚たりとも無駄には出来ません。

 それでも民のために必要最低限の価格で抑えていますし、災害の場合は十年間は無利子にするなどの災害時の優遇処置は行っているので、人の弱みに付け込んでいる訳では御座いません。

 領主の中には金が払えないからと、最初から救援要請を出さない者もいるのです。

 幸い彼の地の領主はそれぐらいの蓄えはあったようですし、救助活動そのものが信じられないくらい短時間で終えたため、結果的に支払う金額が低く抑えられたというのも幸運だったと言えましょう。


『街道の復旧にお力を借りしたいのです』


 とはいえ、それと復旧作業はまた別の話。

 本来、その手の復旧作業は領主主導の下、災害のあった近隣の村から人手を集めて作業させる事で、周辺住民に金を落とす事で生活支援をするのですが、この男は街道が使えない間の損益の方を優先し、こうして彼女の力を利用しようと彼方此方に声を掛けているのです。

 しかも一向に良い返事をしない事に対して、彼女が災害に苦しむ民を見捨てている酷い人物だと、影で噂話を流しながら。

 それも一つの手段ではありますが、逸早く災害現場に駆け付け、多くの民の命を助けてもらいながら、なんと厚顔無恥で恥知らずな男だと私達王族は呆れかえっているのです。


「聞けば、彼女は多くの領地持ちの貴族に力を貸しているそうではないですか。

 私も同じ領地持ちの貴族の一人です。

 しかも天災に遭った哀れな領民のために、こうして奔走している程、領地とそこに住む領民を想う心に満ちている領主だと自負している私めに、どうか慈悲ある裁定をして下さる事を常に願いまする」


 彼女が力を貸しているのは、王家がそのように裏から手を回したとは言え、彼女の領地にある港街を発展させるために力を貸した者達です。

 彼女はその際に受けた恩を返しているだけに過ぎませんし、それらは取引の上での事。

 一方的に力を貸せ、でも自分達は貸さないという相手に、何故、力を貸さないといけないのでしょうか。

 しかもその事を自覚しないばかりか、失礼な事ばかりを仕出かした相手に対してですよ。

 何より代価の話が未だに口にしない彼の一方的な申し出は、彼女が彼女の領地のために使う時間よりも、自分達の領地のために力を貸せ、という内政干渉に当たります。


「彼女にそれ程余分な時間はありませんし、領地の事は領主である貴方が責任持って行うものです。

 何よりあの街道は危険なため封鎖し、新たな街道を作るように通達が国より出ているはずです」

「時間が無いなどと、領主ゴッコをしている者に・」

 パン。


 手にした扇子を敢えて音を出して閉じます。

 作法としては礼儀に欠いた行いではありますが、同時に相手に対して此方の心境を伝え、口を黙らせる意図があります。


「私は時間が無いと申しましたよ。

 それとも貴方は私が嘘を申していると申すのですか?

 王太子殿下の妃であり、次期王妃である私が、何故、貴方如きに虚言を口にしなくてはならないのか、私には理解出来ませんわ。

 おそらく王族として、私が不勉強なのでしょう。

 申し訳ありませんが、貴方の口から教えて戴けないでしょうか?」

「ぁっ、いえ……」


 相手の言葉を逆手に取って、目の前の人物が王太子妃である私を侮辱したようにして見せます。

 あまりこういうやりからは好きではありませんが、この者には良い薬でしょう。

 それにしても女性ともなれば王族すら下に見るような愚か者は、早々に真面な人物に(・・・・・・)代替わりをさせねばなりませんわね。

 アタフタしながら下がって行く人物に対して既に興味はありませんが、王太子殿下にこの件をお伝えして、彼の者の血筋に適当な者がいないか探らせる事を相談いたしましょう。


「本来、領主が暇な訳がないというのに。

 あの者が領主の仕事をどう捉えているのか、リャーナ、良く判る言葉だと思いません?」

「はい、私もそのように思います。

 私の父も、何時も忙しそうにしておりました」


 側付の侍女の一人に声を掛ければ、そのような返事が返ってくる。

 侍女や女中(メイド)は主人が望む答えを返す者が大半ですが、私の周りに置く者は、私が望まない答えであっても、自分なりの答えを返してくれる有り難い者達ばかり。

 まぁ……、時にはその事で苛つく事はありますが。

 全体的に見れば感謝しています。


「ねぇ、貴女のお父上とお母上は、秋祭りの準備をしながら七日間で二十六件の他家の催しに参加し、その後に自領の秋祭りを行うだなんて真似は出来る?」

「……ぇ……と、それは比喩的な事ですか?」

「真面目な事よ」

「移動時間を考えないとしても無理です。

 準備に駆け巡る使用人も含めて死にます」

「ですわよね」

「あの男、そんな相手に暇だと口にしたのよ」


 視線で相手を刺し殺すのでは無いかと思うくらいに、リャーナの眼は冷たくなる。

 参加した催しの数だけでも、普通に考えて頭のおかしい数だと言える。

 しかもそれを領地の秋祭りを主催しながらともなれば、殺人的な忙しさであった事は間違いない。

 なにせ女性がその手の催しに適したドレスを着て準備をするのに、大変に時間が掛かるものですからね。

 下位貴族であれば、多少簡素であっても許されるものの、伯爵位以上の家の者ともなれば、ドレス一つとっても飾り布や飾り紐を含めれば多くの部品があり、その飾り布や飾り紐の角度も重要。

 そこへ装飾品が幾つも加わるのですから、それだけで一刻近くは掛かってしまう。

 同時に行っている髪型や化粧を含めれば一刻半から二刻は確実だし、それとて複数人の侍女や女中(メイド)が協力して、ようやくその時間で収まるのよ。

 もしも手違いがあれば、更に時間が掛かる事もあるので、準備をするメイド達も必死だし、直接、身体に触れる事を許された侍女達は、少しでも力加減を間違えれば壊れてしまう高価な装飾品を相手に、完璧な着付けを求められるのですから、毎回神経を磨り減らしているはず。


「一日に催しが三件もあったら?」

「交代の人員を要請します。

 それが無理ならば、次の日の完全休暇を望みます」


 一度催しに出れば、その会場での匂いが付いてしまう。

 一日に何度も催しに出るともなれば、その間に湯浴みをして匂いを落とさなければ、先方に対して失礼をする事になります。

 高貴なる者が催しに向けての湯浴みともなれば、四半刻から半刻は費やして総出で手入れをしなければならない。

 侍女や女中(メイド)達も大変でしょうが、当人はもっと大変なのよ。

 それくらい大変なのに、幾ら魔法で何とかすると言っても限度があるというもの。

 先日、彼女の誕生日の催しの後、殿方達が何やら悪巧みをするように集まったようですが、その際に発覚したのが秋祭り時期の彼女の殺人的な忙しさ。


『いったい何をお考えですかっ!』


 ええ、はしたなくも、思わずカーライル様を怒鳴りつけましたよ。

 女性の準備にどれだけ時間が掛かり、どれだけ気を使っているのか、色々と許される殿方達と違って、女性は髪の毛一筋の乱れすら許されないのですよ。

 催しに参加している時間が短いなどと、たいした理由にはなりません。

 そもそも社交嫌いの彼女が催しに出て、どれだけの気を使っているのか、少しはお考えくださいと。


『彼女は普段から忙しいのだと、そう仰ったのはカーライル様ではありませんか』


 報告では、領地にある港街の大きさに比べてまだ優秀な文官も少なく、急成長をした事で次々と変えざるを得ない制度に、領政は処理しなければならない案件が増え、その結果、領主である彼女の仕事量は、平均的な領主が熟さなければならない書類仕事を遥かに超えている量だとか。

 この膨大な書類の量は、港街を空ける事が多い彼女にも責任はあるのですが、それ以外にも他領の工事の手を貸し、更には国家事業である魔物の繁殖業、急成長し様々な分野を手掛ける商会の運営に、領の特産品の開発を行いながら、更には魔法の鍛錬に、魔導具の開発。

 そして子供好きの彼女が、幾ら疲れていようとも自らの子供の世話をしない訳がない。

 仕事の大半は魔法でなんとか処理をしているという、訳の分からない報告は聞いてはいますが、普通に考えて忙しい日々を送っているのは確か。


『カーライル様、お仕事の量を倍に増やされたらどう思われます?』

『ははは……ちょっと泣きが入る、かな?』

『でも逃げ出されはしませんよね』

『考えはしても、流石にそれはしない……と思う』


 少しばかし情けない言葉が聞こえますが、まず周りの者がそれを許さないでしょうし、私が許しません。

 色々と頭を抱えたくなる事態を引き起こす彼女ではありますが、それはお互い様な所が在りますし、全体的に見れば彼女の存在は国益そのものと言えます。

 寧ろ彼女が過労で倒れでもした場合、聖オルミリアナ教会を始め、各国から批判を受ける事は間違いないでしょう。

 だからこそ、優秀な人材が彼女の下に集まるように色々と仕向けて動いているのに、過剰な仕事を押し付けるだけでなく、それを見逃していたなど、もう少し殿方達は彼女を労るべきなのです。


『分かった、少なくとも彼女の秋祭り付近は、皆、自重するように約束させるよう働きかけよう。

 カイル、君もそれで良いね』


 どうやらお義父様である陛下も、お義母様にお叱りを受けたようです。

 各家の方々も、奥様にお叱りを受けたようでして、手紙の魔導具を通しての話し合いの結果、彼女を秋祭りの催しに参加させるのは、持ち回り制になりました。

 まぁコンフォード侯爵家だけは、毎年招待状を送る事は許されましたが、彼女を見出した事で貴族後見人になったあの家は仕方がありません。

 幾ら稀代の魔導士で、様々な才能に恵まれていようとも、彼女は見た目通りの体力しかない、か弱い女性である事を忘れてはならないのです。

 しかも、未だ魔力過多症候群を患ったままの。

 あまりある功績と、彼女の闊達な明るさの前にお忘れになるのも仕方がないのかもしれませんが、それでも彼女も私達国が守るべき民の一人なのだと、決して忘れてはならないのです。




「妃殿下、彼の者と決闘をすると画策している者がいると耳にしました」


 本当に次から次へと、問題を引き起こす相手ではありますが。

 そうそう、肝心の彼女の名を申していませんでしたね。

 彼女の名はユゥーリィ・ノベル・シンフェリア辺境伯。

 長い歴史を持つシンフォニア王国が興りし頃より、王家に仕えし家の古き血を引きし者。

 今、最も王国で注視されている人物の一人であると同時に、頭痛の元凶でもありますわ。






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